【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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四話『灰色の情景』

「お前……ぶ、無事だったのか? それにどうやってアイツを一発で……」

 

「それは……僭越ながらボクが神だからだと言う他無いね」

 

「なんだお前」

 

地べたに座り込みながら問い掛けた俺に意味不明な事を言いながら、クシナダが手を差しのべてくる。

蹴り飛ばされたヤツは腹を抑えて悶絶し、口から泡を吹き出していた。

 

……魔核を取り込んだ人間を、一撃で?

恐らくアイツだって、1トン程度のヒグマなら片手間で処理できるぐらいの実力はある筈だ。

しかしクシナダからは全くもって魔力の香りがしない。

正真正銘、ただの人間だ。

 

「ん、どうしたの」

 

「い、いや、喧嘩強いんだなぁって……」

 

クシナダの手を取り、俺は立ち上がった。

……まさか、"イデア"か? 初めて知った翌日に出くわすとか考えたくないけど……可能性はある。

 

「……なぁ、変なこと聞くんだけど……最近、なんか特別な能力みたいなの使えたりしないか?」

 

「この宇宙を作り出したのはボクなんだから特別な能力と言うならずっと使えてるよ、変なこと言わないでよね」

 

「駄目だこいつ……」

 

凄まじい話の通じなさ具合に俺は頭を抱えた。相変わらずイカれてやがる。言葉の通じない状態のスティルシアだってもう少し意思疏通が出来た。

 

「なんだっ、今の……! クソが! てんッ……めぇぇぇッッッ! 殺す! ぶっ殺してやる! 俺の事マジでキレさせたなぁ!? ブツブツくっちゃべりやがって! 」

 

と、その時。

戦闘不能に見えたヤツが足をガクガク震わせながら立ち上がり、コンクリの地面が陥没する程の踏み込みを持って俺の前に立つクシナダに殴りかかった。

ーー本気だ。さっきみたいに痛め付けるためではない、対象を殺害するための攻撃。完全に頭に血が登ってしまっている。

 

「……爛れ古龍」

 

俺は爪を押し当てて指先から血を流し、ぼそりと小さい声で自分の中に根付く『共生者』へ呼び掛ける。

そしてデコピンの動作で指を弾き、血液を数適だけヤツの体に飛沫させた。

 

「ぉ、お"ぉぉお"ぉぉぉ"!?!?」

 

ーーそれと同時。ヤツの体から無数の黒い龍腕が発生し、凄まじい膂力で床に叩き伏せた。

ヤツを中心にして放射状にヒビ割れた巨大なクレーターを作り上げ、地震でも起きたみたいにぐらりと校舎が揺れる。

 

べきゃり、体から嫌な音を立てて気を失ったヤツを見下ろしながら、クシナダは呆気に取られたような顔をしている。

 

「おい、そいつを適当な整形外科にでも連れていっとけ」

 

先程の意趣返しとして、俺は取り巻きの連中にそう言った。

ビビりながらヤツを引き摺っていく数人の男子を見て少し気持ち良くなりながらクシナダの方を振り向くと、俺の顔を真剣な顔で見詰めてくる。

 

……まさか、バレたか? 流石に無いとは思うが、こいつは割りと察しが良い。

 

「ナギサ……もしかして、今のは」

 

「え、な、なんのことーー」

 

「ボクはどうやら新しい能力に目覚めてしまったらしいっ!」

 

「は……?」

 

目をキラキラさせながら、大はしゃぎでクシナダは叫んだ。

 

「能力名は何にしようかっ!? 今ボクが発現させた黒い龍のビジョン……安直に行けば『アジ・ダハーカの腕』とか!? あぁでも旧約聖書の蛇から取って『†禁忌を誘う蛇†』も捨てがたいよね! それともいっそSF風に『Σ(シグマ)因子』とかもありだ……っ! ねぇなぎさ、何にすれば良いと思う!?」

 

「ぉ、おう……」

 

物凄い勢いで捲し立てつつ、俺の手を両手で掴んでぴょんぴょん跳び跳ねながらクシナダがそう聞いてくる。

……どうやら、俺にとって都合の良い方向に誤解してくれたらしい。"爛れ古龍"の腕を自分の能力だと思い込んでやがる。

こいつが末期の厨二病患者で助かった。

 

「……とりあえず、『破滅の龍腕(ドラゴン・ルイン)』とかどうよ」

 

「んー、採用!」

 

「マジで言ってんのお前」

 

 

 

「あ……ねぇナギサ、バンダイ。あそこにタピオカドリンクの屋台があるよ。久々にタピる?」

 

「今時タピるとかJKでも使うヤツ居ないだろ。と言うか、未だにタピオカの屋台なんてあるのかよ……」

 

「一攫千金を夢に多額の借金をしてタピオカ屋を起業した人が大半だから、ブームが下火になっても引くに引けない地獄みたいな状況らしいぞ!」

 

「キッツイなそれ」

 

学校が終わり、下校中。

三人で歩いているとクシナダが立ち止まって、道の端にあるタピオカの屋台を指差しながら嬉しそうな顔で寄っていく。

俺とバンダイは仕方なくそれに着いていき、屋台に並んだ。

 

「わぁ……凄いよこの店! 馬鹿みたいにメニューが多い! 『ゴブリンの脳漿(のうしょう)味』ってなんだろう!? ねぇどうしよう!? 注文しちゃおうかな!? わくわくが止まらないよ!」

 

「いや流石に攻め過ぎだろ!? 変な病気になりそうだから頼むの止めとけ!」

 

屋台の横に設置してあるメニュー表を見ながら叫んだクシナダに、俺は全力で突っ込んだ。なんだそのタチの悪い百味ビーンズみたいなバリエーションは。

えぇ……? 『リザードマンの水袋味』『ワイバーンの砂肝味』、他にも珍妙なのが沢山ある。頭がおかしくなりそうだ。

一体、どんな奴がこんなメニューをーー

 

「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりでしたら私に……あれ、うん? 後ろにいるのは……坊主か?」

 

「え?」

 

ハキハキとした声で挨拶をしてきた店員の顔を良く見ると、かなり見覚えがあった。

灰色の髪に精悍な顔立ち、普段の騎士鎧の代わりに青いエプロンを身に付けているその男は、俺を見て驚いた顔をしている。

 

「エリミネーターさん……!?」

 

「おぉ、やはり坊主か! 会うのは一週間ぶりぐらいか?」

 

営業スマイルを崩し、今度は自然な笑顔でエリミネーターが俺に言った。

……え、なんでエリミネーターさんタピオカ屋で働いてるの?

