憑依転生失敗話   作:天狗道の射干

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地図を探して管理人室へ。馬鹿め! 地図は屋根裏だ!
……何で館内の地図が屋根裏部屋に置いてあったんでしょうね?


第16話 相性の悪い大人達

 ジェームズが合流し、四人となった一行は再び管理人室に。眠る老夫婦を起こさぬように意識しながら、棚や箪笥を漁る。

 地図を探すためにと言う名目での行動だが、手癖の悪いエドワードはその際に見付けた物を自分の懐へと仕舞い込んでいた。

 

「ドラゴンの置物なんて、何に使うのよ?」

 

「いや、金目の物かもしれないだろ」

 

「……全く、これでは完全に盗人の類ではないか」

 

 エドワードの行動にクーデルカは半眼となって問い掛け、ジェームズは己の選択が過ちではないのかと天を仰いで苦悩する。

 そうこうしながらも手分けして室内を探し回るが、如何にも見付かるのは関係のなさそうな物ばかり。15分程を費やして、出た結論は徒労であった。

 

「どうやら、管理人室には地図がないみたいね」

 

「地図もなしに、どうやって行き来してたってんだよ。コイツら」

 

「単純に道を覚えていたのだろう。その程度の事にすら、頭が回らないのかね。君は」

 

「何だと!」

 

 徒労に終わった探索の疲労やマリスの影響もあるのだろうが、元より性格的な相性が余り良くないのだろう。

 エドワードのぼやきに対して、ジェームズが馬鹿にしたような皮肉を告げる。それを切っ掛けに、両者は睨み合いを始めた。

 

「まあ、落ち着いてください。取り敢えず、まだ行ってない場所に行きましょう」

 

 今にも手を出しそうなエドワードと、そんな彼を見下すジェームズ。ニコルは二人の間に割って入ると、両手で抑えながらに伝える。

 喧嘩などしている場合ではない。建設的な事を考えるべきだ。自分達よりも一回りも二回りも小さな子どもに言われれば、理路整然と出来る程度には彼らも大人であった。

 

「ふむ。ならば中庭に出てから別の棟に向かうか、二階にある渡り廊下を使って移動するかだろうな」

 

「なら渡り廊下から行こうぜ。地図もなしに中庭に出たんじゃ、何処から行けば良いか分からなくなる」

 

「今居る場所から虱潰しにって事。普通は構造的に考えて、本邸へも中庭から入れるんじゃないの?」

 

「普通は、ですね。ですがこの修道院は真面じゃない。それに本邸に我々の求める情報があるかも分からぬ以上、虱潰しはどの道必要だと思いますよ」

 

 互いに感情ではない意見を出し合って、顔を付き合わせて悩み合う。結局どちらに向かおうにも、地図が無ければ推測以外に判断材料が何もない。

 ならば先にニコルが掃除を行った、この管理人住居から調べた方が良い。時間が経てば怪物たちはまた出現してしまうのだから、議論の結果としては妥当な所だ。

 

 言うが早いか、一行は揃って管理人室を後にする。長い階段を再び登って、管理人住居の二階へと。先には後回しとした渡り廊下の向こう側へ、一行は歩みを進めた。

 

「しかし何とも陰鬱な建物だな。聖堂こそあるものの、主の御力が感じられん。ニコル君。君の力で何とかならんかね?」

 

「時間を頂ければ、如何にか出来ます。魔力回復の香を炊きながら、力を行使し続けると言う強引な形になりますので余りお勧めは出来かねますが」

 

 何の骨かも分からない残骸が転がる中を進み続けて、石造りの道を進む。無数に並んだ大きな窓から差し込む明かりが、進む一行を怪しく照らす。

 余りに大量なマリスが齎す、陰鬱にも過ぎる空気。歩きながらも耐え兼ねるように、ジェームズがニコルに問う。先のハーブ園のように、この場を浄めてくれないかと。

 

 けれどニコルが返すのは、出来るがやらない方が良いと言う言葉。出来るならば何故と、共に歩く皆がそう考えるのは当然だった。

 

「何でお勧め出来ないんだ? 結果が同じなら、別に構わないだろ」

 

「場に負荷を掛け過ぎてしまうのですよ。こう言った聖堂は大概、正しい形で使えば恒常的に周囲を浄化するのです。ですがそうした機能すら、無理をすれば壊してしまいかねない」

 

「時間を掛けても、一時的な解決にしかならないって事? 根本的に何とかするか、せめて自動で浄化してくれるようにしないとまたこうなるって訳ね」

 

