【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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二話『頂点の怪物』

「なぁ、お前ってランキング何位だよ? 学生っぽいし流石にオレより下だよな……? あ、ちなみにオレは24歳だぜ。大学は出てねぇ。あと今は駆逐官やってるけど、パチンコでスッちまった日とかはコンビニの店員(クルー)に華麗な変身をしてーー」

 

「うるせぇ……」

 

「お、いいねぇ。べつに年上とか気にしなくて良いんだぜ? ジェレマイアお兄さんってばこのイケメンフェイスと親しみ易さだけがウリだからな!」

 

ーーかなり面倒な奴に絡まれてしまった。

廊下を早歩きする俺に付き纏ってくるジェレマイアを横目で睨みながら俺は小さく溜め息を吐いた。

 

……苦手なタイプだ。ある意味ヤクザの人とかより厄介かもしれない。猛獣に感じる怖さと虫に感じる怖さが別種なように、なんというか……とにかく、厄介だ。

 

「……あの、別に俺駆逐官じゃないんですけど」

 

「嘘つけ。ここの職員はほぼ全員スーツだし、外部の人間は入り口で弾かれちまう。その中で私服のヤツっつったら……? ほら、ビンゴでしょうよ」

 

おどけて見せながら、ジェレマイアは容易く俺の嘘を見破った。意外と頭が回るらしい。更に嫌いになった。

そして……そうこう言っている内に、"顔合わせ"会場の扉の前に辿り着いてしまう。

 

俺は、ニヤニヤしているジェレマイアを横目で睨みながら手帳を取り出し、扉の横に付いているタッチパネルに押し当てた。

 

「おぉい、やっぱり駆逐官じゃねぇかよ! 俺ってば嘘はお見通し……うげっ!?」

 

得意気に言いながら俺に続こうとしたジェレマイアが、背後で間抜けな声を挙げた。俺は静かに口を歪める。

 

今さっき扉の金属部に触れ、そこに通した土魔術(オーロベルディ)。それから発生した土塊につまづいてジェレマイアが盛大にすっ転んでいる。

俺の中で少しだけ溜飲が下がった。

 

「いっ、つつつ……なんで室内にこんなのが……あっ、おい待てよ!」

 

後ろから追いかけてくるジェレマイアを無視し、俺は扉の先へ進む。会場には大きな円卓とモニターが設置されていて、既に五人ほど席に着いていた。

 

……第二位は、居ない。予想はしていたけど。

女が二人で男が三人。それぞれが品定めするように俺を観察している。

 

「おいお前、間違っても真ん中に座ってるあの金髪の女には逆らうなよ……」

 

「……なんでだ?」

 

「とにかく、やべぇんだよ……なんでか知りたいか?」

 

扉側から見て際奥に座る金髪の女性を指差しながら、ジェレマイアが俺に耳打ちしてきた。

俺が頷くと、目を細めながら口を開く。

 

「ーーアイツが、"第一位"だからだ」

 

「……え?」

 

俺が咄嗟に金髪の女性の方を振り向くと、目が合ってしまった。深海みたいに青い、見ていると吸い込まれそうになる瞳が俺を映している。

目深に被った白い帽子のせいか、どことなく令嬢染みた上品な印象を受けた。

 

……"第一位"。それは討伐や貢献度ではなく、未知生命体対策本部の『司令塔』であるが故の地位だ。単純な討伐貢献で言えば総合四位の"龍人"、つまり俺がトップ。

要するにランクの上位三人は殆ど役職的な意味合いなのだ。それに反発する駆逐官も多く居るらしいが、討伐貢献トップの俺が何も言わないせいで大した問題には発展していない。

 

「この度は私どもの勝手な召集に応じて下さり、誠にありがとう。ここに感謝致します。"詰み歩兵(クロッグ・ポーン)"。"龍人"」

 

金髪の女性は静かに席から立ち上がり、流麗な所作でお辞儀をした。

 

