推奨BGM:Tanjou
気が付けば、あの場所に居た。夕陽の差し込む丘の上、大きな木の根元に広がるのは作り掛けの小さな畑。
そんな場所で膝を抱えて、ウルは何もせずに居た。生きていて良い、理由はあった。けれどその理由は、果たせなかった。
「はは、アイツ、強過ぎだって」
乾いた声で、小さく笑う。父を殺し、母を殺し、沢山の人を不幸にした。彼の邪仙と戦う運命が、その宿命が己にあるのだと思った。
ああ、確かにそうなのだろう。何時かウルは、徳壊を倒す。だがそれは、今ではなかった。余りにも時期が早過ぎたのだ。だからこうして、負けてしまった。
「親父が負けたのも当然だわ。あんなの無理。むーりっ! ふざけんな、馬鹿野郎……」
ゴロンと仰向けに寝転がり、変わらぬ色の空を見上げる。夕陽に染まったその空は、果たして何処に繋がるのだろうか。
心の内で、ウルは思う。何も良いことはなかったと、もうそんなことは言わない。けど、何も出来なかったなと。そんな風には、思ってしまった。
「ごめん、母さん」
何の為に生きていたのだろう。漸くにその答えを見付けたというのに、何も出来ずに負けてしまった。
あの日、一緒に死んでいれば良かったと。そんな弱音と逃げ出したいという思いを抱えて、此処で命は終わるのだろう。
「ごめん、父さん」
心の墓場から外に出れば、そんな終わりが訪れる。漸く終われるという感慨に、まだ終わりたくはないという無念が混じって、心の中はぐちゃぐちゃだ。
生きていて良い目的を、生きていたいと願う理由を、これから先に求める未来を――その全てを失うのだ。そう理解して、瞳が揺れる。何だかどうしようもない程に、泣き叫びたくなった。
「俺、勝てなかったよ」
口にしたのは、そんな弱音。そんな弱音だけが風の中へと消えていき、ウルムナフと言う魂もまた同じく溶けて消えていく。そんな、間際に――
「もう、諦めたのか?」
懐かしい、声が聞こえた。
そう、これが最後の奇跡。この日この時、日付が変わるその一瞬にだけ訪れる奇跡。
満月の下にウルの霊力は最大限に高められ、死の窮地によりその精神は極限にまで磨き抜かれ、故に彼の声を聴けるようになる。
もう僅かな残骸しか残っていない。それでも確かに、此処に居た人の声を。
「もう、立てないか?」
それは、優しい声だった。慈愛と父性愛に満ちた、懐かしく優しい音。
そうとも、彼は此処に居たのだ。徳壊と言う邪仙に敗れてから、しかしその無念の魂は冥府に行かずに現世にしがみ付いていた。傀骸塔の儀礼場を利用して、一念によって残り続けた。
だからこそ正史においては、天凱凰と共に居た。この場に残ったその魂を、ウルは星神と共に身の内に取り込んでいた。ならばそう、同じことが今に起こる。
死を前に極限まで高められた霊力が、無念の魂を心の内へと取り込んだ。故にこうしてウルの耳元に、その優しい音は届けられたのだ。
「もう、頑張れないのか? ウル」
顔を上げる。其処に居たのは、懐かしい影。悪夢として見ていた狐の面と似通っていて、しかし見間違えることはないと断言出来る人。
涙が、溢れた。目尻から止まることはなく。その雫を拭うことすらせずに、茫然とウルはその人を見詰める。何かを言葉にしようとして、何を言えば良いのか分からなかった。
「俺……俺は……」
「ウル」
立ち上がって、縋り付くように。その人は小さく微笑むと、抱き締めて不器用に頭を撫でてくれた。その熱に、その懐かしさに、涙は止まらなかった。
「すまないな、ウル。お前に多くを、押し付けた」
「俺は、違う、母さん、守れなくて、けど、俺、生きて、いたくて……」
「ああ、分かっている。大丈夫だ。ウル。理由なんて、必要ない。お前が生きていてくれるだけで、それだけで十分なのだから」
「う、あああああああああああああああああああああああっっ!!」
