「やあカズト! まさかキミも参加してたなんてね」
「オレもビックリしましたよ」
虫取り大会が閉会し、参加者たちが帰宅し始めた頃。ツクシがカズトの元へやってきた。傍には今回の大会で捕まえたカイロスを連れている。
「やっぱり強そうだなぁ」
「そうだね、捕まえるときもかなり苦戦したよ。カズトが捕まえたのはヤンヤンマだったよね。ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「もちろんです!」
ツクシのお願いにカズトは快くボールからヤンヤンマを出した。ヤンヤンマは飛び出すと同時にカズトの頭の上に止まる。
「おい……」
「あはは、どうやらカズトの頭が気に入ったようだね。旅には連れていくの?」
ツクシの質問にカズトは顎に手を当てて唸る。というのも、これからの旅を進めるうえで手持ちの充実度は重要な要素になってくる。しかし、現状で連れ歩いているポケモンが多すぎることから、これ以上手持ちポケモンを増やすことに抵抗があることも確かだ。
ちなみにバタフリーは大会の集計をとった際に運営に預けたままである。ヤンヤンマはバタフリーよりも得点が高いポケモンと判断され、本エントリーするポケモンとしてカズトに返却された。本エントリーに選出されなかったポケモンたちは、運営が責任を持って後日野生に還してくれるそうだ。
「ボクの個人的意見としては、ぜひ連れて行ってあげてほしい」
ツクシが言うには、ヤンヤンマはあまり野生で見られない珍しいポケモンらしく、大量発生といった例外を除き目撃数は非常に少ないとのこと。また、その珍しさから密猟の危険性も他のポケモンより高く、ポケモン協会、特にむしタイプのエキスパートであるツクシからは正しい心を持ったトレーナーにゲットされてほしいという事情もあるみたいだ。
「今のキミのパーティー状況を鑑みても、ヤンヤンマは大きな助けになってくれると思うよ。それにほら、本人も……」
ふと頭上を見てみると、ヤンヤンマがそれはもう居心地よさそうにカズトの頭に止まっているではないか。それにツクシからの後押しもあっては、今更ヤンヤンマを逃がすことはできないだろう。何より本人が付いて来るというのなら、断るのはカズトとしても心が痛む。
「それじゃ、これからよろしくな。えーと……リベル!」
リベルと名付けられたヤンヤンマはカズトの頭上で翅をはためかせた。
「ありがとう、連れていくのを決めてくれて。ボクからはこれ、リーフの石さ」
ツクシの掌には今回の虫取り大会の優勝賞品だったリーフの石が乗っている。しかし、それは優勝したツクシのものであって、カズトのものではない。カズトにはそれを受け取ることができなかった。
「いや、気にせず受け取ってくれよ。むしタイプのポケモンってあんまり進化の石を必要としてないんだよね。このままじゃ宝の持ち腐れになっちゃうし……カズトの方がうまく活用してくれると思うから、これはボクからの餞別さ」
「まぁ、そういうことなら……」
そこまで言われては受け取らないのは逆に失礼に当たるだろう。おずおずとカズトはその石を受け取った。
「これからも頑張ってね、カズト」
「ありがとうございます」
そして挨拶を交わし、二人はそれぞれ進む道に向かって歩き出す――。
「おい待てって、エーたろう!!」
「……エーたろう?」
が、歩みを始めたカズトの耳に聞き覚えのある声が届く。それと同時にどこからともなくエイパムがカズトの目の前に飛び込んできた。
「うおっ?! お前、エーたろうか?」
カズトの問いかけにエイパムは嬉しそうに返事をする。すると、ようやく追いついたのだろう。エイパムのトレーナーが姿を現した。
「エーたろう、お前急に走るなって……お?」
「よ、ゴールド」
