【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
こっちは少し短いですけど次の話がどちゃくそ長いです。
──炎魔法が直撃した。
肉の焼ける臭いと、絹を裂くような白龍の悲鳴が響き渡る。爆煙に遮られて向こうの様子は
その光景を見て、エリミネーターが感心したような溜め息を吐いた。
「これは……凄いな。単発の威力だけならば精霊王をも凌駕するか。随分と腕の良い魔導師がいたものだ」
「スティ……精霊王に?」
「あぁ。全盛のヤツはこれに近い規模の魔法を秒間三発は撃ち込んできたが」
「……えぇ?」
ならもうスティルシアを連れて来れば──と思ったが、今のあいつは俺たちに協力なんかしてくれないか。
前に会った時の冷たい眼差しが脳裏に浮かぶ。あれは完全に人類を敵視してる感じだったし、力を借りるために解放なんてしたら逆に被害を出しかねない。
「……これが、日本の対異が今出せる最高火力よ。もっと破壊力のある兵器とかもあるにはあるんだけど、馬鹿ども……あぁいえ。上層部に邪魔されて持ち出せなかったの。ナントカ国際法の何条がどうたらこうたら言ってきて」
眉間に皺を寄せて黒煙の壁を見つめる第一位が、忌々しそうに言った。
兵器……って言うとクシナダが盗み出してきた対異のデータにあった『ぜんまい仕掛けの神』とかか。上振れした時にはスティルシア並の力を発揮するとか言う異世界のヤバい道具。
……ていうか、
「クリシュタもあの白龍も、明らかに日本どころか世界の危機だと思うんですけど。なんで使用許可が降りないんですか?」
「上層部は今回の騒動を『土着宗教団体のテロ』程度としか認識してなかったの。その教祖が大賢者や南極の龍王クラスの脅威だったって事も、ましてや地下にあんな怪物が居たって事もつい最近判明した事だからね。きっと今頃あいつらてんやわんやよ」
『ざまあみなさい上層部。……あぁでも結局事後処理を押し付けられるのは私か……』と疲れ切った目で萎えている第一位を横目に、俺は薄れ始めた黒煙の向こう側を睨む。
……あの規模の攻撃だ。流石に無傷というのはないだろうが──確信に似た、こんなあっさりアレが死ぬわけ無いという予感も同時に
一年にも満たない戦闘経験。しかし濃く鮮烈なそれにより培われた"直感"のようなものが、俺にそう告げている。
「……恐らく、殺し切れていないぞ」
エリミネーターも俺と似たような理由でか、そう言った。
薄れた煙の壁の向こうに白龍のシルエットが浮かび始める。案の定、元気そうにのたうち回っているのが見える。
『
八つあった首の内、右側二本の頭が消失していた。純白だった全身の鱗は所々黒く焼け落ち煙を上げている。
──しかし、健在。
ダメージを与えられてはいる。今の炎魔法をあと数発撃ち込めれば勝機はあるだろう。と言うか有効打になりえる攻撃が他に思い付かない。
ランキング第五位……"塩漬けの魔人"だったか。そいつの魔力量次第だ。
「東弊さん。さっきの炎魔法って、あと何発撃てますか」
「……もう無理ね。あれ破壊的に燃費が悪くて、一発のチャージに三日は掛かるの」
……まあ、そりゃそうか。あの威力の魔法を連打なんて出来たら、とっくに俺よりランキングが上なはずだ。
戦況は深刻。こちらの戦力である駆逐官の中でもトップクラスのランキングかつ、一撃特化型の"塩漬けの魔人"。その全身全霊をかけた攻撃ですら首を半数も落とせなかったのだから。
「そう……ですか」
「けれど──援軍のアテはあるわ。本当はあの教祖を倒すために呼んでたんだけど……まあ、結果オーライね」
携帯端末片手に、第一位はそう言った。
「援軍?」
「実はね、日本海近域の守護任務に当たっていた"第二位"に救援要請をしておいたの。多分もうすぐ来る筈よ。……あの人、何度言ってもメール返信してくれないから少し不安だけど」
「……あいつが」
第二位──大賢者との戦いで、俺とスティルシアに漁夫の利かましてきやがったあの槍使い。ムカつく奴だが力は確かだ。来てくれるなら相当な戦力になるだろう。
ヤツにあの白龍の分厚い鱗を貫ける手段があるのかは不明だが。
「……待って、嘘でしょう?」
その時、第一位が遠くの白龍を見ながら震えた声でそう呟いた。俺もそれに釣られるようにして、白龍へと視線をやり──言葉を、失った。
「──
──水蒸気を放ちながら、頭が焼け落ちた首の断面がボコボコと盛り上がる。沸騰した液体状の筋肉が少しずつ龍頭の輪郭を形作っていく。