この感情を、何と言えば良いのだろうか。答えを出すことも出来ずにいるウルに、答えなど出さなくても良いとその人は許してくれた。
だから、だろうか。止まらない涙に、溢れ出す感情に、身を委ねて子供らしく。その抱き締める腕の中でウルは、唯々涙を流し続けるのであった。
そうして、どれ程にそうしていたのだろうか。抱き締める腕の熱に安堵しながら、縋るように言葉を零す。漏れた音は、結局唯の弱音である。
「……俺、勝てなかった」
「ああ、そうだな。奴は強い」
「負けちゃったよ。勝ちたかった」
「仕方ないだろう。思いだけでは、届かないこともある」
戦うと決めた。勝ちたいと思った。必ず倒すと心に誓った。けれど、足元にすら届かなかった。それ程に、討ち果たすべき宿敵は強かった。
挑んで負けたのだ。勝ちたかったのに勝てなかったのだ。全てを許された今になっても、唯々その事実が悔しくあって――ああ、ならばきっと、火種は心に残っている。
「だが、思いがまだ残っているのならば」
「……父さん?」
それに、その事実に、男は気付いたのであろう。この対話の中で、いいやもっと前からか。だから問い掛けていたのだ。本当にそれで良いのかと。だから問い掛けるのだ。本当にそれで良いのかと。
「まだ、勝ちたいか?」
腕の中の命に感じる、愛おしさとやるせなさ。どうしようもない宿命を押し付けて、死んでしまった男にはもう出来ないこと。
選べるのは、少年だけだ。諦めていないのも、少年自身だ。男に出来るのは唯一つ、手を貸してあげることだけだから。決めて良いのは、少年なのだ。
「まだ、戦えるか?」
敵は強い。男は敗れた。そして少年も、同じく敗れた。惨敗したのか相打ち寸前まで持ち込んだのか、過程は変われど結果は変わらない。
親子揃って、負けているのだ。このまま倒れ伏したのならば、それで結果は確定する。けれどもう一度、あと一度だけでも立ち上がることが出来たのならば。
「また、立ち上がれるか?」
今度は負けないと、そう断ずることは出来ない。出来るのは唯、誓うことだけ。悔しくはある。やるせなくもある。だが、愛おしくもあるのだから。
「俺、俺は。……けど、俺一人じゃ」
「大丈夫。お前はもう、一人じゃない」
泣き言を漏らすウルの頭を、男は優しく撫でて言う。一人ではない、と。そう。ウルムナフは、もう一人ではないのだ。
「仲間がいる。お前には、信頼出来る仲間が居るだろう。それに――」
皮肉屋で腹黒い神父の少年が居て、気紛れで身勝手な吸血鬼の少女が居て、不器用で姉御肌な武侠の猫も居て――そして、それだけではない。
「これからは、俺も一緒だ」
これから先は、この男の魂も共に行く。だからウルムナフは、もう一人ではなかったのだ。
「共に行こう。ウル」
「父さん……」
その大きな指先で、父は子の涙を拭う。もう雫は止まっていた。一人じゃないのなら、恐れることは何もない。そう。もう何も、恐れる必要なんてないのだ。
「もう、立てるな」
「ああ」
立てるさ。ああ、立てるとも。立ってみせねば嘘だろう。高揚する心と共に、ウルは立ち上がる。
「もう、戦えるな」
「ああ!」
そして、前を見詰める。沈む夕陽の向こう側、現実の世界へ向かって。もう戦えるのだから、立ち尽くしている時間はない。
「なら、勝ちに行くぞ」
「ああっ!!」
共に歩く、仲間が居る。背中を押してくれる、大好きな父が居る。だから、もう負ける気なんてしなかった。
「行こう!!」
そして、彼は走り出す。背負った己の宿命に、決着を付ける為。
真円を描く月の下、大いなる翼が羽搏き産声を上げる。その姿を理解した瞬間、あり得ないと邪仙は驚愕し動揺し絶叫した。
「な、馬鹿なっ!?」
〈分かるよ。親父の魂が、共にある。そう感じる。だから――〉
その姿は、冥刹皇に似ている。だが細部が大きく違っていて、その身の内に感じる力も大きく異なる。まるで冥刹皇が、黒き鎧を纏ったかのように。そうとも、それは新たな力。