「おま、カズト! こんなとこで何してんだ?」
「ちょっと虫取り大会にね」
「虫取り大会ぃ?」
そう言ってカズトは頭に乗っているヤンヤンマを指さす。
「こいつを新しく仲間にしたんだ。名前はリベル」
「へぇ、よろしくな。リベル!」
ヤンヤンマはゴールドの声に応える代わりにカズトの頭からゴールドの頭へと居場所を変える。しかし気に食わなかったのだろう。すぐさまカズトの元へと退き返した。
「そんなにオレの頭が気に入ったのか?」
「あ~、まあお前乗りやすそうな頭してっからな」
「なんだよそれ」
「オレみてぇにイケてる髪じゃねえってことだ」
「はは……そだね」
ゴールドが自身の髪に特別強いこだわりを持っているのはカズトも知っている。無闇につついて藪からアーボを出すわけにはいかないので、大人しくしているべきだろう。
カズトはそれよりも、ゴールドがなぜまだコガネシティ周辺にいるのかという疑問の方が気になっていた。しばらく育て屋でお世話になっていたうえにジム戦までしていたカズトと違って、コガネシティに特に用事が存在しなかったはずのゴールドはとっくにエンジュシティまで移動していると思っていたのだ。
「実はオレも育て屋ばあさんらのとこで世話になってよ。お前の話も聞いたぜ」
どうやらゴールドは一度コガネシティまで行った後、ウツギ博士のおつかいとして育て屋老夫婦の店までUターンしていたらしい。というのも、育て屋で見つかったタマゴをゴールドが孵したため、その報告に行く必要があったからだとか。ついでにカズトがやったものと同じ特訓をゴールドも受けてきたようだ。成果もあったようで、ヒノアラシもマグマラシに進化している。
そして今は、エンジュシティで起きた地盤沈下に巻き込まれたかもしれないミカンという名前の少女を探してほしいという依頼を育て屋の二人から受けているそうだ。
そんな話を聞いて呑気に「頑張ってください」と言えるほどカズトは情を失っていない。思わぬ出会いではあったが、ゴールドを手伝うことにした。それに、ゴールド一人に任せて人探しが無事終了する未来が見えなかったというのもある。
「それじゃ、一丁よろしく頼むぜ。カズト」
「こちらこそよろしく、ゴールド」
こうして二人はエンジュシティへの道を急ぐのであった。
―――――――――――――――
「ここがエンジュシティだなんて……とてもじゃないけど、信じられないな……」
「ああ、こりゃひでぇ。早いとこミカンって子を見つけようぜ」
エンジュシティの街並みは一変していた。カズトの記憶の中には、紅葉並木がきれいで伝統的な建物が多く残るとても美しい街が残っている。しかし現在は周りを見れば瓦礫ばかり。美しい街並みの面影はどこにも残っていなかった。
「避難所にはいなかったから、もしかしたらどこかで救助が来るのを待ってるかも」
「そうだな。問題は、どうやって探すかだが……」
この荒れ具合から見ても、逃げ遅れた人間が生存している可能性は正直絶望的だ。さらに瓦礫の山から一人の人間を探すとなると、かなりの重労働になるだろう。時間的にも厳しい状況である。
二人が頭を捻らせて考えていると、遠くの方に昼間にもかかわらず明かりが点滅しているのが見えた。かなり傾いてしまっているが、あれは間違いなくエンジュの名所の一つであるスズの塔だ。そのスズの塔の最上階からまるで灯台のように光がチカチカと漏れ出ている。
「なあカズトよ……この辺りって停電してたよな?」
「こんなボロボロなのに電気通ってたら奇跡だよ」
「ならあの光、その奇跡ってやつじゃねぇか?」
「そうだね、行ってみよう!」
そしてスズの塔に近づいた二人であったが、突如地面が大きく揺れ始める。
「また余震か!?」
「さっきのより大きくて、立ってるのも……!」