「成程、そりゃ意味がない。だったらやらなくても良いな」

 

「う、む。正常な形で再利用するには、そもそも奥に行かねばならないか。こんな場所に、足を踏み入れねばならんとはな」

 

 聖ダニエルが怪物を封じる為に作り上げたと言う修道院。ならば当然、其処には怪物を封じる為の術式や儀式の跡が残っている。

 ニコルが力尽くで浄めてしまえば、それさえ壊してしまいかねないのだ。更に言えば、其処までやっても一時凌ぎにしかならないと言う。

 

 それでは時間と労力の無駄となろう。故に好ましくはないと語るニコルの言葉に、クーデルカ達も納得する。

 だが納得したとしても、現状は何も変わらない。陰鬱な空気が拭えないとなれば、敬虔な神父が頭を抱えて嘆くのも無理はない事だろう。

 

「ああ、全て行き、行かねばならぬところ。わが世に生まれ、悩み生きた前の。わがありし虚無に帰りゆくこと、か」

 

 とは言え陰鬱な場で愚痴を聞かされ、周囲の者が心地良く思う筈もない。場の空気も相まって、苛立ったエドワードが諳んじる。

 ジョージ・ゴードン・バイロンの舞台劇を思い出しながら、大仰しい動作と共に暗唱する。その軽薄な笑いには、ジェームズに対する揶揄が込められていた。

 

「バイロンか。私の趣味ではないな。第一品格がない」

 

「あんたが品格をとやかくいうのか」

 

 誰かの笑う感情に、人は存外気付きやすい。エドワードの揶揄に気付いたジェームズは、余りに品性がないと鼻で笑う。

 好みの詩人を否定された事も相まって、対するエドワードの機嫌も急降下していく。吐き捨てるように言葉を口にした後で、エドワードはジェームズを睨み付ける。

 

 人を殺せそうな目付きで睨むエドワードに、対するジェームズも全く退こうとはしない。彼は持論を展開すると、他者への共感を求めた。

 

「詩というのは敬虔で思慮深い信仰や、人間への洞察に貫かれているべきものだ。アレクザンダー・ポウプやジョージ・ハーバードのように。君もそう思うだろう、ニコル君」

 

「私はどちらも嫌いじゃありませんよ。語る分野は違えど、どちらも含蓄ある言葉を遺されてますから」

 

「は、優等生な答えを出しやがって。お前も本当はバイロンの方が良いんだろ? おっさんが挙げた連中のは、片っ苦しくていけない」

 

 巻き込まれた第三者にしてみれば、勘弁してくれとしか言えない状況。如何にか表情を崩さずに、ニコルは玉虫色の答えを返す。

 それが気に入らないのが、エドワードだ。彼が配慮していると気付いたからこそ、肩を組んで素直になれよと巻き込もうとして来る。

 

「馬鹿め、貴様! 自分だけでは飽き足らず、未来ある少年の品性まで落とす気か!? その男から離れたまえ、ニコル君! 寧ろ今直ぐ、カトリックに改宗したまえ! 君は実に見所がある。バチカンに来れば、必ずや一角の人物になれるだろう!」

 

「いえ、私は、その」

 

 そんな真似をすれば当然、ジェームズも良い気分はしない。まして相手が最も評価している少年と、最も侮蔑している青年の組み合わせならば弁舌も激しくなっていく。

 前途ある者を悪の道に巻き込むなとジェームズが語れば、司教と言う人物は皆こうなのかとエドワードが馬鹿にした言葉を返す。間に挟まれたニコルは困ったように、師であるロシアの大司教よりはマシじゃないかなと思うだけ。

 

 当然そんな様では口論は終息する筈もなく、激化していく対立に堪忍袋の緒が切れる。最初に限界を迎えたのは、一人残されていたクーデルカであった。

 

「ああ、もう! うるさいわね! バイロンでもアレクザンダーでもジョージでも、この嫌な霊気を払ってくれるんなら誰でも良いわ! アンタの好きな、大工の息子でもね!」

 

「何と罰当たりな! 先程もそうだが、君は何度許されない言葉を口にすれば気が済むのだ!? 罰当たりな異教の輩め!!」

 

 敬虔な信徒を前に、主を冒涜するような語り口。苛立ちを吐き捨てるように叫んだクーデルカの言葉に、ジェームズはその矛先を変える。

 許されない事を言ったのだと、詰め寄る壮年の男を勝ち気に睨み返す。そんなブロンドの美女は前言を翻す事もなく、逆に踏み込んで口を開いた。

 

