ちょっとくどくなりそうだったので、前編後編での分割掲載をすることにしました。
九割バトル描写の戦闘回は今までもやっていましたが、このフスベジム戦はその中でもかなりの密度になっていると思います。
僕の想像したバトルの光景が皆にも伝わってると嬉しいな。
では、お楽しみください。
朝早い時間、まだうっすらと霧が漂うこの時間。
清らかな蒼の身体を有する竜に乗り、水面を進む人影があった。
「兄者……」
その人影からポツリと発せられた「兄者」という言葉。彼女の頭の中に浮かぶのは一年前に急に消息を絶ってしまった兄弟子でもあり、従兄でもある男の背中。
今まで何事もなかったかのように連絡をくれていた人物が、ある日を境に姿を消してしまったことの喪失感は計り知れない。
「あれ、イブキさん?」
「ッ!」
物思いにふける彼女――イブキ――の背中から声をかけてきた者のそれは、まだ幼い。昨日ジムに訪れた人物と声色が一致したことから、姿を見ずともその人物の正体に見当がついた。
「カズトか。貴様、こんなところで何をしている? ここは我が一族の敷地内だ」
茂みの向こうから姿を現した少年ことカズトは、傍らに見慣れないポケモンを連れていた。おそらくは話に聞いていたホウエン地方のドラゴンポケモンだろう。
「ドラゴンタイプのポケモンがリラックスできる効果があると聞いたので、散歩に。リュウさんからこの辺りは自由に出歩いていいと許可はもらいました」
「あの馬鹿者が……」
竜の穴へと続くこの道は、これまで一族が守ってきた道でもあり、ドラゴン使いの一族以外の人間がここへ入ることはほとんどない。それを昨日フスベに来たばかりの少年に案内するなど、考え難いことだ。
そこまで思考したイブキだが、すぐに、それだけリュウがこの少年の実力を認めているのだと至った。幼くしてドラゴンポケモンと対等な関係にあるこの少年が、ドラゴン使いであると認めないのは逆に敬意に欠けるだろう。
「カズト。今日の勝負だが、本気で行かせてもらう。私を楽しませてくれ」
返事が来るよりも早く、イブキは地に足をつけ霧の中へと歩みを進める。返事など聴かずとも、チャレンジャーたる彼が手を抜いて挑んでくるはずがない。
再び濃くなる霧の中にイブキの影が、溶け込んでいった。
―――――――――――――――
そして太陽が南の空に昇り切った時、カズトとイブキは道場のバトルフィールドに向かい合って立っていた。朝に言葉を交わした際の落ち着いた雰囲気は鳴りを潜め、ピリピリとひりついた空気が周囲を占めている。
「来たな。レギュレーションは三対三。相手のポケモンをすべて倒した方が勝利だ。交代は挑戦者のみに認められる。何か質問はあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「今朝も話したが、私は本気で行く。ポケモンのレベルだけは合わせるが、それ以外は手加減などしない」
正直、手加減なしのジムリーダーの実力は計り知れない。実際にアサギシティでマチスとプライベートなバトルをしたことで、よりそれが実感できている。どんなとんでも技や戦法が出てくるのか。考えたとしても結局はその想像をはるかに超えるものが待ち受けているのだろう。
「……お願いします」
「よし、では始めよう。行け、ミニリュウ!」
イブキの一体目はミニリュウだ。主力と思われるハクリューの進化前のポケモンではあるが、れっきとしたドラゴンタイプであり、その能力は高い。
「シャーフ!」
対するカズトが繰り出すのはメリープ。今回がジム戦デビューではあるが、優れた戦闘センスを持ったカズトの頼れる一体だ。
ボールから出たメリープも全身に溜まった電気をバチバチと鳴らし、気合十分な様子が見られる。
「始め!」
審判を務めるリュウの声により、勝負の火ぶたが切って落とされた瞬間、二匹は真っ向からぶつかり合う。
まずは力比べからといったところだろう。ジリジリと鎬を削るメリープとミニリュウだが、フィールドが陸地であること、そしてミニリュウの体が水中で真価を発揮できる造りになっていることから、次第にメリープが優勢になりつつある。
