SPECIALになるために   作:Zuiki

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第27話 VSルギア

「見えたぞ、あれがうずまき列島だ!」

「……あそこにゴールドたちが」

 

 アサギシティを出発した高速船アクア号が目指すのは40番水道を南下した先にある四つの島が連なるうずまき列島。

 マツバの千里眼によってゴールドとシルバーが現在いると思われる場所が判明したことで、マチスとカズトは仮面の男と相対し生き延びた少年たちの捜索に本格的に乗り出したのだ。

 

「カズト、あの島で間違いねぇな!?」

「はい、マツバさんが描いてくれた絵とそっくりそのままです!」

「ハ、どうやらあの野郎の絵心は確かだったみてぇだな」

 

 うずまき列島の内、最も北に位置する小島が現在アクア号が向かう目的地である。

 周辺に渦潮が発生している気配はないものの、今朝の気象情報によれば昨日と同様に渦潮発生の予兆は見られるとのことだ。アクア号がそれなりの大きさを有した船であることを計算に入れたとしても、いざ渦潮が発生した際、それに巻き込まれない保証はない。細心の注意を払いながらアクア号は海を走っていた。

 

「いやあ、巨大渦の発生だとかポケモンたちの大移動が起きているとか言われてたもんですけど、治まったんですかねぇ」

「何事もなかったらいいですけどね」

 

 マチスの命を受けてアクア号の操舵を担当していた船乗りにカズトは相槌を打つ。……決して、ぺらぺらと喋る彼にマチスが見向きもしなかったから可哀そうになったとかではない。

 以前もアサギで会ったことのある彼だが、どうやらマチスの舎弟的ポジションだったようだ。本人がマチスの態度に特に反応を示していないので、まあいつものやり取りなのだろう。

 

 そのマチスだが、彼は特注の双眼鏡を使い島の外観の観察を行っていた。何分、天然の小島のため、アクア号が接岸することのできる桟橋などもない。アクア号は沖に停泊させ、自分たちがその身一つで島に乗り込む必要がある。効率的に捜索を行うべく、安全な上陸先を探さなくてはならない。

 最もベストなのはこうして偵察している間に件の少年たちをみつけることなのだが。

 

(やっぱりそう都合よく見つからねぇか? ――っ!!)

 

 マチスの眼は島の中央に位置する火山の中腹、そこに開いた穴から這う這うの体で逃げ出してきたかのような様子の二人の少年を捉えていた。

 

「BINGO! カズト、お友達だ!!」

「ホントですか!?」

 

 カズトはマチスの手から双眼鏡をひったくるように奪い、彼の教えてくれた先を見る。

 確かにそこには幼馴染とライバルが五体満足でそこに立っている。

 

「……っ」

「ほら、あいつらのとこ行くんだろ?」

「はいっ……!」

 

 涙ぐむカズトの背中を叩いてマチスは船室を出る。

 彼はレアコイルたちの発生させた"でんじふゆう"エネルギーを利用したバリアに乗って島に上陸するつもりのようだ。既に甲板にポケモンたちを出し、指示をしている。

 カズトはヤンヤンマを出し、彼に掴んでもらうことで宙に躍り出た。

 

「ん? 今何か海にいたような……」

 

 甲板から飛び立ち、海面との距離を確認したカズトは、一瞬ではあるものの、水中で何か大きな存在が動いたのを目にした。ヤンヤンマと自分の影が水面に映ったのではないかとも思ったが、あれはむしポケモンの影ではなかったと言える。

 

「この海の主的なポケモンかな……?」

 

「こ、今度はなんだ!?」

 

 驚いた少年の声に意識を戻され前を見ると、気づけばマチスが既に島に乗り込んでいた。ゴールドたちの荷物を彼らに投げ渡しているのが見える。

 

 ここまで来る道中で、マチスは仮面の男についての情報を求めていることを聞いているカズトは自身の持つ情報を渡したうえで彼の分析を聞いていた。

 マチスが彼と対峙したときは大量のデルビルをけしかけられたそうだが、カズトが戦ったのはデリバードだ。正反対のタイプのポケモンを使うことから、カズトのようなタイプに拘らない人間なのかと思いきや、マチス曰く、本職はこおりタイプ使いではないかということらしい。

 

『このオレさま相手に本気を出してなかったと考えんのは癪だが、お前の話や湖にいた赤いギャラドスの状態から考えると間違いねぇ』

 

 なんでも人やポケモンを瞬間的に氷漬けにするのは並大抵の技ではないらしい。圧倒的な冷気が求められるため、必然とそのポケモンや使い手は高レベルな能力を有することになるとか。