其は憎悪と怨みの黒魂が闇鬼と化した大凶神。地獄の深淵より訪れて、永劫の死を与えるモノ。闇の極致。究極の融合術が一つ、ツェルノボーグ。
「また、貴様がっ! 貴様が儂の前に立ちはだかるかっ!?」
〈もう負けない。ああ、必ず勝つ。絶対に〉
「日向甚八郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
嘗て日向甚八郎がその身に宿していた、圧倒的な力。ウルはそれを、此処に継承してみせたのだ。無論、その全てではない。だが、今のウルに比すれば膨大に過ぎる力の量を。
そして今、ウルの霊力は至大至高にまで高められている。故に――この日、この夜、この時においてのみ、ウルは彼の日の甚八郎の再現だ。
故にそう、此処に至る事こそが徳壊に対する唯一無二の勝機であったのだ。
〈終わりだ、徳壊! てめぇの奪ったもん全部、てめぇが傷付けたもん全部、その報いを受けて貰うぜ!〉
大地を蹴って、ツェルノボーグが飛翔する。その速力は、冥刹皇の比ではない。一瞬の内に間合いの内に入られて、拳を振るえば硝子のように障壁が砕かれる。
「墳っ!」
されど徳壊もさるもの。即座に冷静さを取り戻すと、拳が直撃する前に空間を渡る。風圧だけで頬に切り傷を負って、忌々しいと表情を引き締めながらに術を紡ぐ。
「臨兵闘者皆陣列在――前!」
激墳八岐大蛇。何処からともなく生じた大津波が大地を多い、共に現れた八つ首の竜が吹雪を纏いながらに襲い来る。
一つの首を躱した所で次から次へと襲う手数に限はなく、纏う吹雪は近付くだけでウルの動きを凍て付かせて鈍らせる。
思わず舌打ちしながら足を止めて、迫る首を殴り飛ばしていくウル。そんな彼は、徳壊の有する最大の強みを見落としていた。
「臨兵闘者皆陣列在――前!」
彼の展開する術の多くは、召喚術に類するもの。故に一度発動すれば、徳壊の手を離れても機能する。ならばこそ、こうして畳み掛けることこそ最良手段。
二重に重ねられた凍れる八岐大蛇は、一つでウルの自由を奪い二つでウルの体に傷を刻む。ならば三つで、四つで、五つで果たしてどうなるか。今の邪仙はこの規模の術を、十でも二十でも容易く重ねてくるのである。
「「「臨兵闘者皆陣列在――前!」」」
多重詠唱。重なる声で無数に術を同時発動させながら、更に自由に動けるというのが術師の強み。戦闘型の術師としては、完成形にあるのがこの徳壊だ。
彼が本気を出せば、順当に敗北するしかない。甚八郎もまたそうだった。この状況から命を賭して、如何にか半身を奪い取る。それが彼の限界だったのだ。
〈ぐぅぅぅぅぅぅっ〉
同じ力を得てはいても、経験が圧倒的に劣っている。そんなウルでは、残る半分を奪うことも出来ずに敗れるだろう。それが辿るべき結末で、そんなことはもう分かっていて、だから――
〈おいこらぁっ! いつまで寝てんだってのぉっ!!〉
彼は仲間を頼るのだ。一人では勝てないと知るからこそ、アイツは強いと信じているからこそ、発破を掛けて未来を託す。宿敵に勝つ為に。ああ、そうだとも、何としてでも、ウルは徳壊に勝ちたい。勝たねばならないのだ。
〈さっさと起きて手伝えってんだよ、ニコルッッ!!〉
ニコルは既に死に体、瀕死の様だ。肉体的には人間の域を出ない少年にとって、この領域の戦いは厳し過ぎるものがある。
「……はぁ、やれやれ。人使いの荒い奴だ」
それでも、ウルが立てと言っている。奴が立てると信じている。ならば答えてやらねば嘘であろう。ニコラス・コンラドは、ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガにだけは負けられないのだから。
「ふん。今更、小僧が一人増えた所でなぁっ!」
空間を飛び回りながら、次から次に術を重ねていく徳壊。その姿を捉えることは出来ず、時間が経てば経つ程に状況は不利となっていく。
