【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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十七話『魂はどこへ宿るか』

「ふぅ……あの程度の相手で息切れするなんて情けないよ。どうしてこんなに弱くなっちゃったんだろ。魔法も"ゴア"以上は忘れちゃったし……」

 

「あの程度、って。ほぼ隕石だっただろアレ……」

 

(うれ)い顔でぐーっと体を伸ばしながら、スティルシアは溜め息を吐いた。

様々な創作物で最強クラスの脅威として描かれる隕石だが、スティルシアからすれば『あの程度』らしい。

 

「……上位モンスターが来てるってのに、まだテレビ局は生中継してるんだね。まったくこの世界のマスコミは商魂たくましいよ……」

 

「たぶん地震とか津波とかと大差ない災害だと思ってるんだろ。それか、ヘリなら現場に行っても大丈夫だと思ってるか。どちらにせよこんな状況でも視聴率(すうじ)稼ぐために必死なんだよ」

 

スティルシアの言うとおり、未だテレビには【現場の状況】とテロップが流れた街の惨状が映し出されている。

リポーターの切迫した声はプロペラの羽音に掻き消されてほぼ聞こえない。

 

しかし上空から俯瞰(ふかん)した視点ゆえに、街のそこらに異質なモンスターたちが散見できた……一目で分かる。上位モンスターだ。

 

先程の通知にあった奴らとは明らかに違う種類のもいる。どうやら、上位モンスターは予想外に数が多いらしい。

 

俺はモンスター図鑑を取り出し、食い入るようにテレビ画面を見つめる。

図鑑の情報と擦り合わせ、特性を探るためだ。

 

最初に目についたのは、スティルシアの使う物より遥かに大きい黒い球体……時空掘削魔術(ドミネーション)を七つ同時に操作して破壊の限りを尽くす、"鳥のようなカタチをしたなにか"……【次元梟(ジゲンフクロウ)】。ランクは暫定A。

 

それから、自分の周囲の宙に幾多の本を浮遊させる仮面をつけた子供。

 

そいつの半径十メートル圏内では人間が動物に変わったり電信柱が大木に変わるなどの異常現象が繰り返されている。

既成事象(ミラージュ・)改竄者(カットアッパー)】。ランクは……暫定S-。

 

……俺の街にいる、パッと確認できる上位モンスターはこの二体だ。

はっきり言って異常だ。単体で国を滅ぼせるクラスの化け物が、一つの街に最低でも二体。恐らくスティルシアに引き寄せられたのだろう。

 

「……こいつらか。鳥の方はそうでもないけど、人型の方はちょっとまずいな」

 

「知ってるのか?」

 

「うん、奴の権能は『事実の改変』だ。星の法則を捻じ曲げ、世界の道理を書き変える……少し厄介な相手だよ」

 

事実の、改変……? なんだよそれ。

わけが分からないが、それが恐ろしい能力な事だけは分かる。

 

「そ、そんなのが近くにいて、大丈夫なのか……?」

 

「安心しなよ。私の全魔力の八割をバリアの形成に割いたからね。これならもし仮に"勇者"相手でも三分はもつよ」

 

「いまいちピンとこねぇよ……」

 

とにかく……大丈夫って事か。

それに少しだけ安心しながら、俺は今一度テレビへ目線を移した。

 

ヘリカメラの視点は先程から移動しており、さっきとは別の場所を映している。

だがそこまで景色は変わっていない。地獄と絶望で一色だーー

 

「ぁ」

 

ーー画面の右端、ビルの瓦礫を踏み潰すみたいにソイツは鎮座していた。

灰色の鱗と巨大すぎる体躯のせいで、逆に気が付けなかった。

道路を埋め尽くすようにして立ち尽くすその"ドラゴン"に。

 

「……こいつは、今の私じゃちょっと厳しいかな」

 

頬に冷や汗を伝わせながら、スティルシアがそう呟く。

急いで端末の画面をスワイプして、俺はすぐにそれを見つけた。

 

ーー【(ただ)れ古龍】:ランクS。

 

図鑑の写真と変わらぬ威圧感を画面越しにも放ってくるその龍は、長い鎌首をもたげて天を仰いだ。

そして、刀剣の如き牙の生え揃った口を開いたその時ーー

 

