「さあ、制限時間は二十分です! みなさん、張り切ってどうぞ!!」
司会者の掛け声とともに参加者たちはアリアドスの子を散らしたかのように、四方八方に飛び散る。大人から子ども、男だけでなく女も交じって自然公園内にいるむしポケモンを探し求める。
そう、これは虫取り大会。珍しいポケモンや手強いポケモンを捕まえた人がチャンピオンとなる自然公園で人気のイベントだ。
そしてカズトも、今回開催された虫取り大会に飛び入りで参加していた。理由は単純。面白そうだからである。
「さて、とりあえず一匹捕まえたいけど……」
この大会には手持ちのポケモンは一体しか参加させることができず、捕獲手段も運営が支給するボールでしか認められていない。そして支給されたボールは二十個。これを使ってより高得点を狙えるむしポケモンを捕まえて優勝を目指すのだ。
とはいえ、先ほど司会者が言っていたように、この大会には制限時間も存在する。珍しいポケモンを狙いすぎてタイムオーバーになってしまえば元も子もない。というわけでカズトは、前半十分とボール十個を使ってそこそこの得点を狙えそうなポケモンをまず捕まえることにした。
「お、バタフリー」
自然公園の中でも木が茂って薄暗いエリアを散策していると、小さな花畑ができている場所に出た。そこだけちょうど木々の隙間を縫って陽光が射す部分なようで、色とりどりの花がひしめき合って咲いている。
そしてその花の蜜を狙って来たのだろう。どこからともなくバタフリーがヒラヒラと飛んできた。
「最終進化形だしポイントは高いはず。いくぞライガ!」
今回カズトが選出したのはグライガーだ。タイプ相性的に最悪なコノハナは最初に候補から外した。タツベイもほのおタイプの技が使え、かつヒワダジムでストライクと戦った実績があることからも可能性としてはありだったが、今回の目的は相手ポケモンの捕獲である。タツベイのレベルほどのほのお技がもろに当たるとダメージを与えすぎてしまうことも考えられたため、細かいダメージ調整がしやすいグライガーに白羽の矢が立った。
カズトの手持ちの中で他の二体と比べ一撃の威力が低めのグライガーは、相手にペースを握られると一気に立ち回りにくくなってしまう。得意の連続攻撃を当てるためには初動で流れを作るしかない。
「"でんこうせっか"で先制だ!」
バタフリーに認識される前に"でんこうせっか"で奇襲をかけリズムを作る。突然の攻撃にバタフリーは反応できず、その一撃を躱すことに失敗した。
しかし黙ってやられるわけにはいかないのは誰でも同じだ。バタフリーも体勢を立て直すとすぐさま"どくのこな"を振りまいて反撃してくる。
「もう一度"でんこうせっか"!」
グライガーは再び"でんこうせっか"を放ち、"どくのこな"の正面からの突破を試みる。鱗粉を利用した技であるがゆえに、吸い込みさえしなければ状態異常を喰らうこともないのだ。
対してバタフリーは"かぜおこし"で予期せぬ気流を起こすとともに、粉の流れを強引に変更。このに強風に煽られたグライガーはバランスを崩し、毒々しい粉を吸い込んでしまった。
さらに追い打ちとばかりに"サイケこうせん"の猛攻がグライガーに襲いかかる。この怒涛の連続攻撃に並のポケモンであれば、毒の影響を受けてまともに回避することもできないだろう。
しかしグライガーには毒への抗体がある。人や他のポケモンにとっては危険なものでも、ある程度までは全く意に介さないレベルで中和することが可能だ。どうやら、今回のバタフリーはツクシのスピアーほどの毒の強さを持っていないらしい。"どくのこな"を吸い込んでしまったが、顔色に変化は見られず、動きも鈍った様子は見られない。
寧ろ体が温まってきたのだろう。より動きに鋭さが増している。
「"れんぞくぎり" 三連!!」
当たれば当たるほど威力が上がる"れんぞくぎり"は、ヒットさせすぎると相手を倒してしまう恐れがある。捕獲のために弱らせると言っても、弱らせすぎることは良くない。削りすぎることを避けるためにも三回ほど放つまでに留める。
果たして、バタフリーはグライガーの猛攻に体力をゴッソリ持っていかれたのだろう。かなりふらついた様子を見せている。しかしまだ体力に余裕はあるのだろう。果敢に反撃しようと技を繰り出す。
「そこだッ!」
技を出し終えた瞬間を見計らい、カズトは運営から支給されたモンスターボールを投げた。ボールは見事バタフリーに命中し、バタフリーは独特な光と共にボールの中に吸い込まれた。
「よし、捕獲完了っと。お疲れ様ライガ」
グライガーはカズトの足元に着地し、まだまだ余裕だと言わんばかりに元気な姿を見せてくれる。
