SPECIALになるために   作:Zuiki

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第14話 VSミルタンク

 首が痛くなるほど高くそびえたつビル、煌びやかな夜景、止まない人通り。コガネシティの名を持つこの街はその名の通り、夜でも黄金色に輝く賑やかな街である。

 カズトは育て屋夫婦の下で修業と休養のために、数日間お世話になった後、次なる目的地であるコガネシティに足を踏み入れていた。ジョウト地方に八つあるポケモンジム。この街にはその一つが居を構えている。

 

 コガネジムはノーマルタイプのエキスパートがジムリーダーを務めているらしく、コガネでは超有名人。最近はラジオパーソナリティで有名なアイドル・クルミと一緒にラジオにも出ており、ゴールドという名前の少年と名漫才という名の勝負を繰り広げたそうだ。

 どう考えても知り合いが迷惑をかけたとしか思えないので、その話を聞くたび、カズトは耳が痛くなっていた。

 

 さて、情報収集としてそんな話を聞きながら、カズトは件のジムリーダーがいるコガネジムの前まで来ていた。

 

「あの~お邪魔しま~す」

「邪魔するんやったら帰ってや~」

「……え?」

 

 いきなり挨拶もなしにジムに入るのも失礼かと、カズトなりに気を利かせて声をかけたのだが、なんと門前払いをされてしまった。今日は都合が悪いのかと察し、すごすごと出ていこうとしたカズトを声の主が呼び止める。

 

「ちょお何本気で帰ろうとしてんねん!?」

「え、だって帰れって……」

「アホ、これはコガネの伝統的挨拶やで。これ知らんってことはアンタ、田舎出身か?」

「あ、ハイ。ワカバタウンから来ました」

「ワカバ? あのアホゴールドと同郷かいな!」

 

 どうやらゴールドと顔見知りのようである。反応から見るにあまり好意的には思われてないようだが。

 

「あの、ゴールドが何か失礼なことをしましたか?」

「失礼なんてもんちゃうわ! ラジオの邪魔するわ、うちの活躍奪うわ散々やで!」

「ラジオ……ってことはあなたがアカネさん?」

「せやで。うちがコガネジム、ジムリーダーのアカネや!」

 

 なんと出迎えてくれた彼女が、ジムリーダーその人であったらしい。

 右手にギプスをつけているが、これはゴールドとラジオの企画で勝負したときに野生ポケモンの乱入を受けて怪我したことによるものだそうだ。そしてその野生ポケモンを打倒したのがゴールドで、彼女はいつか雪辱を果たすために燃えているのだとか。

 

 怪我はしているがバトルはできるそうなので、挑戦しに来た旨を伝えると、快く承諾してくれた。とはいえ、あまり負担をかけるのも良くないので、お互い使用ポケモンは一体の短期決戦にしようという提案が出された。カズトとしては特にこだわりもないのでこの条件をのむことに異議はない。

 

「ほな、早速やろか。フィールドはこっちや」

 

 案内されたバトルフィールドはヒワダジムのものとは打って変わってシンプルなデザインとなっており、障害物も何もない。純粋にポケモンの地力が試されるステージになっていると感じた。

 

「うちが出すんはこの子や! いけっ、ミルたん!」

 

 ミルたんと名付けられたミルタンクが勢いよくボールから飛び出す。ジムリーダーのポケモンだということもあり、相当に鍛えられているようだ。

 

「ええか、うちは負けてもバッジあげるとかそんな甘っちょろいことせんからな。全力でかかってきぃ!!」

「無論そのつもりです! 頼むぞシード!」

 

 対するカズトが今回選んだのはコノハナだ。ポイントとしては相手の弱点を突くことができる"かわらわり"を習得していることが大きい。とはいえ、相手はジムリーダーだ。ノーマルタイプ唯一の弱点であるかくとうタイプに何も対策をしていないなどありえない。コノハナがかくとう技を使えることはここぞという場面まで隠しておいた方が良いだろう。

 

「先手必勝やミルたんっ! "ころがる"!!」

 

 猛烈な勢いで転がるミルタンクは、先日育て屋で見たドンファンのそれとは迫力が違う。生半可な攻撃では体勢を崩させることも難しいはずだ。だがポケモンやレベルこそ違えど、一度見たことある技ならば対応策は準備できている。

 

「"ねこだまし"!」

 

 ミルタンクがコノハナの身体を捉える刹那、一瞬目と目が合わさるタイミング。コノハナはミルタンクの目の前で両の掌を打ち合わせた。パァンと気持ちのいい音が鳴ると同時に、ミルタンクの"ころがる"は軌道をコノハナから逸らせてしまう。