現在エンジュシティでは頻繁に余震が発生しており、いつ二次災害が発生するかも分からない危険な状態である。目の前のスズの塔も今の揺れで再び沈下し、下の方の階層が地中に埋まっていってしまった。
「こんなデカい塔がオモチャみてぇに!」
「マズいな。急ごう!!」
沈みかけているスズの塔だが、幸いにも窓の建てつけは無事だったようで二人は窓を潜り抜けて塔内への進入を果たす。そのまま最上階の光を目指して一直線に駆け上がると、そこには気を失ってはいたが、探していた少女の姿があった。――赤髪の少年と共に。
「シルバー!? どうしてお前がここに!」
「ちっ、またお前らか……」
「その子をどうするつもりだ!」
「ゴールド落ち着いて」
赤髪の少年がシルバーだと分かるや、ゴールドは彼に向かって突っかかりに行くが、カズトは冷静にゴールドを諫める。
状況から推察すると、塔の外に光を放っていたのはシルバーとミカンの傍にいるデンリュウだろう。おそらくミカンのポケモンだ。そのデンリュウがシルバーの存在を許しているということは、シルバーは気を失っていたミカンを助けたのだと考えられる。そしてそのタイミングでゴールドに見つかったという流れだろうか。
「とりあえず、ミカンさんの安全を確保するのが優先だ。早くここから出よう」
既に保護はできているならば、早く脱出するに越したことはない。現在進行形でこの塔も沈みつつある。ただでさえ、子どもだけで気を失った人間を連れ出すのは手に余る。迅速に協力体制をとるべきだろう。
「というわけで協力してくれるかな、シルバー?」
「……理にはかなっている。お前らが捜してたなら、お前らがこの子を看ておけ」
「うわっ。お前なあ、カズトに免じてやるけどいきなりは止めろ!」
ゴールドが文句を言うが、シルバーはどこ吹く風で広間の奥にあるポケモンの彫像を調べ始める。彫像には「ホウオウ」と記されているが、カズトやゴールドの知るポケモンではなかった。
「いけね。今は像のことよりもとっととここを脱出しねぇと」
「シルバーはシルバーで動くだろうし、オレたちもやることをやろう」
だが二人が出口に出るよりも早く、塔が揺れ始める。大量の土砂が圧力に耐えきれなかった壁を突き破って室内に雪崩れこんできたのだ。近くの崩れかけた壁は、咄嗟にシルバーの出したリングマが崩壊を食い止める。しかし安心はできない、通路の先に見えていた出口が今にも塞がりかけている。
「何をしている! その子だけでも外に出せ!!」
シルバーの声に反応したゴールドはデンリュウにミカンを預け突破を図る。全速力で走ったデンリュウは無事、塔の外へと脱出を果たした。
「やった!」
「ゴールド、リングマが限界だ! 壁から離れて!」
「うわっ!!」
喜んだのも束の間、リングマが支えていた壁が限界を迎えてしまい出口だけでなく、そこへの通路までもが土砂で塞がれてしまった。ギリギリ退避は間に合ったが、どうやら塔の中に閉じ込められてしまったらしい。早く新たな出口を探さなければ三人とも外に出られなくなってしまうだろう。
密室となったことで明かりもなくなり、気温も下がりつつある。ゴールドがマグマラシに火をつけてもらうよう頼んでいたが、シルバーに酸素が尽きてしまうと止められていた。シルバーが止めなかったらカズトが止めていたので、ここは素直に感謝である。二人は言い合いに発展していたが。
しかしその言い合いも周囲の木が悲鳴をあげる音にかき消される。先ほどよりも派手に壁が吹き飛び、土石流となった土砂が三人に襲いかかる。
「逃げろ! じきに潰されるぞ!」
「くそっ、バクたろう! 天井を破れ!」
ゴールドが機転を利かせて上の階への退避を試みるが、伊達にこの地盤沈下を耐えていない。生半可な技では天井を突き破ることができず、押し寄せる土砂に体が埋まっていく。
