憑依転生失敗話   作:天狗道の射干

18 / 58
ニコルはキ〇ガイ。


第17話 狂気の片鱗

 浮遊する菱形の物体が二つ。その中央には瞳の如く、二色の宝石が暗く輝いている。瞬きを思わせる光と共に放たれるのは、火と水の力を秘めた魔力弾。

 咄嗟に頭を庇ったエドワードは両手に火傷を負って、高圧水流に吹き飛ばされたジェームズは壁に叩き付けられた。

 

「くそっ! 行き成りにも程があるだろっ!?」

 

 廊下を抜けた先にある狭い部屋。別棟に続く扉を開けた瞬間に現れた怪物たちは、否応なしに彼ら全員を戦場へと巻き込んだ。

 逃げ場がない場所に、入り込んで来たのは雑兵とは言えぬ質の敵。さしものニコルも初手で一つを削るが精々で、同胞の残骸を盾にした残る二つの侵入は防げなかった。

 

「……これは少々、厄介ですかね」

 

 緑の宝石に深々と突き刺していた剣を引き抜き、落下する残骸を踏み付けたニコルは舌打ちする。

 残る二つの菱形は、ニコルから距離を取って遠ざかっている。それでいて、エドワードとジェームズを個々に狙おうとしているのだ。

 

(どちらかが、死にますかね。これは)

 

 一体を犠牲にする事で作り上げた隙に、真逆の方向へと移動している残る二体。ニコルならばどちらも一手で叩けるが、返す刀でもう一体と打ち破るには距離がある。

 恐らくは間に合わない。最後の一つを打つ直前に、こちらも被害を受ける事であろう。焼死か圧死か、結果は二つに一つである。

 

(友誼か実利か、悩むまでもない選択ですが……怪物の浅知恵程度にしてやられると言うのは、余り面白くはない話だ)

 

 浅知恵と罵倒しながらも、その機転の早さは認めている。何せ最初の一体を仕留める際に見たニコルの動きだけで勝てないと割り切り、誰か一人でも仕留めようと思考を切り替えたのだから。

 

 本来、人間より圧倒的に強者である筈の怪物らしくもない思考。怨念に支配されているが為に高度な思考は出来ず、さらに人間を侮る慢心を抱いているのが怪物たちの殆どだからだ。

 勝てない相手からは逃げつつも、弱い者だけを狙い撃つ。そんな弱者の戦術を、あらゆる理由で本来の怪物は行わない。為すとしても、最後の最後だ。

 

 故に初手でこう動くなど、全く以って予想外。なまじ怪物退治に慣れ切ってしまっていたからこそ、ニコルは此処に後れを取った。

 果てに至るであろう結果に、思う所は余りない。他人の死など目の前で起ころうと、ああそうかとも思わぬ程度。だから苛立ちの原因は、唯々己の未熟さ故に。

 

 己は倒されない程に強くとも、誰かを守れる程には至っていない。予想を外した程度で取り零しが出る程に、ニコラス・コンラドは今も弱い。その事実が気に入らない。

 怪物は人間よりも強大だから、常に優位に立ち続けないと勝ち目がない。それは裏に生きる誰もが知る常識だが、そんなことはどうでも良いのだ。

 

 唯、弱い。唯、未熟。その事実が頭に来るが、さりとて長く思考している暇もない。故に舌打ち一つで思考を切り替えた少年は、情報源を守る為に青き宝石を狙って膝を屈めた。

 

「ニコル!」

 

 そうして、飛び出そうとした瞬間。名を呼ばれて、視線を向ける。助けを求める声かと思えば、視界に映るはその真逆。

 高く掲げた右手の先で、燃え盛る炎を球形へと変えているクーデルカ。彼女と瞳を合わせた直後に頷くと、ニコルは踵を軸に身を翻す。そして、駆けた。

 