「……ん? あれ、第一位さん。俺は確かに"詰み歩兵"で合ってるが……龍人つーのはどういう事だ。……まさか、あそこの席に座ってる中に()()第四位が居るのか?」

 

ジェレマイアが、表情を硬くながら円卓を睨んだ。

それに対し、金髪の女性……"第一位"はクスッと笑って俺の方へ目配せする。

恥ずかしいから、そういう二つ名的なのじゃなくて本名で呼んで欲しいんだけど。

 

「えっ……」

 

「えっ」

 

数秒の間、無言でジェレマイアと見詰め合う。

向こうの顔に玉のような冷や汗が浮かんで、ダラダラと滴る。

 

「……あのー?」

 

「なんだよ」

 

「お金払うので、たべないでください」

 

「食わねぇよ!」

 

ガタガタ震えながらそう懇願してきたジェレマイアに、俺はツッコミを入れた。一体どんなイメージを持たれてるんだ"龍人"は。

顔バレしたくないから爛れ古龍の能力で鱗を全身に纏わせてただけなのに。

 

「……映像で何度か見てたけど、あのバケモノの中に人が居たなんてな……政府が作ったキメラか突然変異したミュータントとかだと思ってたぜ」

 

『やれやれ』とジェレマイアが呟いた。

 

「それでは、席に着いて頂ける? 間もなく開始時刻ですので」

 

「あ、はい」

 

第一位に(うなが)され、俺は円卓に着く。ジェレマイアは隣に座ってきた。

第一位は、俺たちの着席を確認してから咳払いの後に口を開く。

 

「駆逐官の皆様。この度は私たちの勝手な召集に応じて下さった事、重ねてお礼を申し上げるわ。私はこの異界生命体対策本部の責任者、東弊(とうへい) 陽葵(ひまり)よ」

 

ーー第一位、いや東弊はそう言って円卓の全員を見渡した。外国の貴族じみた見た目の割に、やけに日本的な名前だ。

 

「それじゃあ、スクリーンを見てくれる?」

 

東弊がパチンと指を鳴らす……すると、機材に触れていないかつ照射機が見当たらないにも関わらず、スクリーンに映像が浮かび上がった。

横でジェレマイアが目を見開く。……魔法か何かか?

 

肝心のスクリーンには【未知生命体対策本部(以下"対異")が皆様へ伝えたい3つの事!】という文がポップな字体で写されている。

 

「……あの、これは?」

 

「私がパワポで作った映像資料よ。……じゃ、今回の集まりは私たちの顔合わせが目的なわけだし。まずは一人ずつ自己紹介でもして貰おうかしら?」

 

東弊が再び指を鳴らすと、今度は少し遅れてスクリーンの文字が【自己紹介コーナー!】に切り替わった。

少しムッとした顔で横を睨む東弊の視線を追えば、そこには黒い垂れ幕の内側でパソコンを弄りながら申し訳なさそうに手を合わせるおじさん職員の姿がある。魔術でもなんでもなかった。

 

「……んじゃ、最後に来たって事でまずはオレかな」

 

よっこらせ、とジェレマイアが立ち上がって俺をチラ見した。目で『次お前な』と伝えてきている。

 

「俺はジェレマイア・リウィンド、24歳で独身。ちょっと前まで沖縄の米軍基地で軍人さんやってたぜ! 特技は色々で趣味は漫画集め! よろしくっ!」

 

ビシィッ、と円卓を指差しながらジェレマイアが叫ぶ。室内が静まり返り、俺を除くほぼ全員から奇異の視線が突き刺さった。

ジェレマイアは気まずそうに唸ってから静かに席に座り直す。……次は俺か。

席を立ち上がり、少し緊張しながら自己紹介を始める。

 

(みなと) (なぎさ)です。高校生です。趣味は料理です。よろしくお願いします」

 

簡潔な自己紹介を述べ、俺は座った。何故かジェレマイアが裏切り者を見るような目でこちらを見てくる。

 

