SPECIALになるために   作:Zuiki

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第12話 VSデリバード

 ヒワダジムでの激戦を勝ち抜き、ツクシからインセクトバッジを受け取ったカズトは、早朝にヒワダタウンのポケモンセンターからチェックアウトし、町の外まで歩みを進めていた。

 理由としては、ゴールドに少しでも早く追いつきたいからである。先日は自分の用事につき合わせるわけにはいかないと思い先に行ってもらったが、長年共に過ごしてきた相手と一緒に旅をしたいというのはカズトの本心であった。タイミングこそ違ったものの、同じ旅を始めた身として、行く先々での感動を共有してみたいという思いがある。

 お互いの目的も少しずつ違うので、ずっと一緒というわけにはいかないだろうが、同じ時を過ごすというのもかなり魅力的だ。

 

 きっとゴールドはすでにコガネシティへとたどり着いていることだろう。

 少しの焦燥と期待に胸を震わせ、カズトはウバメの森へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「うーん、まだ日が昇って時間が経ってないとはいえ……暗いなぁ」

 

 現在時刻は午前九時。まだまだ一日はこれからだが、ウバメの森の中は青々と茂る木々によって上空まで覆われており、なかなか日が差し込まず薄暗い。おまけに霧が出ているため、それが視界の利きにくさに拍車をかけている。

 手持ちのポケモンたちも普段ならボールの外に出て一緒に歩くのだが、この霧の中で万一はぐれると探すことができなくなってしまい大変なことになると考え、ボールの中に収まってもらっている。

 

 しかし、今日ウバメの森に霧が出ているという情報はヒワダタウンのポケモンセンターには入っていなかった。確かに霧が出るときもあるにはあるのだが、今日は寧ろ一日中快晴で霧など出ることはなかったはずだ。それだけではない。

 

「にしても寒くないか? ウバメの森にはこおりタイプのポケモンは生息してなかったよな?」

 

 現在ウバメの森は吐き出す息が白く見えるほどの寒さの中にあった。

 旅の最中に何が起こるか分からないから、服は長袖を着ている方が良いという母のアドバイス通りにしていたのが功を奏し、カズト自身が寒さで動けなくなるということはない。

 だが、こおりタイプが苦手なメンバーには多少なりとも影響が出るかもしれない。それほどまでに異様な冷気が森の中を満たしていた。

 先ほどは木々の隙間から確認できた野生ポケモンの姿が見えなくなったことからも、この霧が普通のものではないことが分かる。

 

 カズトが周囲を注意深く確認しながら森の中を歩いていると、ふと視界の端に赤と白の色をした鳥ポケモンがよぎった。

 

「デリバード?」

 

 その姿を確認したことにより、この状況の異質さに納得がいった。

 デリバードはこおりタイプのポケモンであり、温暖な地域ではほとんど確認されたことがない。生息するならこの森の気温くらいがちょうど良いくらいだろう。

 

 デリバードの存在によってこの異様な冷気に対して納得はできたが、それと同時に新たな疑問も浮かび上がる。

 そもそも、デリバードはウバメの森には生息していない。ジョウト地方のもっと北部に生息しているはずだ。このことからも、あのデリバードが野生のポケモンである可能性は低い。

 ならばトレーナーがいるはずだが、だとしてもここで霧まで広げる理由が分からない。何か嫌な予感がしたカズトは、足早に森を進むことにした。

 

 ところが、先を行くために足を踏み出したその時、目の前の地面が一気に凍り付いた。

 

「"ふぶき"?!」

 

 攻撃してきた相手を見ると、そこにはやはりデリバードの姿があった。

 道を塞ぐような様子を見せるデリバードにさらに不信感が湧き上がるも、森を抜けるためにはこの道を通らなければならない。迂回路もないわけではないが、今からとなるとかなり時間をロスすることになる。

 

「どういうことかは分からないけど、やるならこっちも全力でやらせてもらうよ! マグナ!」

 

 直接の相性は悪いが、技で弱点をつけるタツベイなら可能性はある。どうやら近くにトレーナーの姿もないようなので、普段のパフォーマンスを発揮できない今なら活路は見いだせるはずだ。

 

「"ひのこ"!」

 

 タツベイから放たれた炎は勢いよくデリバードに向かう。

 ただの"ひのこ"だとしても、こおりタイプのポケモンからすれば大きな脅威になる。長期戦は寒さでパフォーマンスが落ちてしまうため、できればこの一撃で手早く決めてしまいたいとカズトは考えていたが、物事というのはうまく進まないのがこの世の常だ。

 

 デリバードは避ける素振りなど見せず、向かってくる炎を翼の一振りで冷気を起こしかき消してしまった。さらにはその余波でこちらにまで冷気をまとった風が襲いかかってくる。その風はさながら"こごえるかぜ"のようで、タツベイはあまりの寒さに動きが止まってしまう。