「異教も何も、神様なんて信じてないわよ。会ったこともない奴に救いを求めるなんて馬鹿げてるわ。ロンドンじゃ毎日、人が飢えて死んでいるのよ!」

 

「いずれ不潔で不道徳な盗人どもではないか! 神の国は――」

 

「司教。流石にそれは、お言葉が過ぎますよ」

 

 まるで死んで当然と言わんばかりの態度を貫くジェームズに、クーデルカは更に眉根を寄せる。売り言葉に買い言葉。

 激しくなっていく口論の中、遂にニコルは自ら口を挟んだ。それは己が演じる役を貫く為にも、しなくてはならない事であるから。

 

 ニコルと言う少年は、敬虔な信徒ではない。力を与えてくれる存在として信仰こそしているが、白魔法と言う技術を得る為でなければ祈りなどする価値もないと考えている。

 それでも表面上は敬虔な信徒を気取っているのは、模範的な人物で居た方が、多くの利点が得られるからだ。

 可能な限りそう振舞うべきだと考えていて、故に此処で善良な信徒らしい言葉を口にするのである。

 

「主の深き愛は、遍く全ての者に。本来は異教徒と言う区別すら、行うべきではないのです。彼らは神の愛を、知らぬだけなのですから」

 

「それはロシア式の説法かね? だから君はカトリックに来るべきなのだ。そのような誤った考え方を、刷り込まれるようではな」

 

「いっそ宗教なんて止めちゃいなさいよ、ニコル。神頼みを続けているようじゃ、碌な大人になれないわ!」

 

「な、何と罰当たりな!? このような少年をこそ、正しい道に導くのが宗教の役目でもあると言うのに!」

 

「お生憎様! 私は正しい道に導く為に、ニコルにこう言っているのよ!」

 

 されどヒートアップした彼らの口論は、慈愛を真似ただけの中身すらない言葉などでは止まらない。

 口論を続ける二人を見ながら、どうしたものかと息を吐く。そんなニコルを捕まえて、エドワードはニヤリと笑った。

 

「モテモテだな、ニコル」

 

「勘弁してください、エドワード」

 

 クーデルカが割って入った事で、怒りの矛先を失ったのか。振り回されるニコルを見ていて、溜飲が下がったのか。

 ともあれ機嫌を直したエドワードの姿に、ニコルも安堵の息を吐く。流石に彼までまだ騒ぐようであったのならば、ニコルにも自制していられる自信はなかった。

 

「しかし、何つーか。変な感じだよな。さっきまであんなに苛立ってたのに、アイツらのやり取りを見てた所為かね?」

 

「……恐らくは、マリスに当てられたのでしょう。此処はマリスが濃厚ですから、心が不安定になりやすい。思っていても普段は言わないような事でも、思わず口にしてしまう」

 

「へぇ、マリスってのはそういう効果もあるのか。色々奥が深いんだな。で、如何にかならないのか? そろそろ止めないと不味そうだろ」

 

「助力を乞いたいのは、私の方なのですが。……一応マリスが原因なら、心が不安定になっているだけですから。香を炊いて暫く落ち着けば、少しはマシになるでしょう」

 

 平静を取り戻したエドワードと会話を交わしながら、ニコルは懐から試験管を取り出す。試験管の残りはもう、然程多いとは言えない状況だった。

 オイルはこれで中々に、貴重な素材を使っている。この時代では瓶一本分でさえ、かなり高価な品なのだ。此処までの道中での損害を思うと、頭を抱えたくもなって来る。

 

 とは言え、このまま放置しておく訳にもいかないだろう。襲撃でもあれば意識が切り替わるのだろうが、この周囲の敵はもう一掃されている。

 だから仕方がないのだと受け入れて、床に香炉を設置する。エドワードからマッチを1本借りると、ニコルは蝋燭に火を付け心を癒す香を炊き始めた。

 

「ん。この匂いは」

 

「管理人室で嗅いだ匂いと、似てる? けど同じじゃないわね」

 

「サンライズオイルをベースに、シャインオイルを少量混ぜた物です。どちらも結構、貴重な素材を使っているんですよ」

 

 香を炊いて数分もすれば、周囲は香りで満ちている。マリスの影響で乱されていた精神を癒せば、彼らも冷静さを取り戻す事が出来たのだ。

 

「落ち着きましたか、お二人とも」

 

「……ええ、そうね。落ち着いたわ。言い過ぎたって、自覚もある」

 