「おい……!? なに差し障りの無い自己紹介してんだよ! 性癖の一つでも暴露しろよ! 折角ふざけた回答しやすい雰囲気にしてやったのに、これじゃ俺がただの変な奴みたいじゃねぇか!」

 

「それは間違いないだろ……」

 

「おい……てめぇら」

 

俺がジェレマイアを受け流していると、ガタッと音を立てて一人の男が立ち上がった。

寝癖まみれの茶髪で服装はヨレヨレのトレーナー。隈が深く目には覇気が無くただギラついている。端的に言えばだらしない男。

 

「あら、次は貴方が自己紹介して下さるのかしら? ならまずは名前を」

 

「いいや、よーく聞け……俺が今日ここに来たのは、自己紹介なんてつまんねぇ事をする為じゃねえんだ ……オラァッ!」

 

ーー茶髪の男が、勢い良く円卓を蹴り上げた。天板にヒビが入ってそこだけ大きく抉れる。

それから男は船長が船の甲板でそうするみたいに、足を片方だけ円卓に乗っけて腕を振り上げた。

 

「良いか、おめぇら! そこに座ってる東弊っつーアマは、大した実力も実績も無いのにずっとランキング一位に居座ってるクズだ! これは明らかに不公平だろうが! ーーなぁ!? "龍人"!!」

 

急に名指しされ俺はぎょっとした。ジェレマイアが小声で『知り合いか……?』と問い掛けて来るが、初対面だ。あんなヤツ知らない。

俺の困惑とは裏腹に、茶髪の男は妙にキラキラした目で俺を見ている。

その瞳に何か大賢者に近いものを感じて、俺は少し顔をしかめた。

 

「俺はアンタに憧れてこの業界に入ったんだ! 圧倒的な力を以って怪物どもを捻じ伏せる、無敗にして最強の駆逐官! ……だがなんだ! "龍人"が四位!? おかしいだろうがァッ!!」

 

茶髪は再び激昂し、今度は腰のホルダーから短剣を抜いた。

そして、その切っ先を東弊に向ける。

 

「俺が"第一位"をブチのめして、龍人……アンタをトップに押し上げるッ! 第二位も第三位も、いつか探しだして必ずぶっ殺す!」

 

「あらあら……随分と威勢が良いのねぇ……ふふ、()()()()

 

ーーそう叫ぶと同時、茶髪の体が歪に変形を始めた。

脊椎のような形状の細長い骨が全身から突き出してきて、最終的には異形の怪物の姿になってしまった。

 

なんだ、あれは……!? 少なくとも"術式装填"ではない。あまりに異質すぎる。

なら俺の爛れ古龍みたいに、取り込んだ魔核があまりにも格上すぎて属性を塗り潰されたケース……いや違う。アイツからは、"飽和"しているだけの魔力を感じない。

 

「今日、皆さんに伝えたい3つの事ーーその内の一つが、"あれ"よ」

 

「ガアァ"ァ"アァ"ッッッ!!!」

 

骨の怪物が、腕を振り上げて東弊へと襲い掛かる。

幾重にも折り重なった骨が絶え間なく形状を変化させ、さながらチェーンソーのようだ。骨の強度にもよるが、普通の人間ならそれに触れただけで肉を削られるだろう。

 

俺たちに伝えたい事が、アレ……? 何が言いたいんだ。

 

「彼が持つ、この異能……これは、一部の異界生命体が用いる『術式装填』でも『魔法』でも無いのよ。……そう。強いて言うのならば、『地球版の魔法』ね」

 

東弊はヒラリと身をかわして茶髪の突進を回避する。勢い余って円卓に突っ込み、木片がギャリギャリ削れた。

茶髪は怒りの咆哮を挙げ、更に纏う骨の量を増して東弊へ襲い掛かる。

 

「スライム事件以来……怪物達の遺骸から採取できる未知エネルギー結晶。それを接種した地球人の中からおよそ五万人に一人の割合で芽吹く特殊な能力が確認されているわ。例えば彼のは『骨を強化・増量し操作する能力』よ。見ての通りね」

 

東弊が、うっすらと笑みを浮かべながら俺の方を見てきた。……魔法でも術式装填でもない、"地球版の魔法"だって?

