【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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三話『神の存在証明』

「……朝か」

 

顔合わせが行われた次の日の朝、俺はカーテンから差し込んでくる朝日で目を覚ました。

ベッドから起きて寝室を出る……そしてスマホで日時を見ると、今日が月曜日である事に気が付いた。学校に行かなければ。

 

俺の今の家は、スティルシアと一緒に住んでいたあの家ではない。

"大賢者"との戦いの後すぐに向かったが、スティルシアが俺を守るために張った防壁に阻まれて入れなくなってしまっていたのだ。

何度も破壊を試みたが不可能で、エリミネーターさんの本気の攻撃でさえビクともしなかった。

 

「うわ、数学が二時間ある」

 

今日の時間割りを見て鬱屈とした気分になりつつも、俺はパンを食べて教科書をリュックに詰めた。

そして玄関を出ようとしてーー靴棚の上に置かれた、大きな茶封筒に目が止まる。

 

昨日貰ったヤツだ。なんだか気が重くて放置してしまっていた。

 

「……バスの中で読むか」

 

封筒をぽいっとリュックに放り込み、ジッパーを閉める。

以前より遥かに軽く感く感じるそれを背中に背負いながら、俺は玄関を出た。

 

 

 

田舎に住んでいた以前と違い混雑したバスの車内、後ろの方の席に座って俺はリュックを開いた。

封筒を取り出しボタンで止められた上部を開ける。すると中には数十枚の書類が詰まっていた。

 

ソシャゲの利用規約みたいな分量だ。

だが向こうと違ってこっちはちゃんと読まないといけない分、気が滅入る

 

「……これは」

 

『魔核の交換レート変更』や『駆逐官用端末に新機能追加』などの比較的どうでも良い情報が大半だったが、最後の方の書類に【重要】の赤印が押してあって俺は手を止めた。

 

……【重要】がついているのはパッと見2つだけ。

第一位が『地球版の魔法』と形容していた異能、"イデア"についての情報と、もう1種類ーー

 

「神の、存在証明……?」

 

ーー久々に目にしたその単語に、俺は困惑した。

モンスターが襲来した初期の頃、兵器を使って討伐活動をしていた白フードの集団。

最近はめっきり名前を聞かなくなっていたが……一体どうしたのだろうか。

 

【およそ一ヶ月ほど前から活動を停止していた指定宗教団体"神の存在証明"が、近頃になって怪しい動きを見せている事が我々の調査によって明らかになりました】

【以前は重火器や細菌兵器によるアプローチでモンスターの殺害を試みていたこの団体ですが、一週間前に我々"対異"の実験施設から対モンスター用の兵装を盗み出した事から報復として彼らの施設に機動部隊を送り込んで制圧した所、無数の大小様々な未知エネルギー結晶と、モンスター大量殺戮兵器の開発形跡が確認されました】

【対異界生命実体法令第九条により、政府からの認可が降りた法人と個人以外には未知エネルギーの研究は許されていません】

【そのため皆様が"神の存在証明"構成員と接触した際には、非敵対性の異界生命体と同等の処置として拘束し、我々にご一報お願いします】

 

 

長々と書き連ねられた文章を読み終え、俺は目を細める。

……ようするに、"神の存在証明"が妙な動きをしているから気を付けろって事か。

思ったより深刻な問題じゃなくて、胸を撫で下ろす。

 

それから十数分バスに揺られて、俺は学校近くのバス停で降りた。

学校は人が多かったからかモンスターによる被害の爪痕が特に深く、未だに修復作業が終わってない。

そのため使える教室の数が減り、1クラスの人数が増えて窮屈だ。

他の地域から避難してきた学生が多いのもそれを助長している。

 

「おぉ、来たか渚!」

 

教室に入るなり、一人で自分の席に座っていたバンダイが俺の方に駆け寄ってきた。

 