「何とかなんねぇのかよ!!」
「ゴールド、みずタイプのポケモンを出すんだ!! シルバーも!」
「もう準備できている! アリゲイツ!」
「何か手があんのか? 頼むぜニョたろう!」
カズトは流れてくる土砂の中に霜柱が混ざっているのを見た。霜柱は地中に含まれた水分が冷気によって凍らされ地表に現れる現象だ。なぜ霜柱ができるほどの冷気がこの地下深くで発生しているのかは分からないが、霜柱ができるということはつまり、この辺りに地下水脈が潜んでいる可能性が高いことを指している。そしてその水脈をポケモンの力で呼び起こすことができれば、脱出することも夢ではない。
シルバーもそれに気づいたのだろう。カズトが指示を出すより前にアリゲイツをボールから出していた。
しかしシルバーのアリゲイツはともかく、ゴールドのニョロモでは水脈を呼び起こすには少々パワー不足だ。ついでに策を出しておいて何だが、そもそもカズトにはみずタイプの手持ちがおらず、今回の脱出作戦の力になることができない。残念だが、他の手を考えるしかないだろう。
「でも他にどうやって……ん?」
ふとカズトがゴールドのほうを見やると、ニョロモがブルブルと震えているではないか。間違いなく進化の兆しである。この土壇場でニョロゾに進化するのは大きい。進化したニョロゾを見ると、さっきは気づかなかったが「おうじゃのしるし」を頭の上に載せている。
「ゴールド! そいつをボールに納めて図鑑をかざせ! 通信するんだよ!!」
ニョロゾに進化する様子を見ていたシルバーは、王者のしるしをみて声を荒げた。どうやら何か考えがあるようで、ポケモン図鑑の通信機能を利用するみたいだ。
「お前と通信なんかしたくねぇが……しょうがねぇ!!」
迫りくる土砂に流石のゴールドも背に腹は代えられない。大人しくシルバーの命令に従い、通信機能を起動させた。
同時に土砂の勢いが増して、顔にまで土砂が迫ってくるが――。
「"うずしお"!!」
見事地下の水脈を引き出すことに成功し、塔が沈み切るギリギリで三人は脱出に成功した。
ニョロゾはニョロトノに進化しており、ゴールドはニョロボンでないことに驚きを隠せていない。
「ニョロゾの最終形は二つある。石と通信……今みたいに水の力を生かすならニョロトノだ」
「なにィ!?」
「驚いたな。ポケモンセンターに行かなくても交換できちゃうのか」
一秒を争う状況だったため突っ込みはしなかったが、ポケモン図鑑の通信機能という存在がカズトは気になっていた。どうやらその場でのポケモン交換を可能とするものらしく、交換するためにわざわざポケモンセンターに行く必要がなくなるようだ。痒い所に手が届く、良い機能である。
「脱出はできた。もうお前たちの相手をしてる暇はない。オレに関わるな」
「な……」
シルバーとしては協力体制は脱出を果たした時点で終了ということだろう。次の行動について考えているようだが、カズトは忘れていない。ニョロトノが今はシルバーの手持ちになっていることを。
「なら早くゴールドにニョたろう返してやってよ。交換したまんまだよね?」
「あ! そうだニョたろう返せよ!」
「……チッ」
「なんで舌打ち!?」
反応は最悪なものの、ちゃんとニョロトノはゴールドの元へ返してくれた。ただ単にゴールドの絡み方が気に食わないだけだと思われる。あるいは返すのを忘れていたことをカズトに突かれた苛立ちからだろうか。シルバーの年相応な反応に一瞬だけカズトはほっこりとした気持ちになる。
そしてこのまま避難所に戻りミカンの様子を見に行こうかと思った矢先、どこからか嫌な気配を感じカズトは身構える。
「街全員が避難したと思っていたが……まだ小僧が三人、スズの塔に残っていたか」
「ロケット団?!」
