まさか実在するものだったとは思いませんでした。
まあモンボ縛りしてるから使う予定はないんですけどね。
その運をガチャで発揮したかった……。
さて、20話を超えてきた当シリーズ。
一応折り返しには差し掛かっているのかな?
そんなこんなで今回はあの人物との対戦です。
フスベシティまでの道のりを進むカズトは、エンジュシティを抜け、キキョウシティへとやって来ていた。チョウジタウンから抜ける道もあったが、キキョウシティを抜けた方が近いという情報を得たため、こうして二度目の来訪を決めたのだ。
思えば、旅に出てから一カ月ほど月日が経っていた。たった一カ月、されど一カ月。旅に出る前と出た後ではカズトは全く違う人間になっている。それも偏に旅の先々で出会った人やポケモンからたくさんの刺激を受け取ったからだ。このキキョウシティでもクリスタルという少女に出会ったことが今の自分を形作っている。
「クリスは元気かな?」
折角キキョウシティに戻ってきたのだから、クリスタルに顔を見せようとポケモン塾へ足を運ぶカズト。
見えてきたのは真っ白でピカピカ、新築同然の塀に囲まれたポケモン塾だった。
「え!? なんか塀が綺麗になってる!」
カズトが驚くのも無理はない。以前ここにお邪魔したときは塀はボロボロでもはや崩壊寸前だったのだ。現にカズトは押し潰されかけたという事実もある。その塀が、木製からコンクリート製になり、生まれ変わっているのだ。
「お~や、そこにいるのはカズトくんじゃないですか~!」
「ジョバンニ先生! 覚えていてくれたんですか!」
「子どもの顔を忘れるとあれば、教師失格でアルね~」
ちょうど校舎から出てきたジョバンニが、カズトへ声をかける。
一度しか見たことがない子どもの顔を寸分違わず覚えていたということや、身寄りのない子どもやポケモンを引き取って育てていることからも善良で優秀な教育者だと分かる。
「いつの間にリフォームしたんですか?」
「いや~、それが分からないのでアルよ~」
「分からない?」
なんと、塾長のジョバンニが壁工事の手配をしたわけではなく、外部の誰かがジョバンニのあずかり知らぬところで業者に依頼をしていたというのだ。しかも、代金全額前払いという破格の待遇である。
「あ、そうだ! クリスは今日いますか? 折角来たのであの子にも挨拶しておこうと思って」
「クリスくんですか……。残念ながら彼女は『しばらく来れない』と言ってここ一カ月は顔も見れてないのでア~ル」
「あ……、そうだったんですね。恩人だったから挨拶くらいはしておこうと思ったんだけどな」
ジョバンニの話では、カズトと会って数日後に塾に野生のマグマッグが現れ、子どもたちに襲いかかったそうだ。そのマグマッグはクリスタルが全て捕獲して対応したのだが、その日を最後にボランティアの仕事を休むと言ってポケモン塾には来なくなってしまった、ということらしい。
「何か変なことに巻き込まれてるんじゃ……」
「それはないと思いマース。あとで電話したら、何でも有名な博士からのお仕事の依頼を受けているだとかで、旅に出てると言ってたでアルよ」
なるほど、本人からの連絡があるのなら、ある程度は安心できる。クリスタルは捕獲が得意だとも言っていたし、おそらく依頼もポケモンゲット関連だろう。
「ポケモン……全て捕獲……アサギでも似た話を聞いたような……。まさかね」
実はそのまさかであることは、この時のカズトが知らないのも無理はないだろう。
「そういえば、ジム巡りの方は順調でアルか?」
「はい! 今はバッジ三つです。ジムリーダーが不在の街もあったんですけどね」
「オーー! 素晴らしいアルね!! そんなカズトくんに嬉しい知らせがありマスよ! なんと、リーダーが長らく不在だったキキョウジムに、遂に新しいジムリーダーが着任したのデス!」
「本当ですか!?」
それならば予定変更だ。今日はもうキキョウシティを出てフスベシティまでの道を進もうと思っていたが、ジムリーダーがいるとなれば話は別だ。