そして彼が告げるように、現状で多少戦力が増えた所で焼け石に水だ。既に展開された術の数は十を超えていて、最早徳壊の優位は覆らない状況なのだ。
「……ええ、忌々しいが認めましょう。私の手に残る手札は、これ単独では役なし札となる代物だ。ですが、今のウルが居れば価値を持つ――ウルッ! 思いっきり殴れ!!」
〈あいよっ!〉
何故と、問い掛けることはしない。ニコルが言った、ならば意味があるのだ。そう信じたウルは、何もない虚空を全力で殴り飛ばす。直後――
「ぐぉっ!?」
何故かそこに現れていた徳壊が、ウルの拳を受けていた。この戦闘が始まって、漸くの有効打はクリーンヒット。頬を打たれた邪仙は、驚愕しながら後退する。
「ウル!」
〈おらぁっ!!〉
「ごぉっ!?」
その直後、再び邪仙はウルの目の前に。声を合図に振るわれた拳が、今度は老人の腹を打つ。血反吐を吐いて痛みに歯を食い縛り、困惑する徳壊はニコルを睨み付けた。
何をされているのか、分からないが何か小細工をされている。ならばその動きをもう見逃さないと、鋭い視線が捉えたのは少年の握る小さな鍵。それかと断じた老人は、即座に術を行使する。
「おっと、反応が早い。二発、ですか」
怒りと共に振るわれた火球は、しかしニコルに当たらない。放った直後、ニコルは既にその場所に居なかったからだ。一体何故と問うことはない。既に徳壊は当たりを付けていた。
「それは、第三の鍵。運命の輪への干渉か、いや、もっと単純に、時間の操作か」
「ええ、体感で3秒。私だけが動ける世界を創造する。ザ・ワールド、とでも呼びましょうかね」
第三の鍵。それは運命の輪に干渉して、特定の結果が出るまで時の流れを止めてしまえる秘宝。ニコルはそれを、攻撃以外の行動にも適応出来るように改造したのだ。
それが特殊結界ザ・ワールド。鍵を手にしている間のみ、体感で3秒程度。己だけが行動出来る。そうして時間を止めて、徳壊をウルの拳の前へと移動させていた訳である。
「分かってしまえば、対処は容易い」
「……まあ、でしょうね。彼我に実力差がある以上、これは小細工の域を出ませんよ」
徳壊の身体が炎を纏う。飛燕熱風刃。本来は己の武具に炎を纏わせる術だが、彼は己の肉体を対象としてその術を発動したのだ。
闇雲に使うだけでは焼身自殺にしかならないであろう使い方だが、それを完全に制御してみせているのは流石の技量か。ともあれこれで、ニコルの小細工は意味をなくした。
触れることが出来ないどころか、その熱量に近付くことさえ出来やしない。ニコルに扱える魔法では、徳壊の炎を超えられない。これでは時を止めた所で、何も出来ずに3秒間が過ぎるだけである。
〈はっ、俺を忘れてんじゃねぇぞ!〉
「無論、忘れてなどおらん!」
飛翔し迫るウルに対し、転移し逃れる徳壊。術師らしく距離を取りながら、再び術を設置していく。
先より優位になってはいる。ウルの打撃を二度受けて、徳壊の身体は悲鳴を上げている。まだ人を捨てていないが故に、耐久力は低いのだ。
そして設置された術式は、時を止めたニコルならば解除出来る。そうして一つ一つと削っていけば、決着の時を大きく遠ざける程度は叶う。
だが、それでも焼石に水である。あれ以降、有効打はまだ入っていない。ニコルの解除とて、3秒で1つが限度。徳壊は3秒もあれば、6つは術を発動できる。
だから現状はジリ貧だ。恐らくは訪れるであろう徳壊の体力的な限界に期待して、時間を引き延ばすことしか出来ていない。このまま勝てるかと問えば、旗色は悪いとしか思えなかった。
「ならば、賭けに出ますか。これだけは本当に、使いたくはなかったんですけどね」
故にニコルは賭けに出る。そうと決めた最後の一押しは、忌々しくも先に受けた西法師の助言だ。全てを出し切らねば勝機はないと、ならばこれも全ての内の一つだろう。