……俺たちの友達グループは以前まで三人だったが、今では俺とバンダイの二人きりだ。

阿頼耶識(あらやしき) 櫛名田(くしなだ)ーーあの厨二病こじらせ万能超人は、学校が再開してから一度も姿を表していない。

 

家に引きこもってるのか、それとも死んでしまったのか……とにかく音信不通。

先生が家に電話をしてみたらしいが、番号が変わってしまっていて繋がらなかったと聞いた。

 

「昨日テレビでやってた駆逐官特集見たか? ハーフアイラちゃんが、でっかいトカゲをビームで……」

 

「あれ、エル★フィーネちゃんはもう良いのか?」

 

「や、やめろその名を出すのは! もう実らない恋なのだ! 今でもたまにネットで検索したりしてるけど目撃情報の欠片も無いのだっ!!!」

 

「そ、そうか……」

 

半泣きでぎゃーぎゃー騒ぐバンダイを、俺は呆れた目で見る。

そりゃ政府の機密だし……俺もずっと会えていない。次会う時、向こうは俺と"初対面"だろうし。

 

今度は『ハーフアイラちゃん』について熱弁するバンダイをぼーっと見ているとーーその背後に、ニヤニヤと加虐的な笑みを浮かべる男子生徒が立っている事に気が付く。

 

「おーおー、まだ俺が弱い時にゴブリン一匹倒してイキってた渚くんじゃあないのぉ……あとキモオタ、俺のクラスでブヒブヒ喚くんじゃねぇ。デブ菌が飛沫しちまうだろ」

 

「な、なんだとっ! 何様だきさ……ま」

 

散々な言われように、バンダイが怒った様子で声の方に振り向いた。

しかし、その相手の顔を見て顔が青ざめていく。いつもバンダイが怖がっている、クラスの人気者だ。

 

「あァ? 俺が何様だって?」

 

「ぁ、ぐっ……ご、ごめん、なさい……っ!?」

 

男子生徒がバンダイの手首を掴んで握り絞める。するとすぐに骨の軋む音が聞こえてくる。……こいつ、それなりに魔核を取り込んでるな。

バンダイは顔に冷や汗を浮かべながら床に膝を突き、何度も『ごめんなさい』と繰り返した。

 

取り巻きの連中が後ろで笑いながら、『やめとけー!』とか『かわいそうだよー!』とか言っている。本当に可哀想だと思っているなら、そんな楽しそうに笑いはしないだろうに。

 

こいつはたしか、ゴブリンが襲来した初日に俺から中型(ホブ)の魔核を奪って逃げた奴だ。

今は駆逐官になって稼いでいるらしい。教室でいつも自慢げに話していたから知っている。

 

気がつけば、そいつとバンダイを中心にして人だかりが出来ていた。ちょっとしたイベント感覚だ。街の喧嘩でも見物するみたいに、強者から弱者への暴力を娯楽として楽しみにしている。

 

「やめろ」

 

そう言いながら、俺は席から立ち上がった。教室中の視線が俺へと集中する。俺たちの何が気に食わないのかは分からないけど……俺が少し殴られてやれば気が済むだろう。

バンダイが『やめておけ』と目で訴えてくるが、一瞬アイコンタクトしてから前に出た。

 

「……ぶっ、はははっ! 皆さん、聞きましたか!?『やめろ』ですって! タメ口でーす! このド陰キャ、身の程という概念をご存じないようでーす!」

 

茶化すようなその言葉で、クラスに小さな笑いが巻き起こった。

 

「やめてください」

 

「ハッ、イキってんじゃねぇよゴミ虫。かっこいいと思ってんのか……あのねぇー渚くん。ちょっと、歴史のお勉強でもしよっか?」

 

ニコッ、と笑って俺に近づきながら奴はそう言った。

 

「むかーしむかし、サムライは戦えない百姓どもを守ってやる事で様々な権利を持っていました……『切り捨て御免』とか、侮辱されたらブッ殺しても良い特権とかなぁ?

