その甚八郎に勝った全盛期徳壊は、もっと強くしても良い。
推奨BGMはthe karmaやlady tearsのようなラストバトルのBGMで。
上海は傀骸の塔。4つの層に分かれるこの塔の、敷居を3度越えた先。最上階へと続くその場所は、冷たい夜風が吹き込む儀式場。
扉を抜けて直ぐあるは、左右に分かれる半螺旋の階段。其処を越えた先に座す老仙人の姿は、壁が背となりまだ見えない。だと言うのに、はっきりと感じる圧がある。
「来おったか、日向の子倅ども」
それは魔力の総量か、はたまた身の内に宿す気迫の違いか。ともあれ確かに分かるのは、別格だと断言出来る程の存在感。
即座に身を翻して見上げる4人。まだ見えない。まだ瞳に映らない。だからと階段を駆け上り、その姿を最初に捉えたのはウルだった。
「あんたが、徳壊」
陰陽の印が刻まれた間の中央に、置かれた巨大な椅子の上。右手で頬杖を付いて鷹揚に、少年達を見下ろす邪仙。
その容貌は、厳つい顔をした白髪の老人だ。老いて衰えたその身には、左の腕が欠けている。左の足も、粗雑な棒状の義足が付いているだけである。
一見すれば、弱った怪我人。だがこの老人が弱者であると勘違いをする者など、世界の何処にも居ないだろう。
瞳が違う。不満足な五体を抱えて、瞳に宿る感情の色だけ違うのだ。爛々と輝くその眼光には、弱さも衰えも一切ない。
確かに彼が頂点と、知っていれば不思議と納得出来てしまう。そんな風格を、この老人は有していたのだ。
「先ずは褒めよう。よくぞ――」
「
如何にもな大物が、前口上を口にする。それは明確な隙でもあり、そんな好機を逃すような繊細な精神をニコルは有してなどいない。
万感の思いにウルやマオが動けぬ内に、既に準備を終えていた魔法。それをニコルは此処に放つ。黄海全域を閉ざす程の大寒波は、何もかもを凍らせていき――
「無粋」
老人は、言葉一つで応報する。巨大な氷も膨大な冷気も一瞥だけで封殺されて、後に残るは涼やかな冷気を孕んだ微風だけ。
最大級の魔法を、一顧だにせず無効化された。その事実に誰かが戸惑うより先に、徳壊は小さく一言呟く。誰の耳にも届かぬ小さな呟きは、しかし多大な効果を発揮した。
「ぐぁっ!?」
「っっつ!?」
「ぎニャっ!?」
「こ、こいつは……っ」
ニコル、ウル、ヒルダ、マオ。その順番で崩れ落ちる。標的とされたニコルは呼吸さえも満足に出来なくなって、蹲って脂汗を流すだけ。
その余波を受けただけのウルやヒルダでさえ、立ち上がる事さえ出来ずに片膝を付く。マオに言葉を発する程度の余裕があったのは、その出自故に慣れていたから。
これは呪いだ。禁じると言う呪詛。蹲るニコルの体を侵すのは、先に霊錬で受けた呪を更に強力で凶悪な形にしたもの。
行為を禁ずる。攻撃や移動だけでなく、敵意を持つことや呼吸さえも一言の呪言で禁じられた。狙われたのはニコルだけだと言うのに、その余波だけで全員が巻き込まれている。
「俄羅斯の狗め。そんなにも儂が恐ろしいか」
今も座して動かずに、悠然と見下している大邪仙。彼がその気になっていたなら、此処で全滅していただろう。唯一言口にしただけで、ニコル達はこの有様なのだから。
「グ、フフ。まあ道理よ。お前たちと儂の間には、天地にも等しい程の差があるのじゃからのう」
動けぬ者らに止めを刺す事もせず、嗤って語る徳壊上人。その行いを慢心だと、指摘出来る者は居ないだろう。確かな実力があるのなら、傲慢とは絶対の自信と言えるのだ。
(見、誤った……まさか、これ程、とは……)
思考を如何にか整えながら、呪詛を少しずつ解除していく。西園九宮寺にて東洋の術式を学んでいなければ、思考さえも縛られていたであろう程の呪いを。
そうして呼吸を取り戻したニコルが、先ず思うのはその事実。慢心していたのは己だ。誰もが強いと言ってはいたが、それでもこれ程ではないだろうと何処か過小評価していたのだ。
その原因は、やはり原作知識であろう。シャドウハーツにおける徳壊とは、言ってしまえば三下の小物であったから。過去に為した偉業に対して、本人の実力が釣り合って無さ過ぎた。
だから強いとは分かっていても、心の何処かで大した事はないと思ってしまっていた。エレインやラスプーチンやアルバートよりは頭一つ二つは上であろうが、天凱凰や外なる超神のような超越の域にはないと。
(信じ、られない……人は、人間は……此処まで、至れるのか?)