ジュッ、と。

 

ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ……!?」

 

「……あれは」

 

呻き声をあげながら地面に倒れ込む『爛れ古龍』の背に降り立つ小さい人影。

 

フード付きのゆったりした白いローブを羽織り、背中には大きな杖が装備されている。

スティルシアは、目を見開いて画面の中のそいつを見詰めていた。

 

「■■■■……?」

 

まるでスティルシアの視線に気が付いたように、肩をビクッと跳ねさせてローブの人影がこちらへ振り向いた。フードから覗くルビーみたく真っ赤な瞳が、確かにスティルシアを捉える。

 

そしてそれに呼応するみたいに、スティルシアの瞳孔が細くなっていく。

この動作……記憶を読もうとしてるのか?

 

「いや、違う、私は、違うんだ。知らない、そんな記憶、見たくない……」

 

「おい、どうした!?」

赤目フードとスティルシアの視線が交差する。

するとスティルシアは過呼吸になり、頭を抱えながらしゃがみこんだ。

 

ーー何がなんだか分からない。

だが、あの赤目ローブに原因があるのは明白だ。俺は無意味と知りながらもテレビを睨みーー

 

『みつけた』、と。

 

ーー液晶の向こう。フードの中に隠れた唇が、確かにそう動いた。

 

「っ……!」

 

『せんせい……! 先生、先生ッ! そこにいらしたのですね!』

 

そこからは一瞬だった。

地面に立っていた赤目フードの姿が一瞬で掻き消えたかと思ったら、次の瞬間にはカメラの前にワープしてきていた。

 

ヘリの上、放送局のスタッフを押し退けて撮影機材の前に躍り出たソイツは、被っていたフードを引き剥がしてこちらへ呼び掛けてくる。

 

露出したのは癖のある赤毛に赤目の青年の顔。線が細くインテリっぽい顔付きだ。

 

「俺達に話しかけてるのか……?」

 

「ぁ、あ……やめて、しらないってばぁ……私は、あんなのに、戻りたく」

 

『あぁ! やはり先生だ! 間違いない……! あの恩知らずの勇者(ゴミ)に謀られていたのですね! 私もなのです……ッ! これから私たち二人でこちらの世界を呑み込み、必ずや奴へ復讐をーー……む?』

 

極限まで昂った様子だった男は、少し困惑した表情で顎に手を当てた。

 

「おぉ……そうか。すっかり忘れていた。先生はご病気を患っていた……私とした事が、とんだ不敬だ。どうかお許しください」

 

ぶつぶつ小さな声で何かを唱えながら、男はずいっとカメラへ自分の顔を近付ける。

 

『さぁ、()()()()()()()()()()()() さすれば全てを思い出す筈です! あなたの全盛を……! "精霊王"スティルシアを取り戻してください!』

 

「っあ、っ……」

 

男の瞳が画面いっぱいに映し出され、スティルシアはそれを見た。

鏡写しのように、互いの深紅の瞳が見詰め合うーー

 

「ぁあぁあぁあ……!あぁああぁ■■■■■■■!!!!」

 

「スティル、シア……!?」

 

髪を振り乱しながら絶叫するスティルシア。

俺はそれにに近づこうとしてーー思わず、尻餅をついた。

 

息を荒くして床に(うずくま)るその少女から発せられる冷たい雰囲気と、息が出来ない程の威圧感は。

俺の知るスティルシアとは全くの別物だったから。

 

「はぁっ、はぁっ……! ■■■……!?」

 

『思い出されたようですね……! ではお待ちしております! まずはこの都を落としましょう! あぁ……! まさか、また先生と一緒に戦えるなんて!』

 

男の指先から閃光が発せられ、爆発音と共に画面が砂嵐になった。カメラが破壊されたのだろう。

 

結局、なんだったんだ……?

