【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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六話『熾天狩り』

「……なんだか、少しすっきりしたような顔してるわね。彼女と会えてそんなに嬉しい?」

 

「はい」

 

「それは否定しないのねぇ」

 

スティルシアの収容施設から出て数分後、俺は第一位と共に車に揺られていた。

高速に乗った車体がガタゴトと揺れ、それと一緒に外の景色が揺れ動いて酔いそうになる。

 

「悪いけど、頻繁には会わせてあげられないわよ。彼女が中心となって発生したとされる"白夜現象"……あれの再発を上は危険視してるの。超大規模な時間改変と天変地異ーーもう一度起これば、世界がどうなるか分からないもの」

 

俺に言い訳するように、第一位は目深に被った帽子の位置を整えながらそう言った。

……上の指示?

越法機関に片足を突っ込んだ"対異"のトップであるこいつの上には一体誰が居るんだ。

 

「……東弊さんの上って、誰なんですか?」

 

「私の上なんていくらでも居るわよ……? あくまで私は現場の指揮と統括を許可されているだけ。言うなれば中間管理職ね。本当に偉い方々は表舞台になんか顔を出さず、豪邸でワイングラス片手に私みたいなのを指図してるのよ」

 

第一位は、少しだけ悲壮感の漂う声でそう言った。

……あくまで現場で戦う駆逐官の中でのトップ、だから『第一位』か。なんだか合点がいった気がする。

 

「そうなんですか」

 

「あと私を呼ぶ時はひまりんと呼びなさい」

 

「嫌です」

 

「……これは命令よっ!」

 

「嫌です」

 

「ぐっ……! なんて意思の強い子なの……!」

 

ちょっと泣きそうになってる第一位を無視して、俺は再度窓の外を眺める。

高速で流れていく景色の向こう側に、青い空が広がってーー

 

「折角だからどこかでご飯でも食べて行きましょうか。ここら辺は美味しいお店が多くて……」

 

「……すいません東弊さん、車停めてください」

 

「な、なんでよっ! 私を車からつまみ出すつもり!? 何!?うるさいおばさんとは同じ空気さえ吸いたくないって言いたいの!?」

 

「いやそうじゃなくて……! あれ見てください!」

 

涙目で捲し立てる第一位だったが、俺が真剣な顔で窓の外を指差すと急にきりっとした表情になってそちらに視線を向けた。切り替え速いなこの人。

 

俺の指差した先にある光景を見て、第一位は眉をひそめるーー三キロ程先に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

高層ビルを越える高さまで吹き上がったそれらは、意思を持っているかのようにうねりながら移動している。

 

「……異界生命体かしら? それもかなり強力な……運転手さん。車止めて」

 

ハザードランプを点灯させながら車が路傍に停止し、俺と第一位は降車した。

俺はジャンプして3メートル程のガードレールの上に飛び乗り、高い所から火柱の動向を確認する……見える限り、火柱の数は三本。

 

「東弊さん、向こうに居る駆逐官に指令を……って、あれ」

 

辺りを見回すが、第一位が居ない。

どこにいったーー?と思いながらガードレールの下を見てみると、そこには頑張って壁をよじ登ろうとしている第一位の姿があった。

 

「……あの、登れないんですか?」

 

「……ふっ、ふふふ。全ての駆逐官が人外じみた身体能力を標準装備しているとは思わない事ね! 言っとくけど私の筋力は一般的なOLより少し下ぐらいよ!」

 

「なんでOLより運動できない人が武装組織のトップやってるんだ……」

 

背伸びしてぴょんぴょん跳び跳ねている第一位の手首を背中から発生させた爛れ古龍の腕で掴んで、ガードレールの上に放り投げた。

宙を舞って勢いよく着地した第一位は、『ひぃん!?』と変な悲鳴を上げながら倒れこむ。

 

「うぅ……お尻が痛いわ……あの、もっと丁寧に引き上げて欲しかったんだけど?」

 

不満を溢しながら第一位が携帯機器を操作し、何かを打ち込む……すると数秒後、俺の端末から着信音が鳴り響いた。

確認してみると、地図の位置情報と共に『添付された座標の一帯で異常現象が確認されました。現場付近の駆逐官は即座に向かってください』と書いている。

 

「……よし。これで現場の駆逐官が対処に当たってくれると思うけど……あの規模だと並みの駆逐官では厳しいでしょうね。私たちも向かいましょう」

 