「吹き飛ばせ!」
「むッ!」
カズトの声と同時に、メリープが一気に力を込めてミニリュウを突き上げた。
宙へと投げ出されたミニリュウにメリープの攻撃を避ける術はない。カズトはさらに追撃を試みる。
「"でんきショック"!」
「"ドラゴンテール"!」
空中にいる相手を撃ち落とすべく放たれた強烈な電流を、ミニリュウは尻尾を勢いよく振り回すことでその流れを断ち切った。
元々でんき技はあまり効かないドラゴンタイプだ。通常ならば感電してしまうような接触攻撃でも、タイプの相性を活かし、完全に感電してしまう前に尾に纏わせた技のエネルギーで相殺したのだろう。
「着地の瞬間を狙うんだ! "たいあたり"!!」
だがカズトとしても、そのようなことは百も承知である。今までジムリーダーたちは自分たちの放った攻撃をあの手この手で対応してきたのだ。必中だったはずの技を防がれたとて、今更驚きはしない。
それよりも、対応されるというならば、その対処力を上回るまで攻撃を積み重ねなければならない。一撃入れるその都度に一喜一憂していては、ジムリーダーに勝つことはできやしない。
宙に投げ出されたミニリュウに攻撃を弾く余裕があるとはいえ、その隙は未だ残っている。
"たいあたり"が着地後の態勢を整える前にクリーンヒットした。フィールドの端まで弾き飛ばされたミニリュウだが、今の一撃をものともしない顔で再び立ち上がった。
「やるな。ならばこれはどうだ? "ハイドロポンプ"!」
「"ハイドロポンプ"!?」
本当に進化前のポケモンか疑いたくなるほどの"ハイドロポンプ"が、メリープ目掛けて発射された。
でんきタイプは本来、みず技を苦手としていることはない。しかしメリープは全身をフワフワの毛に覆われているので、水に濡れてしまうと毛がその水気を吸い込んでしまい動きに多大な支障が生まれてしまう。
ある種、メリープだけの弱点というわけだ。
激流が目の前に迫る中、しかしカズトには驚きの表情こそあるが、焦りの表情は見られない。
「"こうそくいどう"」
メリープの姿が掻き消え、"ハイドロポンプ"の射線には一瞬だけメリープの残像が残るだけである。そしてミニリュウの真横に姿を現したメリープは地を蹴り宙に躍り出た。
「"アイアンテール"!」
「くっ、"ドラゴンテール"で向かい撃て!」
空中からの自重を込めた尻尾による振り抜き攻撃がミニリュウを捉える。
ミニリュウも"ドラゴンテール"で最低限の防御には成功したものの、大技である"ハイドロポンプ"を使った直後に意識外の方向から攻撃を仕掛けられたことから、十分な威力は発揮しきれていない。加えてメリープの尻尾は硬化されているため、生半可な衝撃では攻撃の軌道を逸らすことはできず、押し切られてしまった。
「ミカンさんの教えのおかげだな」
メリープが好戦的な性格であると判明したその日に、カズトは再びミカンにアポを取り、これからの育成方針についてさらに詳しい相談を受けてもらっていた。その話の中で、メリープの得意攻撃の中に尻尾での一撃があると言ったところ、ミカンのデンリュウから直々に"アイアンテール"という技を教えてもらったのだ。
ミカンは近年に分類が確認されたばかりであるはがねタイプをエキスパートタイプとしているトレーナーである。現在のジョウト地方の中で、はがねタイプについて最も詳しいトレーナーであると言っても過言ではない。
その彼女から教わった"アイアンテール"は、カズトのメリープととても相性が良く、すぐに使いこなすことができるようになっただけでなく、今では接近戦の際のメインウェポンにまで昇華している。
「連続で"アイアンテール"!」
右へ左へ、自在に尾を操り怒涛の連続攻撃を叩き込むメリープ。これには先ほど優れた耐久を見せたミニリュウも成す術なく攻撃を受けるに甘んじるしかなかった。
「焦るなミニリュウ! "まきつく"攻撃!」