 狙う獲物は炎の怪異。抗うように繰り出される火の粉の雨も、少年の足を止めるに値しない。その軌跡は雷の如く、左右に細かく動きながらも直線距離と変わらぬ速度。

 止まらないなら結果は当然、振り下ろされた剣が縦に一筋の亀裂を刻む。ゆっくりと落ちる菱形へと向けて、更にと繰り出されたのは横薙ぎの一撃。

 

 十字の傷を刻まれた赤い宝石が、砕け散ると同時に怪物の身体も砕け散る。消滅を確認してから振り返ったその先で、青い宝石は炎に包まれ燃え尽きていった。

 

(流石は闇の鍵。単純な出力では、私など比較にもなりませんね)

 

 魔法の威力と言う点において、クーデルカに比肩する者などそうはいない。身体能力や戦闘経験でこそニコルが勝るが、魔法の出力で競い合えば勝ち目は何処にもないだろう。

 闇の鍵と光の鍵。大魔術師がその手中に収めれば、世界を左右させられる程の存在の一人がクーデルカ・イアサントなのである。

 

 仕方がないと割り切れるから、感じる嫉妬は最小限。寧ろこの場においては、良くぞ動いてくれたと言う安堵が強い。

 とは言え、その心境は荒れている。マリスの影響も相まって、意識せねば表情に出てしまいそうになる程には。

 

「不覚を取りました。この程度の雑兵に遅れを取るとは、我が事ながら情けない」

 

 剣を鞘に納めて、振り返ると最も近いエドワードの下へ。歩み寄って行くニコルの脳裏は、己が未熟への罵声と侮蔑に満ちている。

 突然の奇襲。狭い室内。戦闘経験皆無な味方。そんな悪条件が重なったとは言え、此度の結果は褒められた物ではない。その程度の不利を飲み干せなくて、一体どうして強さの高みに至れると言うのだろうかと。

 

 ニコルにとって周囲の者らは、無理をしてまで助ける必要のある者達ではない。まだどうでも良い、仲間と言う言葉で修飾されただけの同行者たちである。

 とは言え、余裕があれば守り抜こうとは思う。そしてこの程度の雑兵相手に、余裕を失う事などない。そうでなくてはならないと、少年は己に課している。

 だからこそ、守り切れないと思った。どちらかを切り捨てると判断せざるを得なかった。その判断を下すしかなかった事実が、極めて不快であったのだ。

 

「その程度に殺され掛けてるこっちとしちゃ、返す言葉がないんだけどな」

 

 鬱屈とした気持ちを隠しながら微笑むニコルに、焼け爛れた両手を力なく垂らしたエドワードは座り込んだままにぼやき返す。

 完全な不意打ちを受ける形で始まった戦闘は、これまで全く戦って来なかった彼らにとっては負担が大きかった。終わったのだと安堵してしまえば、暫くは立ち上がる気も起らぬ程に。

 

「取り敢えず、先ずは傷を癒しましょう。火傷の治療はキュアだけでは難しいのですが、多少はマシにもなりますから」

 

「ん? ああ、そうか。……いや、大丈夫だ。多分な」

 

 脱力するエドワードに対し、傷を治そうと伝えるニコル。完全に治療できるかは分からないと口にする少年に、待ったと歯止めを掛けたのはエドワード本人であった。

 

「ほら、見てろよ」

 

 何故とニコルが問う前に、エドワードは己の火傷痕に手で触れる。肘まで焼け爛れた左腕に、同じく焼けた右の掌押し当て目を閉じる。そうして数秒、彼の身体が淡く光った。

 

「……それは、クーデルカと同じ」

 

 珍しく感情を隠せずに、目を見開くニコル。その眼前で起きるのは、まるで録画映像の逆回転。

 急速に生えてくる皮膚の痒みに苦悶しながらも、エドワードの傷口は瞬く間に塞がり治っていく。

 

「一体何時から?」

 

「どうも最初に助けられた時から、腹の中に不思議な感じがあってな。今なんとなく、出来ると思った。そしたら出来た、と言う訳さ」

 

「クーデルカのヒーリングで、エドワードも超能力に目覚めたと言うのですか……」

 

