憑依転生失敗話   作:天狗道の射干

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外道の目にも涙? あるの? そんなの?


第19話 揺らぐ心

 長い廊下の曲がり角、其処に一人佇む小さな人影。探索を続ける一行は、其処で新たな出逢いを迎える。

 事の善悪を問うのであれば、恐らく後者に分類されるのだろう。これはそんな悲しくて、やるせない結末に終わるであろう出逢いであった。

 

「あれは、人か? 何故、こんなところに」

 

 青い瞳で冷たく見詰めてくる、銀糸の長い髪をした少女。陶器のような肌艶に、白く豪奢なドレスを纏う姿はまるで出来の良い人形のようで。

 何故こんな所に居るのだろうかと、ジェームズは思わず吐露してしまう。この場には似付かわしくない姿は、明らかに何処か異常であった。

 

「言ってる場合か! こんな場所に子どもが一人じゃ危ないだろ。少し、声を掛けてくる!」

 

「しかし、エドワード。彼女(アレ)は――」

 

 だが霊的に鈍感な青年だけは、その違和感に気付けない。ニコルとそうは変わらない年頃の少女が一人で居るなど危険に過ぎると、エドワードは正義感に駆られて歩を踏み出す。

 そんな彼を一瞥だけして、身を翻した少女は奥へと。歩き出した姿に舌打ちして走り出すエドワードは、呼び止める声にも止まらなかった。

 

「おい! 待てよ、おい!」

 

 追い掛けるエドワードと、歩き去る少女。成人の男が駆け足で迫れば、歩幅の差もあって直ぐに追い付く筈であろう。

 だが現実はそんな男の予想に反して、何時まで経っても追い付けない。何時しか全力疾走していたと言うのに、歩いている少女に追い付けない。

 

 明らかにおかしい現象だ。しかし何故か、それにも気付けぬままに追い掛け続けるエドワード。

 気付くと言う思考すら奪われた彼と少女の追いかけっこは、数分程で終わりを迎える。唐突に少女が立ち止まったのだ。

 

 漸く追い付けたエドワードは、立ち止まった少女の肩へと手を伸ばし――突如開いた大きな穴に、足を踏み出し飲まれ掛けた。

 

「うおっ!?」

 

「エドワード!」

 

 つい先程まで普通に道が見えていた筈なのに、気付けば周囲の床が崩落していた。穴の底へと落下し掛けたエドワードを、駆け寄って来たクーデルカとニコルが支える。九死に一生を得た男は下を覗いて、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

 眼下に露わとなった館の一部は、風化が激しく昨日今日に崩れたとは思えぬ状態である。化かされたような気分だが、その感覚こそ的を得ているのだろう。

 

〈死ねば良かったのに。落ちて、死ねば良かったのに〉

 

 エドワードは化かされたのだ。小さく憎悪を零しながら、空に溶けて消えていく白い少女の亡霊に。

 館が壊れていないと言う幻覚を見せられて、助けようとした善意も利用された。その事実に、引き上げられたエドワードは盛大に舌打ちした。

 

「亡霊、か?」

 

「ですね。それも生者を憎んでいる様子です」

 

「詰まりは敵と言う訳だ。少女の形をした怪物とは、厄介な」

 

「っておい! 気付いてたなら、教えてくれよ!」

 

「止める声を無視して走り続けたのは、一体何処の誰ですか?」

 

 苛立った口調で愚痴を呟くエドワードに、爽やかな笑顔のまま冷たく返すニコル。十字架を手に、警戒心を強めるジェームズ。

 三人とは異なって、クーデルカは崩落箇所に視線を向ける。片膝を付いて下を見詰めて、出した結論はこの先にも行けそうだと言うものだ。

 

「この下にも、道は続いているみたいね。梯子か何かがないと、墜ちて死にそうな高さだけど」

 

「他の道はなさそうだな。しかし不便な建物だ。管理人夫妻は、一体どうやって管理していたのだろう」

 

「単に何もしてなかっただけでしょ。ちゃんと管理してたのなら、白骨死体が散乱していると言うのはおかしいわ」

 

 マスターキーを所持していたとは言え、一々不便な作りをした建物だ。どうやって此処で暮らしていたのかと、ぼやくようにジェームズが呟く。

 それに素っ気なく返してクーデルカは、立ち上がって周囲を見回す。使えそうな物は無さそうだと嘆息した彼女の胸中を察したか、立ち直ったエドワードは努めて明るく口にした。

 

「取り敢えず、周囲を探してみるかね。メンテナンス用の梯子くらいは、きっと何処かにあるだろうさ」

 