一気に劣勢に立たされたとしても、イブキは怯まない。ミニリュウがメリープの攻撃を一度回避したその時、カウンターとなる技の指示を出した。
ミニリュウは空振りしたメリープの尻尾を自身の尻尾で的確に掴む。メリープがどれだけ振り回そうが、その拘束は解けることなく逆に体力を奪うだけだ。
「シャーフ、"でんきショック"だ!」
「させるか。"たたきつける"!!」
メリープが攻撃のための電力を溜めきる前に、ミニリュウは尻尾を素早くかつ正確に操り地面へと叩きつけた。
いくら体毛で衝撃を吸収できるとはいえ、ダメージはゼロにはならない。ぶつかった衝撃でメリープの動きに明確な隙ができた。
「"ハイドロポンプ"!!」
「躱せぇ!」
何とか回避を試みるも、今度はメリープも避けきることができず、毛の全体の半分ほどが水で浸されてしまった。
あちこちから滴る水にメリープは煩わしそうな顔をする。体にへばりついた毛によって、既に普段の動きができないことに不便さを感じているのだろう。やはり少し重そうだ。
「毛が縮んで、随分とスッキリした体になったんじゃないか?」
「いえ、頭もスッキリしたんでこれからですよ」
「ハッ、その余裕もいつまで保つだろうな」
カズトとしてはまさに冷や水を浴びた気分で、一旦落ち着くことになった。だが、メリープはそうもいかないだろう。自慢の毛をビショビショにされた上、イブキの挑発も相まって苛立っているに違いない。
「シャーフ、落ち着けよ。まだここからだ」
予想通り、今にも怒りに任せて飛びかかろうとしていたメリープは、カズトの言葉を受け咄嗟に冷静さを取り戻した。全身にパチパチと電気を帯び、自身の状態を確かめている。そしてまだやれると判断したのだろう。カズトの方を向き尾の先をチカチカとさせる。
メリープの肯定のサインを見たカズトも、今後の作戦を脳裏に浮かべる。
「よし――」
「作戦会議は終わったか? 今度はこちらから行くぞ!」
イブキの掛け声と共にミニリュウが一気に距離を詰める。動きの鈍ったメリープを見て、接近戦からのスピード勝負へと持ち込もうとしているのだろう。
「"たたきつける"!」
「シャーフ、"たいあたり"だ!」
メリープは動きにくそうにしながらも、ミニリュウが振り下ろす尻尾に的確に体をぶつけ、勢いを抑える。水分を多量に吸い込んだ体がぶつかったことで、ミニリュウの方にもその水しぶきが飛び散る。
「"こうそくいどう"!」
「やはり動きが鈍くなっているぞ。見えさえすれば対処も容易い! "ハイドロポンプ"!!」
一度目の"こうそくいどう"を見たイブキからすれば、今のメリープはあまりにも遅い。
上空高くジャンプしたメリープは、死角から"アイアンテール"の一撃で勝負を決めるつもりだったのだろうが、それは甘い。移動先がバレバレである。
もちろんミニリュウもメリープの行先は把握していた。イブキの指示に従い、大技の"ハイドロポンプ"を構える。
「真下に"でんきショック"!!」
「真下だと? っ、ミニリュウ――」
「行けぇぇぇ!」
イブキが見た地面には"ハイドロポンプ"の残滓として多くの水が飛び散っていた。そしてミニリュウにも、直前にメリープと接触したことによる水分が体表に残っている。
そこから導き出されることは――
「ミニリュウ!!」
残った水が導線となり、ミニリュウへと必中の電撃が襲いかかるということである。
完全に不意を突かれたミニリュウは体勢を大きく崩し、技も中断されてしまった。
本来ならば、でんき技でここまでのダメージは負わないが、今は体表の水分を通して通電しやすい状態になっていた。これにより、従来よりも大きな威力となって電撃が命中してしまったのだ。
「"アイアンテール"!!」
先ほどより高さも重さも増した鋼の尾による攻撃がミニリュウを打ち抜き、その身体を地面へと叩きつけた。
「ミニリュウ、戦闘不能!!」
流石のミニリュウもこの一撃には耐えることができず、地に体を預けることとなった。リュウの判定も妥当なものだ。
