まだ日付が変わっていないので、多分初投稿だと言い張れると思いたいです。
巨大な妖化の怪異を前にして、硬直は秒にも満たない僅か一瞬。剣の柄を強く握り締め、身体の震えを抑え付けるとニコルは即座に前へと走り出す。
「姉さんは一旦下がって、アロマで援護を! ベロニカ、私が前に出ます! 合わせてください!」
「わ、分かった~」
「は、私に指示してんじゃないのよ!」
同時に少女達へと指示を飛ばす。片や従順で片や反抗的な反応だが、どちらも言われた通りに動く。
震える足で立ち上がって距離を取り、アロマの調合を始めるルチア。精神を統一し、呪文の詠唱を始めるベロニカ。
二人を後目で確認しながら、大地を蹴って跳び上がる。余裕の心算か動かぬ妖花に向かって、ニコルは剣を両手に握って叩き付けた。
「はぁぁぁぁっ!」
振り下ろした刃から、伝わる震動はまるで巨岩に鉄を打ち付けたかの如く。片手に握っていたのなら、刃を取り落としていたであろう程の物。
蔓を斬ろうとしたとは思えぬ音を立て、しかし妖花は全く無傷。攻撃を仕掛けたニコルの方が、逆に反動で吹き飛ばされていると言う無様さだ。
「お仕置き!」
ヘイルピーク。ニコルが離れた直後を狙って、ベロニカの魔法が猛威を振るう。一瞬で周囲の気温が下がると同時に、大地から次々と突き出すのは氷の刃。
幾つも幾つも連なる三角錐の氷柱は、まるで小さな山脈連峰。常人ならば血肉を容易く貫かれ、百舌鳥の早贄が如くに死骸を晒す羽目になるだろう。だが、眼前に座すは常人の理解を超えた怪物だ。
〈ふむ。こんなものですか?〉
当たらなかった、訳ではない。命中して尚、無傷。不動は慢心が故の物ではなく、己が倒される事はないと言う確固たる事実の証明でしかない。
嘆きの棺はまだ壊されていないと言うのに、これ程に大差が存在している。唯人では決して届かぬ域にあるものこそ、強大なる地獄の悪魔なのだ。
「どうするのよ、ニコル!? コイツ、私の魔法が全く効いてないわよ!?」
「……予想はしていましたが、そのようですね。やはりこちらの手札では、勝ち目などないようだ」
己の攻撃が全く通じない。そんな予想だにしていなかった状況に、問い掛けたベロニカへとニコルは地面に着地しながら返す。
元より勝ち目がないと、ニコルは知っていたのだ。これ程とは思ってもいなかったが、相手の実力が100だろうと1000だろうと届かない事には変わりないから想定通りだ。
「はぁ!? アンタ、勝算もないのに喧嘩を売ったの!?」
「そうでもしないと、貴女は納得しないでしょうに。けれどこれで、貴女達も状況は理解した筈です。尻尾を撒いて、逃げますよ」
敵前逃亡。ニコルには端から、ガアプと真面に戦う心算はなかった。先ず一当てしたのは、敵に機先を制されるより前に彼我の実力差を仲間達に伝える為。
皆が認識を共有したなら、後は撤退戦に移行するのみ。ニコルが殿となって、先ずはルチアとベロニカを。後を追う形で、ニコルも順次撤退すると言う想定だった。
「……悔しいけど、それしかなさそうだね」
「に、逃げるって、何処に~」
「黒い花が語った先です! 私が殿を受け持ちますから、急いで下さい!」
妖花から目を逸らさずに、ニコルは少女らに語る。幸いと言うべきか、これまでの道のりで募った疲労はルチアの香で拭われている。
黒き花が語った出口まで、休まず駆け抜けるくらいは出来るだろう。もしもこのまま、逃げる彼らをガアプが追おうとしなければの話だが。
〈ふふふ、勇ましい事を言ったかと思えば、所詮は賢しいだけの人の子ですか。その選択は正しくとも、私が逃がすとお思いなのは実に甘い〉
蔓が蠢き、少年少女らへと向かって伸びて来る。その浸食速度は目にも留まらぬと言う程ではないが、子どもの足などよりは遥かに速い。