いつの間にか周囲には軽く三十人はいるだろうロケット団が集まっていた。中央にはリーダーらしき男と女の姿もある。
「おや、我々を知っているとはな!」
「それに見られたからには、タダで帰すわけにはいかないわね」
彼らの言葉を聞いているうちになんとなくだが目的は理解できた。エンジュシティを壊滅させたのはロケット団、今はスズの塔を沈めて最後の後始末でもしていたのだろう。そこにカズトたちが巻き込まれ、発見されてしまった。偶然とは言え、犯人の姿を見てしまったことから証拠隠滅として三人の口を封じようとしているわけだ。
シルバーがゴールドに今回の地盤沈下が人災であることを説明した際に男の反応が変わったことが全てを物語っている。
「油断ならんガキだ。この場で片づけてくれる!」
察しの良いことと、加えてワカバタウンやヒワダタウンでロケット団の邪魔をしたことが影響しているのだろう。ロケット団はシルバーに狙いを定めて襲いかかる。
「バクたろう、"ひのこ"!」
「"はっぱカッター"!」
しかしそれを黙って見ているカズトとゴールドではない。シルバーに集中して無防備なところを狙い撃ちにする。
「ワカバタウンでオレとシルバーの戦いに割って入ったヤツ、あれはお前らだったのか!」
「それにヒワダや今回の事件についても許せない!」
「カズトの言うとおりだ。助太刀するぜ、シルバー!」
「邪魔だ、大人しく見てろ」
下手をすれば人やポケモンの命が失われていたかもしれないことを平然とした顔で行うロケット団は当然許せるものではない。シルバーは邪魔だから手を出すなというが、勝手にやらせてもらうこととする。
「見てるだけなんてできるわけないでしょ! "りゅうのいぶき"ッ!」
タツベイも繰り出し、正面に飛びかかってきた相手をまとめて吹き飛ばす。だが相手の層はまだまだ厚い。それでも後ろからわんさか現れ襲いかかってくる相手を三人で迎撃していると、なかなか押しきれないことに痺れを切らしたのか、リーダー格の男が何かの合図を出した。
「余裕も見せていられるのも今のうちだ! 我らの切り札にまともに対抗できるかな?」
すると再び地面が揺れだし、周囲の地盤が崩れていくではないか。今まで感じた中でも最大級の揺れに、カズトとシルバーは地震を引き起こしている犯人が近くにいることを察する。
そしてより一層揺れが激しくなり、カズトたちが立っている地面も崩れ始めたそのとき、ついにエンジュを壊滅に追いやったポケモンが姿を現した。
「で……でけぇ!?」
「巨大イノムー! そのガキどもを一気に踏みつぶしてしまえ!」
ゴールドが驚くのも無理はない。地面を突き破って現れたのは本来の大きさの倍以上もあるイノムーだったのだから。そのあまりの巨大さに全貌を見ようとすれば軽く見上げなければならない。確かに、このイノムーならばエンジュシティ全域に及ぶ範囲で地震を引き起こすこともできるだろう。それほどまでの圧倒的スケールがある。
「こいつが震災を起こした正体だってのか!?」
「そうだ。じめんとこおりの二つのタイプを持つイノムー。この力、予想はしていたがそれ以上だ!」
「こおり……それで地下に霜柱ができてたのか!」
イノムーは周りに転がる大岩などものともせず三人の立つ場所へ突っ込んで来る。早急に何とかしなければ、幹部の男の言う通り踏みつぶされてしまう。しかも周りにはロケット団員がまだ十分な戦力を有して待ち構えている。まさに四面楚歌な状況だ。
「さて、どうやって倒すかな……」
「そいつらは任せる!」
思案を巡らせるカズトを横目にシルバーが一人イノムーの前に飛び出る。おそらくイノムーが相手の切り札であるからして、あのポケモンをどうにかしてしまえば相手は引かざるを得なくなるはずだ。そしてシルバーは無策で突っ込むようなことはしないだろう。何か手があるはずだ。