己の抵抗を全て貫いて、一方的に押し付けられた呪い。それを解除する為にその魔力に触れるだけで感じてしまう。
余りにも開き過ぎた断絶を知ることは、山の麓で頂上を見上げるような感覚に似ている。それでも確かに、高いと言う事は分かるだろう。
アルバートより強い? ラスプーチンより強い? そんな程度の話ではない。見上げただけで感じる高さだけでも、そんな程度では済まないのだと分かってしまう。
少なくとも、ニコルが今まで見聞きした魔術師達と怪物達。その全てを足し算しても、この邪仙の足元にすら届かない。或いは外なる超神すらも、今の徳壊ならば倒してしまえるのでは。そんな予感が拭えぬ程に、大邪仙は遥かな高みに居たのだ。
「弱き者の無礼を、許してやるのは強者の務めよ。それに今宵は、とても良い日となるのだからな」
徳壊の傷は癒えていない。人である事に拘りを以っていた彼は、今も肉体的には唯人だ。怪物の魂をその身に宿していたのなら、その手足の欠落はなかっただろう。
そうとも、徳壊はまだ人間だ。アルバートやラスプーチンのように悪魔と契約するのではなく、加藤のように神が遺した力に頼る事もなく、唯人の身で至高の域へと至ってみせた。
或いは唯人であるからこそ、この男は強いのかもしれない。その拘りを捨てて閻羅王と融合したが故に、14年後ではあれ程に腐って落ちぶれていたのかもしれない。
事実がどうあれ、此処にある現実は変わらない。たった一言で少年達を打倒した大邪仙は、唯々只管に強いのだ。この今に揃った4人では、真面にやっては勝利の目など存在しない。
「漸く、奴の血が絶える。今も痛むこの傷が、漸く過去の轍と化すわ」
徳壊は笑って、ウルを見下ろす。勝利を確信し、如何なる終わりを与えてやるかと。それを気が早いと言う事も出来やしないだろう。
事実として、既に勝負は付いている。いいや、最初から勝負にならない程の大差がある。だからこそ徳壊は、慢心したまま遊んでいる。
これが一つ目の奇跡だ。あと少しだけでも少年達の内の誰かが強ければ、あとほんの僅かにでも徳壊が危機感を感じていたら、彼は遊びなどせず全力で潰しに来たであろう。
だがあと少しだけでも弱ければ、きっと間に合わなかった筈である。あとほんの僅かにでも足りていなければ、遊ばれたままに全滅していた。ならばそう、ほんの僅かに間に合ったのだ。
「徳っ!」
「ほぅ、懐かしい顔だのぅ」
ニコルの解呪が進み、周囲に撒かれた呪詛が弱った。結果として一番被害の軽かったマオが、徳壊が裁きを下そうと動く一瞬前に動き出せた。
未だ蜘蛛の糸を上るようなか細さで、しかし先へと繋がれたバトン。陰陽の間を駆けるマオは、近接戦のエキスパート。近付けさえすれば、戦いと言う形になる。
「粛」
しかし古い馴染みだからこそ、徳壊もまたそれを知る。拳の届く間合いに入れば面倒だと分かっていれば、先ず近付くと言う行為を許さない。
発した音が大気を揺らして、衝撃波となってマオの体を吹き飛ばす。見えない空気の一撃は、弾丸のような点ではなく津波のような面の攻撃。躱せる道理などは何処にもなかった。
「くっ、アンタはぁ」
「怒り心頭、と言った顔だな。諦め逃げた貴様が今更、一体何をしに来たと言う」
「ああ、そうさ。逃げたんだよ、あたしはっ! んで、ブチ切れてもいるんだよ、このあたしがっ!」