 霊媒体質の女に治療された事で、エドワードは異能に目覚めた。彼女やその子であったハリーが使う、超能力と同じ力に。

 同じ事をもう片方の腕にも施しているエドワードから、視線を逸らして俯くニコル。その瞳に浮かんだ色は、最早興味などとは言えない程に度の過ぎた執着心。

 

「ジェームズ。大丈夫かしら?」

 

「ああ、問題ない。少し骨が折れていたが、それも今、治した」

 

 ぎょろりと見開いた目を動かす。見詰めた先に居た神父もやはり、エドワードと同じ力に目覚めている。自然と、少年の口元が歪んだ。

 

 超能力。ハリー・ブランケットの持つそれは、彼の大魔術師アルバート・サイモンですら一度は退かせた程の力である。

 もしかしたら、それが得られるかもしれない。今より強くなれるかもしれない。そんな思考が過ぎった瞬間、自制が難しくなった。

 

「ミスタも、超能力に目覚めていたのですね」

 

「どうやら気絶していた時に、彼女がヒーリングをしてくれたようでね。私も同じ事が出来るようになったのだよ。君のような白魔法でない事が、少し残念ではあるがね」

 

「ちょっと何よ。異端の業だから不満だって言うの?」

 

「……純粋な憧れだよ。敬虔な信徒が用いる主の奇跡を、私は余り扱えないからね」

 

 欲しい。欲しい。欲しいと。執着の中に、狂気が宿る。外れそうになる仮面を必死に抑えながら、ニコルは問い掛ける事を続けた。

 知らねばならない。本当に己も得られるのか。実例が二つもあるとは言え、其処に再現性はあるのだろうか。もしも、手に入れられる可能性があるのだとしたら。

 

「……クーデルカ。こういった事は、他にも?」

 

「稀にあるのよ、相性が良いとね。眠っていた筈の力を、目覚めさせてしまうみたい」

 

「そう、ですか。眠っていた、力が」

 

 ニヤリと壊れたように嗤う。もう限界だった。だからニコルは納めた剣を振り抜いて、驚愕し硬直する彼女らの前で刃を振るう。

 手首を返して、短く握る。掌に喰い込んで血を滴らせる刃を躊躇なく、突き刺したのは己自身。そして腹に突き刺した刃を、そのまま左から右へと動かした。

 

「が――っ、ふ――っ」

 

「ニコル君!?」

 

「何やってるんだよ、お前!?」

 

 信じられない光景に、思考を硬直させるジェームズ。顔に降り注ぐ血液に、エドワードも目を見開いて問う事しか出来ていない。

 一体何がと驚愕する者らの前で、ニコルは壊れたように嗤っている。血相を変えたクーデルカが、慌てて走り寄って来ているから。

 

「何で、何で、こんな事をしたの!?」

 

(何故と? 決まっている。強く成れるかも、しれないからだ)

 

 血に塗れて崩れ落ちるニコルの身体を、抱き留めた女が青褪めた顔で治療する。ヒーリングの光を浴びながら、尚も嗤う少年の心は歪んでいる。

 

 怪物との戦いで手を抜いて、態と傷付くと言う方法もあった。だが次の遭遇が何時になるかも分からなければ、違和感を覚えさせない程度に強い敵が出る保証もない。

 目の前に強く成れるかもしれない方法があるのに、来るかも分からない強敵を期待して待てと言うのか。そんな事、少年には出来なかったのだ。

 

 だから自傷した。腹に剣を深々と突き刺して、胴から二つに割れるような勢いで断ち切ったのだ。全ては唯、強くなりたいと言う願望の為に。

 

(私は高みに到達したい。強くなる為ならば、手段や過程など、どうでも良い)

 

 ニコルは予測していた。何故に此処まで過保護なのかは分からぬが、クーデルカは己の危機を見過ごせないのだろうと。

 だから彼女の前で傷付けば、クーデルカはヒーリングを使ってくれるだろう。そして上手くいけばその時点で、ニコルも超能力を習得できると。

 