既に事前準備は出来ている。ワームスマッシャーを使った時にばら撒いた、転送装置があるのだから。後はその全てを、全く同時に暴発させる。
空間座標を指定せずに乱し続けることで、発生するのは特異点。何処でもない場所が世界の内側に発生して、自己崩壊を引き起こすのだ。
「発生した特異点は、疑似的ですがマイクロブラックホールにも似た性質を有します。剥き出しの特異点は魔力によって加速されることで、時空間そのものを蝕むのです」
そうして発生した極めて不安定な空間に、己の体内に残るほぼ全ての魔力を注ぎ込むことで暴走を加速させる。
本来は一瞬で修復される特異点は消し去れない程の傷となり、世界はそれを塞ぐ為に集束していくという特異な現象を発生させるのだ。
そして起きるは、星を飲み干す程の重力崩壊。何もかもを事象の地平へと消し飛ばす禁断呪法。
「誇りなさい、邪仙・徳壊。これは私にも制御しきれない。使えば自身も含めて、星の全てを滅ぼし尽くす禁断の一手。貴方ならば防ぎ切ると信じて、此処にこうして放つのですからっ!」
「正気か、小僧!?」
「正気にて大業はならず! 元より気狂いの類でしょうよ、私たちのような人種はぁっ! ブラックホールクラスター、発射ぁぁぁぁぁっ!!」
頭上に向けて、発生させたブラックホールを撃ち放つという狂気の沙汰。一歩間違えば、否。徳壊が防げねば星が滅んで人類が絶滅するというこの状況。
それを撃ち放って、遂にニコルは意識を手放す。世界を滅亡させると言う爆弾を無責任に残して、彼はあっさりと脱落した。
表情を引き攣らせながらも、徳壊はその手で九字を切る。しかしそれだけでは足るまいと確信して、更に二重三重に印を重ねる。恐らくはこの大邪仙をして、人生初となる規模の術式行使。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
降魔閻羅陣。九天真王仙術の秘奥たる降魔明王炎を、徳壊自らが調整した物。全てを裁く冥府の王の力を以って、六道の果てへと敵を放逐する秘義。
その黒き炎を以ってして、生まれた暗黒天体を異界へと遠ざける。六道、詰まりは六つの世界。それだけの隔たりを作り上げてしかし、暗黒天体を防ぎ切れない。
「ぐっ、ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
故に重ねる。六つの外側に六つ、更に外側に六つ。三重に重ねて、漸く被害を抑え切れそうだと感じる程の威。さしもの徳壊も、安堵と共に冷や汗が流れて。
〈おらっ!〉
「ぬぐぉっ!?」
その隙に殴り掛かってくるウルの姿に、傷付きながら更に頬を引き攣らせる。既に余裕の笑みは失われて久しく、あり得ないという表情ばかりが張り付いている。
だがそれも仕方ない程に、この少年達は型破り過ぎるのだ。甚八郎でさえ止まるであろうこの状況で、一切の躊躇なくアクセルを踏み込んで来る。
「日向の子倅!? 儂が仕損じれば、貴様も死ぬのだぞ!?」
〈おう。だから、死ぬ気で頑張れ!〉
「ご、げほぉっ!?」
ウルは信じていた。徳壊ならば防ぎ切ると信じたニコルのことを、信じたからこうして一切気にせず攻撃を仕掛けて来ている。
徳壊は信じられなかった。一歩間違えれば野望も理想も全てが一瞬で消え去るのだ。頼れるのは己だけの状況で、どうして慢心出来ようか。
故にウルの拳は、面白いように老人の身体に刻まれていく。如何にか徳壊が暗黒天体を封じ切ったその時には、10を優に超える打撃が打ち込まれた後だった。
〈……やっぱ、アンタスゲェな。防ぎ切ったじゃねーか〉
「お、のれぇぇぇぇぇ。理想も大義も持たぬ、儒子どもがぁぁぁぁ」
それだけ殴られて尚、世界を滅ぼす規模の破壊を防ぎ切った徳壊。それを素直に賞賛しながらも、振るう拳を止めないウルムナフ。