骨が折れる程の衝撃を受けて、それでも立ち上がったマオは血反吐と共に啖呵を切る。怒気と共に駆け出す理由は、そうせざるには居られないから。
「気に入らないよ。アンタに勝てないって理由で、アンタも正しいって理由で、アンタから逃げたこのあたしも! 為すべきことを見失って、零落れ切ってる今のアンタもさぁっ!」
祖国を守りたいという大志を認めた。蚕食されると分かっていて、座してはおれぬと言う義憤を受け入れた。徳壊の行いをマオが見過ごした理由は、きっとそれだけではなかった。
同門に居た頃から、戦闘における規格外差を知ってはいたのだ。競い合えば負ける。説得しても通じはしない。そんな理由も確かにあって、ならばマオの行いは逃避とさえも言えるだろう。
それでも、女は思っていたのだ。その大志は正しいと、その義憤は尊ぶべきものだと。なのに徳壊は、この上海の地で何をした? 守るべき己の領土で、この邪仙は一体何をしていると言う。
「歯ぁ、食い縛りなぁ、徳っっ! 姉弟子としての義務、今更ながらに果たしてやるよっ!」
「ふん、愚かよなぁ。何を指して零落れたと言うかは知らんが、実に愚かな畜生よ」
怒りを吠えて、その全身には気力が満ちている。多少どころか致命に迫る傷を受けたとしても、今のマオは立ち止まりはしないだろう。
だがそれで、実力の差が覆る訳もない。マオが間合いに入る為に数歩以上は必要なのに、徳壊は一つ音を発すれば彼女を吹き飛ばしてしまえるのだから。
「所詮は獣。儂の足元にさえ届かんと知りながら、無意味な行為を繰り返す。姉弟子を気取る女の無様は、見ていて実に詰まらんものだ」
幾度も幾度も、大地を転がされるマオ。数歩の距離が、余りに遠い。吹き飛ばされる度に傷を増やしていく女は、いずれは行動不能となるだろう。
されど、時間稼ぎには十二分。幾度も吹き飛ばされても齧り付いたその一念が、続く少年の復帰を間に合わせる。大地を蹴って飛び出すのは、烈風奇へと変じたウルだ。
〈徳壊ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!〉
「ほぅ、それが貴様の降魔化身か……間近で見ると、少し違った印象を受けるものだのう」
時を操るその飛翔は、音の津波を乗り越える。音速よりも早いからこそ、その僅かな隙間を縫って徳壊の下へと。
その鋭い鍵爪を振り下ろさんとするウルを眼前にしながら、尚も余裕を崩さぬ徳壊は椅子に立て掛けていた杖をその手に取った。
「ふん」
〈ぐぉっ!?〉
そして、小さく一閃。圧倒的な速さで動く烈風奇の顎を的確に打ち抜いて、その行動を停止させる。痛みに呻いて動きを止めたその身へと、鋭い杖より放たれる神速の突きは3度。
ほぼ同時に放たれた打撃は、術で強化されているだけでは説明が付かぬ程の威力を持つ。そうとも、徳壊は接近戦でも弱くはない。舞鬼に達人級の武芸を仕込んだのは、他でもない彼だから。
「思っていたより、弱く脆い。どうやら儂は、奴の血筋を買い被っていたらしい」
一撃二撃で、翼と化した両の腕の関節部が砕かれる。飛ぶことすら出来なくなったその身は、三度目の突きで大きく後方へと吹き飛ばされた。
マオと同じく壁にぶつかり、血反吐を吐いて変身を解くウル。流れるような動作で椅子に座り直した徳壊は、杖を立て掛けながらに鼻を鳴らす。
「貴様も、見えているぞ」
「うげっ!?」