「ゴールド、こっちはお願いしていい? マグナたちは置いていくからさ」
「あ? こんなヤツら、オレたちだけで十分だ!」
「OK、任せたっ!」
カズトはヤンヤンマに肩を掴んでもらい、すぐさまシルバーの後を追う。スピードではヤンヤンマの方が上であるため、幸いにもすぐ追いついた。
「手伝うよシルバー!」
「……あいつを置いて来ていいのか?」
「ゴールドなら大丈夫。作戦があるんでしょ? サポートするよ」
イノムーを抑えれば勝ちなのはシルバーも気づいている。だからこそこうして他のフォローが入らないように釣り出したのだから。相手はイノムーのスペックに慢心しているため、隙だらけ。ここぞのタイミングで技を出せばかなりの高確率でこの作戦は成功する。
本当はニョロトノがいればさらにやりやすかったのだが、既にゴールドの下に戻ってしまった。カズトのサポートがあるというのなら、遠慮せず利用させてもらうとしよう。
「一瞬で良い、あいつの動きを止めてくれ。あとはオレがやる」
「了解。行くよゴース!」
普通一体のポケモンに対して十体のゴースは過剰戦力かもしれないが、今回は例外だ。全力で挑ませてもらう。
「"サイコキネシス"!!」
強力な思念がイノムーを包み込み、徐々に足の動きを遅くする。そこから数秒もすれば完全に勢いを失い、その場から一歩も動けなくしてしまった。
「キングドラ!」
度重なる地震によって脆くなった地盤と、イノムー自身が放つ冷気によって生み出された水分、そしてキングドラが操る地下水脈。この三つの要素が合わさったことで大規模な渦が発生し、イノムーがその場から動くことを許さない。さらに地盤が崩れていることで液状化現象も起こり、進もうと藻掻けば藻搔くほどに逆に地面に飲み込まれる。
イノムーが完全に無力化されたことについては流石に想定外らしい。男の表情に初めて焦りの色が見えた。慌てて部下たちに指示を出そうとするも、こちらはゴールドの手によって多くの戦力が封殺されてしまっている。
「さあ、次は誰が相手だ!?」
「うぬぅ……。ガキどもめ、勝ったつもりか」
追い込まれたために残りの戦力を全投入しようとした男だったが、同じく幹部であろう女がそれを阻止した。
「既にスズの塔は攻撃した。ホウオウの本能……、我々の仮説が正しければ既に目的は果たされたも同然」
「……総員退避!!」
ホウオウという聞きなれない単語を残してロケット団は立ち去った。ゴールドは追おうとしたが、消耗した状態で一人突っ込むのは流石にできなかったみたく、まんまと逃げられてしまう結果になった。とはいえ、今回の目的はロケット団の捕縛ではない。突然の襲撃をやり過ごすことさえできれば良かったため、今回はカズトたちの勝利で間違いないだろう。
「ふぅ……二人ともお疲れ」
「……少しは力をつけたようだな」
「へへへ、見たかオレの実力。育て屋の特訓は伊達じゃないぜ!」
この戦いの一番の功労者はゴールドだ。相手の戦力を大幅に削ってくれたおかげで、撤退にまで追い込むことができた。彼が育て屋で得たものはかなり大きかったのだと分かる。兄弟のように育ってきたからこそ、カズトもゴールドの活躍に鼻が高い。
そして脅威が去った今、カズトは先に塔の中から避難させたミカンがどうなったのか確認に行くべきだと思い、避難所へ向かおうとしていた。
「なぁシルバー」
だが、その足はゴールドがシルバーにかけた言葉によって止まることとなる。
「おめえ……一体何者なんだ?」
また期間が空いての投稿になってしまった……。
定期投稿って難しいですよね。
最近原作ポケスペを電子版で全巻揃えてモチベーションは上がっているので、これからもボチボチ投稿していきたいと思っています。
とりあえず今年中に3章を締めくくることを目標に頑張ります。