 なるほど確かに、カズトを凍らせるどころか周囲一帯を瞬く間に銀世界へと変えてしまったあのデリバードは相当な力を有したポケモンであると言えるだろう。そしてその"おや"である仮面の男も相当な実力の持ち主であるのは間違いない。

 

 先日、本人自ら言っていたが、マチスはゴールドたちから仮面の男についての情報を求めるのだろう。カズトからの情報と合わせて、より鮮明な仮面の男の全体像を描くに違いない。

 子どもに金を払わせるタイプでない彼だが、タダで何かをくれてやるほどお人好しでもない。荷物を渡す条件として、このタイミングで情報交換を提案するはずだ。

 

「お前らが経験したヤツの全て。そいつを黙ってオレに提供しな」

 

 予想通り、マチスはゴールドたちに情報を差し出すよう要求していた。

 

「教えてやってもいいが……、その前にこっちから質問だ」

 

 てっきりゴールドが彼の要求にこたえるのかと思ったが、意外にも先に反応を見せたのはシルバーの方だった。

 

「そこに見えているのはお前が乗って来た船か?」

 

 十中八九、高速船アクア号のことだろう。マチスが戻るまであのまま停泊させておくよう指示が出ていたはずだから、今も沖にその姿を見せているはずだ。

 だが、船の方に振り返ったマチスはとんでもないものを目にしたような驚きを見せていた。カズトも気になり後ろを振り返る。

 

 ――船が宙に浮いていた。

 

 高速船と言っても、アクア号が収容できる人数はかなりのものだ。世界一周をする豪華客船であるサント・アンヌ号には流石に劣るが、そこらの旅客船には十分匹敵するスペックだろう。

 その船が、おもちゃのように空を泳いでいるのだからたまったものではない。

 よく目を凝らすと、アクア号の船底近くに巨大な鳥ポケモンのようなシルエットが見えた。

 

「あれはさっき海中にいた……、もしかしてあのポケモンが船を……!?」

 

「エスパーの力……、あれは――ルギア!!」

 

 シルバーがその名を口にした瞬間、巨大なポケモン――ルギア――が口からエネルギー弾のような技を繰り出した。

 

「ちぃ!」

 

 マチスたちは間一髪直撃を免れたようだが、攻撃を受け止めた岩肌は見事に砕け散っていた。もろに喰らえば無事では済まないだろう。

 カズトは急いで三人の元へ合流しようと速度を上げる。

 

「っ!! リベル、左に大きく回避!」

 

 だが刹那、背後からの殺気を感じて大きく進路を逸らす。

 さっきまでカズトが飛んでいた場所をアクア号が通過していた。そしてアクア号は勢いよく着水。その衝撃で発生した津波が地上の島を飲み込もうとしていた。

 

「うわああああ!!」

「ヤミカラス!!」

「あ! てめえ、一人だけ!」

 

 シルバーは自力で離脱できたようだ。マチスも島までレアコイルたちの技で浮遊していたため、飛んで回避ができるだろう。

 

 だが、ゴールドは違う。かなり前の記憶にはなるが、ゴールドは飛行要員となるポケモンは持っていなかったはずだ。泳げるだけならニョロトノのニョたろうがいたが、ゴールドを運ぶとなると少しキツい。

 

 つまりあの津波を回避する手段はゴールドにはない。

 

「ゴールドぉおおお!!!」

 

 全速力でヤンヤンマを飛ばし、彼の元へ向かう。

 

「へへ、やっぱお前は最高だな。カズト!!」

 

 大波が彼を飲み込むよりも早く、カズトの声がゴールドまで届いた。カズトの伸ばした手がゴールドの腕を掴む。

 

「今度は一カ月近くも行方不明? さぞ忙しかったんでしょうね!」

「よくあるこった、気にすんな!」

「あってたまるか!!」

 

 大声と共にゴールドを、同じく空中に退避していたマチスの下に放り投げる。いきなりぶん投げられたゴールドは不恰好な体勢で慌てふためき、尻からマチスの浮遊フィールドに着地していた。

 

「イテテ……。おぉいお前! 助けに来てくれたんじゃねぇのかよ!?」

「助けたでしょうが! 二人分の重さはリベルじゃ支えきれないんだよ!!」

「だからっていきなりこのおっさんのとこに投げんなっての!!」

「誰がおっさんだ!! おいカズト、オレは荷物を渡しに来たんだ。返品は受け付けてねぇぞ!」

 

 とばっちりを喰らう形になったマチスが抗議をしてくるが、カズトはどこ吹く風である。数日間マチスと行動を共にして彼の押しの強さを学んだようだ。生意気な方面でそれを発揮させているのがマチスにとってムカつくところではあるが。

 