以前来た時にはジムリーダーが不在だったため、ジムに挑戦することができなかった。新たなジムリーダーが就き、ジムの運営が再開されたというのならば、挑戦しないわけにはいかない。
こうしてジョバンニに礼を言って別れ、カズトはキキョウジムに急ぐのであった。
―――――――――――――――
「ここも綺麗だなぁ」
キキョウジムの前に到着したカズトは、これまたピカピカに掃除された外装に目を奪われていた。新ジムリーダーの就任に合わせてこちらも一新したらしい。
新しいジムリーダーが誰か、そして何タイプのエキスパートかはカズトもまだ知らないため、中に入ってからのお楽しみだ。
「すいませ~ん」
ジムの正面玄関を潜り抜け、中に声をかける。すると奥から一人の人物が姿を現した。
青い髪に、これまた青を基調とした動きやすい和装の青年だ。
「いらっしゃい。ジムへの挑戦かな」
「はい。お願いします!」
「こちらこそよろしく。キキョウシティジムリーダーのハヤトだ」
「カズトです」
ジム挑戦において定番の握手を交わし、ハヤトからジム戦の形式についての説明を受けながら、室内奥にあるバトルフィールドへと歩みを進める。
見えてきたフィールドは縦に大きく開けた構造になっており、空中を飛ぶことができるポケモンでも自由に飛び回れるほどのスペースがある。しかし今までのジムで見たフィールドから鑑みるに、この構造もジムリーダーのポケモンが有利に行動することができるように作られているだろう。
このことから推測すると、彼のエキスパートタイプはおそらく「ひこう」だ。
「ルールは、『先に相手のポケモンを一体でも倒せた方が勝ち』とさせてもらう」
「なるほど……。使用ポケモンの数に制限はありますか?」
「上限は二体だ。交代は自由にしてもらって構わない」
今までとは一風変わった形のルールだ。ポケモンバトルのルールにおいて主流なのは、「相手のポケモンを全て倒した方が勝ち」だが、そうではなく、「一体でも倒したら勝ち」。勝負をかけるタイミングだけでなく、自身のポケモンの体力管理もしっかりしないと勝利は難しい。
勝つ方法としては主に二つ挙げられる。スピード勝負で相手に交代する隙を与えずに一気に倒しきる方法と、守りを固めて相手の消耗を待ち、隙が現れた瞬間を突く方法だ。他にもまだまだ戦い方は存在するが、トレーナーとしてのスタイルが現れる面白いルールだとカズトは感じた。
「分かりました!」
「よし、行くぞ!!」
ハヤトが繰り出したのはヨルノズク。ノーマル・ひこうタイプではあるものの、コガネシティジムリーダーのアカネが既にノーマルタイプのエキスパートとしている以上、ハヤトはひこうタイプのエキスパートで確定と見ていい。カズトの予想は当たっていたわけだ。
とはいえ、それに対する策がなければ、いくら予想が当たっても意味はない。相手が空中戦で有利を得てくるのならば、こちらも空を飛べば良いだけだ。
「リベル!」
カズトはヤンヤンマを繰り出し、スピード勝負に出る。だがむしタイプである以上、相手のエキスパートタイプに弱いということもあるので、致命的な一撃を受ける前に押し切りたい。
「オレに飛行勝負を挑むか。面白い! ヨルノズク、"とっしん"!」
「迎え撃て!」
両者が正面からぶつかり合うも、力は互角。さらに二撃、三撃と打ち合うも、力の差は変わらない。
「なら、これにはどう対応する? "ねんりき"だ!」
ヨルノズクの眼が怪しく光ったその瞬間、ヤンヤンマの周囲が歪み始める。おそらく、ヤンヤンマを捕まえて地上に叩き落すつもりだろう。
「捕まるな、スピードを上げろ!」
しかしそう易々と相手の思い通りにさせるわけにもいかない。ヤンヤンマの持ち味であるスピードを活かして、ヨルノズクが技の狙いを定めるよりも早く、空を飛び回り翻弄する。
ヨルノズクは焦点を合わせることに苦悩しているのか、なかなか技が命中しない。ところが、徐々に"ねんりき"の波動がヤンヤンマを捉え始めてきている。一瞬ではあるものの、ヤンヤンマの動きが少し鈍るタイミングが生まれてきたのだ。
「ヨルノズクの動体視力を甘く見るなよ!」