 技を出さずただ冷気を放っただけでタツベイの"ひのこ"を打ち消しただけでなく、さらにはこちらに反撃までしてきた。

 この瞬間、カズトは目の前のデリバードが相当レベルの高いポケモンで、今の実力では到底勝ち目がないことを悟る。

 

「戻れマグナ! 頼んだゴース!」

 

 すぐにタツベイをボールに戻し、ヒワダタウンで仲間になったゴースたちを繰り出す。

 

「"あやしいひかり"!」

 

 十体にも及ぶゴースが放った"あやしいひかり"は、薄暗かった森の中を一瞬だけ真っ白な光の世界に染め上げた。今の光を正面から食らってはしばらくまともに動くことはできないだろうとデリバードの横をすり抜け森の奥まで走る。

 

 これは無数の光による疑似的な閃光弾と、"あやしいひかり"が本来持つ混乱状態の付与効果による二段構えで相手を妨害し、戦闘を強制的に離脱する逃走術だ。散々ゴースたちに追いかけられたことから痛感した逃げる手段の必要性を、それに気づかせてくれた本人らが補ってくれた。

 他にもいくつか、やむを得ない場合に備えたコンビネーションのパターンは練習しているが、正直に言ってそのような事態に何度も遭遇することは避けたい。安全に旅を続けることが大事なのだ。

 

 特訓の成果を感じながらも全力で走り、やがて出口まであと半分を切っただろうかという地点にたどり着いた。すると、不意に開けた場所にポツンと小さな祠が建っているのが目に入った。

 

「祠……?」

 

 この森の神様でも祀っているのだろうか。

 一度家族旅行でエンジュシティを訪れたとき、観光したものの中にスズの塔があった。そこで見た塔について記されていた文に、歴史や縁がある地域にはその威光を讃えるために堂や祠を建てるという記述があったのを思い出す。

 カズトはこうしたその地域に所縁のあるものが好きだ。何より風情があり、その地についてもっとよく知れるような気持ちになる。

 

 ここまでかなりの距離を走ってきたことによる疲労も大きい。息を整えるという意味でも休憩がてら祠を見てみようとカズトは祠の方へ歩みを進める。

 

 しかし、祠まであと数歩というところでカズトの足は踏み出すことをやめてしまう。いや、正確には踏み出すことを禁じられてしまったというべきだろう。

 カズトの右足は地面や周りの植物ごと凍らされていた。

 

「嘘だろ!? もう追いついて――」

 

 カズトが驚きの声を上げるよりも早く、凍てつく暴風が木々を氷漬けにし、周囲を氷で埋め尽くしていく。

 そしてものの数秒で、見渡す限り氷で埋め尽くされた森が完成した。それはカズトの逃げ道を塞ぐように辺りを囲っており、さながら氷の牢獄に見える。

 

 牢獄とその中心に立つデリバードを見て、カズトはようやく自分が判断を間違えたことに気づいた。

 初めてデリバードとエンカウントし"ふぶき"で牽制されたあの時。あれが最初で最後の警告だったのだ。「これ以上進めば命の保証はない」というデリバードからの慈悲だったのだ。

 

 しかし結果カズトは森の奥へ進んでしまった。

 理由は分からないが、あのデリバードは森への侵入者を排除するよう命令を受けているようである。どれだけ本気なのかは、現在進行形で感じているデリバードからの空気を揺るがすような殺気が如実に説明している。

 こうしている間にも冷気は鋭さを増し、カズトの身体を侵食していく。腕まで凍らされ、もはやポケモンを出して抵抗することすらできない。

 

 カズトの体はひどく震えていた。

 凍えるような寒さのせいだけではない。目の前のデリバードが放つ殺気はカズトに死を予見させるには十分すぎるものだった。

 

 今から、死ぬ。

 

 これが現実であることを突き付けるかのように、氷で覆われた身体がその冷たさに痛みを訴える。震える身体から体温が、感覚が失われていく。

 

「ハァ、ハァ……ク、ソ」

 

 どうにかして氷からの脱出を図るが、抵抗むなしく、デリバードが力を発揮すると同時に一段と鋭い冷気がカズトに襲いかかる。徐々に薄れる視界の中、遂にカズトの意識は完全に途切れた。

 彼が最後に見たのは、デリバードの後ろでわずかに光を放つあの祠だった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「う……ここは? どこだここ?」

 

 状況を確認するために周りを見渡したカズトはそこが先ほどまでいたウバメの森ではないことを認識する。周りは不思議な力で満ちており、目につくのは謎の空間模様のみ。極めつけに、自分はその空間の中で浮いているようで、妙な浮遊感がする。

 

「確かオレは、あのデリバードの"ふぶき"を喰らって――」

 

 異常とも言えるほどの強さを持ったデリバード。彼が放った"ふぶき"は間違いなくカズトを捉えていた。

 全身の感覚がなくなっていくあの恐ろしい感覚は忘れようがない。命の灯が消えていく感覚だ。幻ではなく現実として感じたあの時の恐怖を思い出し、カズトは身震いした。

 