『私は別の手段で向かうから』と言って、第一位がパチンと指を鳴らしーー次の瞬間、その姿は音も無く消え去ってしまった。咄嗟に辺りを見回すが全く見当たらない。

……掴み所の無い奴だ。身体は貧弱なのにこの高速移動。ワケが分からない。

まあ、それはひとまず置いといて……俺も早く向こうへ行かなければ。

 

「ーー"術式破綻"、エンジェライト『一翼』」

 

ーーその詠唱と同時、力がみなぎると共に青白い翼の紋様が俺の右手首に浮かび上がった。心臓がバクバクと脈打ち、全身の毛細血管が悲鳴を挙げるみたいに痛む。

 

……大賢者戦でエリミネーターさんが見せた"術式破綻"。本人は危険だからと教えてくれなかったが、この三ヶ月を使いなんとか見よう見まねで習得する事に成功した。見せたら腰を抜かしていたが。

無理無く出せる翼の枚数はまだ一枚まで。しかしそれでも二倍や三倍じゃ効かないレベルの身体強化を得られる。

 

「爛れ古龍、"包め"」

 

親指の爪で額を傷付け出血させる。すると傷口からめきゃめきゃと黒い龍鱗が成長してきて、あっという間に俺の全身を包み込んだーー世間が言う『無敗の駆逐官』とやら。日本総合四位にして討伐実績(キルカウント)一位、"龍人"の出来上がりだ。

 

「……行くか」

 

地面を軽く蹴り上げ、背中から炎魔術(カーネリアン)を発射させる。ジェットエンジンの要領だ。炎で推進力を生み出し高速移動する技術。エリミネーターさんに教わった。

これに加えて風魔術(ブレーナイト)で上昇気流を巻き起こせば、不安定ではあるが飛行出来る。三キロ程度の距離なら十分だ。

 

吹き荒れる暴風の音を聞きながら中空を進む。

数十秒後、先程火が吹き上がっていた場所の近くまで辿り着き地上を見下ろすと、そこにあったのは凄惨な光景だった。

発生場所は人通りの多い街中、東弊が指令を出す前から対処に当たっていたのか数人の駆逐官らしき人々が倒れている。勿論、一般人も数多く血を流して倒れている。

 

「あれは……」

 

その惨劇の中心部に居たのはーー()()()、人型の何か。空中からでは良く見えないが赤い剣みたいなのを携えて暴れまわっている。

俺はカーネリアンの発射向きを変更し、猛スピードで地面に向けて進む。

 

「な、なんだよこいつら……!? こんな奴らの情報、図鑑には……!」「まともなランカーが来るまで十分は掛かる!それまで絶対に食い止めろ!これ以上殺させるな!」「でも、あんなのどうすれば……!」

 

「ーーー」

 

人型の怪物たちと駆逐官たちとの間に、俺は轟音と共に着地した。衝撃でコンクリートに馬鹿でかいクレーターが発生する。

周囲のビルや地面は炎によって溶解しており、怪物の強大さが理解できた。

 

「りゅっ、"龍人"……ッ!? なんでこんなに速く……!?」「初めて生で見た……」「勝った……! 勝ちだ! おいお前ら! 怪我人を安全な場所まで連れていけ!」

 

背後で叫ぶ駆逐官たちに手を(かざ)し『待機』と伝える。

そして俺は初めてはっきりと目の前の"怪物たち"の姿を確認しーー絶句、した。

灰色の肌、口を除いて何も付いていない顔面、絶え間なく形状を変える炎の武器……極めつけ頭上に浮かぶ深紅の(リング)

()()()()()()()()()()()()()

 

『厄介ソウナノが、きタな……』『気を付ケろ。こイつは強い』『龍種、か……』

 

こいつらはーー

 

熾天使(セラフィス)の生き残り……お前が以前倒し損ねたヤツらだぜ。データより大分強くなってやがるが」

 

「……ジェレマイア」

 

背後から、金髪の男が俺に話し掛けてきた。

ジェレマイア……来てたのか。全身に傷があるが重症ではない、まだ動けそうだ。

 

……こいつの言う通り、熾天使は俺が以前"神の存在証明"の施設で逃がしてしまったモンスターだ。一体は倒したが残りの三体は倒せなかった。

 

「下がってろ」

 