世界大戦でも、国民は飢えてたけど軍人には食料が行き渡ってた……そのぐらい、昔から戦う人間の権利ってのはデカイわけ、アンダースタン?」

 

「……」

 

「そして、今てめぇらが安心して暮らせるのは俺ら駆逐官が怪物どもとやり合ってるから……つまり気に食わなかったら好きなだけ踏みにじって良いワケよーーこんなふう、にっ!」

 

ーー言い終わると同時、奴のボディブローが俺の腹に叩き込まれた。

痛くも痒くも無いが一応よろけておく。それに気を良くしたのか、今度は前蹴りを繰り出してくる。

 

「はははっ! これが一線級(Cランク)駆逐官の力だ! 腹ン中で内臓が暴れまわってるみてぇだろ! けど倒れねぇのは良い心がけだぜ……サンドバッグとしてなぁっ!」

「な、なぎさ……」

 

殴る、蹴る、踏む。

俺に一通りの暴行を加えた後、奴は息を荒くしながら額の汗を拭った。

その間俺は某ヤ◯チャのような体勢で地面に倒れ、埃まみれの地面とにらめっこしていた。

 

「……やっぱ、中型(ホブ)を難なく倒してたのは見間違いだったみてぇだな。俺が最強だ……おいキモオタ、そのぼろ雑巾は適当に整形外科にでも連れて行っとけ。」

 

「渚っ……! おい!? 大丈夫か!?」

 

駆け寄ってくるバンダイにひらひら手を振って、俺は立ち上がった。

制服に付いた埃を払いながら教室を出ようとすると、先程まで満足げだった奴が口をぱくぱくさせながら何かを言う。

 

「……なんで、立てんだてめぇ」

「あ……」

 

まずい、と思った瞬間には、既に目の前に拳が迫ってきていた。

スローモーションな打撃、それに大人しく当たろうとしてーー

 

「ぐがぁっ!?」

 

「……へ?」

 

ーー奴が、何者かに蹴り飛ばされて壁に叩きつけられた。

悶えながら腹を抑え、口から吐血する。クラスに女子の悲鳴が響いた。

蹴り飛ばしたその"張本人"は、俺の横に歩いてきて奴を鼻で笑う。

 

「ハッ、不敬なヤツだ……神の盟友に手を上げるとは重罪。だけどボクは優しいからゴッドキック一発で許してあげよう」

 

良く通るボーイソプラノの声、色素の薄い長めの茶髪、整った女顔。

線の細い体からは信じられない威力の蹴りを放ったソイツは、俺のよく知る人物だった。

横で目を見開くバンダイと一緒に、俺は表情を驚きに染め上げた。

 

「くし、なだ……?」

 

「久しぶりだね、盟友。ちょっと実家の方が忙しくて学校に来れなかったけど今日から復帰だ……なに、もしかして怪物にやられたとでも思った? ははは、神であるボクが魔の者に遅れを取るわけが無いだろう」

 

ーー自らを本気で神と語る狂人は、パチッとウィンクしながら俺にそう言うのだった。

 

 

_______________

 

重要【"イデア"調査資料】筆記者:東弊 陽葵(ひまり)

 

【イデアとは、"スライム事件"以来およそ五万人に一人の割合で発現する特殊な能力の総称です】

【地球言語を解する異界生命体へのインタビューによって存在が明らかになった異界の技術、『魔法』やその簡易版である『術式装填』とは全く異なるプロセスで完結するイデアはその多くがモンスター討伐に有効であるため、我々"対異"はイデア使いの積極的な発掘に努め、厚待遇での雇用という形でその協力を得ることに成功しています】

【なおイデア使いには大別して四つのパターンが存在し、それらは『現象操作系』『物体発生系』『概念干渉系』『現実改編系』と区分されます】

【特に『概念干渉』と『現実改編』は大抵が極めて強力であるため、"対異"はその戦闘力指数を『飽和』と同等のBランクと定めています。(『術式装填』はD、特級異界生命体"精霊王"の使う『精霊魔法』はA~)】

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