SPECIALになるために   作:Zuiki

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第2話 VSヤミカラス

 ウツギ博士の研究所からの帰り道、カズトは先ほどウツギ博士に言われた言葉を思い出していた。

 

『実は、そろそろチコリータたちを育ててくれるトレーナーを探そうと思ってるんだ』

 

 何でも、旅に出て多くのことを学んでほしいそうで、ポケモンとトレーナーの関係性の研究も兼ねているらしい。

 

「旅、かぁ」

 

 生来、体が弱かったカズトは今まで旅に出たことなどなかった。遠出した経験は一度だけ。ジョウトに来て体調が良くなってからしばらくした時期に、エンジュシティまで家族で旅行に行ったのが最初で最後の遠出だ。

 旅に憧れなんて、ないはずがない。

 

「オレもいつか、旅に出れると思う?」

 

 色々ネガティブに考えてしまう入院時代の悪い癖が出てきたことを悟ったタツベイとタネボーは目を合わせ頷いて、カズトのことを軽くはたいた。

 

「っ、励ましてくれてるのか? ありがとな」

 

ポケモンたちがこんなに前向きに考えているのに、トレーナーである自分がウジウジ考えていても仕様がない。

いつか必ず旅へ出るという期待を胸に、カズトは家路を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 あれから数日後、カズトはゴールドの家に遊びに来ていた。遊びに行くと言っても、ついでにお泊り会をするので今日は家に帰ることはないのだが。

 この時間帯はゴールドの週に一度の楽しみでもある、人気アイドルのクルミがパーソナリティを務めるラジオ番組の放送時間となっている。

 

「お、始まったぜェ、クルミちゃんのラジオ!」

「いいよね、このラジオ。オレはオーキド博士のポケモン講座が好きだな」

「ハァ?あんなジーサンの話とかどうでもいいだろ。それよりもクルミちゃんだ!」

「うーん、結構タメになると思うんだけどなぁ」

 

 そうして他愛もない話をしながらゴールドのビリヤードに付き合っていると突然、ラジオの音がノイズと共に掻き消えた。

 

「ちょっ、オイオイオイオイ! これからが本番だってのによォ!」

 

 うんともすんとも言わなくなったラジオに悪戦苦闘するゴールドだが、おそらく外にあるアンテナが何かの異常をきたして電波の受信が不可能になったのだろう。

 確認するためにカズトが外へ視線をやると、アンテナの周りではなく、庭の木の辺りにだがゴソゴソと動く人影があった。

 

「ゴールド、あれ!」

「アイツが犯人か。とっちめてやらぁ!」

 

 勇ましく窓から飛び出していくゴールドを見送ってから、カズトもその後を追う。万一犯人がゴールドの手を逃れた場合の保険としての控えだ。タツベイたちと共に外に出て、犯人の行く手を阻む位置に陣取る。

 

 ところが、その備えは杞憂に終わった。

 

「あれ? ゴロウじゃん」

「カズト! ちょうど良かったでやんす。この人の誤解を解いてほしいでやんすよ!」

「ん? お前ら知り合いか?」

「まぁね」

 

 庭にいたのはカズトの友人でもあるゴロウであった。

 カズトがゴールドへゴロウがウツギ研究所の助手をしていること、そして自分の友人であるということを紹介したところ、あんなにゴロウのことを疑っていたゴールドは一瞬で掌を返した。

 

「誤解って分かってくれたでやんすか!?」

「……まぁ、よくあることだ。気にすんな」

 

 意地でも謝らないのは流石というところである。

 

「それで、ゴロウはこんな所で何してたの?」

「そうでやんした! 実はこの木の上にオイラの荷物を盗んだヤミカラスがいるんでやんす」

 

 ゴロウの言葉を頼りに頭上を探ってみると確かに、大きめのバッグとアンテナをそばに置いたヤミカラスが羽を休めていた。

 

「あいつか。ゴールドの家のアンテナも持ってるね」

「そうと分かれば話は早ェ。ゴロウ、お前の荷物、重さはどんぐらいだ?」

「5、6㎏でやんすけど……?」

「オーケー」

 

 言うや否やゴールドはビリヤードのキューでモンスターボールを真上に打ち上げた。上空に上がったボールからエイパムが現れ、ヤミカラスに一撃を与える。

 不意打ちを喰らったヤミカラスは状況を把握することができず、バタバタと羽を羽ばたかせて混乱している。

 

「今のうちにアンテナを降ろせ!」

 

 ヤミカラスが意識を離しているうちに、エイパムは事前に持っていたロープでアンテナと、ついでにゴロウの荷物を括りつける。

 