「うむ。そうだな。私もどうして、あれ程に侮蔑的な言葉を口にしてしまったのか」

 

「マリスの影響です。余り気になさらない方が宜しいかと」

 

 冷静になれば、己の失態を後悔出来る程度には彼らも大人だ。自制を取り戻した両者は、互いに謝罪を交わし合う。

 これで恐れていた同士討ちのような結果にはならないと、少し安堵しながらニコルは続けて彼らに語るのだった。

 

「ですが、この先も更にマリスは濃くなっていきます。これまで以上に、皆さんの心も不安定になってしまうでしょう」

 

 マリスが心を乱すとは言え、その影響下で語ってしまうのは本心の一部だ。だがそんな真実を、この場で語る必要もないだろう。

 侮蔑の言葉が本心だと知られれば、また口論に発展しかねない。故に全てをマリスの所為だと決め付けて、一先ず落ち着かせた方が良い。

 

 その上で、更に忠告を一つ付け加える。本心の一部である以上、また同じ事を口にしてしまう可能性は十二分にあったから。

 これから先は、マリスの影響が強くなるのだと。人に悪意を向けやすくなってしまうから、どうか気を付けて欲しいと言葉に紡いだ。

 

「オイルも無尽蔵にある訳ではありませんから、余り使い過ぎる訳にはいきません。心を強く、持ってください。他者の言動に苛立ちを覚えても、この場所の影響もあると言う事をお忘れなく」

 

「……分かったわ。出来るだけ、我慢を意識する」

 

「そうだな。多少不快に思っても、口を閉ざすべきであろう。子どもが実践出来ているのに、司教がこれでは笑われてしまうだろうからな」

 

 互いに配慮し合う事、ニコルが語った言葉は他者との関わりにおける基本である。このような危険な場では、よりそれが大切になるのだと。

 当たり前の事を言われて、髪を掻きながらもクーデルカは頷く。同じく了承の意を返したジェームズの反応が鈍いのは、己自身を恥じているからであった。

 

「何だ、ちゃんと解決出来たじゃないか」

 

「貴方は全く、何の役に立ちませんでしたがね」

 

「おいおい、言ったばかりじゃないか。不満を覚えても、抑えてくれよな。ニコル」

 

「私は子どもらしいので、文句を言ってもきっと許されるんですよ。エドワード」

 

 騒動の引き金を引きながらも、解決への助力も周囲への謝罪もしていないエドワード。

 軽く笑う彼に冷たい言葉を浴びせると、ニコルはあからさまな程に肩を竦めてから残る二人に目配せした。

 

「そうね。取り敢えず、エドワードが悪いって言う事にしておきましょう」

 

「そうだな。発端はエドワードであるのだから、大体コイツの所為で問題あるまい」

 

 視線を受けた二人は悪乗りするかの如くに、揃ってエドワードを責め立てる。とは言え、全く本気の口調ではない。

 冗談交じりの集中砲火。道化を望まれているのだろうと察して、エドワードは嘆くような口振りで得意の暗唱を披露した。

 

「やれやれ、全く。悲しみが来る時は、単独ではやって来ない! って言うけどさ。理不尽な罵倒も、同じく軍団で押し寄せるみたいだな」

 

「ほう、シェイクスピーアか。何だ、中々に良い教養も有しているではないか。油断ならぬ奴だな」

 

「お互い様だろ。何時かアンタにも、バイロンの良さを教えてやるさ」

 

「ふん。その何時かがあれば、な。期待しないで待ってやるとも」

 

 これもまた、雨降って地が固まると言えるのだろうか。口論の末に少しだけ、三人の意識は変わっていた。

 気に入らない所も多くあるが、この場においては運命共同体のような物。確かな仲間であるのだと、皆が認識を共有するのであった。

 

 

 

 

 




エレイン強化カウンター 現在65点

地図なしでの縛りプレイ開始。

それとネメトン修道院の構造は、細部を少しだけ原作ゲームと違う形にしています。
管理人住居から中庭に出入り出来ないって、不便なんて物じゃないと思うので。

門から中庭に入れて、他の建物も中庭から出入り出来る形。洞窟みたいなダンジョンじゃないのだから、実際には生活し易い筈だよなと言うイメージから来る改変です。

今後のストーリー展開は次の内どれが良いですか?

  • ヒロインは一人。純愛ルート。
  • ヒロイン複数。ハーレムルート。
  • ヒロインは甘え。求道者ルート。
  • ウルと二人で漢祭りルート。
  • 宿命の兄妹対決! ニコルとアナスタシア!
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