「……近くにあると良いんだけど」

 

 走り抜けて来た道を、引き返して歩いていく。途中に見えた扉を開けば、溢れ出して来るのは溜まって淀んだマリスの風だ。

 霊気に当てられ、倒れそうになるクーデルカ。ふらつく女を傍に居たニコルが支えると、彼女は寄り掛かるように少年を抱き締め口にした。

 

「また此処も、霊気が濃いわ。気持ち悪くなってくる」

 

「クーデルカは休んでいたまえ。ニコル君は彼女の傍に、君は私達に何かあった時に備えてくれ。私とエドワードで、部屋の中を探す。良いかね、エドワード?」

 

「構わないさ。気分の悪いレディに仕事をさせるのは紳士じゃない。それにニコルも一緒に探して、ヤバい時のフォローが間に合わないってのが最悪だからな」

 

 まだ本調子ではないのだろうクーデルカに、無理をさせて倒れて貰う訳にはいかない。それにニコルの為にも、二人は一緒に居させた方が良い。

 男達はそう判断すると、少年が有無を言う前に捲し立てて動き始める。手分けして室内を探し始めた二人の姿に、ニコルは諦めたように嘆息する事しか出来なかった。

 

「ねぇ、ニコル」

 

「何ですか、クーデルカ?」

 

 向き合う姿勢から、背を預ける形へと。身体を動かせたのは、其処までだった。クーデルカは抱き着いたまま離してくれない。

 先に狂態を見せてしまった事は、つくづく失態だったとニコルは猛省する。

 払った物が痛みと血肉と信用で、得た物が自由を奪う拘束と美女に抱き着かれると言う気恥ずかしさでは全く以って割に合わない。

 

 もしも次があれば、その時はもっと巧くやろう。そう考えているニコルへと、クーデルカが声を掛ける。

 少年の柔らかな髪を撫でながら、女が問い掛けようと思ったのは先の一件。母親の事を辛そうに語る少年に、問い掛けたいのは一つの疑問。本当に少年は、母に愛されていたと言うのだろうかと。

 

「……ごめん。何でもないわ」

 

 けれど、聞けなかった。少しだけ、その結果が恐ろしいから。クーデルカは何でもないと口にして、不思議そうに見上げる少年の頭を撫で続けていた。

 

「此処も駄目か。おい、おっさん! そっちは何かあったか?」

 

「いや、こちらもないな。と言うかエドワード。何故君はそのタンスを調べない? 如何にも何かありそうではないか」

 

 一方で、男達は家探しを続けている。その最中、如何にも怪しいタンスへと手を出さない事に焦れたジェームズが何故と問い掛ける。

 対するエドワードは、嫌そうな顔を隠さない。絶対に出る。そう確信していたからだが、さりとて他に見付からない以上は調べない訳にもいかない。

 

「如何にも何かありそうだから、何だがな。まあ、他に何もなさそうだし……仕方ないか、ええい!」

 

 唾を飲んで覚悟を決めると、エドワードは両手でタンスを開く。その途端、タンスの中に入っていたモノが彼に向かって倒れ込んで来た。

 

「うおっ!? し、死体が落ちてきやがった!?」

 

「ウェディングドレスのミイラ、か? まるで神前の如く、熱烈な抱擁ではないか!?」

 

「言ってる場合か!? って言うか、コイツ動いてやがる!? 抱き付いてくる、力が……ニコル、何とかしてくれ!?」

 

 足のない、花嫁衣裳のミイラ。倒れ込んで来たそれがエドワードの身体に抱き着いて、必死に縋り付いて全く離れない。

 枯れ細った指先で男の背中を掻き毟り、歯の無い口で男の首に食らい付く。歯がない為に甘噛みにもなっていないが、だからこそ喜色悪さに総毛が立った。

 

「そのまま、動かないでいてくださいよ! はぁっ!!」

 

 クーデルカの拘束を擦り抜けたニコルは、大地を蹴ってミイラの抱擁を受けるエドワードの下へ。そのまま動くなと語ると同時に、振り抜かれた銀の剣閃は誰の瞳にも映らない。

 鞘に納めたまま、擦れ違いに居合い切りを行ったのだ。そのまま走り抜けたニコルの後方で、両腕を二の腕から切り捨てられた花嫁のミイラは地に落ちる。

 

 怪物を倒す手段として、抜刀術を選んだ理由は特にない。しいて言えば両刃の西洋剣では扱い難く、習得難易度が高いから。

 まだニコルは未熟であると自認している。今の抜刀でも引き抜いた己の刃で、掌の母指球を浅く切り裂いてしまったのだから尚更だ。

 

