エンジュシティの復興が始まり数日が経過した。見渡す限り瓦礫ばっかりだった街並みも、少しずつだが片づけられており、街も活気を取り戻しつつある。
この街のジムリーダーであるマツバとも連絡がついており、彼の指示によりカズトたちは現在、スズの塔の修復を優先しつつ、復興作業を進めている。
「さあ、スズの塔の修復を急ぎましょう!」
ミカンの指揮の元、街の建築業者の協力を得て崩れてしまったスズの塔を再建する。崩れたと言えども大黒柱は無事だったため、壁や屋根などを修復し、ずれてしまった地盤を固め直してやれば何とか数日で元の姿に戻すことができるみたいである。
専門的な知識や経験は持っていないため、カズトはスズの塔が直されていくところを見ながら瓦礫を撤去する作業をしていた。
「マグナ"ずつき"! リベルは"ソニックブーム"!」
今は邪魔なものを破壊して、建築業者のかくとうポケモンが運びやすいように小分けにする手伝いをしている。ワンリキーやゴーリキーがあっちに行ったりこっちに行ったりするのを見ていると、復興作業が進んでいることを感じ、モチベーションも上がるものだ。
「お、オドシシたち来てるな」
ふと森の方角を見やると、震災の翌日に出くわしたオドシシの群れが今日も街の様子を見にやって来ていた。彼らの住む森も地盤沈下の影響が出ていたが、街の復興が進むと同時に森の調査も行われ、くさタイプやじめんタイプのポケモンの力も借りることで壊れてしまった森を元に戻すために尽力した結果、彼らの信用を得ることができたのだ。
それ以降、街の様子を見に頻繁に森から顔を出してくれるので、街の人たちは密かに彼らが姿を見せてくれることを楽しみにしている。
オドシシを見ていると、近くの空にバタフリーが何かを抱えて飛んでいるのが見えた。しかも二匹。
「人……?」
バタフリーが抱えているものに手足があるように見えたカズトは、スズの塔に向かっている二匹のバタフリーを追いかけていく。
やがて見えてきたのは、バタフリーが掴んでいたであろうトレーナーたちとミカンが話している姿だった。どうやらバタフリーのトレーナーたちはカントー地方から来たらしく、ジョウトには何かの調査で来たのだとか。
「あ、この子はカズトくん。復興を手伝ってくれているの」
「カズトです。よろしくお願いします」
「イエローです。よろしくお願いします!」
イエローと名乗った人物が差し出してきた手を握り、お互い挨拶をする。ちなみにイエローの隣にいる男性はイエローの叔父らしい。
挨拶を済ませると、ミカンが事件が起きた当日のことを二人に話し始めた。どうやらイエローたちは調査の一環でエンジュシティの地盤沈下事件について調べていたようだ。
実際に被災し、スズの塔に閉じ込められていたミカンはもちろん、現況であるロケット団とも対峙したカズトが話をすれば二人も事件についてかなり理解を深めることができるだろう。そう考えカズトもできる限りの情報を話したのだが、二人から返ってきた反応は納得というよりも驚きが大きかった。
「本当にロケット団なんですか!?」
「うん、そうだけど……」
「できれば、もう少し詳しく――」
「大変だー!!!」
イエローのあまりの剣幕に少したじろぎながらもカズトが出会ったロケット団について話そうとしたところ突然、スズの塔を修復していたはずの建築業者の男が血相を変えてミカンに駆け寄ってきた。
「『焼けた塔』からまた火が上がったぞ!!」
「また!?」
エンジュシティにはスズの塔の他にもう一つ、塔が存在している。それが通称、焼けた塔。以前はカネの塔という名でスズの塔と瓜二つの姿で並んで建っていたのだが、大火事が発生した際、二階より上が焼失してしまった――というのがカズトがここ数日間エンジュシティで復興作業の手伝いをして知ったことである。他にもいろいろと街の人から聞いたことがあるのだが、今回は置いておくとする。
何より問題なのが、この焼けた塔、大火事があったのは150年前にも関わらず、最近になって原因不明の出火が頻繁に発生するようになっているのだ。あまりの不気味さに、街の人たちからもいわくつきの場所として認識されてしまっているほどである。実際、カズトがここに滞在している間に見る出火は今日が初めてではない。
「みずタイプのポケモンがあまりいないから、いつもバケツリレーで消火してるんだけど……」
カズトが言いよどむのも無理はない。今回焼けた塔から上がっている炎は、今までに見たどれよりも格段に勢いが違う。とても人間がバケツに入った水をぶっかけ続けて消せる規模ではない。
「やるしかないわ。あなたたちも消火を手伝って!!」
「そんなんじゃ間に合いません! 上から一気に消します!!」
ミカンやカズトもバケツを抱えてリレーに参加しようとするが、それよりも早くイエローがバタフリーと共に空に舞い上がる。焼けた塔の上空に躍り出たイエローは釣り竿にモンスターボールをつけ、勢いよく振り下ろした。