ウルに続いて復帰していたヒルダは、徳壊の隙を探す為に隠れ潜もうとしていた。だが何かを為す前に気付かれて、強制的にその身を転移させられる。
「あ、あはは。ヒルダちゃんはー、弱っちいから何も出来ないニャよー」
「ふん、そんなことは分かっておる。だが、舞鬼はお前を放っておいたが故に足を掬われたが故な。取り合えず、動けないようにはしておこう」
「ぎ、ぎニャァァァァァァァァァァっ!?」
徳壊の目の前へと放り出されたヒルダは命乞いにも似た韜晦を始めるが、不愉快そうに鼻を鳴らす徳壊には通じない。
彼が指を鳴らすと同時に、少女はニコルが浴びたのと同じ呪詛に侵される。呼吸も思考も出来なくなったヒルダの体を、暗い炎が包んで燃やした。
如何に生命力の高い吸血鬼と言えど、これでは長く生きられない。数百年に及ぶ生涯が遂に終わると言う直前に、ニコルが漸く復帰する。
「これでも、受けなさいっ!」
「ほぅ、器用な物よ。魔力を物理的な力に変換するとはのう」
懐より取り出した鉄鞭を、真っ直ぐな光剣へと変えて薙ぎ払う。傀骸の塔を輪切りに出来る程の巨大な剣は、膨大な熱量を束ねた物だ。
原則として精神世界からの干渉を主とする術師にとっては、鬼門とも言うべき物理火力。魔術的な防御の類では防げない一撃はしかし。
「だが、貴様に出来ることが、儂に出来ぬと思うたか?」
この邪仙を倒すには届かない。同じく物理的な力に変換した魔力を右手に纏わせて、触れて払うだけでニコルの剣は砕けてしまう。
砕け散るのは、光輝く刀身だけではない。その軸となっている鉄鞭にまで衝撃は及んで、まるで硝子細工のように簡単に壊されてしまったのだ。
だから無手となった少年は、しかし立ち止まりはしない。防がれるなどと言う事は、端から分かっていたのだから――砕かれた光の制御を手放して、閃光弾の代わりとした。
〈おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!〉
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「シャァァァァイニングゥゥゥゥゥッ!」
そしてその光に紛れて、三方向から同時に迫る。怯まぬ為に、猛虎と化したウルが。死力を賭して、罪を拭わんとするマオが。光をその手に宿して、勝利を求めるニコルが。
「転」
迫る中で徳壊は、たった一言で状況を覆す。消えた。転移したのだ。一瞬で陰陽図の北端へと、中心を目指していた彼らは咄嗟に反応出来ずに椅子を巻き込み転がり倒れた。
「グ、フフ。褒めてやろう。見事、儂を歩かせた」
慢心しきったままに老人は、そのどうしようもない事実を告げる。ああ、そうだとも、これはどうしようもない現実だ。
徳壊は呼吸をするような容易さで、空間を自由に捻じ曲げる。ならばどれ程必死になろうと、彼の間合いの内側へは辿り着けない。
〈くそ、が。反則だろ、それは〉
「は、分かっちゃいたが、相変わらず、とんでもない奴さね」
ウルもマオもニコルも誰もが、既に満身創痍の様相。対する徳壊は未だ無傷。傷一つ所か呼吸すらも揺らいでいない。
これが彼我の戦力差。そもそも戦いと言う形にすらなっていない、絶望的と表現するにも生温い程の違いがある。だからこそ、誰もが動きを止めてしまう。
変身したままのウルも、構えを取り直したマオも、無数の手札を持つ筈のニコルですらも、一歩も踏み出せないでいる。