(上空へ飛んだのは、ギリギリまで私たちの目を下へ向けさせないため……。おそらくスピードが鈍っていたことすら作戦のうちだったのだろうな……)
まさか自身の悪条件を作戦へ活かすとは。かつて腕を磨き、競い合った従兄を彷彿とさせる戦い方をする少年に、本格的に彼の面影を感じ始めたイブキは次のポケモンを繰り出した。
その顔に笑みを浮かべて。
「やはり私の見立ては間違っていなかったようだ。カズトよ、貴様は我がイブキの名において必ず倒す! ハクリュー!」
イブキが出した二体目のポケモンはハクリュー。たった今、戦っていたミニリュウの進化形である。
「シャーフ、戻れ。シード!」
カズトもメリープを戻し、二体目のポケモンを繰り出す。
しかし、シードと呼ばれたそのポケモンは以前までのコノハナの姿ではなかった。長い鼻の特徴はそのままに、身体は一回り大きくなり、両手は葉のような団扇に変化している。
「さあ、進化した力を見せてやれ!」
そう、コノハナだったシードはダーテングに進化していたのである。これは全くの偶然であるのだが、カズトのカバンから零れ落ちていたとあるものをしまおうとそれに触れた際、突然進化をしたのだ。
その触れたものとはリーフの石――虫取り大会にてツクシから譲り受けた賞品――だ。
カズトは知識としてコノハナにさらなる進化先があることを知っていたが、条件などは把握しきっておらず、いつどのようにして進化するかは分かっていなかった。ダーテングに進化したときの状況を見て、ようやくその条件を理解したのであった。
「相手は強力なドラゴンポケモン。不足なし!」
「ハクリュー、"でんじは"!」
「"じんつうりき"!」
相手をまひさせるだけにはとどまらないだろう威力の"でんじは"だが、ダーテングが手を振りかざすとハクリューは怯み、それにより"でんじは"の軌道がダーテングから逸れ、何もない地面を焼くだけに留まった。
「でんき技か。まだフィールドに水は残ってるし……。なら、"にほんばれ"だ!」
"にほんばれ"の指示を受けたダーテングは、両手にエネルギーを溜め、道場の天井へと打ち上げた。
すると室内にもかかわらず、まるで真夏のような明るさが周囲を照らし、フィールドの水分を涸らしていく。しかしそれだけではなく、ダーテングの体に降り注いだ光はそのままダーテングへと吸収されていくではないか。見るからにダーテングの調子が上がってきているのが分かる。
「なるほど、"ようりょくそ"か」
「よし、次は風だ!」
"にほんばれ"を終えたダーテングが次にとった行動は、両手の団扇で何もない空間をあおぐことだった。
何もなかった空間にどこからともなく風が吹き込み、漂い始める。
「神力を有し、天候を変え、風を操る。ハクリューも天気を操ることはできるが……。どこかの言い伝えにでも登場しそうなポケモンだな」
「まだまだですよ。"はっぱカッター"!!」
そう、これはまだダーテングの力を引き出すための準備段階に過ぎない。これから始まる攻撃こそが、ダーテングの本領なのだ。
ダーテングが撃ち出した"はっぱカッター"はコノハナだった頃よりもさらに鋭さを増し、ハクリューへと迫る。
「"りゅうのいぶき"!!」
大きく息を吸い込んだハクリュー。一瞬だけ呼吸を止めた後、吸い込んだ空気に竜の力を纏わせ、強力なブレスとして吐き出した。
確かにリュウの言っていた通り、コモルーのそれと威力はかなり近いだろう。しかし、技の出し方からより広くをカバーすることができるようになっているのが違いだ。
「上だ!」
面を薙ぎ払う"りゅうのいぶき"だが、あくまで横に広いだけだ。上はカバーしきれていない。
一陣の風が吹き荒ぶと同時に、激流に呑み込まれるはずだった葉の一群がその弾道を急速に変化させた。一度上空へと昇った"はっぱカッター"は、猛烈な勢いで雨となってハクリューへと降り注ぐ。
「厄介な……!」
「もう一回だ!」
「"しんぴのまもり"から"りゅうのいぶき"!」
だが、一度目は刺さった奇襲も、二度目以降はジムリーダーには通用しない。