走り出した彼らは直ぐに追い付かれ、このまま捕らわれ喰われてしまおう。ルチアは頭を抱えて姿勢を低くし、ベロニカは鞭を振り回すがどちらも然したる意味がない。
「やだやだやだ~!」
「ちっ、鞭も通らない! 何て頑丈なんだい、コイツは!?」
唯一打、当たった鞭が先から割れる。ガアプの伸ばした蔓の方が遥かに硬度が上だから、力を逃し切れずに壊れてしまった。
圧倒的と言うにも生温い大差を感じて、ベロニカは顔を青く染めて悪態を吐く。蔓に先回りされて、逃げ場を失くしたルチアは既に涙目だ。
「姉さん! はぁぁぁぁっ!!」
軽業師の様に軽快な動きで襲い掛かる蔓を躱していたニコルは、ルチアの状況を見て焦りながらも白魔法を行使する。
神の光が輝いて、ガアプの蔓が僅かに揺れる。咄嗟に空いた隙間を指差し行けと叫ぶと、頷くベロニカがルチアを連れて駆け抜けた。
蔓の包囲網からの脱出。命を賭けた一瞬の攻防で得た成果も、唯スタートラインに戻っただけと言うべき物。
明らかに手加減している相手から、逃げる事さえ満足に出来ないと言う格差。ルチアを抱き抱えて走るベロニカの背を、嫌な汗が流れていく。
「剣や鞭よりは、まだ白魔法の方が通るようです。その点は、やはり悪魔と言うべきですかね」
再び伸びて来る蔓を白魔法で弾きながら、ベロニカ達の下へと合流するニコル。
何時も通りに澄ました表情でマナリーフを口に含んでいる彼が、ベロニカには憎らしくも心強かった。
「本当に植物かって、さぁ。けど、一つでも通るものがあるなら!」
「削り切る前に、魔力が尽きますね。マナリーフも、残りは6枚しかありませんし」
通じる攻撃があるならば、倒せるのではと意気込むベロニカ。魔力を回復する効果を持つ薬草を飲み干したニコルは、そんな彼女の甘い見積もりを否定する。
攻撃が通じると言った所で、直撃させても相手の動きを逸らす程度の力しかないのだ。例えるならば熱湯に触った人間が思わず熱いと思って手を引いてしまう様な、その程度の被害しか与えられてはいなかった。
「ニコル! 折角やる気になったのに、気分を削ぐんじゃないよ!」
「仕方ないでしょう。目を逸らしても、この問題は解決しません」
走りながら、ベロニカが叫ぶ。追撃に来る蔓は躱せなくなる都度、ニコルがブレスで弾いているがそれも限界があるだろう。
逃げるだけでもこれなのだから、ブレス一つでガアプを倒そうと言うのは論外だ。一体何千何万当てれば、僅かな熱湯で怪物を消し去れよう。
「ちっ、ルチア! ナイトオイルは!?」
「も、持って来てないよ~」
「何だってぇ、使えないわねぇっ!」
「あった所で、焼け石に水です! あちらが本気になればお仕舞いだと言うのに、こっちは最低でも数千回は当てないと話にならないんですから!」
叫んだ直後、ニコルは足元を見て表情を変える。微笑の仮面で隠せぬ程に溢れる感情は、命の危機に対する恐怖。駆ける彼が踏み締めた地面に、緑の光が走っている。
地に重なり輝く二つの円陣と、それを囲むように広がる走る光の軌跡。大きく直進する輝きは途中で直角に曲がり、そのまま円を囲んだ四角形の光線を大地に描き出す。
四の光点から頭上に上がり、一点で収束して四角錐の形へと。至る魔法を、ニコルは原作知識で知っていた。
巻き込まれる。対象は、子どもら全員。逃げられるのは、精々一人か二人が限度。そう認識した直後、ニコルは少女らを突き飛ばしていた。
「――っ! 何をっ!?」
「ニコルっ!?」
突き飛ばされた少女らが何故と問うよりも早く、天より緑の光が降り注ぐ。爆風が、大地を覆い尽くした。
悲鳴を上げて、少女達は吹き飛ばされる。少女らだけではなく、森の木々もまるで嵐に巻き込まれたかの如くに吹き飛んでいく。
禿山同然と化した森の一部。十メートル程の距離を一瞬で消し飛ばしたのは、土属性の最上級魔法ロッククレスト。