 故に戦う価値もない木っ端であれば、練習台になって貰う。どの道不意をついて、人の一人も殺せぬ程度の怪物だ。

 態々狩り取る価値はなく、ならば手間を掛ける分だけ精々己の技量を磨く糧となってくれ。どうせ既に死んでいるのだから、どう扱おうと構うまい。そうした冷たさは、ニコルの偽らざる本心だった。

 

「……この子、もしかして。さっき、あたしの中に入って来た」

 

 死者に冷たい少年とは対照的に、この場で最も強い霊感を持つ女は死者の嘆きに敏感だ。床に転がり落ちた花嫁の残骸を見詰めて、クーデルカは嘆くように呟いた。

 

 手足を失くしたミイラの内で、蠢く霊魂の残滓には覚えがあった。つい先程に視た光景。あの地獄の中に居た誰か。その末路を思い出し、口元を抑えた女は再認する。此処は地獄に似ていると。

 

「惨いわ。結婚式の途中で、幸せになれる筈だったのに」

 

 恨み辛みを叫んだ先の怨霊とは違い、このミイラの中に残る欠片は夢を見ている。教会の鐘の下、愛する人と寄り添う夢を。

 怨念と化した欠片から凄惨なその後を視ていたクーデルカは、涙を零しそうになった。余りに哀れが過ぎるから。どうして幸福の絶頂から、転落せねばならなかったのだろう。

 

「クーデルカ、霊視は余りしない方が良い。どれ程に同情すべき過去があろうと、今は生者に仇なすだけの怪物なのですから」

 

 理由なんてない。理不尽とは、そういう物だ。だから知っても意味がないと、ニコルは告げる。知っても無駄に心を傷付けるだけならば、唯の怪物として終わらせてしまえば良いのだと。

 

「神の御許へ、逝きなさい」

 

 語り少年は容赦なく、嘗ての被害者を消滅させた。道に転がる塵屑を、拾ってゴミ箱に片付けるような気安さで。

 一瞬で浄化された怪物が、後に遺すは古びた花嫁衣裳だけ。所々が破れた白い布を見詰めたまま、クーデルカは崩れ落ちるように座り込んだ

 

 女の想いは、少年とは違う。知っても意味がないのだとしても、覚えておいてあげたかった。何の救いもないなんて、それは悲しいではないか。

 だから吐きそうな顔をしていた女は、何の救いもなく消えてしまった霊魂の名残に顔を俯けた。

 

「せめて、冥福を祈るとしよう。彼女は、これで漸く救われたのだ」

 

「……理屈では、分かっているわ。けど…………いえ、ごめんなさい」

 

「いや、無理もあるまい。我々には見えないものまで、君の目には映っているのだろうからね」

 

 座り込んだクーデルカの肩を、ジェームズが優しく叩く。死者の嘆きを聞けないからこそ彼は、容易く救われたと語れるのだと自覚している。

 本当の意味で、クーデルカの気持ちに共感する事は出来ない。そう自覚するからこその言葉は、少しだけ女の心を楽にした。

 

 そうして少し、気を取り直したクーデルカはその背を追う。まるで今の女の顔を見たくはないから、距離を取ったかのような少年の背中を。

 追い掛けた先で修道服の少年は、エドワードと漫才のように気が抜けるやり取りを交わしていた。

 

「どうでも良いが、これも取ってくれよ!? この腕、張り付いて離れないんだがっ!?」

 

「中々のドンファン振りじゃないですか、エドワード。彼女も一緒に居たいと言っているようですし、そのまま連れて行って差し上げたら如何ですか?」

 

「ふざけんなよ、ニコル!? せめて肌艶が良くて、血の通っているお嬢さんなら考えたけどな!!」

 

 交わす軽口は子どもの如く、まるで仲の良い友人同士のようで。少しは何か、影響を与えているのだろうかと思う。

 先の冷徹な行いも、死者の為に無理をしようとしていた女に対する不器用な気遣いだったのではと。そう思ってしまうのは、流石に都合が良過ぎるだろうか。

 

 だとしても――クーデルカは信じたかった。

 

(三歩進んで、二歩戻るような歩みだとしても。あたし達は、少しずつ近付いている。そうよね、きっと……)

 

 優等生然とした仮面の笑顔ではなくて、軽口を交わし合っている二人の姿に。手を伸ばして繋いだ温もりが、少年の傷付いた心に届いているのだと言う事を。

 少しずつだが、変わっている。そう思うから何時かきっと、心の底から笑い合える日が来る事を信じたかった。

 