何をしても届く前に防がれる。必死に挑んでも無駄に終わる。そんなイメージしか湧かない。故に動き出したのは、この場における絶対強者。
「褒美じゃ。少し、やる気を出してやろう」
指を一つ、九字の最後の文字を切る。展開されるは陰陽術を取り込んだ仙術、鬼火乱舞。九つの印を切り、十数体の鬼火を呼び出す召喚術だ。
それを徳壊は、印の一つで成立させた。八つの印を省略して、齎される結果は八分の一と言う訳ではない。呼び出された鬼火の数は、元の百倍近い1万体。
「くっ、ワームスマッシャーっっ!!」
天上から降り注ぐ流星群の如く、空を埋め尽くす鬼火の群れ。それに押し負けない為だけに、ニコルは懐より大量の硬貨を取り出しその切り札を発動する。
空間を歪めて発動する6万以上の光魔法。1万の鬼火とぶつかり合った結果は相殺。1体の鬼火を消す為に、6の光を必要とした。それが彼我の差異である。されど、相殺出来るならば道は繋がる。
「ウル!」
〈ああ、見えてるよっっ!!〉
此処に徳壊までの道は拓けた。その隙間を縫って疾走したウルは、異形と化した拳を振るう。しかしその一撃は、見えない壁に阻まれた。
「その獣の姿は軟弱だのう。儂の障壁一つ抜けんか」
〈く、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!〉
殴る殴る殴る殴る。必死になって全力で、この好機を逃せば後はないと知るかの如く。余りに固い障壁に、殴る拳を砕かれながら。
それでも壁は揺るがない。仮に貫けたとしても、徳壊は転移で抜け出せる。余りにも、遠い。どうしようもないと言う感情が、彼らの心を満たしていく。
「徳! あたしの命に変えてもアンタは、此処で、止めてみせるよっっ!!」
揺るがぬ徳壊の障壁を、殴る腕が二つ増える。左右を挟んだラッシュは止まらず、されどやはりその障壁は砕けない。
光の壁に守られたまま、徳壊は再度印を切る。今度は二文字、故に結果は倍数である2万体。対するニコルも、10万を超えるブレスを発動して。
「粛」
「が――っ!?」
その光と炎が相殺し合う中で、徳壊は一言呟きニコルの体が吹き飛ばされる。襤褸雑巾のように変わる少年の体を突き上げたのは、空間を跳躍した衝撃波であった。
「グ、フフ。その齢で儂と撃ち合えるのは中々だがのう。その場から満足に動けぬと言うのでは片手落ちよ」
障壁に守られ、動かない徳壊。対してニコルは、制御に手を取られて動けない。出来ないとしないは違う。一見同じに見えたとしても、其処には明白に過ぎる大差がある。
故に徳壊は呵々と笑って、手にした杖で大地を打つ。瞬間姿が掻き消えて、勢いを殺せず互いにぶつかり合ったウルとマオが舌打ちする。左右を見回し確認すれば、その姿は最上階へと続く階段の直ぐ前に。
「では、もう一度じゃ。前!」
三度の鬼火乱舞。相殺出来たニコルが動き出せない現状、防げる者など何処にも居ない。先の倍所ではないその総数は、丁度10万と言う馬鹿げた数字。
降り注ぐ火の雨は宛ら隕石雨の如く、炎が皆を飲み干していく。このまま一方的に終わるのかと、それを許さぬ仕込みが一つ。その少女の手元にあった。
「ヒルダちゃん、復ー活ーっ!」
ニコルが自作して、ヒルダに渡していたその呪具の名は身代わりクン。一度だけ所有者の代わりに、致死のダメージを引き受けてくれるもの。