「ハハッ、まだまだ時間はあるからな。頼むぞ」
バタフリーの入ったボールを手に、カズトとグライガーは新たな虫ポケモンを探しに出るのだった。
―――――――――――――――
あれから十分ほど経過したが、カズトたちは目ぼしい虫ポケモンを見つけることはできていなかった。見つけたのはキャタピーやビードルといった所謂一般的な虫ポケモンのみであり、バタフリーを捕獲している以上、新たに彼らを捕まえる理由はない。
タイムアップが目前に迫っている中、これ以上は探索することはできないと判断し会場へと退き返し始めた瞬間、何かが目の前を猛スピードで通過していった。
「今のって……」
薄い翅に六本の足、大きな眼。間違いなく虫ポケモンではあるが、あまりのスピードだった故に何のポケモンかは判別できなかった。しかし、間違いなく大物ではあるだろう。カズトはその虫ポケモンに残り時間の全てを賭けることを決め、狙いを定めた。
「ライガ、"すなかけ"」
まずは相手をあぶり出さなければ始まらない。一面に砂を撒き、その砂煙が掻き分けられるところを探す。即席ではあるが、なかなかに有用な探知方法である。
少し待つと、砂の中を突っ切るターゲットを発見した。発見したらあとは進行方向で待ち伏せをするだけだ。
「そこだ!」
ターゲットの進行先に狙いを定めて放った攻撃はしかし、手応えがなかった。それもその筈、件の虫ポケモン――ヤンヤンマ――はグライガーの攻撃が直撃する寸前に急ブレーキをかけ、その場に停止していたのだ。
ヤンヤンマは空中戦において、他の虫ポケモンだけでなく、鳥ポケモンなどの多くのひこうタイプとは違った動きが可能なのが特徴である。通常、空中で方向転換をしようと思えば、翼や翅を利用して空気の抵抗を受けないように旋回しなければならない。
しかしヤンヤンマは、四枚の翅を別々に動かすことで空中での急停止、その場での方向転換を可能にしている。先ほどグライガーの"きりさく"を回避したのも得意の空中制動によるものだろう。これは手強い相手になりそうだと、カズトも気合を入れる。
「"でんこうせっか"でかく乱しろ!」
"でんこうせっか"で縦横無尽に飛び回り相手の背後をとって攻撃するも、ヤンヤンマは死角からの攻撃にも反応し難なく避けてしまう。一度目はまぐれかと思ったが、二度三度と攻撃を躱されるとそれがまぐれではないことが分かる。
実はヤンヤンマはその大きな眼で360度の視界を誇っている。そのため背後からの奇襲を察知することもでき、その探知能力と回避能力を以て他のポケモンにはできない機動戦を得意としている。
「なら……"れんぞくぎり"で動きを制限するんだ!」
相手が細かく動きを変えてくるならば、こちらもそれに合わせて素早い攻撃を行い、回避の余裕を失くしてしまえば良い。ましてや、"れんぞくぎり"は徐々に攻撃の鋭さが増す攻撃だ。初撃を上手く躱せても、それで気を抜いた相手には次の攻撃を躱すことは難しい。
ヤンヤンマも一撃、二撃と難なく躱していたが、さらに続く攻撃に大ぶりな動きを強いられるようになっている。
「今だ"でんこうせっか"!」
ヤンヤンマの動きが単調になったところで最速の"でんこうせっか"をお見舞いする。これは流石のヤンヤンマも避けることができなかったようで、良いダメージになったようだ。
この一撃にヤンヤンマもバトルの火が点いたのだろう。今まで回避ばかりだったが、今度は攻撃に転じる。四枚の翅をはためかせて"ソニックブーム"を放ってきた。衝撃波は周囲の木々の枝や葉を吹き飛ばし、グライガーに迫る。
「避けろ!」
衝撃波が直撃するギリギリにグライガーは滑空して軌道から逃れるものの、連続で放たれる攻撃に回避が追い付かず被弾してしまう。さらに追撃として"ちょうおんぱ"を織り交ぜることで、より回避を困難にしている。
「"いやなおと"だ! "ちょうおんぱ"を掻き消せ!」
グライガーもタダでやられるわけにはいかない。厄介な"ちょうおんぱ"を自身に到達するよりも前に別の音波で相殺する。完全に打ち消すことはできないかもしれないが、これでいくらか影響を抑えて戦うことができるはずだ。
ただ、グライガーに遠距離からの攻撃手段はない。それに対してヤンヤンマは"ソニックブーム"で確実に距離をとって攻撃することができる。このままではジリ貧。次第にこちらが不利になっていくだろう。そのためにも一度距離を詰めなければならない。
「"でんこうせっか"!」
グライガーの十八番である"でんこうせっか"での接近戦だが、その戦法は一度見られてしまっている。案の定、近づいた瞬間距離をとられ、得意の型に持ち込ませてくれない。