対する徳壊は限界寸前だ。元より半身を失った戦いから一年と少し、その体力は病人同然。その状態で大規模な術を連続行使し、怪物に殴られ続けたのだからさもありなん。最早精神力だけで、立っているような状態である。
「儂は徳壊ぞ! この国を守り! 列強を打ち破り! 理想の世界を齎す存在ぞ!」
それが理由。徳壊と言う男は、仙人と言う力を持ちながらも、傍観することに耐えられなかった。
列強諸国の食い物とされていく祖国の姿に、何れ訪れるであろう結末に、否と告げる為に立ち上がったのがこの男。
〈……けどよ。この国の奴ら、泣いてたぜ。沢山、沢山、苦しんでた〉
されどその理想を聞いて、ウルは素直に頷けない。だって国を救うと語るこの男は、その国に生きる人を傷付けているから。
麗々と言う女は泣いていた。その父親は苦悩していた。陣と言う親子も苦しんでいて、己だってこの国で父と母を失った。全てはこの男が、求めた理想の所為で――
「大義の為には、必要な犠牲よ! 無駄にはせん!!」
〈そうかよ。やっぱアンタ、スゲェけど気に食わねーよっ!〉
満身創痍ながらも立ち、杖を振るう。粗雑な義足は押せば倒れる程には不安定であろうに、魔法を使う程の余力もないだろうに、それでも倒れない大邪仙。
この男は強い。この男は凄い。そうと認めて、しかし受け入れることなど出来やしない。奪われた側は、必要だったと言われても、納得なんて出来ないから。
拳を振るう。敵を打ち抜く。血反吐を吐いて、大きくよろめいて、それでも敵は倒れない。望んだ未来を、見るまでは――
だがしかし、彼に否と言う言葉の刃を突き立てるのは、ウルだけじゃない。
「ぐぉっ!?」
「……漸く、一発だ。馬鹿な弟分を叱ってやるには、少し遅過ぎたがね」
毛皮は焼け焦げ、全身は綺麗な所のない程に傷だらけ。されど立ち上がったマオは大地を這うように襲い掛かり、その女の拳を防ぐだけの余裕が今の老人には残っていなかった。
顎を打たれて、歯が抜け落ちて宙を舞い、男は地面に崩れ落ちる。しかし、それでも、望んだ未来を見るまでは――
「ま、まだ、だっ。儂は、まだ――っ」
杖を手に、立ち上がってしまう大邪仙。その姿を見詰める姉弟子の瞳は、哀れみの色に満ちていた。
もっと昔は、こうじゃなかった。別れたばかりの徳壊は、本当に綺麗な理想に燃えていた。誰一人として失わぬと、必要な犠牲だなんて口が裂けても言わなかった。
「猫妖風情が、今更に、貴様如きにぃぃぃぃぃ――っ!」
それが今じゃ、この様だ。西法師が予言したように、これから先はもっと劣化してしまうのだろう。だから此処で終わらせてやることが慈悲なのだと、マオはその拳を握り締める。
「そらそらそらー! いーまがチャーンス! 行って来るのニャ、カボチャ達ーっ!」
少年が決意を以って、姉弟子が覚悟を抱いて、それぞれに拳を握る中。唯一人重い理由なんて持たない少女は、常の態度で攻撃を仕掛ける。
彼女に特別な理由などない。勝ち馬に乗れそうだから仕掛けてみたし、そもそも何でこんな強い奴と戦っているのかすらよく分かっていやしない。
「小物どもが、この儂を、この儂がぁ!?」
それでもこの場においては、状況を動かすのに十分過ぎる戦力だ。宙に浮かんで触れれば爆発するカボチャの群れが、徳壊の自由を奪っていく。
〈終わりだぜ、徳壊――!!〉
「っっっ! 貴様らぁぁぁ、この儂を、誰だと思っておるかぁぁぁぁぁぁっっ!!」
それでも、邪仙は諦めない。残骸と成り果てて尚、求めた理想があるのだ。例え腐り切った果てであろうと、きっと思い出すことは出来るから。
気迫と共に、立ち上がる。裂帛の意志を此処に示す。理由を持たないヒルダは空気に飲まれて、迷ってしまったマオは出遅れて、力を使い果たしたニコルは動けずに――だから、立ち向かったのは唯の一人。
「この徳壊、負けはせぬっ! 終わるのは貴様だ! 日向、甚八郎ぉぉぉぉっっっ!!」