 実はカズトが命の危機を感じたのはこれが初めてではない。

 ホウエン地方にいた頃、まだ病弱だったこともあり様々な病に罹っていたカズトは、あるときひどい高熱にうなされたことがあった。40度を軽く超える熱は幼かった彼の限界を上回り、当時はもうもたないかもしれないとまで言われていたそうだ。実際自分もその時はいま生きているのかすらあやふやだった記憶がある。

 

 とはいえ、過去に死にかけたからといってそれに慣れるということはない。やっとの思いで気持ちを落ち着け、今一度自分が浮いている空間に目をやると、先ほどは何もなかった空間から新たな何かが現れたのを確認した。

 

「ポケモン……?」

 

 現れたのはカズトも見たことのない、黄緑色の身体に蒼い大きな瞳を持った小さいポケモンだった。今はコノハナに進化したが、彼の相棒の一匹がまだタネボーだった頃とサイズはそう変わらない。子どものカズトでも腕で包み込めるくらいのそのポケモンはフワフワとカズトの目の前まで浮かび上がると、静かに目を閉じた。

 

「これッ――」

 

 カズトの前に一つの映像が映し出され、そして彼はそこに映っている人物にひどく憶えがあった。

 

「ゴールド!」

 

 その映像には、傷だらけになりながらもポケモンたちに指示を出し、誰か――仮面の男――と戦っているゴールドの姿が映し出されていた。背景となっている木々や霧から、これがウバメの森での戦いであるとカズトには分かった。

 ゴールドが戦っていたのは、カズトも戦ったデリバードの他にゴースやアリアドス、デルビルといったくさタイプやエスパータイプにめっぽう強いタイプで構成されたポケモンたちだった。

 

「早く助けに行かないと!」

 

 友人が自分を殺そうとした相手と戦っている。

 これだけでもカズトの心を揺さぶるのには十分だった。しかし、焦るカズトの服をつかみ黄緑色のポケモンは首を振る。その反応がカズトをさらに苛立たせた。

 

「オレの友達なんだ! 助けなきゃ!!」

 

 カズトが半ば怒鳴るように気持ちを伝えても、そのポケモンは態度を変えない。代わりに映像が早送りのようになり、そのすぐ後、ゴールドが森を脱出した様子が映し出された。

 急な展開に唖然とするカズトを横目に、新たな映像が流れだす。その映像はカズトをさらに驚かせるのだった。

 

「オレ?! しかもこれ、さっきの……」

 

 驚くのも無理はないだろう。そこに映っていたのは、自分がデリバードの"ふぶき"を喰らっているという、つい先ほどまでウバメの森であった出来事なのだから。しかし、自分が氷漬けにされていく姿を見るというのは何とも嫌な気分である。

 

 胸中でモヤモヤとした感情を抱えながら映像を見ていると、変化が現れた。現在目の前にいるポケモンが突然出現し、光を放ったかと思うとカズトごと姿を消したのだ。

 カズトはそこで、このポケモンが自分を助けてくれたのだと理解した。しかし、また新たな疑問が浮かぶ。

 

「君はどうしてオレを助けたんだい?」

 

 確かに死にかけていたとはいえ、それだけではポケモンが見ず知らずの人間を助けるという理由にはならない。一部ではそういう習性があるポケモンもいるが、カズトにはこのポケモンは習性としてそのようなことはしないという謎の確信があった。

 

 その不思議なポケモンは、カズトの問いに答えるかのように三度映像をカズトの前に広げた。

 それは、最初の映像でゴールドが戦っていた仮面の男とカズトが相対している様子だった。仮面の男はどこかの施設を襲撃しているようで、カズトはそれに立ちはだかるように男を睨んでいた。

 もちろん、カズトにこの映像の場面に立ち会った記憶はない。何せあの仮面の男はゴールドが戦っていた映像で見たのが初めてなのだから。

 

 過去でも現在でもない。ならば、残る答えは一つ。未来である。

 そしてこのタイミングで見せられたということは、この未来は可能性としての未来ではないのだろう。

 おそらく、運命。

 

「これは、決まった未来の映像?」

 

 カズトの問いに今度はポケモンも頷きで答えた。

 ようやく話が見えてきた。このポケモンはどういうわけか過去や未来に干渉することができ、未来でカズトが仮面の男と戦わなければならないということを知っていた。そのため、あの森でカズトが命を落とすわけにはいかなかったのだろう。だから助けた。

 

「いや、君に助けられることこそが運命で決まってたことだったりして?」

 

 ポケモンは意味ありげに微笑みを浮かべると、カズトの前から飛び去って行った。それと同時に、カズトの身体は何かに引っ張られるかのように後ろへと急速に進みだす。

 

「っ――!」

 

 自分では制御できない力に、歪みだす空間。

 声にならない叫びと共に、カズトの意識は再び途切れていくのであった。




1年ぶりの投稿です。いろいろと興味のあることに手を付けていたら、小説書くことができませんでした。
頭の中に設定は出来上がってるので、コツコツと書き進められたらいいな。

拙作ではありますが、これからもよろしくお願いします。
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