ならば、新たな手段で攻撃するしかないだろう。
「"かげぶんしん"ッ!!」
カズトの指示が出るや否や、グライガーが二体、四体、八体と徐々に数を増していく。あっという間にヤンヤンマを上下左右取り囲んでしまった。
ヒワダジムでツクシと戦った際、ストライクの"かげぶんしん"を目にしてから密かに練習を積み、先日ようやく完成したばかりの技である。
ヤンヤンマはその360度の絶対的視野を有しているが、その視覚の広さであっても対処できないものは多くある。その一つが圧倒的物量で押し切ることだ。360度の視界があれど、対処するヤンヤンマ自身には限界がある。その対応可能な範囲を超える量の攻撃で一気に勝負を仕掛けることで、能力の差をひっくり返すことができる。
「とどめの"れんぞくぎり" 五連!!」
突然の分身にヤンヤンマは気をとられて攻撃を止めてしまった。そこに生じた隙は一瞬とはいえ大きい。グライガーは一気に距離を詰める。
しかし、あくまで攻撃ができる本体は一体だけだ。そのため、カズトとグライガーはわざと突撃の軌道をずらして分身があたかも本体であるかのように見せかける。するとヤンヤンマは焦って分身の方に"ソニックブーム"を繰り出してしまった。
見当違いの方向に技を出してしまったときにはもう遅い。いくら見えていても、反応できなければ意味がなく、ヤンヤンマが回避行動をとるより早くグライガーの一撃が突き刺さった。そこから次々と攻撃を叩き込む。キレの増した連撃はヤンヤンマを捉え続け、十分にその体力を削った。
「よしっ!」
グライガーの攻撃をまともに喰らったヤンヤンマはバランスを崩し、地面に落下する。カズトはその絶好のチャンスに、手にしたモンスターボールを力いっぱい投げた。ボールは先ほどのバタフリーと同様に作動し、ヤンヤンマの体をその中に収める。
そして捕獲完了のタイミングと同時に公園内のスピーカーから制限時間が終了した旨を告げるアナウンスが流れるのであった。
―――――――――――――――
「さて、結果発表と行きましょう!」
自然公園の中央広場には今回の参加者たちが勢ぞろいして結果の発表を待っている。上位三位に入った人が入賞となり、大会運営から景品が贈られる。入賞を逃した人も「きれいなぬけがら」を参加賞としてもらえるらしい。虫取り大会に抜け殻をという如何にもな景品となっているが、それはそれでらしいと言えるだろう。
さて結果の方はと言えば、順調に発表が行われており、三位にはスピアーを捕まえた虫取り少年がランクインしたようだ。景品のきのみを受け取っている。傍に控えていたグライガーが美味しそうにそのきのみを見つめていたが、バッグから出したオレンの実で我慢してもらう。
「では、第二位の発表です! 第二位は……ヤンヤンマを捕まえたカズトさん!!」
どうやらカズトは二位にランクインしたようだ。時間制限ギリギリまで狙って大物を狙いに行った甲斐があったようである。ちなみに二位にはかわらずの石が景品として贈られる。
正直言えば、カズトはポケモンの進化は大歓迎派の人間なのでこの石のお世話になることはないだろう。だが、育て屋を営む人などには何か需要があるかもしれない。母や以前世話になった育て屋老夫婦に贈るのはアリだと思う。
頭の中でいろいろと考えているうちに第一位の発表に移っていたらしい。一位にもなると、どのような人物が獲ったのかみんな気になるようだ。先ほどよりも少し会場がざわついている。かくいうカズトも、自分よりすごいとされた虫ポケモンを捕まえた人が誰なのかは興味があった。
「第一位! 第一位はカイロスを捕まえた……ツクシさん!!!」
「ぅえ?!」
聞き覚えのある名前にカズトが驚いていると、表彰台にその優勝者の姿が見えた。そこにいたのは正にカズトが想像していた通りの人物だった。
「流石むしタイプのエキスパートというべきでしょう! 文句なしの一等賞です!」
運営からも絶賛の嵐である。とはいえ文句を言う人はいなかった。実際にツクシが捕まえたカイロスを見れば分かる。太く立派なツノに、がっしりとした体。かなりレベルの高いカイロスである。
会場からは拍手が巻き起こっている。カズトもあのカイロスには脱帽だ。素直にツクシに拍手を送る。
かくして、カズトの初めての虫取り大会は幕を閉じたのである。
バトル描写は書くのが大変だけど、それと同じくらい考えるのは楽しいですね。もっと充実したバトルを書きたいと思う今日この頃。
虫取り大会後のツクシとのやり取りは次回に持ち越しさせていただきます。ちょっと場面の入れ替えが多くなりすぎちゃうので……