 自傷行為と言うにも度が過ぎる奇行を見せた結果として、これまで積み上げた信用や評価を失う事にもなりかねない。最悪は予想に反して、クーデルカが治してくれないかもしれない事。

 そうと分かっていて、それでも我慢が出来なかった。だって手を伸ばせば、闇の鍵とまで言われた力が得られるかもしれないのだ。それでどうして、我慢が効くと言うのだろう。

 

 ニコルは理性的な狂人だ。妖しく輝く緑の瞳は、己が望む為ならば自殺未遂すらも躊躇えない。躊躇わないのではない、躊躇う事が出来ないのだ。

 

「……感謝を、クーデルカ」

 

「ニコル、今は喋らないで」

 

 血に濡れた顔に浮かんでいるのは、仮面ではない正真正銘の笑顔。それが余りに綺麗であるから、却って異常を印象付ける。

 強くなる為ならば、何もかもを捧げてしまえる。それは余りにも過ぎた異常の発露。異形としか思えない精神性。そんな物を見せてしまえば、誰だって恐怖し距離を取るだろう。

 

「貴方のお陰で、私は、少し、進めるかも、しれません」

 

「駄目、喋らないでよ。お願い、だから……」

 

 それはクーデルカも変わらない。恐怖を感じてしまう程に、少年の本性は外れていた。けれどそれが分かったとしても、ヒーリングを行う手は止めない。

 

 少年がこうなってしまった事には、何か理由がある筈なのだ。そう自分に訴えて、己の恐怖を如何にか誤魔化す。

 必ずや味方で居ようと決めたのだろう。そう己に言い聞かせ、必死にヒーリングを続ける女。彼女の瞳からは自然と、大粒の雫が零れ出していた。

 

(ああ、そう言えば……私はどうして、強くなりたいと願ったのでしたっけ?)

 

 血の気が失せた所為で、朦朧とする意識の中。零れる光を目にした少年は、見詰めるクーデルカの表情にふと思う。

 今更ながらに、それを思った。力はあくまで、望みを果たす為の手段でしかなかった筈なのに。一体何時からなのだろう。手段と目的が入れ替わってしまったのは。

 

(まあ、どうでも良い事ですね。力を求める事に、最早理由など必要ない)

 

 霞む視界は暗闇に変わって、音すらも聞こえなくなる無明の中。己を振り返っていた少年は、心の歪みを認めたままに変わらない。

 変われないのだ。何があろうと、少年の心は訴え続ける。力への意志を。どうしても求めてしまうのだ。もっと高みへ、行きたいのだと。

 

 そんな暗闇も、長くは続かない。己の答えを出すと同時に、ニコルは包まれるような温かさを感じた。そして少年の意識は深海のような闇の底から、陽射しのような光の下へと浮上する。

 目を見開けば、ニコルを抱き留めている女の姿。見下ろすクーデルカの涙に滲んだ瞳には、しかし恐怖や嫌悪の色は欠片もなかった。

 

「良かった。本当に……」

 

 心の底から、その感情を吐露するクーデルカ。涙の滲んだ表情に、ニコルは僅か罰の悪さを感じる。しかしそれでも、少年の中身は変わらない。悍ましい程、歪んだままだ。

 

「これで――」

 

 新たな力を手に入れた。大魔術師すら遅れを取る程の、超能力を手に入れられた。

 沸き立つような歓喜と共に、抱き留める女の腕を振り払う。そうして立ち上がった少年は、手に入れたばかりの力を試してみようと意識して――

 

「……これ、は?」

 

 その瞬間に、少年の表情が凍る。身の内より感じる力は、ない。その小さな体躯に宿った能力は、自殺の前と何一つとして変わっていなかった。

 

 ニコルには、超能力の才能はない。元の可能性が零ならば、何をしようと芽は出ない。それに気付いた瞬間に、零れ出したのは失笑だった。

 