「ある程度のところまでで大丈夫ですから。それにまだマチスさんの求める情報が聞けてなかったでしょ?」

「チッ、可愛くねぇな……。おい、コイツちゃんとした情報持ってんだろうな!?」

「直接やり合ってる分、少なくともオレよりかはちゃんとした情報源になるはずですよ」

 

「あのカズトさん、オレの意見は……」

「恩は返す主義でしょ?」

「おう……」

 

 何だろう……、久しぶりに会った弟分の、自分に対する当たりが強くなっている気がする……。

 昏睡状態から覚めて早々、いろいろあったが、精神的にはこの時が一番しんどかったかもしれない、と後にゴールドは語った。

 

「まあなんだ、確かに戦ったぜ。仮面のヤローと、二度!」

「二度!?」

 

 一度目がウバメの森、二度目がいかりの湖だろう。カズトは直接目にしていないが、ウバメの森にいた不思議なポケモンがゴールドの過去を見せてくれたことで、彼が氷漬けにされるよりも前に、既に一度、別の場所で戦っていたことがあるのを知っている。

 

 そしてゴールドの口からも仮面の男は「氷」が一番の特徴であることが語られた。それも湖を一瞬で凍りつかせるほどの強力な使い手であると。

 カズトたちがいかりの湖に来たときは氷は湖底にあったものだけだったのだが、まさか当時は湖全体を凍らせていたとは。驚きと同時に恐怖すら感じる強さである。

 

「マチスさんの読み通りでしたね。氷の使い手」

「ああ、だが想像以上にやべぇヤツだぜコイツは」

 

 マチスの脳裏にはかつてカントー地方でロケット団が使役しようとしていた伝説の鳥ポケモンの一体、フリーザーが浮かんでいた。かの鳥ポケモンは翼の一振りで狙った相手のみを凍らせるという御業を有していた。

 仮面の男の力はそれに匹敵する、あるいは上回る力である可能性が高い。下手をすれば、自らが首領(ボス)と仰ぐ彼以上の実力者であるかもしれない。

 

「さあ、手短でわりぃが、今度はあのデカブツの大暴れをなんとかする方法を考えましょうや! でなけりゃ、仮面ヤローどころじゃなくなっちまう!!」

 

 ゴールドの声に思考の海から戻ると、目の前にはルギアと呼ばれた巨大なポケモンが迫っていた。

 こちらに攻撃をしてこなかったのは、先にヤミカラスと飛び立ったシルバーが、ルギアの視界を遮り撹乱してくれていたからだろう。だが、徐々にフラストレーションを溜めているルギアはシルバーだけを狙うのではなく、見境なく周りに攻撃を乱射し始めた。

 そのうちの一発が海を漂っていた小型舟に直撃してしまった。船は半分に叩き折られ、あのままでは転覆も時間の問題だろう。

 

(あそこに乗ってたヤツは運がねぇな……)

 

 岩壁や小舟を易々と破壊する威力は大きな脅威だ。まずは自分の身をなんとかしなければならないマチスは一瞥してこの場を去ろうとした。

 

「んんん!? あそこでピンチを迎えてるのはギャルじゃねーか! おっさんここまでサンキュ! あばよ!!」

「おいこら!」

 

 が、小型船に乗っていた女子を目ざとくも見つけたゴールドは、マチスが止める間もなく海にダイブしていった。着衣の身で何を無謀なとも思ったが、どうやら海に浮いていた小型船の木片に乗ってサーフィンの要領で船まで向かうらしい。板モノなら任せろという声が聞こえるが、確かにあの波乗りは見事なものである。

 

「マチスさん、俺もゴールドと行ってきます! あいつが見つけた子、多分オレの知り合いなんで!」

「ったく、どいつもこいつも……。勝手にしやがれ!」

 

 つくづく、子どもというのは大人では取れない選択をするものだと実感する。マサラの少年然り、ワカバの少年然り、彼らはいつも自分たちを驚かせる選択をし、そして結果を出してきた。

 柄ではないが、今回はそれを手助けするのも悪くないだろう。ここで退いていては軍人として、何より大人として見せる顔がない。マチスはルギアが見せる隙を探るために、その場を離れた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 現在、海上では絶賛修羅場の真っ最中だった。

 

 二人の少年が取っ組み合いの構図を描き、一人の少年が呆れた顔で傍観に徹し、それを見て悲鳴を上げる少女が一人。

 

 修羅場以外の何物でもないだろう。

 

「不良が二人……!」

「ブフッ」

 

 少女――クリスタル――の反応に思わず吹き出してしまうカズト。目を開けたら目の前で歯を食いしばって拳を構えている人間がいるのは恐怖以外の何物でもないので、クリスに同情はする。

 ただ、その二人を不良呼ばわりとは。ゴールドとシルバーのことを知っている側からすれば、当たらずとも遠からずな絶妙な表現の仕方である。あまりに秀逸な表現に思わず笑いが漏れてしまう。

