世界を救った仮面ライダーだけど、今は職がないのでとりあえずUber Eatsで食いつないでみた。 作:三麻でトばされた男
思えば小さい頃は将来の夢とかあった気がする。
じゃあ成人した今は……と言われると、特にない。
何か就きたい仕事があるか? と言われても何も思いつかないし、そもそもそんな事を考える前に気づけば仮面ライダーになってしまっていた。
――本当に成り行きだった。
世界を救おうなんて微塵にも思っていなかったし、ただ目の前の脅威に対して抗うために偶々拾った力が仮面ライダーの力というだけ。
後はもう無我夢中だった。
敵を倒しては、その幹部に眼をつけられまた敵が現れてまた倒す。
その繰り返しの果てにたどり着いたのが『世界を救う』だった。
俺はメンタルそのものは一般人のそれをと大して変わらないはずだと思う。
自分を犠牲にしてまで敵を倒そうなんて思っていない。
でも目の前で敵に殺されそうになっている人がいて、自分にはなんとか出来る力があって。
それで手を差し出さないほど無慈悲な人間ではない。
その結果が『世界を救う』であり、『正義の味方の仮面ライダー』となっていた。
「はぁぁっ!」
大きく宙を舞った自分の身体。
その頂点に上がった瞬間にすべてのエネルギーを右足に込める。
幾度も敵を葬り去った必殺のキックだ。
それは今自分の目の前にいる最後の敵に対しても同様である。
全てを終わらせるため、繰り出されたキックは間違いなく敵の致命傷となり、直後この世のものとは思えないほどの悍ましい悲鳴とともに爆発四散した。
最後の敵が倒され――すべてが終わった。
長いんだか短いんだか……そんな戦いが終わったのだ。
達成感なんてものはない。
自分はただひたすら目の前の脅威に抗い続けてきただけなのだから。
じゃあ今、自分の中にあるこの何とも言えない――どこか落ち着かない気分はなんなのだろう。
――きっと虚無感。
気づけば仮面ライダーが俺の全てになっていた。
本当にそれ以外に何もなかった。
成り行きで仮面ライダーになったのに。
だから全てが終わった後、俺は何をしたらいいのかわからない。
そんな何とも言えない――落ち着かない気持ちがずっと離れない。
――と、クソ長い一人語りはここまでにして、そんな戦いから数年後の現在、たった今俺に押し寄せている問題は
「……金がない」
いたく現実的なものである。
コロナの影響で工事現場のアルバイトもかれこれ一ヶ月近く止まったままだ。
仮面ライダーしかなかった俺が、それを失った瞬間にできることなんてそんなにあるもんじゃないしな。
大学すら行く暇なく戦ってきたのだ。
そんな人間がおいそれ簡単に就職できるほど世の中は甘くない。
しかも別に組織とかに属しているわけでなく、たった一人で戦ってきたのだ。
当然、世界を救ったからと言って膨大なお金が入ってくるわけでも、支給されるわけでもないのである。
別の仮面ライダーは”職業が仮面ライダー”とかあったらしい。
しかしそうでもない俺はこの戦いが終わった今、アルバイトをしないと生きていけない。
まぁ人一倍体力はあるし、必然的に肉体労働が一番最初に選択肢に入ってくるわけだ。
ただ、その仕事も今は自粛真っ最中である。
全く世知辛い世の中である。
「はぁ……どうしたもんか」
通帳に記載された残り少ない残高を見て途方に暮れたままそう広くない1DKの部屋に大の字になって寝ころんだ。
とりあえず食い扶持を何とかしないといけない。
とは言え――手に取ったスマホから見る募集要項はどこも「現在営業自粛につき採用は致しておりません」の文字ばかり。
ずっと見てても気が滅入るから、ネットサーフィンでもしようとスマホのブラウザを立ち上げた瞬間に出てきた広告ページが……
「――Uber Eats?」