「……けどやっぱり、エドワードの奴は教育に悪いわ」

 

「確かに同感だ。とは言え賑やかしとしては、奴もあれで優秀だからな。気晴らしの役には立ったではないか」

 

 ミイラの手を付けたまま、何故か血肉の通った女体の良さを少年に語り出すエドワード。呆れた視線を向けながらも、律儀に付き合っているニコル。

 馬鹿みたいに戯れ合う二人の姿に頭を抱えてクーデルカが嘆息をすれば、ジェームズは笑いながら言葉を返す。この時には既にもう、彼らは仲間になっていたのだろう。

 

「丁度、梯子もあるようだ。これで先に進めるな」

 

「ええ、まだ騒いでいるあの二人を、叱ってからになるけどね」

 

 クーデルカは意識を切り替えると、タンスの中へと視線を向ける。花嫁のミイラが居た場所には、作業用の縄梯子が保管されていた。

 故にもう進めるだろうと、ジェームズと視線を交わすと互いに頷く。重そうな縄梯子を抱えるのが壮年司教の役目なら、今も戯れ合う二人に仕置きするのは女の役目だ。

 

 ニコル達の下へと歩み寄ったクーデルカは、二人に向かって張り手を二回。更にエドワードを毒舌混じりの罵倒で黙らせると、ニコルの両脇に手を入れ赤子のように持ち上げるのだった。

 

「存外、上手くやれそうだな。私達は」

 

 死んだ魚のような目で、抱き抱えられたまま連れられて行くニコル。肩を竦めた後、その姿を指差し笑うエドワード。少年を抱えた事で機嫌を良くしたのか、何処か楽しげに歩くクーデルカ。

 三人の仲間達を見詰めて、ジェームズは穏やかな気持ちで言葉を零す。随分と個性的で変わり者揃いだが、噛み合いは決して悪くはない。このまま上手く、やっていけそうだと。

 

 

 

 そうして再び、一行は先の場所へと戻る。崩れた廊下の先でジェームズから縄梯子を受け取ったエドワードは、慣れた手つきで梯子をその場に設置し始めた。

 

 土の床にフックを深く打ち込んで固定し、何度か手で動かして確認する。多少の揺らぎは、途中で盗み出していた置物などの重量で如何にか誤魔化す。

 最低限、人が利用できる形にはなったであろう。実際に少し降りてみて確認したエドワードは、直ぐに戻ると皆に向かって問い掛けた。

 

「それで、誰から降りる?」

 

「此処は女性から降りるべきではないかね? 紳士的に考えたのならば、の話だが」

 

「いや、待ってくれ。梯子はまだ少し不安定だから、一人ずつしか降りられない。この先にも怪物が居る可能性はあるんだ。危険を確認する為にも、此処は責任を持って俺から先に行くべきじゃないか? クーデルカは、その次で」

 

「……で、その心は?」

 

「チラっと顔を見上げても、不可抗力だよな。って、何言わせやがる」

 

「貴方が勝手に言ったのでしょう」

 

「はぁ。でも、エドワードの発言にも一理あるわ。スケベ野郎を先に行かせるのは、論外だけど」

 

「ふむ。確かに。スケベ野郎の言う通り、どんな危険があるかは分からんな。エドワードは論外だが」

 

「神は我々を人間にするために、何らかの欠点を与える。詰まり俺がスケベなのは、俺の責任ではないのさ」

 

 軽口を混ぜながらも語る内容は、頭を悩ませるに足る問題だ。まだ行ったことのない場所に、誰か一人で行かねばならない。

 この修道院に満ちたマリスを思えば、怪物と遭遇するであろう危険が高い。故に最初の一人は、如何なる危険にも対処できる人物こそが望ましかった。

 

「と言う訳で、順番は――ニコル。あたし。ジェームズ。エドワードって感じで良い?」

 

「そうだな。ニコル君なら、エドワードと違って紳士的だ。女性の嫌がる事はしないだろう」

 

「ニコルなら別に、覗かれても問題ないわ。誰かさんと違って、下心なんてないでしょうし」

 

「……ああ、幸せな年月よ。再び少年に戻ることを、望まぬ者がいるだろうか」

 

「少年に戻れたとしても、エドワードでは下心を隠せそうにありませんけどね」

 

 言葉の刃で滅多刺しにされながらも、飄々とバイロンの詩を諳んじてみせるエドワード。全く堪えていない彼の様子に、皆が苦笑してから進み始める。

 