あのまま追撃されていれば気付かれていたであろうが、ニコルのお陰で死んだ振りが出来ていたのだ。あとは受けた呪詛を、預かっていた道具で解除すれば完全復帰と言う訳だ。
「さぁ皆、光合成の時間だニャぁぁぁぁっ!」
そうして呼び出すは、巨大な向日葵が3輪。何処か気が抜けるその存在は、花弁に囲まれた顔を光らせ怪光線を撃ち放つ。
草花の放つソーラービームは鬼火の津波と打つかって、しかし一秒の拮抗すらも出来ずに一方的に押し負けていく。術者の違いは、それ程に大きい。
「そんな訳で、ほぃっと!」
ニコルですらも拮抗出来ない時点で、こうなるとは分かっていた。だからヒルダが為すべきは、稼いだ僅かな時間で行う
唯の一撃で血反吐に塗れて気を失っている人物に、慈愛の護符を投げ付ける。僅かな時間で復帰させられるのは一人だけ。ならば彼に、残る全てを賭けようと。
「ニコルー! 起きろー!」
恐らく、これが最後のチャンス。意識を取り戻したニコルは、目を開いて直ぐに現状を認識すると即座にヒルダに指示を下した。
「ヒルダ、投げなさいっ!」
「ラジャーっ!!」
燃え滾る炎が迫る中へと、放り投げろと命じるニコル。まだ意識が戻ったばかりで満足に体が動かない少年を、ヒルダは躊躇なく両手で握って前方へと放り投げた。
「サクノォォォスッッ!!」
空中で魔剣を呼び出して、ニコルはその刃を振るう。骨だけとなっても尚も生きている竜の刃は、無数の鬼火すらも喰らい尽くさんと吠えている。
されど数が多過ぎるが故に、全てを喰らい尽くせる訳もない。食べ残しに全身を焙られるニコルは、そう長くは持たないだろう。だがそれでも、突破力だけならば最上級。
「ほぅ、見事な剣よな」
鬼火の津波を切り抜けて、振るう剣は徳壊の障壁さえも食い尽くす。ならばその刃は老人へと届くかと言えば、しかしそれはまた別の話。
握った杖で、ニコルの腕を打つ。サクノスと打ち合えば流石の徳壊も唯では済まぬから、生身の部分を打ち抜く技量を以ってその一撃を受け流す。唯それだけで、十分だった。
「が、ぎ、ぐぅぅぅぅ」
「グフフ、身の丈に余る力を振るう代償だのう。弱いとは、哀れなものじゃて」
受け流されて、空を切った魔剣はしかしその威を示す。徳壊ではなく、使い手であるニコルに対して。
そうとも今も生きる竜は、まるで力を貸す対価だと言わんばかりに、ニコルの身体から血肉と魔力をごっそりと奪ったのだ。
「お、のれぇぇぇぇぇぇぇぇっ、道具、風情がぁぁぁぁぁぁ」
握っていた手の肉を喰われながら、呪詛を漏らすニコルは魔剣を再び封じる。本来乗り越えるべき石像の試しを無視して剣だけ奪い取った少年の事を、魔剣は所有者と認めていなかったのだ。
だからこうして、振るう度に何かを与えなければ担い手に牙を向く。常ならば敵の血肉を与えられるが、格上相手に必ず当てる事など実質不可能。故にニコルは、この魔剣を切り札としてしか使えない。
「万策尽きたか? では、終わりとしようか。怨!」
崩れ落ちたニコル。焼かれながらも、如何にか立ち上がろうとしているウルとマオ。一番傷が浅いながらも、完全に打つ手なしとなって怯えるヒルダ。
そんな彼らに向かって徳壊は、三度禁止の呪詛を放つ。呼吸を封じ、思考を封じ、行動を封じる。これがある限り、徳壊がその気になった瞬間に彼らは敗北する。そうとも未だに誰も、戦いの場にすら立てていない。
「な――っ」
「ほぅ」
否。
