【書籍発売中】田んぼでエルフ拾った。道にスライム現れた   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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七話『動乱する世界』

【全国に出現した謎の武装集団は、指定宗教団体『神の存在証明』の信者たちであると判明しました。彼らの用いる兵器は米軍基地から盗み出された物と推測されますが、国より迅速に動き多くの人命を救った彼らを英雄視する世論もーー】

 

「大変そうだねぇ……外は」

 

「……そうだな」

 

緑茶をすすり、ぷはっと溜め息を吐くスティルシアを尻目に俺はテレビのニュースを渋い顔で見ていた。

……『神の存在証明』。昨日俺を助けた白フードの集団だ。

 

 

結果を言えば、ゴブリンたちは自衛隊や機動部隊……そして『神の存在証明』の力によって大方が鎮圧された。

 

まだ残っている所もあるらしいが、すぐに討伐されるとの事だ。

全国での死者は推定で五千人。怪我を負った人も含めれば十万人を越えるらしい。

 

そんな大変な事になってるからもちろん学校は休みになった。

だからこうして、朝っぱらからテレビを見ながらスティルシアと煎餅をかじっている。

 

画面の向こう側では大層な肩書きを背負った専門家やらコメンテーターたちが、やつらはアメリカの新型兵器だのエイリアンだのと苛烈な論争を繰り広げている。

 

「この……りょくちゃ? おいしいね。すぐトイレに行きたくなるのが難点だけど」

 

「カフェインが多いからな」

 

まったりするスティルシアに反して、俺の心情は穏やかではなかった。

スライム、ゴブリン……次は、何が来るか。

 

第二波のゴブリンでさえ人間社会にここまでの打撃を与えたんだ。

これより強いのが来たら、世界は一体どうなってしまうのだろう。

 

「……どうしよう、婆ちゃん」

 

無意識に、ぼそりと口からその言葉が出た。

……あの人はもう居ない。俺は一人で祖母の残したこの場所を守り続けなければいけないんだ。

 

「一人じゃないよ」

 

「……?」

 

その言葉に、俯けていた顔を上げる。

スティルシアの赤い瞳が、俺の像を写して猫のように細まっていた。……思考を読まれたのか。

 

「……私は君のお婆さんみたいに立派な人じゃないし、その人以上に君を強くしてあげる事もきっとできない」

 

『でもね』と言ってからスティルシアは更に続ける。

 

「どんな強い人にも、そよ風で倒れてしまうぐらいに心が弱くなる日は必ずあるんだ。恥じる事じゃない。そういう日は、近くにいる人に甘えて良いんだよ」

 

『私とか!』と言わんばかりにスティルシアは笑顔で両腕を広げた。それについ笑ってしまう。

なんか、こいつを見てると全部大丈夫な気がしてきた。いや気のせいなんだろうけど。

 

「ぷっ……げ、元気出たよ。ありがとな」

 

「そうでしょ。伊達に千年は生きてないよ……んっ、ごめっ、ちょっと、喋るのに集中し過ぎた……トイレ行ってくる!」

 

「子供じゃないんだからいちいち言うなよ千歳児。漏らすなよ」

 

「あぁぁぁ……なんでこんなに廊下が長いのさ……」

 

余裕無さげにトイレへ走っていくスティルシアを見送り、俺は再びテレビへ目線を写した。

どこの局もゴブリン事件で持ちきりで、同じような内容ばかり放送している。

 

面白いのはやってないか、出鱈目にチャンネルを回していると、とあるニュースが俺の目に止まった。

 

【昨今の異常事態を受け、新たに対策本部を特設する事が決定しました。対異常生命体専用の駆除機関を編成し、更には未知エネルギー凝固体、通称"アカダマ"を入手または摂取した民間人にも協力をーー】

 

今回の被害で事の重大さに気が付いたのか、国も本格的にモンスターへの対応を始めたらしい。

 

これで対抗出来ると良いが……あの巨鬼のバケモノっぷりを見てると、どうしても不安になってくる。

 

『魔核を取り込み一人で中型のゴブリンを倒した英雄』として表彰されている若者を見ながら俺はそう思った。

恐らく一人の英雄像を作り上げて、それを旗印に民間人に協力を募りやすくするのが狙いだろう。

 

ちなみに、先日スティルシアが倒した巨鬼の魔核は結局発見出来なかった。本人曰く『焦ってて心臓ごと吹き飛ばしちゃった』との事。わけが分からないよ。

 

「ふぅ……あ、あと二メートル遠かったら出てた……老人に優しくないよこの家は……」

 

ほっとした様子のスティルシアが手を拭きながら居間に返ってきた。

俺の横の座椅子にぽすっと座って、テレビの情報に耳を傾ける。

 

「魔核を取り込んだ民間人にモンスター討伐の協力を仰ぐって……ギルドみたいな事するねぇ、この国の政府」

 

「やっぱり、そっちの世界には冒険者ギルドとかあるのか?」

 

「大昔の話だけどね。最近はもっぱら勇者兵が……いや、この話はやめとこう。胸くそ悪いから」

 