「オムすけ、"ハイドロポンプ"!!」
オムすけと名付けられたオムスターが放つ"ハイドロポンプ"はゴールドのニョロトノやシルバーのアリゲイツと同等、いやそれ以上の実力を窺わせるのに十分な威力を誇っていた。そしてそのオムスターが的確に炎を狙えるよう、釣り竿を操るイエローもまた、凄腕のトレーナーだということが分かる。ゴールドがビリヤードをバトルに流用するのと同じように、釣りの技術をバトルに持ち込むスタイルなのだろう。
瞬く間に火が小さくなっていく様子にジムリーダーであるミカンも感心を抑えることなく見入っていた。
ちなみにだが、釣りの腕はイエローの叔父が仕込んだものらしい。彼もまた、バトルに釣りの技を用いるのだろうか。
「あ、もう大丈夫そうですね」
イエローの活躍により、火はあっという間にその勢いを失っていた。イエローも大丈夫だと判断したのか、オムスターを回収しようとしている。
そしてイエローがオムスターを手元に戻し、カズトが焼けた塔の内部に足を踏み入れたその時、イエローの様子が急変した。
「うわああ!!」
「どうした、イエロー!?」
「何かが竿を引っ張っているんです!」
カズトがイエローを見やるとなるほど、釣り竿から垂れている糸が焼けた塔の中にいる何かから引っ張られているようだ。あの炎の中に何かがいたとはあまり考えられないが、事実そうなっているのだから仕方ない。イエローを救出すべく、カズトはポケモンに指示を出す。
「"きりさく"だ、ライガ!!」
ボールから出た勢いそのままにグライガーは見事、イエローの持つ釣り竿から糸を切断した。
あとはイエローが自力で体勢を整えるだろうと思い空を確認したカズトだが、その予想は大きく裏切られる。糸を切断したにもかかわらず、まるで"ねんりき"で動かされているかのようにイエローは変わらず地面に向かって直進していたのだ。
「嘘だろ?!」
「危ないカズトさん!!」
そして運の悪いことに、イエローが向かう先にはカズトが立っていた。このままでは地面より先にカズトに激突してしまう。
「っ……!」
最早目を閉じるしかできなかった二人だが、思っていたような衝撃は感じない。おそるおそる目を開けると、自分たちが謎の空間にいることが分かる。そしてその空間にカズトは見覚えがあった。
「これ……あのときと同じ……!」
「あのとき……?」
カズトの脳裏に浮かんでいたのは、ウバメの森で謎のポケモンに助けられたときの光景だ。何もかもが初めての経験だったため、今でも鮮明に記憶に残っている。現在カズトとイエローが立っている場所は、あのときの空間とほぼ相違ない。
何かいないか二人で謎の空間の中を見渡していると、とある一角に三枚の板のようなものが浮かんでいるのを発見した。
「なんだろう? カズトさん分かりますか?」
「いや、オレも分からないな……」
二人が近づいたその時、三枚の板に変化が起きる。みるみるうちに板にヒビが広がり、砕けたかと思うとそこに三体のポケモンが現れたのだ。
一体は雷雲のような、一体は火山のような、そしてもう一体は水晶のような印象を感じさせるポケモンたち。その身から発されるプレッシャーにカズトの足は竦む。
「キミたちポケモン? 見たことないけどなんて名前? キミがここへボクたちを引きずり込んだの?」
三体が放つプレッシャーを気にかけることなく、イエローは矢継ぎ早に三体に対し質問を投げかける。
すると水晶のようなポケモンの頭部が光を帯び始め、それと同時にイエローに衝撃が走る。
「『お前のおかげで呪縛から逃れ、現実世界への出口も開かれた』?」
「え?」
どうやらカズトには聞こえないが、イエローには彼らの声が聞こえているようだ。イエローがつぶやく言葉からして、この空間に捕らわれていたが、イエローがここにやってきたことで解放されたのだと考えられる。
どうして捕らわれていたのか、なぜイエローが来たことで解放されたのか、謎は多いがただものではない気配とこの空間との関係から、カズトが戦うことになる人物とかかわりがあるのかもしれない。
そして三体のポケモンたちは頭上を見やると、肉眼で追うのは困難な勢いで飛び出した。ひとまず彼らが飛び出た出口からカズトとイエローも現実世界に戻る。外ではミカンとイエローの叔父が三体が飛んで行った空を見上げていた。
「イエロー!! 無事だったか!!」
「カズトくんも大丈夫!?」
「はい。ただ……」
カズトがちらりと後ろにいるイエローを振り返ると、そこにはぼんやりとした表情のイエローがバタフリーに支えられてフワフワと宙に浮いていた。
「キレイなポケモンたちだったなぁ……」
―――――――――――――――
「本当にここから違う空間に行ったのか?」
「ハイ!」
「間違いなく現実の空間ではないです。オレが以前体験したときは過去や未来の映像を見せられました」