 

「どこ狙っとんねんミルたん?!」

 

 "ころがる"は長時間使い続けるほどにその回転の勢いを増し、相手に絶大なダメージを与える技だ。育て屋で修業していたときも、上手くドンファンの態勢を崩すことができなかった場合、手痛いダメージを喰らってしまっていた。

 単純に威力が増すだけでなく、速度も増すため避けるタイミングがシビアになっていくというのも特徴だろう。真正面から受け止めることができればこちらのペースに持ち込めるが、生憎とカズトの手持ちは体の小さいポケモンばかりなので、身体でのぶつかり合いとなると分が悪い。

 

 そこで編み出したのがこの"ねこだまし"だ。この技は相手を怯ませる効果があるので、まだ目が追い付きやすい段階でこの技を当てることで強引に隙を生み出すことができる。

 壁側まで事前に誘導し"ねこだまし"を喰らわせれば最後、目をつぶってしまったことで視界の確保ができず、勢いそのままに壁へ激突する。

 

「"はっぱカッター"だ!」

 

 訳も分からず壁に激突し、パニックを起こしている無防備なミルタンクに無数な刃が襲いかかる。

 

「あかん、撃ち落とすんや!」

 

 最初の数発こそきれいに決まったものの、さすがの立て直しの速さだ。瞬時に状況を把握し、強靭な肉体を使って"はっぱカッター"を相殺し始めた。手数で優っている分、まだダメージを与えることはできているが、有効打にはならない。ここは無理に攻めずに、一旦立て直しを図った方が良いだろう。

 

「"ばくれつパンチ"!!」

「躱せ!」

 

 "はっぱカッター"に目が慣れたのだろう。技と技の隙間を縫ってミルタンクが距離を詰める。まだコノハナとの距離があったため躱すことができたが、あのまま攻めに興じていれば厳しいカウンターをもらっていたに違いない。

 

「慎重やな、あのアホゴールドとは大違いや」

「誉め言葉として受け取っておきます」

「その余裕ぶったカオ崩したるわ。連続で"ばくれつパンチ"!」

「受け流すんだ!」

 

 先ほどより反応を見る限り、アカネは負けず嫌いなのだろう。スタイルとしては真っ向からパワーで押し込むアタッカータイプに近い。どちらかというとカズトの兄であるハルヤに近いタイプだ。

 最初に繰り出した"ばくれつパンチ"よりも威力は下がるだろうが、それでも高威力に違いない技を連発してくるのは大きな脅威である。ただ躱すだけではいずれ動きを読まれてしまうため、

ここは適度に徒手空拳で応戦する。

 これも育て屋でオコリザルやガルーラとのバトルを経験していなければ、動きの激しさについていくことができずにいただろう。本当にいい経験を積ませてもらった。

 

「ジャンプしながら"はっぱカッター"!」

 

 上空から"はっぱカッター"を放つことで、ミルタンクの前だけでなく上や後ろからも攻撃を狙うことができる。四方八方から放たれる刃は一方で防がれても、それ以外の方向から迫る刃が確実に体力を奪う。

 どれだけ耐久力のあるポケモンでも、着実にダメージを重ねれば倒せる。ただし、それはどこか一方向からの攻撃を防いだ場合に限るが。

 

「その場で"ころがる"!」

 

 ミルタンクはアカネの咄嗟の指示にも難なく答える。普段前に進むために使っているエネルギーをその場で回転するためだけに使ったミルタンクの"ころがる"はやがて目にも止まらぬ速さに達する。

もし今、あの回転に巻き込まれてしまえばひとたまりもないだろう。そしてその攻撃力は防御力にも転じる。怒涛の回転に触れた"はっぱカッター"はその悉くを散らせ、ハラハラと舞い落ちる。見事全ての"はっぱカッター"を叩き落とした"ころがる"は正に絶対防御と呼ぶにふさわしい。

 

「なかなかええ技やったけどな。うちには効かんで!」

「やっぱり強い。でも! シード、"かわらわり"!!」

「なんやて?! ミルたん後――」

「遅い!!」

 

 確かにあの"ころがる"は非常に強力だろう。しかし、どんな技にも弱点はある。

 例えば"はっぱカッター"はその鋭利さと手数から「相手の急所を狙いやすい」攻撃ではあるが、元々が葉っぱでできているため耐久力が低く、「撃ち落としやすい」という弱点が存在する。

 そして"ころがる"の弱点は「視界が利かなくなること」だ。本来はその弱点を補うためにトレーナーが指示を出すのだが、今回ミルタンクの周囲は無数の葉で埋め尽くされており、アカネからはコノハナの姿を視認することができなかった。ゆえに、"ころがる"を解いたこの瞬間、ミルタンクに防御をとる余裕と状況把握はないに等しい。