突き飛ばされて直撃を免れた少女らの被害は、余波に吹き飛ばされての擦り傷程度で済んでいる。だが、少女らを助ける為に直撃を受けた少年の姿は見るに無残な物だった。
「げ、ふっ」
足は折れ、腕は折れ、胴の一部は骨や臓器が見え隠れする程の重症。肺に骨が刺さったか、口からは喀血が続いている。
ニコルは霞み遠退く視界の中で、まだ繋がっている腕を動かす。このまま目を閉ざせば死ぬだろう。だが何も為せずには死ねないと、その意地だけで食い縛る。
懐から取り出したメディリーフを、動かぬ口の中へと入れる。逆流する吐血と共に吐き出しそうになるが、それでも吐瀉物を飲み干す様に無理矢理押し込む。
体力の回復だけでは戻らない傷口には、キュアを何度も掛けて癒していく。もう少し上位の回復魔法を使えれば復帰も早かったのだろうが、これが今のニコルにとっての限界だ。
だが、そんな努力を嘲笑うかの様に緑の輝きが再び大地に灯る。四角錐の陣を描く領域からまだ立ち上がれないニコルが逃れられる筈もなく、出来るのは唯内心で毒吐く事だけだった。
(こちらは初期魔法のブレスが切り札なのに、相手は最上級魔法のロッククレストを連発とか、ふざけないで欲しいものですね)
そして、滅びの光が再び大地に降り注ぐ。大森林の中に生じたクレーターは、更に深く巨大になって。
少年の小さな身体は、塵屑の様に吹き飛ばされる。五体満足であるのが奇跡と思える程に、深く深く傷付きながら。
『ニコルっ!!』
再び爆風に飛ばされて、大地に落ちた少女らが叫ぶ。余波だけでも大きく吹き飛ばされて、激しい痛みに襲われながら。
それでも立ち上がって振り向いて、身を案じるのは余波ですらこんなにも痛いから。二度もその直撃を受けた少年の身を、唯只管に案じていたのだ。
爆風が過ぎ去る。後には更に深くなった森の傷痕の中で、今にも息絶えてしまいそうな子供の姿。いいや本当に、彼はまだ生きているのだろうか。
生きているとは思えない。もう二度と動けなくてもおかしくはない。それ程の惨状。死体同然の姿を晒したニコラス・コンラドと言う名の少年は――
「足を、止めるなっっ!!」
それでも、叫んでみせる。血反吐を幾度も吐き出しながら、もう満足に動かぬ身体に回復魔法を掛けていた。
諦めない。死にたくない。唯その意志だけで遠退く意識を支え続けて、神への祈りを癒しの力に己の傷を塞ぎ続ける。
「私は、死なない! 私は死ねない! こんな所で、何も為せずに!」
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。まだ死ねないと叫びながら、回復魔法を行使する。魔力が尽きれば、血反吐と共にマナリーフを貪り喰らって叫び続ける。
身体が中途半端に癒える程、痛覚も戻り叫び出したくなる程の苦痛を感じる羽目になる。けれど身体が痛むのは、生きているからなのだと拳を握った。
死にたくない。まだ何も出来てはいないから。軋む左腕を動かして、握り締めたのは形見の首飾り。映る女性が望んだ願いを、まだニコルは果たせていない。だから、止まれない。終われないのだ。
「必ずや、生き延びてみせるっ! だからっ! 貴女達は、先に行きなさいっ!!」
「ニコル! けど!?」
「っ! 行くわよ! ルチア!!」
蹲って肺に溜まった血を全て吐き出した後、骨の折れた足で立ち上がる。そんなニコルの背中を見詰めて、ベロニカが逡巡したのは一瞬だった。
全身打撲で痛む身体にアイツよりはマシだと鞭を入れ、歯を食い縛って背を向ける。戸惑うルチアの腕を無理矢理引くと、脇目もふらずに駆け出した。
〈健気なものです。命と引き換えに、他者を逃がしますか〉
「言った、でしょう。死ぬ気は、ないと」
ゆっくりと近付くガアプ。怪物は今も余裕である。それも当然、まだ全力の一割だって見せてはいないのだろう。
後悔しているかと問われれば、即答出来たであろう心境だ。こんな怪物が居る場所に、軽々しく来るべきではなかった。