 

「どうして、タピオカ屋なんかで……? 」

 

「昨日のバイトで知り合った男が、タピオカビジネスに失敗した借金で首が回らないらしくてな。どうにか金を作るから、その間だけ店を預かって欲しいと頼まれたんだ。なんか変な書類にサインとか書かされたが……まぁ大丈夫だろう」

 

「へ、へぇ、大変そうですね」

 

「いや、接客は楽しいしそうでもないぞ」

 

楽しそうに笑うエリミネーターに、俺は自分の顔がひきつるのを感じた。

……借金、書類に変なサイン、店を押し付けられた。それって完全に騙されて逃げられたパターンなのでは。

 

今後お金に困ってるようだったら助けてあげよう。流石に可哀想だ。

何も知らないエリミネーターさんを尻目にそう決意しながら、俺はぐっと手を握った。

 

「それはそうと、注文は何にする? 昨日は徹夜してメニューを開発したんだ……このスイーツ飽和時代、生き抜くためにはやはり自分なりの個性を出すしか無いと思ってな。異世界風味のドリンクが勢揃いだぞ!」

 

「えっと、えっとえっと! ボクは『次元梟の幻覚味』と『ドッペルゲンガーが化けた思い人の膣で童貞を捨ててしまった男の悲痛な叫び味』で!」

 

「俺はイチゴミルクで……」

 

「わ、吾はバナナで」

 

「おぉ……! そこの少女、いや少年か? 中々分かっているじゃないか! まさか初見でオレの得意フレーバーを二枚抜きしてくるとは……!」

 

ノリノリでドリンクを作るエリミネーターさんに、俺は溜め息を吐いた。 人生楽しそうだなこの人。

それから数分でドリンクを完成させたエリミネーターさんは、『出来たぞ!』と言いながらカウンターに置いた。

 

クシナダのであろう奇妙な色合いのドリンク二つは、見ていると何だか不安な気持ちになる。

……どんな味するんだろ、ちょっと気になってきた。

 

「えぇっと、いくらですか?」

 

「いや、坊主の友人達だからな……オレの奢りだ。金は要らん」

 

「え、でも……」

 

「くどいぞ、一応オレだって大人なんだ。たまにはかっこつけさせてくれ」

 

『……それに』と言ってから、エリミネーターは声を小さくして言葉を続ける。

 

「あの大賢者を倒してくれたのはお前だ。ヤツが死んで、オレや亡き戦友たちの心がどれだけ救われたか……こんなでも、本当に感謝してるんだ。タピオカドリンクの四本や五本なんて安いものだぞ」

 

にこり、と穏やかに微笑んでエリミネーターさんは照れ臭そうに頬を掻いた。

……この人が居なければヤツに勝てた気はしないが、好意は素直に受け取った方が良いか。

俺はお礼を言ってからドリンクを受け取り、後ろの皆に『これ全部サービスだって』と伝えた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「え、ほんと? ありがとねおじさん!」

 

「おじっ……、あの、オレはまだギリギリ二十代で……」

 

エリミネーターさんの弁解をスルーして、クシナダがすたすた歩いていった。

俺とバンダイは、もう一度お礼を言ってからそれを追いかける。

 

「……ねぇ渚、さっきの人……知り合いだよね?」

 

少し先、広場のベンチに座りながらクシナダがそう聞いてきた。

 

「そうだけど」

 

「……どこで知り合ったの?」

 

「どこって……何か気になる事でもあるのか?」

 

妙に深入りしてくるクシナダの顔を見返すと、いつもの飄々とした態度とは裏腹に顔をしかめていた。

また、いつもの厨二病か……そう思いながら、俺は適当にあしらおうとしてーー

 

「ーー相当殺してるよ、あの人」

 

「……へ?」

 

「人も人じゃないのも、数え切れないぐらい」

 

ーーグシャリ、とドリンクの入ったコップを握り潰してから、クシナダはゴミ箱に投げ捨てた。

エリミネーターさんの作ったドリンクが、汚ならしく地面に撒き散らされる。

 

「あんな怪物とどこで知り合ったのかは知らないけど……あまり関わらない方が良いと思うな」

 

すくりと立ち上がり、クシナダは『明日また学校でね』と言い残して去って行った。唖然とする俺と、バナナドリンクを一心不乱に吸っているバンダイを残して。

 

「……」

 

「おいナギサ! これめっちゃ美味いぞ! 吾の中でだけタピオカブームが再燃しそうだ! ……ってあれ、どうした?」

 

「……いや、別に」

 

口の周りをべとべとにしながら叫ぶバンダイに適当な返しをしながら、俺は先程の発言の意味を考える。

……クシナダは、エリミネーターの正体を知っているのか?

それとも何か不思議な勘でもあるのか。

 

少なくとも単なる妄言とは考えにくい。

今朝に見せた異様な身体能力と言い、クシナダには注意する必要があるかもしれない。

 

 

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