「過去や未来ねぇ……。まあしかし、他にこの塔にそんな空間はなさそうだし、信じるしかねぇか」
ミカンたちに先ほど目撃したことを話すも、反応としては半信半疑だ。仕方ないと思うと同時に、カズトは間違いなくあの空間が実在するものだと確信している。
目にした事実をカズトなりに整理するが、そのうち街の人から聞いたエンジュシティの伝説を思い出した。
「待てよ、焼けた塔……三体のポケモン……これって……」
「カズトさん? もしかして、何か分かったんですか!?」
「うん。オレの想像ではあるけど、あの三体はエンジュシティの伝説と関係があるかもしれない」
「聞かせてもらってもいいか? その伝説とやらを」
エンジュシティでは150年前、過去に例を見ない規模の大火事が発生した。これはこの街のみならず、ジョウト地方全体で見ても稀な恐ろしいほどの災害だったという。そしてその火事で、炎に巻き込まれて命を落としてしまった名もないポケモンが三匹いたらしい。
ここまでではよくある悲劇的な昔話の一節で済んでしまうだろう。しかし、エンジュの伝説はここからが本題となっている。
なんと、そのポケモンたちが死んでしまった時、突如空から虹色のポケモンが姿を現し、見る者を圧倒する聖なる炎を放ったのだ。その炎に包まれた三匹の亡骸は姿を変え、新たなポケモンとして生まれ変わったという。そしてそのポケモンたちはそれぞれ、雷・炎・水を司る力を有しているともされており、二人が出会った雷雲・火山・水晶を想起させるポケモンたちとも特徴が一致している。
「まさか!!」
「じゃあ、俺たちの前を駆けていったのがその蘇った三匹だっていうのか!?」
「あくまで想像ですけどね。ミカンさんはどう思いますか?」
「私もその可能性が高いと思うわ。ジムリーダーの私も見たことのないポケモンだったし、一瞬感じた気配も普通の野生のポケモンとは全くの別物だったもの」
そしてミカンは考えこむ様子を見せた後、意を決して言葉を放った。
「私もアサギに戻るわ。マツバさんはまだ戻らないけど、復興の土台はできたから私がいなくても大丈夫でしょう」
「ああ……だが急にどうしたってんだ?」
「捕らわれていた伝説の三体が復活しどこかへ向かったということは、このジョウト地方で何か良くないことが起こっているということ。このことをポケモン協会に報告して私も自分が守る街に戻らないといけないわ」
ジムリーダーとは街の象徴であると同時に、街に仇なす者たちから住民やポケモンを守るという使命を帯びている。ロケット団が活発になっているということや伝説のポケモンが行動を開始したことを鑑みると、かつてないほどの巨悪がジョウト地方に根を張っている可能性は高い。ジムリーダーとしてそれを見過ごすわけにはいかない。
エンジュを離れるにあたり、引き継ぎや準備もあるために出発は明日以降になるようだが、一刻でも早く自身の街に戻ろうとミカンは動き出す。
「アサギシティってどんな街なんですか?」
ミカンが動く後ろで、イエローがカズトにアサギシティについて尋ねる。
「ジョウト地方最大の港町らしいよ。オレも行ったことないから詳しくは知らないけど、人もたくさん集まるみたいだね」
「人が集まる……カズトさん、ボクもアサギシティに行ってみたいです!」
というのも、イエローたちはカントー地方からジョウト地方に飛び立ったとされる巨大な鳥ポケモンを求めてこちらに来たという。そのため、まずは伝承が多く残るエンジュシティを訪ねたわけである。この街での調査ももう少し行うつもりらしいが、すぐに次の街に出て新たな情報を探さなければならない。こうした理由もあり、人が多く集まり、情報が豊富にある街を探しているのだ。
「うーん、じゃあミカンさんに一緒にアサギシティまで行けないか相談しようか」
「ハイ!」
カズトとしても、ジムリーダーであるミカンがアサギシティに戻るのであれば、業務の合間を縫ってジム戦を申し込むことができるかもしれないという思いがある。なにせ、マツバはまだしばらくエンジュシティには戻らないとのことであるし、ミカンと共にアサギシティに向かった方がジム戦の機会には恵まれることだろう。
そして翌日。
ミカンと相談もした結果、皆でアサギシティに向かうということで話が一致した。かつてない人数での旅に新たな発見や出会いがあることを予感しながら、カズトはエンジュシティを旅立つのであった。
原作主人公たちと行動を共にさせちゃうと、小説も原作まんまになっちゃうというね。
こうしてちょくちょく細かいアレンジや改変を入れているんですけど、最終局面でどこまでバタフライエフェクトが広がっているか、書いている側としても楽しみです。
ポケスペというほんの少しだけマニアックなシリーズを原作にしているこの作品ですが、それでもたくさんの人に見てもらえて感謝の気持ちでいっぱいです。お気に入りももう少しで50に。
皆さんの楽しみの一つになっていたら嬉しいですね。