「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
徳壊は見せ過ぎた。都合三度、これだけあればこの天才児は学び切る。実力の差を無数の手札と小細工で埋め切って、即座に皆の呪詛を解除してみせる。
この瞬間に、ニコルは確かに成長していた。最初期に見せれば、徳壊を即座に本気にさせたであろうその姿。それをこの瞬間まで、引き伸ばしてみせたのが二度目の奇跡か。
だが、しかし――
「儂は終わらせると言った筈だぞ」
呪詛を祓い、吠えてみせたニコルの体を無数の腕が掴んでいる。地の底より生えるその腕の名は、亡者地走腕。その手に囚われたのは、ニコル一人ではない。
ウルも、マオも、ヒルダも、皆が既に捕まっている。呪詛を紡ぐその傍らで、徳壊上人が地獄の亡者を召喚していたのだ。だからこの結果は既に、あの時には決まっていた。
「グフフ、儂は術師。敢えて分類するのなら、召喚術の術師じゃぞ。無数に数を揃える事こそ、我が仙術の本領よ」
そうとも、徳壊が得意とするのは怪異を呼び出す召喚術。本人の強さも極まっているが故に誤解されるが、無数の悪霊異形を使役するのがその本分。
召喚術の強みとは、その手数の多さにある。呼び出した怪物と、使役者が同時に別のことを行える。故にこそ徳壊上人とは、単騎でありながらも無限の軍勢にも等しい存在なのだ。
「では、散るが良い。この傀骸の塔を、貴様らの墓標としてやろう」
その本領の一片を明かした。それが少年少女らの限界で、故に此処に結末は迫る。命を奪い取る屍人の呪詛をその身に受けて、此処に倒れた誰もが終わりを迎えんとしていた。
~原作キャラ紹介 Part16~
○徳壊(登場作品:シャドウハーツ)
シャドウハーツ序盤の大ボス。前半にあたる上海編の強敵であり、主人公のウルにとっては父の仇でもある人物。
厳つい顔をした老人で、左半身を嘗て甚八郎に奪われている。その為、左足は木製の義足であり左手は巨大な鍵爪となっている。(当作内ではまだ義足のみ。義手は制作中)
ゲーム内では変態チックな拷問をヒロイン相手に行ったり、押し入れにエロ本を隠していたり、妙に小物チックな所が散見したりする残念な敵。
作中の隠し要素として登場する親父が明らかに強そう感を醸し出す分、「え、コイツに負けたの」と思うプレイヤーはきっと多かったと思う。
悪魔や神と契約した存在は四肢欠損を即座に再生していたりするので、ちゃんと手足無くしてる徳壊が甚八郎戦まで人間だったのは先ず確実。
多分その後に瀕死の体を治療する為に閻羅王と契約して、その魂より受けた影響でどんどん衰えていったのだと思われる。
当作内では漫画版クーデルカ設定を採用した結果、ゲーム描写的に甚八郎がヤバい奴になったので釣られて全盛期徳壊もヤバい奴になった。
純粋な実力で言えば、銅鐸パワーで素戔鳴になった加藤以上で外なる超神以下と言った所。
でも知性がある分、超神と戦っても大分有利。小細工は徳壊も苦手なので相応に苦戦するだろうけど、最終的には徳壊が勝つ。その位の強さ。紛れもなく世界最強の存在である。
今後のストーリー展開は次の内どれが良いですか?
-
ヒロインは一人。純愛ルート。
-
ヒロイン複数。ハーレムルート。
-
ヒロインは甘え。求道者ルート。
-
ウルと二人で漢祭りルート。
-
宿命の兄妹対決! ニコルとアナスタシア!