俺は一瞬唖然としていたが、スティルシアに起きた異変を思い出してすぐにそちらへ目を向ける。

 

「私、は……」

 

スティルシアは、妙にギラついた目付きのまますくっと立ち上がった。

そしてそのまま、裸足でふらふら玄関の方へ歩いて行こうとする。

 

それに底知れぬ嫌な予感がして、俺は咄嗟に肩を掴んで引き止めた。

 

「おい、スティルシア!」

 

「行かなきゃ……」

 

「さっきから、おかしいぞお前……!?」

 

無理矢理こちらに振り向かせ、スティルシアと目を合わせる。鋭くギラギラしていた瞳が、俺を見て少し穏やかになった。

が、すぐに戻ってしまう。

 

「……私は」

 

「何があったんだ、アイツは誰なんだよ……!? 俺に言えよ……!」

 

「わたし、は」

 

スティルシアは一瞬だけ泣きそうな顔になった後、しめやかに(まぶた)を閉じた。

それからまた目を開き、今度はキッと俺を睨んでくる。

 

「っ、なん、だよ」

 

「私は……」

 

初めてスティルシアから向けられた敵意の視線に、思わずたじろいだ。

どうして……と、俺は必死に思考を巡らすーー

 

 

 

「私は、君の事なんて知らない」

 

 

 

「……え?」

 

ーー頭が真っ白になる。

俺の事を、知らない……? なに、言ってるんだ。

出会ってから今までずっと、一緒に居ただろう。

 

「君は以前から"スティルシア"を知ってるんだろうけど、"私"は今日初めて君と話した」

 

「わけ、わかんねぇよ……?」

 

「はは……優しくて才者な癖に愚鈍(ぐどん)な奴だな君は。分からないのかい? ()()()()()()()()()()()

 

スティルシアは、半ば(あざけ)りを含んだ声色で俺にそう言った。

婆ちゃんと、同じ……?

 

「ーー健忘症……あるいは老年性認知障害(アルツハイマー)。私はね、新しい記憶を一日以上保持できないんだ」

 

 

脳が理解を拒んでいるかのように、俺は頭の中で上手くその言葉を噛み砕けなかった。

……1日しか記憶がもたない?

そんなわけ、ないだろ。だって今まで、普通に。

 

「変な嘘、()くな……!」

 

「嘘じゃないさ……私が毎日君の事を覚えている"ように"振る舞えていたのは、朝に君の記憶を読んで、眠るその時まで君の中にある"スティルシア"を演じていたからだよ」

 

『過去の自分自身を演じるなんておかしな事だよねぇ……?』

と笑いながら、スティルシアは更に続ける。

 

「自分が出演しているドラマか映画を見ているような気分だったよ。知識としては知っているが体験した覚えは無い……(もっと)も、ボーイミーツガールは嫌いだから感情移入は出来なかったけどね?」

 

典型的な『やれやれ』のポーズで肩をすくめながら、スティルシアは首を横に振った。

その最中(さなか)……混乱する俺の頭の中で、思い当たる節が幾つも出てきた。

 

ーー毎朝起きた時、執拗に俺の瞳を見つめてくる事。

ーー妙に忘れっぽくて、少し前の事もすぐに忘れていた事。

ーー『君に出来るだけ私を見ていて欲しい』と言った事。

 

パズルのピースが揃うみたいに、今までの細かな違和感の全てが今の告白に当てはまった。

 

一気に真実味を帯びてきた絶望に、横からガツンと頭を殴られたみたいな感覚に(おちい)る。

 

「……と、いうわけで。私からすれば君は殆ど他人だし、大した思い入れも無い、無いんだよ」

 

「ーーっ」

 

「おっと……傷付けてしまったかな? じゃあ、さよならだ」

 

スティルシアは俺に背を向け、パチンと指を鳴らした。

すると玄関口に大きな黒い(もや)が出現する。転移魔法だ。

 

「なん、で」

 

「あの男にちょっと用があってね……あ、一応は恩人である君に忠言しておくと、この家からは出ない方が良いよ。魔法結界の外に出たらもう何も君を守ってくれないからね」

 

「まって、くれ」

 

黒霧の中へ足を踏み入れるスティルシアの背中に、俺は手を伸ばす。

しかし、伸ばした手は霧に阻まれて弾かれた。

 

「……じゃあね」

 

ーー振り向き様、少し悲しげに微笑んで。

スティルシアは黒霧と共に消え去った。

 

静寂に包まれた玄関。

そこに残ったのは、ポツンと立ち尽くす俺だけだった。

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