臨戦態勢の天使たちを見据えながら踏み込みーー瞬く間も無く間合いを詰めた。突如として自分達の一寸先に出現した俺から呆気に取られた様子で逃げようとする天使の首根っこをひっ掴み、全力で地面に叩きつけた。

硬いアスファルトを突き破り、天使の体から力が失われる。

 

『バケモノが……』

 

地面に頭を陥没させて灰になっていく仲間を見ながら、天使はそう呟いた。……まずは一匹。

確かに強くなっているが、この程度なら何匹居ても問題ない。

 

『……チィ、祝詞(のりと)炎熱聖剣(カグツチ)!』

 

「っ……あの構え!? おい渚! 馬鹿でけぇ炎が来る! かわすぞ!」

 

残った二体の内一体の持つ炎剣が規模を増大させ、大規模な炎の奔流となって俺に襲い掛かってくる。

熱に景色が揺らぎ、後ろの駆逐官達が悲鳴を挙げながら逃げ惑う……遠くから見えた炎はこの技か。

俺はジェレマイアの持っていたマシンガンを勝手に奪い取り、それに青い葉脈を通す。

 

「術式装填、"アイオライト"」

 

『ーーッ』

 

ーーマシンガンから放たれた青い激流が、炎を掻き消してその先に居る天使の胴体を消し飛ばした。

横のジェレマイアが呆気に取られた顔で絶句している。

俺はズタボロになったマシンガンを投げ捨て、最後の天使へと歩み寄っていく。

 

「終わりだ」

 

『……クッ、クク。滑稽だな。愚かな先住民族……下等なサルどもめ。精々今は勝ったつもりでいると良い』

 

俺はブレード状に変形させた爛れ古龍の腕で天使の首をハネようとしてーーその奇妙な物言いに、手を止めた。

 

「……?」

 

『我らは、神を生み出す……! この腐った世界と終わったあの世を焼き尽くす完全神格を! 偽りの神々を崇め奉り死後の救いを信じる貴様らなどに! 幸せな結末などーー』

 

「そうか。分かった。死ね」

 

すぱんっ、と骨ごと首を断ち切り、俺はため息を吐いた。なんてこと無いただの妄言だった。

地面に転がる魔核を噛み砕きながら、俺は後ろを振り向く。

先程まで悲鳴を上げていた人々に対して『討伐完了』の意を込めて腕を挙げると、割れるような歓声と共に手を取り合って喜んだ。中には安心感からか泣いている者もいる。

 

「……いやー、やべぇ、マジでおかしいわお前。どうやったらその年でこんな強くなれんだ?」

 

「俺が天才だからだ」

 

「そうなんだろうけどムカつくなお前な……はは、クラスとかで嫌われてるタイプだろ渚」

 

「……」

 

「えっ、マジか、ごめんな」

 

俺はジェレマイアに無言で背を向け、歩き出す。

泣いたり笑ったり尊敬だったり色々な表情でお礼を言ってくる人々に背を向けながら、この場から離れようとしてーー

 

「お見事だわ……さすがは無敗の駆逐官って所ね」

 

「……うげっ、第一位」

 

ーー人混みを割り、ぱちぱちと拍手をしながらやってくる金髪の美貌を見た。

 

「おいおい……ここに来て重役出勤かよ第一位? 戦いはもう終わっちまったぜ」

 

「ジェレマイア、その人の事はひまりんって呼んで良いんだぞ。そう呼ばれたいって俺に言ってきた」

 

「え、マジ? じゃあ来るのが遅いぜひまりん!」

 

「は? ぶん殴るわよ貴方」

 

「ひでぇ!?」

 

第一位に睨まれ後ずさるジェレマイアを哀れに思っていると、こほんと咳払いしてから第一位が口を開く。

 

「……とにかく、よくやってくれました。龍人。あと民間人を守った他の駆逐官もね。報酬には色を付けておきましょう」

 

「俺も頑張ったぜひまりん!」

 

「死ね」

 

「ひまりん!?」

 

ジェレマイアが『ぐっ……初対面の時のエスカレーターで第一位って知らなくて尻揉んだのがマズかったのか……!?』と嘆く。

100パーそれじゃねぇか。

 

会話のキャッチボールと言うかドッジボールをしている二人の声を聞きながら、俺は冬の気配がし始めている秋空を見上げた。

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