 

 ミルタンクの背後をとったコノハナは気配に気づかれる前にその手を振りぬく。寸分違わずミルタンクの体を捉えた手刀は、育て屋で預けられていたドンファンを一撃で戦闘不能に追い込んだものである。さらには効果抜群ということもあり、大ダメージ間違いなしであろう。

 

「まだやミルたん! "メロメロ"!!」

「なっ!?」

「いくらかくとう技が使えても、動けんかったら怖ないわ!」

 

 だがミルタンクは耐えた。効果抜群の一撃を喰らってもなお、その耐久力を以て耐え抜いていた。

 さらにここにきて"メロメロ"である。ミルタンクはメス、コノハナはオス。技の条件は満たしている。

 

「やぁ~っとその余裕そうなカオ崩しよったな?」

「シードしっかりしろ! "メガドレイン"で反撃する力を奪うんだ!」

 

 しかしカズトの声に応えようとしたコノハナは、目の前の相手を見て一瞬だが攻撃する気力を削がれてしまう。そしてその一瞬が、ジムリーダー相手には命取りとなる。

 

「お返しや。"ばくれつパンチ"!!」

「避けろォ!!」

 

 カズトの必死の叫びもむなしく、コノハナの顔にミルタンクの拳がめり込む。勢いそのままに壁まで吹っ飛んだコノハナは動かない。

 

「どうや、これでうちの勝ちやな」

「――だ」

「ん? もっとおっきな声で言うてみぃ」

「まだだ」

 

 負けは目前というのにカズトは笑っていた。アカネにその理由は理解できなかったが、それを理解しているポケモンはいた。

 

「シード! "かわらわり"!!!」

 

 気が付けば、壁際で倒れていたコノハナがミルタンクのすぐ傍まで突っ込んできていた。いくらコノハナが瀕死直前とはいえ、ミルタンクもダメージが積もっている。もう一度"かわらわり"を喰らえば耐えることはできない。

 

「っ、ミルたん避けるんや!」

 

 耐えることができないのならば、当然回避の指示を出すだろう。だがミルタンクがその場から動くことはなかった。

 

「なんでやミルたん!?」

「忘れましたか? オレの出した指示を」

「まさか――"メガドレイン"か!?」

 

 "ばくれつパンチ"の直撃を喰らったコノハナだったが、直後にカズトから出されていた指示――"メガドレイン"――でミルタンクから体力を奪っていた。このおかげで尽きかけの体力をギリギリ保ち、逆にミルタンクが次に行動するための余力を奪い取ったのだ。

 

 キツイ一撃をもらった衝撃で、"メロメロ"も解けている。相手は動けない。この絶好の機会を逃すわけにはいかない。

 コノハナがミルタンクに肉薄する。瞬きほどの静寂の後、ミルタンクの体は地面に崩れ落ちた。

 

「んなアホな……」

「やったぞシード! 勝ったんだ!」

 

 カズトは喜びのままにコノハナのもとまで駆け寄る。コノハナも今の一撃が限界だったのだろう。その場に座り込んで、笑顔で走ってくるカズトを迎える。

 

 土壇場の逆転劇に呆然としていたアカネだったが、喜びを分かち合うカズトたちを見て自分たちの敗北を認める。湧き出る悔しさはそのままに、カズトの前に手を差し出す。

 

「あーもう! 悔しいけど、うちの負けや。おめでとさん」

「ありがとうございます! すごい楽しかったです」

「でも次やるときはうちが勝つからな!!」

 

 カズトも手を出し握手を交わすと、アカネからリベンジの宣言と四角いバッジが渡された。

 

「うちが認めた人に渡すレギュラーバッジや。ええか、うちに勝ったんやから他で負けるとか許さんで!」

「ハハハ……肝に銘じておきます」

 

 斯くして、カズトは二つ目となるジムバッジを手に入れた。目標の八つまではまだまだであるが、少しずつ強くなってきている手応えを胸に、次なる目的地を目指すのであった。

 

「あ、これうちのポケギアの番号な。アンタのも教えや」

「えぇ……」




1VS1の戦いはこれぐらいの密度が限界です……。

流石に全部ただフルパでバトルするだけなのは芸がないので、今回はガチンコシングルバトルで書かせていただきました。
ポケギアの番号交換してましたが、アカネはヒロイン枠とかそういう設定はありません。なんか気が付いたらアカネが勝手に番号押し付けてたんです。俺は悪くねぇ。

ストーリーのどっかでは使えそうなので、いつか活かします。
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