「対応が早い……! でも、もっと行けるよな? リベル!!」
「なんだと?!」
既に十分なスピードで飛び回っていたヤンヤンマだが、さらに速度を増してヨルノズクの周りを止まることなく飛行する。最早カズトの目には残像としてヤンヤンマの姿が見えるくらいだ。これには優れた目を有したヨルノズクであっても、捉えるのは至難の業だろう。
元々ヤンヤンマが有していたポテンシャルもあるが、一番大きいのはヤンヤンマが発揮する特性だ。"かそく"の特性は動き回れば回るほど、そのポケモンのスピードが増すというもので、回避のために飛び回っていたおかげで、十分な時間を稼ぐことができた。
敢えて時間をかけることで、ポケモンの能力を最大限に引き出す。これがこの形式の試合を勝つための第三の戦い方だ。
「"ちょうおんぱ"!」
遂にヨルノズクの目がヤンヤンマの動きに付いてこれなくなり、完全に背後を取った。ここでヤンヤンマが動きを止め、その姿を露わにする。
そして翅を細かく羽ばたかせると、ヨルノズクに向かって音波による攻撃を放った。
「ヨルノズク!」
ハヤトが声をかけるも既に遅い。音による攻撃は放ってしまえば最後、対応する間もなく相手に効果を発揮する。ヤンヤンマが発した音を聞いてしまったヨルノズクは混乱し、あちらこちらに行き場なく飛び、ヤンヤンマはおろか、自分が今どちらを向いているのかすら分からなくなってしまっているようだ。
「ここだ。"ソニックブーム"!!」
「まずい!」
先ほどとは羽ばたきのリズムを変え、今度は衝撃波として攻撃するためにヤンヤンマは力強く、その翅を動かし始めた。ジム内にあるポケモンの攻撃も耐える強化ガラスの窓がガタガタと震えだし、その衝撃波の強さを物語る。
そのような予兆もほんの一瞬のこと。すぐさま撃ち出された凄まじい"ソニックブーム"は、寸分狂わずにヨルノズクの元へと飛んでいく。
「戻れヨルノズク!」
堪らずハヤトはヨルノズクをボールに戻し、二体目のポケモンをその場に出す。
混乱したポケモンは上手くトレーナーの声を聞き取ることができないだけでなく、普段の自分が当たり前にこなしている簡単な動きをすることすら困難になる。最も手っ取り早い対処法は、別のポケモンと交代させることだが、これにもリスクはあり、交代の直後はどうしても相手の繰り出した技を避けきることができず、たいていの場合において直撃を免れない。
これはたとえジムリーダーのポケモンであっても逃れることは出来ない。たった今交代したハヤトの二体目のポケモンは"ソニックブーム"をもろに喰らい、フィールド上にはその余波が響き渡る。
「どうだ?」
「"はがねのつばさ"!!」
「ッ! 躱せ!」
だがしかし、ハヤトのポケモンは被弾も何のそのといった様子でヤンヤンマの元に突っ込んできた。そして驚くことに、ヤンヤンマに匹敵する速さで飛行しておりその全貌を認識することが難しい。辛うじて回避することはできたが、追撃に放たれた二度目の"はがねのつばさ"が襲いかかる。
「"みきる"んだ!」
ヤンヤンマの優れた視力で向かってくる相手の動きを完璧に認識し、最低限の動きで回避をする。
これにより、僅かな時間ではあるが相手の背後を取ることに成功した。絶好のカウンターチャンスだ。
「"ソニックブーム"!」
再び"ソニックブーム"が直撃し、ハヤトのポケモンも動きを止める。そこで初めて、カズトはハヤトの二体目の姿を目にすることができた。
「このポケモンって……!」
「大丈夫かエアームド!」
そう、カズトも見覚えがあるその鋼のような身体を持つ鳥ポケモンは、かつてグライガーと初めて出会ったときに戦ったポケモン、エアームドだった。
ボールの中にいるグライガーがカタカタとボールを揺らしその興奮を伝えてくることからも、目の前のエアームドがあのときと同一個体であると分かる。まさか、ハヤトにゲットされていたとは。
「前より速くなってるな……」
あのときは距離の関係もあったが、カズトの目でもはっきり姿を捉えることができていた。ところが、先ほどの"はがねのつばさ"を繰り出した際、カズトにはどこを飛んでいたのか完全に把握することができなかった。