状態異常を防ぐための"しんぴのまもり"を、元々の役割とは別のクッションとして利用し、葉の勢いが鈍くなった瞬間に"りゅうのいぶき"で撃ち落とされた。
「そのまま薙ぎ払え!」
上から降る弾幕を撃ち落とすために放ったブレスが、威力はそのままにダーテングの立つところまで猛威を振るう。
今度は"じんつうりき"で狙いを逸らす時間もなく、ダーテングへ直撃してしまった。
「シード!」
「まだだ。連続で"りゅうのいぶき"!」
間隔を空けてから連続して放つことで、面と点の両方に対応した広範囲高威力の攻撃だ。技を使うハクリューにある程度の負担がかかってしまうが、並大抵の相手では避けきることはできない。
一つの技で多彩な戦法をとることができる器用さはカズトのコモルーより技量が高いだろう。
「躱せ!」
勝負の決め手になる技とも言える"りゅうのいぶき"ではあった。直前の隙も相まって、躱すのは至難の業だっただろう。
だが今回の相手は他の並大抵な相手ではない。これまでバトルの腕を磨き、急成長を遂げている期待のルーキーとその彼のポケモンだ。
"ようりょくそ"にて倍増したスピードと、未だフィールドを揺蕩う風を最大限活用することで、通常では潜り抜けるのが困難な隙間を縫うようにして移動するダーテング。
その姿はまるで、いつどこに攻撃が来るのか全て把握しているかのような動きぶりである。
「馬鹿な!」
「いいぞシード! でも、これ以上はまだ負担が大きいか……」
いや、比喩などなく実際にダーテングはその全てを把握していた。自身が持つ相手の考えを読み取る能力を活用し、ハクリューが狙う場所を事前に察知していたのだ。相手の狙いが分かれば、どう避けるべきか判断するのは容易である。
ところが、この強い力は同時に高い集中力と体力を使う。流石に一度の戦闘で読み取ることができる思考の数は限界がある。代償なく一方的に相手の考えを読み続けることはできないのだ。
「遠距離からでは埒が明かない。接近戦だハクリュー!」
"でんじは"や"りゅうのいぶき"をことごとく回避しきったダーテングに、これ以上の自由を許すわけにはいかないイブキは近距離戦へと狙いを変更する。
しなやかな動きで瞬く間に距離を詰めるハクリュー。尾による鋭い一撃がダーテングを狙う。
「ガードだ!」
対するダーテングは両手を使い、ハクリューの攻撃を受け止めた。コノハナの頃から格闘戦には力を入れて特訓していたため、後れを取ることはない。尻尾の連撃にこちらも拳と蹴りの体術で応戦する。
だがリーチは相手の方が有利だ。今回に関してはあまり接近戦を長引かせるのはよくないだろう。有効な攻撃の機会が限られてしまうと、一方的に相手のペースに持っていかれる可能性も高くなる。
「"はっぱカッター"で近づけさせるな!」
「甘い! "でんじは"!!」
風で操作され、自身を包むように出された"はっぱカッター"には目もくれず、ハクリューは角から"でんじは"を放つ。
ダーテング目掛けて飛ぶと思われた電流はしかし、前ではなくハクリューの頭上から後方へと効果を発揮する。その場に長時間滞留するように設置された"でんじは"が死角から襲い来る"はっぱカッター"を次々に防いでいるのだ。即席の電磁バリアといったところだろうか。
「残りは"りゅうのいぶき"で撃ち落とせ!」
そうすれば残った攻撃を相殺するだけで充分だ。イブキは"はっぱカッター"による弾幕を全て処理しきってしまった。
「そこだ、回り込め!」
風の操作に気を取られたほんの一瞬。その隙を見逃さなかったイブキの指示がハクリューを動かす。
長い胴体をダーテングの背後へと伸ばし、立ち位置を入れ替えると、"でんじは"によるバリアとハクリューによる間接的な挟み撃ちが実現する。
「行け!!」
今までで一番重い尻尾の一撃がダーテングを、トラップと化した"でんじは"ゾーンへと弾き飛ばす。
「しまった……!」
イブキの目論見通り、即効性の強い"でんじは"は触れた瞬間にダーテングの体から自由を奪い取り、その場に縫いつける。かつてないほどの明確な隙である。