 荒縄で出来た梯子を暫し揺らして、一人が降り切るまでに10秒から20秒程度。四人合わせて一分少々の時間を掛けて、一行は下の階へと降りる。

 天井の崩れ落ちた客間には案の定と言うべきか、尖った石や無数の人骨が転がっている。最早見慣れてしまった光景に、彼らは鬱屈としながらも一歩を踏み出した。その時であった。

 

「また、部屋か。しかし」

 

「ボロイな。今にも崩れそうな――うぉっ!?」

 

「なっ!? まさか、床が崩れる!?」

 

 踏み出した瞬間に、足元に亀裂が走り広がっていく。これは不味いと思う間もなく、地面が音を立てて崩れ出した。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「クーデルカっ!」

 

 床が抜け、部屋全体が壊れてしまえば逃がれる場所など何処にもない。成す術なく皆が飲まれていく中で、ニコルだけは瓦礫を足場に姿勢を保つ。

 落下時間は一瞬、凡そ1秒程であろうか。コンマ以下の即断で、崩れる欠片を蹴り付けると名前を呼んだ女の下へ。叫ぶ彼女を抱き抱えると、少年は足の動きで落下の衝撃を受け流した。

 

「あ、ありがとう。ニコル」

 

「……どういたしまして」

 

 まるで物語の御姫様の如く、幼い少年に抱き抱えられたクーデルカ。先までとは逆の体勢に羞恥を覚えた女に対し、軽く返したニコルが覚えていたのは己の心に向かう違和感だ。

 女が落下するその一瞬、ニコルは本気で焦っていた。どうでも良い他人だと言うのに、その身が危険と思えた瞬間咄嗟に叫んでいたのである。

 

 意味が分からない。理解が出来ないと言えば、先の一件もそうだろう。女が死霊にも心を砕くとは知っていたのだから、もう少し穏便なやり方を選んだ方が良かっただろうに。

 更に言えばその前も後も、今思えばおかしい事ばかり。拘束されるのが嫌ならば、もっと強く拒絶すればそれで済むだけの話だろうに。

 

(今は捨て置きましょう。分からない物ですからね。人の心、と言う物は……)

 

 出そうになった結論から、少年は目を逸らして思考を切り替える。迷い続ける心を抑え付けて微笑むニコルは、紳士的な仕草でクーデルカをその場に降ろした後に視線を移す。共に落ちた仲間達へと。

 

「い、痛てて。俺達の事も、助けてくれよな。ニコル」

 

「生憎、私の手は二つしかないもので。エドワードが私の立場なら、一体どちらを助けます?」

 

「そりゃ、むさ苦しい野郎より、麗しいレディを助けるよ。納得したぜ、心の底から」

 

 冗談めかして、語る余裕はあるようだ。心の何処かで少し安堵しながら、少年は回復魔法をエドワードとジェームズに掛ける。

 痛みに呻きながらも立ち上がる事が出来た男達は、その場で周囲を見回す。鉄の柵に覆われた光景に、間違いなく此処は独房であると誰もが察した。

 

「此処は、地下牢獄か?」

 

「また死体の山かよ。安直過ぎて、嫌になるぜ」

 

 上を見上げる。降りて来るのに使った縄梯子は、月明りが差し込む吹き曝しの向こうにある。どう足掻こうと、手が届く位置にはない。

 詰まりはもう戻れない。ならば先に進むしかないと言うのに、周囲は石の壁と鉄の柵だけ。進む道すら見当たらない状況に、彼らは揃って深い息を吐くのであった。

 

 

 

 

 




エレイン強化カウンター 現在65点

マリス濃度の高い場所≒常時SPダメージを受ける空間という可能性。
ともあれニコルも含めて、仲間達は全員がマリスの影響を強く受けてます。

ウルやヨアヒムやキースと違って、彼らはSPの量が其処まで高くないので常時暴走寸前だったりするとかしないとか。
だからこそ、良くも悪くも互いに影響を与えやすい。そんな環境なので、一晩と言う短さでも関係性は深くなるのでしょう。

原作でも最初の仲の悪さや終盤一気に関係が深まったのは、ネメトン修道院と言う場所の影響が大きかったんじゃないかと推測している天狗道です。

今後のストーリー展開は次の内どれが良いですか?

  • ヒロインは一人。純愛ルート。
  • ヒロイン複数。ハーレムルート。
  • ヒロインは甘え。求道者ルート。
  • ウルと二人で漢祭りルート。
  • 宿命の兄妹対決! ニコルとアナスタシア!
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