つまり、ハヤトと特訓することによってエアームドがさらなる真価を発揮することができるようになったということだ。以前戦ったときよりもさらに手強くなっているに違いない。
「ん? こいつとは顔見知りか?」
「はい。その子が野生のポケモンだった頃に一戦交えました」
「なるほど、それでこいつもえらく気が立っていたわけだ。この反応を見るに、君が勝ったようだが」
ハヤトの言葉に反応したエアームドが、止めろと言わんばかりにハヤトへ向かって鳴き声を上げる。自分が負けたと知られたくなかったようだ。
「そう怒るな。今度は勝つんだろ?」
「……今度も負けません!」
まさに因縁の対決だ。そしてトレーナーであるカズトたちもこれには熱が上がるというもの。勝たなければならない理由が一つ増えた。
「"エアカッター"!!」
「"ソニックブーム"!!」
同時に放たれた技が空中でぶつかり合い、打ち消し合う。威力は互角だ。
「"ちょうおんぱ"だ!」
「させるか。"はがねのつばさ"!」
ヨルノズクを戦闘継続が困難な状態にまで追いやった"ちょうおんぱ"。これが命中すれば、いくら強力なエアームドであってもピンチに陥るのは必至だ。混乱状態が解けるのを待つか、ヨルノズクに交代するしかない。
最も交代の手を切ってしまうと、その後に控えた技を喰らわなければならず、耐久面で大きく差をつけられることになる。これはできるならば避けたい事態である。
とはいえ、混乱が自然に解けるのも運次第であり、下手すればさらに大ダメージを受ける可能性すらある。どっちに転んでも痛い状況になってしまうだろう。
そこでハヤトは、絶え間なく技を仕掛けることでヤンヤンマに"ちょうおんぱ"を使わせないという作戦に出た。シンプルかつ効果的な対策方法だ。
「最大スピードで飛び回って撹乱するんだ!」
「"こうそくいどう"!」
"かそく"で十分にスピードアップしたヤンヤンマは、そのスピードでエアームドの攻撃を振り切ろうとするが、これに対してエアームドは自身もスピードを上げることによってその動きに付いていく。
「"スピードスター"で撃ち落とせ!」
「しまったっ、リベル!」
先日見たペルシアンのものより数段速い"スピードスター"が、ヤンヤンマを撃ち抜いた。戦闘不能は避けたが、どうやら翅に一撃をもらってしまったようで、戦闘を継続することは難しいだろう。恐るべき正確性だ。
しかしこのまま大人しくやられるわけにはいかない。交代前の置き土産をして、次につなげる。
「"さいみんじゅつ"」
強力なエアームドも眠りには勝てない。上手く命中すれば、一気に戦況をひっくり返すことができる。
「行け、ヨルノズク!」
エアームドの代わりに登場したヨルノズクに"さいみんじゅつ"が命中する。
これはもらったとカズトは確信したが、相手はジムリーダー。無策で交代などするわけがなかった。
「ヨルノズク、"とっしん"!」
「眠ってない?!」
完全に不意を突かれ、避ける間もなくヨルノズクの"とっしん"はヤンヤンマを吹き飛ばした。これ以上は本格的に危険だ。あと一度でもまともに攻撃を喰らってしまえば、ヤンヤンマは耐えることができない。
ただ、どうしてヨルノズクには"さいみんじゅつ"が利かなかったのだろうか。何かタネがあることは確かなのだが、それが何か、カズトは咄嗟に思いつくことができなかった。
「オレのヨルノズクは相手に無理やり眠らされる技を無効化することができる。そう易々と思い通りにはさせないぞ」
ヨルノズクの特性"ふみん"だ。特性を利用して交代時のデメリットを逆にメリットへと変換させた。
自身のポケモンが持つ力をはっきりと理解していないと、交代しても上手く状況を変える一手にはならない。このことから考えても、一度目のエアームドへの交代を含め、絶妙なタイミングで交代の手を切ってくるのはジムリーダーの実力がなせる業だ。
「もう一度"とっしん"だ!」
「くそ、戻れリベル!」
「逃がすな!」