「はは、ははは……そうか、そうですか…………はは、ははは」

 

 欲しいと思って逸った結果、積み重ねた全てを失うだけに終わった愚行。今為したのは、言ってしまえばそれだけの事。

 笑うしかなかった。もっと真剣に考えて、もっと潰しが効く方法を選ぶべきだった。だと言うのに目の前に餌を見せられた瞬間、飢えた獣の如き浅ましさを発揮してしまった。その結果が、これである。

 

「ははは、ははははははははは」

 

 心中を満たすのは、己の行いへの後悔だけ。後悔したのは、己の歪みに気付いたから。気付いていて、変われないと認識したから。もしも似たような事態になれば、きっとニコルはまた同じような事をする。

 

 それが無駄に終わるとしても、手段にしか過ぎない物を狂ったように求め続ける。そんな己が愚かと分かって、しかし変わろうとも思えない。それがどうにも、おかしくて仕方なかったのだ。

 

「ニコル」

 

 乾いた声で嗤っていると、振り解いた筈の女が傍に。一頻り自嘲した後で、ニコルは取って付けたような微笑みを浮かべて振り返る。

 仮面を付ける事には慣れている。優等生の振りならば、内心がどれ程に荒れていようと行える。それがもう、意味のない事だとしても。

 

「……ご迷惑をお掛けしました。クーデルカ」

 

 口にしたのは、そんな謝罪が一つだけ。狂態の説明さえもする気がない少年は、今まで通りに返すだけ。

 踏み込む事を許さない。暗に他者を拒絶している。そんな少年と目が合った瞬間に、クーデルカは右手を強く振り抜いていた。

 

 パアンと大きな音を立て、ニコルの頬が叩かれる。口元には作り笑いを浮かべたまま、揺れる瞳で少年は女の顔を見た。

 

「死んでしまうかと、思ったわ」

 

 勝ち気な彼女の頬を伝うは、軌跡を残して落ち行く雫。ポロポロと涙を零しながらも女は、どうしてこんなにも心が揺れているのか分からない。

 出逢ってまだ、そんなに時間が経っていない。少年はまだ、心を開いてくれていない。結局の所、その関係の殆どは女の独り善がりであると言うのに。

 

「死んでしまうかと、思ったのよ……」

 

 だとしても、己の感情は偽れない。失われてしまう事を、クーデルカは悲しいと思った。居なくなってしまうのが、恐ろしいと感じた。だから彼女は、迷える子どもを抱き締める。

 

「もう2度と、こんな事はしないで」

 

「……善処します」

 

 返る言葉は、クーデルカが望んだ物とは全く違う。女の涙の冷たさも、抱き留める腕の温かさも、心を揺るがすだけで傷を塞ぐには程遠い。

 ニコルは変われない。幼い日に走った心の亀裂は、小さな家族の手で一度は塞がれ掛けた。けれど治り切る前に、悪魔の手で瘡蓋を剥がされてしまったから。

 

 ニコルの心は歪んだままだ。それを少年は良しとしている。浅い思考が呼び込んだ、自業自得の結果であるから。この歪みさえも己だと、分かった上で受け入れている。

 だから、変わらない。少年の狂気も、そして女の想いもきっと変わらない。抱き締める熱は、そう思える程には温かかった。

 

「……まさか、彼がな。いや、あの年齢で、あれ程の実力を備えているのだ。それを思えば、歪んでいて当然か」

 

「ロシア正教会って言ってたよな。宗教ってのは、此処まで子どもを歪めるのかよ」

 

「奴らと一緒にしないでくれ。イワン共め。一体何をしてくれたのだ」

 

 そんな二人を見守る男達には、少年が歪んだ事情なんて分からない。想像すらも出来ないだろう。それ程にニコルの事情は、複雑怪奇な物と化している。

 だから彼らは、ある意味で正しくて、ある意味では間違った回答に辿り着く。ロシア正教会こそが、少年を壊した元凶だろうと。

 