今まで聞いた事が無いぐらい冷たい声でスティルシアはそう呟いた。

……まあ、向こうの世界の事はどうだって良い。

大事なのはこちらの世界でどうモンスターに対抗するかだ。

 

「……スティルシア、次はどんなモンスターが送られて来ると思う?」

 

「そうだねぇ……正直言うと、あまり予想できないんだ。ゴブリンが来たから次はハーピーかオーク、それともサイクロプスか……はたまた、調子に乗って竜種の末端まで出してくるか。向こう次第だからね」

 

……次に来るモンスターの種類は絞れない、か。

特性や強さが分かれば被害を抑える事も出来るかもだったが、分からないものは仕方がない。

 

それに……本当に聞きたい事は、もう一つある。

魔核を食らった魔物の、異常な変化についてだ。

 

「……昨日、ゴブリン同士が共食いして巨大化するのを見たんだけど。あれはなんだ?」

 

「あぁ……見たのかい。あれは"昇華"だよ」

 

……"昇華"? なんだそれ。

 

俺が疑問そうにしていると、スティルシアは引き出しの中からスケッチブックを引っ張り出してきて、そこに『モンスターの生態について!』とでっかく書いた。

 

「良い機会だ。このスティルシア先生がモンスターについて、じっくりこってりばっちゃり教えてあげよう!」

 

「擬音が気持ち悪いなお前な」

 

鼻唄を歌いながら紙面にマッキーペンを滑らせるスティルシア。

数分後、書き上がった何かの図をどや顔で『でんっ』と言いながら見せてきた。

 

「……なんだよそれ?」

 

「モンスターの進化図だよ。これはゴブリンの場合だね」

 

良く見れば、それは何体かの大きさが違う人型生物の絵だった。矢印でどれがどう変化するか書いてある。

下手すぎて大まかな形とサイズしか違いが分からないが。

 

_____________________

【ゴブリン(通常種)→ホブゴブリン→ゴブリン・エース

 

ゴブリン・ジェネラル(亜種)→ゴブリン・キング】

 

オーガ(突然変異)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「ざっとこんな感じさ。昨日家の前で倒したのは『オーガ』だね」

 

……俺が見たのは、通常種とホブ。あと変異体のオーガだけだな。

こいつの言う『エース』個体も『ジェネラル』個体も見てない。

 

「……オーガが一番強いのか?」

 

「いいや、エースが最強だよ。オーガは図体ばっかデカくて頭が弱いし、キング個体の統率にも反発するし……通常種より少しマシぐらいじゃないかな」

 

「マジかよ……けど俺はエースもジェネラルも見なかったぞ」

 

「進化個体が発生するのには時間が掛かるからね。今回は早急に数を減らせたから大丈夫……まあその場合もっと厄介なのが出ることもたまにあるんだけど、きっと問題無いよ」

 

本気でゾッとする。あの身体能力の怪物たちが更に強化されて尚且つ群れとして統率されるなんて考えたくも無い。

 

「お前の世界で、人間はゴブリンにどうやって対応してたんだ?」

 

「種として絶滅させたよ。国が駆除を始めてから三日ぐらいで」

 

「……え?」

 

「まあ、正確には『魔核まで戻した』だけどね。モンスターというのは基本的に不滅なんだ。核を放置すればすぐ復活するし核を取り込んでも取り込んだ人間が死んで土に還ればまた発生するし……だから別世界に送る必要があったんだね」

 

別世界に転移伝々の話で多少察してはいたが、どうやらスティルシアの世界はそこらへん物凄く発展しているらしい。

 

一つの種を絶滅させるなんて今の人類でも簡単な事じゃない。

中世ファンタジーな世界を想像していたが違うらしい。

 

「……凄いな、そっちの世界は」

 

「いいや、こっちの世界の方が何倍も素晴らしいよ。技術を破壊のためでなく人々の豊かさの為に役立ててる。それにこの国は戦争をしないんだろ? そんな国家が存在できる世界がどれだけ凄まじいか」

 

「そうかなぁ……」

 

「そうだよ」

 

そう言ってから穏和な笑みでお茶を飲むスティルシアを見ていると、俺のスマホが誰かからの着信を鳴らした。……バンダイからだ。ラインがきている。

 

【おい! テレビとかSNSで、中型のゴブリンを一匹倒したとか(のたま)う奴が英雄視されてるぞ! 貴様なんか二体も倒してたよな!? これを世間に知らしめれば貴様は真の英雄になって、吾にもコスプレイヤーの彼女が出来るぞ!】

 

【知らしめねぇよ。あとなんでお前はちゃっかり御零れに預かろうとしてんだ】

 

適当に返信してスマホの電源を落とす。

それからソファに寝転がって天井の木目を見ていると、スティルシアにちょんちょんと肩を叩かれる。

 

振り向くと、テレビゲームのソフトを持ったスティルシアが立っていた。

 

「ねぇ、二人でこれやろうよ」

 

「うん……? あぁ、ドラクエか。このご時世にやるゲームじゃねぇだろそれ」

 

「良いから良いから! 私は魔法使いやるね!」

 

「クソ打たれ弱いぞその職……」

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