ヨルノズクの追撃がヤンヤンマを襲うも、間一髪でボールに戻すことに成功した。ただし、次に出てくるカズトのポケモンはヨルノズクの"とっしん"を正面から受け止めなければならない。
正面からジムリーダーのポケモンの攻撃を受け止めることができるパワーのあるポケモンは、カズトの手持ちの中では一体しかいない。
「マグナ!」
ボールから飛び出してきたタツベイは、その勢いそのままにヨルノズクとぶつかり合う。相手の方がスピードも乗っていたので押される形にはなったが、空中でも体勢をしっかりと整えて互角の勝負をする。
「"りゅうのいぶき"!」
"ねんりき"を発動されてしまえば、タツベイでは成す術がないままやられてしまう。そのためにもヨルノズクをここで倒すか、倒しきれないにせよ、交代してもらわなければならない。
宙を穿つ"りゅうのいぶき"がヨルノズクを包み込み、その攻撃が命中したことを告げる。
威力は十分だった。しかしそれでも、ヨルノズクが戦闘不能に至ることはなかった。ヤンヤンマとの戦闘で蓄積したダメージを踏まえても、恐ろしい耐久力だ。
「よく耐えたヨルノズク! "ねんりき"でトドメだ!!」
流れを掴んでいるハヤトは勝負を決める指示を出した。
ところが、ヨルノズクは技を発動させる気配を見せない。むしろ、満足に羽ばたくことすらできず徐々に高度を低下させているではないか。
「どうしたんだヨルノズク!?」
「マヒ状態だ。よくやったぞマグナ!」
"りゅうのいぶき"の中に含まれるエネルギーがヨルノズクの動きを封じ、このバトルの中で最大の隙を作り出した。これではヨルノズクはボールに戻さざるを得ないだろう。
しかも混乱状態と違い、マヒ状態はそれ専用の道具や技を使って治癒しなければ基本的に治ることはない。
つまり、ヨルノズクを実質戦闘不可な状態にまで追い込んだということだ。
「やるなカズトくん。まさかジムリーダーに就任して初めてのバトルがこんなに熱いものになるとは……思ってもみなかったよ」
「恐縮です!」
つい先日就任したばかりであるとはジョバンニから聞いていたが、まさかこれが初のジムリーダーとしてのバトルだったとは。最初でこの実力ならば、数カ月もすれば指折りの実力者になっているはずだ。
相手の持つ才能を前にカズトも気を引き締め直す。
「だが負けるわけにはいかない! 行け、エアームド!」
再び登場したエアームドは、ハヤトの闘志の高まりに呼応し、力強く鳴き声を上げる。
カズトとタツベイにとっても二度目のバトルであり、気合は十分だ。前回はグライガーがいたことで勝利することができたが、今はタツベイのみ。純粋に今までで培ってきた力を最大限発揮しなければ、勝つことはできないだろう。
「オレたちも負けるわけにはいかない。行くぞマグナ! "ひのこ"!」
「"エアカッター"で吹き飛ばせ!」
前回戦った時は容易く風の刃に掻き消されてしまった"ひのこ"だが、今回は互いに打ち消し合い、タツベイにまで攻撃を届かせない。
カズトは自分たちは間違いなく成長していると確信する。
「今度はこっちの番だ。"スピードスター"!」
「"りゅうのいぶき"で防御だ!」
続いて相手から放たれた弾幕も的確に撃ち抜き、決定打とはさせない。そしてこのことから、お互いに遠距離技では相手を削りきることができないことが分かった。カギとなるのは近距離戦だ。
近距離戦になるのであれば、カズトたちにも勝機がある。空中を自在に飛び、優れた機動力を持つエアームドであっても、タツベイに接近するときは地表近くに降りてこなければならない。この瞬間にカウンターを決めることができれば、カズトたちの勝ちが大きく近づく。
「これは止められるか? "はがねのつばさ"!」
「来た。"ほのおのキバ"だ!」
ハヤトも遠距離攻撃では埒が明かないと踏んだのだろう。勝負を決めるため、得意の"はがねのつばさ"で一気に距離を詰める。
対するカズトはこの攻撃を見切り、カウンターを叩き込むために全神経を集中させる。タツベイも同様に、エアームドから視線を離さない。