 子どもでありながら、圧倒的な実力を有する。そんな戦士を鍛え上げる為に、一体如何なる非道が行われたと言うのか。

 己が想像した光景を思い描いて、悔しそうに拳を握る。許される事ではないと義憤を抱ける彼らはきっと、とても善良な者達なのだろう。

 

「それで、これからどうするよ」

 

「……出来ればもう、ニコル君を戦わせるべきではない。事情は分からぬが、どうにも心が傷付き過ぎている」

 

「だが実際問題、ニコルが居ないのはキツイぜ。ついさっきだってアイツが居なければ、皆揃って炭の山か溺死体にでもなってたろうよ」

 

 そんな彼らにしてみれば、現状はとても歯痒い物だ。戦う為に心を歪められたと言うのなら、そんな子どもは戦場から離すべきである。

 そうは思えど、実際にそれを行えば結果は火を見るより明らかだ。クーデルカもエドワードもジェームズも、生粋の戦士と言う訳ではないのだから。

 

 或いは最初からニコルが居なければ、倒せそうな怪物達を相手に少しずつ成長する事も出来ただろう。逃げ回りながらもその果てに、如何にか出来た筈である。

 だが弱い怪物は既に、ニコルが一掃してしまっている。この先には強力な怪物たちしか残っておらず、戦闘経験を積む事さえも難しいと言う状況だったのだ。

 

 故にニコルを戦わせないで、先に進むと言うのは余りに現実的ではない。彼を戦わせるしかないのだと、嘆息するエドワードとジェームズの認識は一致していた。

 

「取り敢えず機会があれば、アイツの事情も探ってみるかね。おっさんもその時は、手伝ってくれよな」

 

「勿論だ。子どもを導くのは、大人の務めなのだから」

 

 少年が見せた狂態の理由は、一体何に起因するのか。彼らにはまだ、推測する事しか出来ない。

 場合によっては、戦いから遠ざけると逆に不味いかもしれない。故に先ずはそれを知るべきだろうと、エドワード達は結論付けた。

 

「全く、ああしていると普通の姉弟みたいなんだがね」

 

「ああ、実に微笑ましい事だ。クーデルカが、ニコル君の心を癒してくれる事を祈ろう」

 

 エドワードがぼやきながらに、見詰める先にある光景。困った笑みを浮かべるニコルと、彼を優しく抱き締め続けているクーデルカ。

 先の狂態など想像も出来ない穏やかな二人の姿は、きっとそうあるべきだと思える光景だから。男達は、その想いを確かな物とする。

 

「……心の癒しにならずとも、気が楽にはなるだろうよ。アイツら、似た者同士だからな」

 

「そうだな。そう在って欲しいものだ」

 

 心に歪を抱えているのは、ニコルだけではない。クーデルカもそうなのだと、知っているのはエドワードだけである。

 だからジェームズと同じ物を見て、しかしエドワードはもう少しだけ欲を張る。もう少しだけ多くの事を、彼は願い祈るのだ。

 

 ニコルと言う少年の歪みを、クーデルカが癒してくれる事を。そしてクーデルカの抱えた嘆きを、ニコルが埋めてくれる事を。

 エドワード・プランケットは心の底から願う。まだ知り合って間もない彼らはそれでも確かな恩人で、そうでなくとも大切だと思える仲間であったから。

 

 

 

 

 




エレイン強化カウンター 現在65点

エドワードが魔法を使えるのは、クーデルカにヒーリングで治療されたからと言うのが原作設定。
ヒーリングされれば誰でも使えるようになるのかは微妙ですが、取り敢えず憑依ニコルには適性がありません。

適性がない理由? ニコルには狂い哭いて欲しかったから……ですかねぇ。

今後のストーリー展開は次の内どれが良いですか?

  • ヒロインは一人。純愛ルート。
  • ヒロイン複数。ハーレムルート。
  • ヒロインは甘え。求道者ルート。
  • ウルと二人で漢祭りルート。
  • 宿命の兄妹対決! ニコルとアナスタシア!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。