けれどそんな後悔は、生き延びた後ですれば良い。今は唯、少しでも長く生き延びる方法を。まだ死にたくはないのだから。
「生き延びて、みせますよ! この程度の、死地など!!」
折れた足で走り出す。既に逃げ出した、ルチアとベロニカを追うように。まだニコルは諦めてなどいない。
だから全速全力で、駆ける少年の歩みはしかし遅い。一歩毎に激痛が走る状態で、全力疾走など出来る訳がないのだから当然だ。
〈成程。ですが、無駄な努力です。貴方は決して、助からない〉
この世界はゲームとは違う。消耗した
鈍って衰えた動きでは、ガアプからは逃げられない。駆け出したニコルが襲い来る蔓に捕まったのも、至極当然の結果であった。
大地を踏んだ足に蔓が巻き付く。そのまま強く引き摺られ、着地に失敗したニコルは顔から地面に落ちる。
咄嗟に右手をつこうと動かすが、骨が折れた腕では支えにならない。そのまま巻き込む形で倒れて、骨折が更に複雑化するだけ。
〈さあ、ゆっくりと嬲り殺してあげましょう〉
痛みに呻く少年の身体を、足を掴んだ蔓で引き釣り上げる。逆さに吊り下げられた少年を見詰めて、ガアプは妖艶に微笑んだ。
そうして、三つに分かれた身体の一つから伸びる蔓を振り回す。先端にニコルの身体を捕えた蔓の鞭を、宛らモーニングスターでも振るうかの如くに。
周囲の木々へと、幾度も幾度も叩き付ける。その度に上がる苦悶の声と、飛び散る血飛沫に恍惚としながら。ガアプは新たに得た玩具で、気が済むまで遊び続けるのであった。
○展開アンケートについて
アンケート結果で変わるのは、主に終盤以降の展開となります。
1~3まで選択肢は基本両立不可な項目です。作中で憑依ニコルに好意を向けてくるヒロイン候補達に、憑依ニコルがどのように向き合うのかが投票数次第で変わります。
1なら内の一人だけを受け入れて、他のキャラを遠ざける形。2なら情に流される形で全員と、3なら恋愛には無関心で全員と壁を作ったまま我が道を貫き通す形となります。
これらの3パターンは両立不可なので、一番人気を選びます。純愛ルートの場合のみ、ヒロイン候補が出揃ったら再アンケートです。
4と5は他の要素と両立可能。ただしこれらが一番人気の場合、ヒロインよりウルやアナスタシアが目立ちます。
例えば4の漢祭り+1の純愛で4が上の場合、ヒロインは愛しているけどそれよりウルとの決着をつける方が大事。
ウルウル叫んでヒロインそっちのけで殴り合いを始めるような、コンプレックス拗らせ野郎になります。
5が一番人気の場合、シャドハ2シナリオの主人公はアナスタシアになって、ニコルの打倒が目的となるでしょう。(もしかしてラスボスルート?)
基本的にはどのルートにも入れるように、フラグ立てを行っていく予定です。
なので憑依ニコルが、女性陣から言い寄られるのと、ウルへのコンプレックスを拗らせるのと、アナスタシアと対決する事は確定です。
今後のストーリー展開は次の内どれが良いですか?
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ヒロインは一人。純愛ルート。
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ヒロイン複数。ハーレムルート。
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ヒロインは甘え。求道者ルート。
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ウルと二人で漢祭りルート。
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宿命の兄妹対決! ニコルとアナスタシア!