「今だ、"こうそくいどう"!」
エアームドの動きを注視していたカズトの視界から、その姿が消える。まるで瞬間移動したかのように別の場所に現れたエアームドは、死角からタツベイを強襲した。
「マグナ!!」
虚を突いた一撃はタツベイを捉え、その鋭い爪のような銀翼が小さき竜の体を切り裂いた。
一撃でやられることはなかったが、そう何度も耐えることのできるものではない。相手のペースになればそこでおしまいだ。
「このまま決めるぞ。連続で"はがねのつばさ"!」
"こうそくいどう"を織り交ぜた超スピードの"はがねのつばさ"が再度襲いかかる。一度目よりも速いその攻撃は、回避することをカズトの頭の中の選択肢から無意識に削除させる。
ただ、ここで黙ってやられるほど、カズトたちは弱くない。それは今までの経験と知識が証明している。
「その場に"ひのこ"ォ!!」
これでもかという火力で地面に放射された火炎は、地面を焦がしながらタツベイの周囲を広く覆い、即席の炎のバリアを作り出す。その熱気は、さながらほのおタイプのポケモンが放ったかのような熱さで、熱が苦手なエアームドにとっては危険だとハヤトに思わせるには十分なものだった。
「止まれエアームド!」
すぐさま回避の指示を出すが、"こうそくいどう"によるスピードが上乗せされている分、回避にはかなりの時間を費やさなければならない。急停止を試みるエアームドの体が炎に晒される。
「エアームド!!」
炎の海にダイブしてしまったエアームドは、かなりのダメージを負ったと言えるだろう。その証拠に綺麗に磨かれ、先ほどまでキラキラと光を反射していた羽が、炎と煙によって煤けた色になっている。エアームドもかなり消耗した表情をしている。
「チャンスだ、突っ込めマグナ!」
牙に炎を纏い一直線に突っ込むタツベイ。この一撃が決まれば、間違いなくカズトたちの勝利だ。
「"スピードスター"!!」
一体どこにそれだけの力を残していたのだろうか。この状況になって初めて、ノーモーションで放たれた"スピードスター"は認識する間もなくタツベイに命中し、その体を吹き飛ばした。
「マグナ!」
「決める! "はがねのつばさ"ッ!!」
正真正銘、最後の力を振り絞ったエアームドの技がタツベイに狙いを定められる。
羽ばたくエアームド、地面を転がりながらもどうにか立ち上がるタツベイ。カズトの目にはこの光景がスローモーションのように流れ、まるで永遠かのように感じられた。
「マグナァァアア!!!」
両者がぶつかるその直前、タツベイの体が青白い光を発し始める。少しずつ、だが確実にその姿を変化させていくタツベイ。
カズトは一度、この光を目にしたことがある。
「進化……」
やがて光がその輝きを失った時、タツベイの姿は一回り大きくなり、全身を分厚い殻で覆った姿に変化していた。コモルーへと進化した竜は、エアームドの会心の一撃をその身でガッチリと受け止めていた。
「エアームドが、完全に止められた……」
「"ドラゴンクロー"!!」
全身のドラゴンエネルギーを一点に集めて繰り出す最大の一撃。
力をすべて使い果たし、回避することもできなくなっていたエアームドはその攻撃を正面から受け止め、地面へとたたきつけられた。
静けさに包まれるフィールド。
ハヤトは何も言葉を発することなく、エアームドをボールへと戻す。
そして一度深く呼吸を整え、すっきりとした顔でカズトへと声をかけるのだった。
「オレたちの負けだよ。おめでとう、カズトくん」
キキョウジムに新たなジムリーダーが誕生して初めて行われたバトルは、チャレンジャーであるカズトの勝利で幕を閉じたのであった。
ハヤトって原作漫画でもなかなかの好待遇受けてたと思うんですよね。
ジョウトジムリの中でも唯一三犬全員にバトル挑まれてるし、副職警察官と扱いやすい職業就いてるし。
何より透明なブーメランを使いこなすことに男のロマンを感じます。
僕は好きです。
これでバッジを四つ手に入れたことになるカズトですが、次に目指すのはフスベシティ。
五つ目のジム攻略へと突き進みます。