「でも、ヤミカラスはどうするでやんすか? あれだと気付いたときに襲ってくるような……」

「それはゴールドを見てれば分かるよ」

「え?」

 

 ゴロウが振り向くと、ゴールドは上から垂れ下がってきているロープを体に括りつけていた。

 そしてエイパムが荷物を降ろすと同時に、ゴールドの体は宙へ上がっていく。てこの原理を利用して上への推進力を得たゴールドは時折幹を蹴り上げたりエイパムに引っ張り上げてもらったりすることで悠々と樹上へと登り詰めた。

 

「ええぇ!?」

「カズト、オレのアンテナ頼む!」

「了解……っと」

 

 重しとして降ろされた荷物は、すかさずカズトが受け取り縄を解く。こうすることで木の上にいるゴールドが引っ張られて落ちることがなくなる。そうしているうちにゴールドは、ヤミカラスをボールの中に収めていた。

 見事な手際の良さに、ゴロウは開いた口を塞ぐ暇もない。映画俳優もビックリなスタントアクションだったため、無理もないだろう。

 

「ゴールド、こっちは大丈夫!」

「お~う」

 

 間の抜けた返事をしたゴールドは、体から力を抜き、何と樹上からその身を投げた。

 

「危ない!」

 

 次いで起こる惨状を見まいと、ゴロウは本能的に目を閉じるが、いつまで経っても人が落ちるような音はしない。

 不思議に思い、恐る恐る目を開けると、ゴールドは逆さになって宙に浮いていた。否、正確には樹上から吊るされていた。

 

「エイパムのエーたろう。手より尻尾の方が器用なんだ」

「おもしれーだろ?」

 

 本日幾度目かの大胆なアクションにゴロウはついに口を閉めることを忘れ立ち尽くすしかなかった。カズトはもはや見慣れたものだし、最近は自分も似たことをするようになってきたので特に驚きはしないが、やはり初めて見るには刺激が多いのだろう。

 エイパムとじゃれ合うゴールドを見ていると、ゴールドが解決する頃を見計らっていたのか、彼の家のポケモンたちが揃って庭へと飛び出してきた。

 

「おーありがと、ありがと。心配すんな。大丈夫だから」

「うわぁ、これ全部君のポケモンでやんすか?」

「ああ。オレが生まれた時からこんなだ。もう家族みたいなもんよ」

 

 カズトにとっても数年の付き合いになるポケモンたちだ。十年以上一緒に過ごしてきたゴールドにとっては間違いなく、かけがえのない家族だろう。

 ゴールドが楽しそうにポケモンたちといるのを傍目に、カズトはゴロウに取り戻した荷物を返す。

 

「はい、荷物。一応中は確かめておいた方がいいと思うよ」

「そうでやんすね」

 

 ゴロウがバッグのジッパーを開けると、中からはゴールドの家のポケモンたちに勝るとも劣らない数のポケモンがボールに入ってギッシリ並べられていた。

 

「よかった。全員無事でやんす」

「今度の研究の?」

「うん。だから失くすと大変なことになるでやんす」

 

 ポケモンのタマゴについての研究を専門としているウツギ博士だが、彼の研究はそれだけに留まらず多岐にわたる。カズトが知らないだけで、きっと色々な関係性があり、ウツギ博士はそれらの繋がりを探っているのだろう。

 

「おーい、用が済んだら戻ってこいよ。ゴロウも、今日はうちに泊まってけ」

 

 いつの間にか家に戻っていたゴールドは、母親に客が一人増えたことを報せに行ったのだろう。ちゃっかりカズトに加え、ゴロウも泊まらせる気満々である。

 

 だがしかし、彼は大切なことを忘れていた。肝心のラジオ番組は、既に終わりの時間を迎えていたことに。

 

「あ~~~~~!!! クルミちゃんの歌聴き逃しちまった!! おいカズト、ダビングさせてくれ」

 

 類を見ないほど真剣な顔でカズトに言い寄るゴールドだが、ヘビーリスナーのゴールドがしていないことを、ライトリスナーのカズトがしている筈もない。

 

「うん、録音なんてしてる筈ないよね」

「バカな……!」

 

 こうしてゴールドは、泣く泣くクルミの歌を諦めることとなった。そしてこの鬱憤を晴らすことに付き合わされることになるだろうと、カズトは密かに覚悟を決めた。好きなものを逃したゴールドの執念は実に厄介なのだ。

 

 夜はまだ長い。




当作品ではポケスペ連載当時には実装されてなかった設定を独自にアレンジして適度に盛り込んでたりしてます(特性とか性格とか)。
他にもゲームやアニメの描写や設定からもちょいちょい引用していたり。
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