喪われたはずの頭部は、わずか数秒で完全に治癒した。いや、むしろ消し飛ぶ前より一回り以上大きい。
「ねぇ渚。ボクがなぜ対異の情報なんか集めてたか分かるかい? 確実に勝てるかどうか調べるためだよ」
「っ、クシナダ……!」
「そしてその上で断言しよう。
白龍が再び進行を開始した。加速度的に地面を取り込むペースを上げて、その体躯を更に神話的なサイズへと成長させていく。
──既に、首をもたげた登頂部は大気圏まで到達するか。
それに加えて万里の長城すら遥かに凌ぐであろう体積。星を物理的に喰らい尽くす埒外の災禍。
まったくもって、勝てる気がしない。
「だから渚。無駄な抵抗はよして、特等席からゆったりと星の終焉を見守ると良いよ」
「……なんで、こんな事するんだよ」
「だからさっきも言った通り──」
「違うだろ……!? 世界を恨んでるとか滅ぼすとか……!それは、俺とバンダイと普通に学校行ったり、買い食いしたり。そういう日常を全部壊してまでする程、大事な事なのか!?」
その言葉に、クシナダは一瞬だけ空を見上げて黙り込んだ。
それからきゅっと口をつぐんで、鼻から息を吐いた。
「…………そうだね。確かにボクは君たちの事が大好きだよ。正直な所、君やバンダイと一緒の日々を守るためなら、この力で異世界の連中相手に戦う事も
「なら……」
「──けどね? ぼくは、ボクは無理なんだよ。世界が滅ぼうが存続しようが、もう君たちと一緒にはいられないんだよ」
どこか泣きそうな顔で、クシナダはそう言った。
「なんで」
「……少し、話し過ぎたかな。なんにせよボクは止まらない。この腐った世界を食らい尽くすまで進み続ける」
俺の説得空しく、白龍は変わらず大地を貪り続ける。……分かってはいたが、言葉じゃ止まってくれないか。
「おい陽葵……あれを、殺せば良いのか?」
──その時、白龍の這いずる轟音を裂くように男の声が世界に響いた。
咄嗟に振り向くと、そこには白と金が混ざりあった髪色の男……"第二位"が、複雑な紋様の鞘に収まった剣を携えて白龍を睨んでいる。
「遅いわよ、第二位。あなたの脚ならこのぐらいの距離すぐの筈でしょ」
「悪いな」
第一位が、横に佇む第二位に対して悪態を言った。
第二位はそれを軽く受け流して、一歩前に出る。
「ドイツ支部の"聖剣"を取りに行っていた。……いや、向こうがゴネてきたから力ずくで持ち出したと言う方が正しいか。だがそれで正解だったな。あれが完全に育っていたら、誰も手の付けようが無かったかもしれん」
右手に持った剣を見せつけながらそう言った第二位に、第一位は顔を青くする。
「ドイツから力ずく……? え、それ普通に国際問題なんだけど」
「知ってる。後始末は頼んだぞ」
「あ"あ"ぁ"っ!? もう、なんなの!?、どいつもこいつも私を過労死させる気なの……!?」
「…………なぜ」
『また、また地獄の残業生活が始まるの!?』と頭を抱え取り乱す第一位とは対照的に、エリミネーターは唖然としたような顔で第二位の背中を見ていた。
「なぜ、あの人がここに……!?」
ぼそり、と漏らされたその呟きを俺は聞き逃さなかった。
……『あの人』だって? エリミネーターは第二位と面識があるのか?
「エリミネーターさん、あいつの事知ってるんですか?」
「……あぁ、知っている。良く知っているとも」
俺の問いに、エリミネーターはどこか煮え切らない様子ながらもそう返答した。
第二位は剣の鞘に手をかけて、今にもそれを抜き放とうとしている。
「あの人は、
第二位の持つ剣が完全に鞘から解放された。光すら反射しないほど濃い漆黒の刃が
異様な空気を纏うその剣を、クシナダは怪訝そうに見つめている。
「……術式装填の、開発者」
「そう──……そして。オレの師でもある。禁忌を犯し、とっくの昔に勇者様の手で葬られてしまった筈なのだが」
……エリミネーターの、師匠? つまりヤツは元々異世界の人間と言うことか?
無数の疑問符が頭に浮かぶが、当の本人は俺の視線など気にも止めず漆黒の剣を片手に白龍へと歩を進める。
そして──剣を振り上げたかと思うと、まだ間合いにも入っていないのにも関わらず、無造作に振り下ろした。
「──薙ぎ払え、
──剣から発せられた黒い光が、白龍を呑み込んだ。
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『file■-Ϡ 【星
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