既に徳壊の瞳には、光なんて映ってなかった。だから気配で感じ取る。其処に居るのだ。宿敵が。朦朧とする意識の中で、日向甚八郎の存在を。
「……ちげぇよ。俺は親父じゃねぇ」
だから最後の一撃は、何もない虚空を切った。ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガはまだ幼くて、日向甚八郎を狙った攻撃では当たらなかった。唯それだけが、この結末へと至る理由。
「な――っ!?」
「俺はウル! ウルムナフ・ボルテ・ヒュウガ!!」
変身が解けている。いいや、自ら解いたのだ。今のこの男を倒す最後の一撃は、父から借りた力じゃない。己自身の拳であるべきだと思ったから――
「テメェを倒した、男の名前だぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
打撃を外して泳いだ徳壊の体に、打ち込まれたのは小さな拳。大した威力も技術もない子どもの一矢が、老人の理想を喰い破る。
この国を守ろうとした邪仙はこうして、この国で育った子どもに敗れたのだった。
冥刹皇「完全上位互換登場で、もう出番がない件について」
炎武「ぶ、物理特化としてならワンチャン」
猛虎「た、耐久特化なら、負け、負け、負けてないと良いなぁ……」
烈風奇「ツェルノボーグって、俺より早くね」
龍人「海中なら俺の役割まだあるし。いやぁ、皆大変そうだなぁ」
天邪鬼 「…………」←今までもこれからも出番ない奴
~原作キャラ紹介 Part17~
○日向甚八郎(登場作品:登場作品:シャドウハーツ, シャドウハーツ2)
シャドウハーツとシャドウハーツ2の主人公でウルの父親。大日本海軍の軍人で、最終階級は大佐。1893年時点では少佐。
任務中に殉死しているので、恐らくは2階級特進で大佐だろうと判断。なので当作内では当時の人から大佐と呼ばれることはないと思われる。
性格は、生真面目で不器用そうな人。責任感も強ければ、精神力もかなり強い。1の中盤で一度だけ操作出来るのだが、その時のステータスの高さに驚いた人も多いだろう。何で徳壊に負けたんですか?
1でも2でも、既に故人なので基本的に登場するのは回想のみ。ただしどちらも条件を満たすと隠しボスとして登場する。その際に扱う降魔化身術は、自身の変身であるツェルノボーグではなく最強のフュージョンである天凱凰。何で星神に成れるんですか?
色々とツッコミ所があるが、最大の疑問点は上海で死亡したのに何故かウルの心の中に居た事だろう。
狐面が猛威を振るっていた間は出て来なかった事から、それまでは居なかったのではないかと推測。となると親父が心の中に来れた機会は、上海での星神封印の時だけである。
え、親父、死んでから15年もあの場所に魂だけで居たの? しかもその状態から、星神制御して隠しボスやってんの?
そんな感想しか抱けない、考えれば考える程、整合性を取れば取る程、意味分かんない強さになっていくチート親父。それが日向甚八郎である。
今後のストーリー展開は次の内どれが良いですか?
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ヒロインは一人。純愛ルート。
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ヒロイン複数。ハーレムルート。
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ヒロインは甘え。求道者ルート。
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ウルと二人で漢祭りルート。
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宿命の兄妹対決! ニコルとアナスタシア!