この絶好のチャンスに、最大の技で勝負を決める。
全身から角の一点へと集約されたドラゴンエネルギーをさらに圧縮。高密度のエネルギーの塊となったそれを一気に放出する。
「"げきりん"!!」
ドラゴンタイプの技の中でも最大級の威力を持つ、文字通りの必殺技がその牙を剥く。フィールドまでも焼き尽くすのではないかというエネルギーの奔流が止んだとき、そこには倒れ伏したダーテングの姿が――
「なんだと!?」
イブキが驚くのも無理はない。なんと、フィールドのどこにもダーテングの姿がないのだ。
急いでダーテングを探すイブキの頭上に一つの影が差す。
そこには宙に浮かび、幾枚もの葉を展開したダーテングがいた。
ダーテングが風を操り、ものを自在に動かすことができるのは、既にバトルの中で見せていたことからもイブキは知っていたことだろう。カズトもそこは織り込み済みだ。
しかし、ダーテングが風で動かすことのできるものは何も葉だけではない。自分が風に乗ることで、普段以上のスピードで移動することができるのだ。むしろ、こちらの方が元来ダーテングが有する力であり、"はっぱカッター"との合わせ技はその力の応用である。
たとえ、まひ状態であったとしても、"ようりょくそ"がもたらす活性効果と風乗りの術を合わせれば、回避するには十分な速さを引き出すことができる。
「"はっぱカッター"!」
既に展開し終えていた葉の刃を一斉に射出する。
刃の雨がハクリューに飛びかかるも、強者たるイブキは動じない。
「もうその技は見切った! ハクリュー、"げきりん"!!」
"げきりん"で"はっぱカッター"ごと押し返そうということだろう。現に"げきりん"に触れた葉が燃え尽き、その数を減らしている。このままではダーテングの元までその威力を届かせるに違いない。
反撃の一撃に、しかしカズトもこれに動じていなかった。
「"ぼうふう"!!」
このバトルの中で常に周囲を漂っていた風が、ついにその真価を発揮する。
今までそよ風のようだったそれが、突如風量を増し、フィールドの中心部に大きな竜巻を形成した。その引力は凄まじいもので、近くにいたハクリューはみるみるうちにその内側へと引きずり込まれていく。"げきりん"を維持することもできず、完全に巻き上げられてしまった。
「くっ、なんという威力……! ハクリュー、無理に抗うな! 風の流れに身を委ねるのだ!」
「させない! シード!!」
カズトの声に、ダーテングはさらなる数の"はっぱカッター"を撃ち出すことで応える。
竜巻の中に葉の刃が加わったことで、強力な切れ味を持つ嵐となり、ハクリューを覆い隠す。やがて嵐が止んだとき、中にいたハクリューはその美しい身体を切り傷でいっぱいにしながら倒れこんでいた。
「ハクリュー、戦闘不能!!」
"にほんばれ"の効果も切れ、明るさも元に戻った道場内で響き渡るのはリュウの判定の声。
ハクリューをボールに戻したイブキは、試合前の余裕の表情をとうに消し去っていた。
「……私が一体も倒せずに、最後のポケモンを出すことになるとはな。正真正銘、私の切り札だ。しかとその目に焼き付けろ!」
イブキの最後のポケモンはキングドラ。昨日戦ったリュウのシードラが進化すると、この姿になる。エンジュシティで共闘したシルバーも、ゴールドとの通信進化を経て手に入れていた。みず・ドラゴンタイプの弱点の少なさが優秀なポケモンだ。
決着の時は刻一刻と近づいている。
前半戦、VSハクリューでした。
今回の戦闘描写についてはアニポケの方からもかなりインスピレーションを受けました。
アニメ的戦闘にゲーム的なシステムを組み込むハイブリッド形式は書いててすごく楽しいですね。ここはどう落とし込もうかと、考えさせられます。
次回はイブキの最後のポケモン、キングドラとの戦い。
切り札のポケモン相手に、カズトはどう戦うのか。
次回もお楽しみに。
あ、UA9000突破、ありがとうございます!