そんな代物が存在したのか。確かに自然現象を主に操る魔法とは完全に別種だ。

 

「私たちはこれらを、持ち主の願望や性格が反映する事から転じて『理想(イデア)』と名付け、日夜研究を行っているわ。……はい。ってなわけで実演はおしまいね。もう死んで良いわ、あなた」

 

「はーー? ぐがァっ!?」

 

東弊がにっこり笑って、ぱんっと手を叩くーーすると、何重にも折り重なった凄まじい打撃音と共に茶髪の体がふっ飛んだ。

骨の鎧は木っ端微塵に砕け、床に血溜まりが広がる。

 

……何をした? 全く見えなかった。動いた様子も無い。

一瞬にしてミンチ同然の有り様になった茶髪は、数秒だけ痙攣していたがすぐに動かなくなってしまった。……死んでいる。

ジェレマイアは、信じられないという顔で東弊を見ている。

 

「あら、皆さんどうされたのかしら……私は自分の身を守っただけ、正当防衛よこれは。それともスプラッタなのはお嫌い?」

 

口に手を当ててくすくす笑いながら、東弊が言った。

 

「……おい、帰ろうぜ渚。アイツ本気でやべぇ。身を守る為とは言え、人1人()って笑ってやがる」

 

怪物を見るような目を東弊に向けながら、ジェレマイアが俺の肩に手を置いた。

……チラリと東弊の方に視線をやると、笑顔で小さく手を振ってくる。すぐに目を逸らした。

 

「……あぁ、そうだな」

 

「残念……もうお帰り? まぁ良いわ。特に重要な事は伝え終わったし。受付の所に封筒を手配してあるから、残りの情報はそれを見ておいて頂戴」

 

意外とあっさり、東弊は俺たちの退室を許可した。

再び分厚い扉を開き、俺とジェレマイアは廊下に出た。扉が閉まった途端、重圧から解放されたように息がしやすくなる。

 

「……警察、とか呼ぶか?」

 

「いんや……"対異"は越法機関に片足突っ込んだレベルの権限を持ってるし、さっきのは確かに正当防衛だ。……あのホネホネ野郎の事は内々に処理されて終わりだろうよ」

 

下降するエスカレーターの中、ジェレマイアが溜め息を吐きながらポケットをまさぐり、そこから10円の『おやつカルパス』を二つ取り出した。

ビニールに包装された小さな肉の円柱が二本、光を浴びてテカテカ輝いている。

 

「食うか?」

 

「いらない」

 

「そっか」

 

ぱくりとカルパスを口に入れるジェレマイアを横目で見ている内に、エスカレーターの扉が開いた。

扉から出て俺が帰ろうとすると、ジェレマイアが肩に手を置いてくる。振り向くと、何か紙切れを差し出してきた。

 

「はい、これ」

 

「……?」

 

「メアドだよ、メアド。……あ、最近の子だとLINEって言った方が分かりやすいか。折角仲良くなれたんだから、交換しとこうぜ」

 

良く見れば、紙切れには意外と達筆な字体でアドレスが書かれている。

 

「えぇ……言うほど仲良くなったか?」

 

「細かい事はいいんだよ。……とにかく、入力しとけよ。しないと住所特定して家に代引きでピザ大量に注文してやるからな」

 

「やり方が陰湿だなお前」

 

俺は渋々メールアドレスを受け取り、ポケットに押し込んだ。

ジェレマイアは満足げに笑って『それじゃな』と去っていった。

 

「……はぁ」

 

その背中を見送ってから、俺は一際大きな溜め息を吐いた。

……"イデア" 、地球版の魔法か。モンスターだけでも手一杯なのに、そんな良く分からないの能力を持った連中まで居るのかよ。

 

本当に、この世界は前途多難だ。

 

いやに重たく感じる手元の茶封筒を見詰めながら、俺は心の中でそう呟いた。

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