 

「ふ、不良……、フッ、フフフ……」

「あなた、カズト!? どうしてここに……?」

「待ってクリス、ちょっとツボっちゃって……。アハハハ、ダメだ我慢できない! 不良だって! ヒィヒィ、ゲホッゲホッ」

 

 カズトの大笑いに渦中の二人も頭が冷えたのか、未だ一人腹を抱えて爆笑しているカズトを怪訝な表情で見つめている。

 そしてカズトの笑い声とは別にピピピピとアラームのような音が三人の持ち物の中から聞こえてきた。

 三人は音の元凶となっているものを取り出す。

 

 ポケモン図鑑がそれぞれの手元で共鳴音を鳴らしていた。ジョウト地方の三人の図鑑所有者がこの場に揃ったのだ。

 同時に、三人が連れるウツギ博士の研究所にいたポケモンたちも進化をして再会を果たしていた。ベイリーフがマグマラシとアリゲイツに喜びの頬すりをして、二匹はタジタジになっていたが。

 

 さて、カズトの爆笑に図鑑所有者の邂逅、ウツギ研究所の三匹の再会で忘れてしまいそうになっていたが、ここは海の上であり、上空ではルギアが周囲を鑑みることなく暴れている。

 今まで繰り出されていたルギアの技は見当違いの方向を狙っていたが、ついにカズトたちの姿が補足されてしまったようだ。無数のエネルギー弾が降り注いでくる。

 

「邪魔だ!!」

「なにを!!」

「はいはい、そこの不良たち。暴れないで。女子が引いてるよ」

 

 揺れる船の上で未だ仲違いをするゴールドとシルバーの間を取り持ちつつ、この状況を打開する策を考える。

 

「カズト、あなた……」

「詳しいことはまた後で。今はここを何とか乗り切ろう」

 

 ベイリーフ・マグマラシ・アリゲイツの三匹はトレーナーたちよりもずっと早くに目の前の脅威に立ち向かおうとしている。ならばトレーナーたちは彼らの心持ちを買ってやるべきだろう。

 三匹は草・炎・水の技を、タイミングを合わせてルギアの攻撃に向かって撃ち出す。しかしルギアの技の威力はとてつもなく、三位一体の攻撃でも軌道を変えるだけしかできない。

 

「ちい! 三匹がかりでも軌道を変えるのが精一杯かよ!」

「そんなこと最初から分かっている! 感情に流されるな!」

「んだとォ!?」

「やめて!!」

 

 性懲りも無くゴールドとシルバーが揉め合っているとついに痺れを切らしたクリスタルが二人の言い合いに介入した。

 

「喧嘩はよくないわ! あなたたち、本当にオーキド博士に選ばれたトレーナーなの?!」

「やっぱこうなるか……」

 

 この中で唯一、三人との接点があるカズトは、おそらくこうなるだろうなという予想をしていた。三人とも性格がてんでばらばらで、しかも頑固者同士だ。特にゴールドの性格は他二人とは根本的に相容れないものだろう。初対面から仲良くなれなさそうなのは自明の理だった。それにしても、この土壇場でも関係が拗れてしまうとは流石に予想外だ。

 

「そこまで! 今は皆で協力しないと。シルバー、あのポケモンのこと、ルギアって言ってたよな。アイツについて何か知ってるのか?」

「チッ、耳聡いヤツめ」

「誉め言葉として受け取っとく」

 

 ここは三人全員と、ある程度知り合っているカズトが場を持たせなければならない。ひとまず言い合いは無理やり収めて目の前に集中させる。

 シルバーの嫌味も、軽く受け流せば、ちゃんと本筋に戻って話を進めてくれるはずだ。

 

「ヤツを海に引きずり込む」

「海に引きずり込むだと!? あのデカブツをか!?」

「その意図は?」

「ヤツのメインの攻撃は空気弾。大気が供給されない海中では放てない」

「なるほど。まずは空中で叩き落す役が必要だな。オレとシルバーで行く。ゴールドとクリスは地上から――」

 

 突如、ゴウッと空気を裂く音が耳を通り抜けた。同時に空気弾――エアロブラスト――の着弾を受けた近くの海面が大波を上げ、小舟に襲いかかる。

 

「うわっ!!」

「ゴールド!」

 

 揺れにより船から弾き出されたゴールドにカズトが手を伸ばすが、その手をすり抜けてしまう。そのままゴールドは海へ落下してしまった。

 

「これに掴まれ!」

 

 すぐさまシルバーが船上に残っていたロープを投げ、簡易的な命綱とするが、海流に捕まったゴールドはいくら泳げども船から離れていくばかりだ。

 

「リベル! ゴールドを助けるんだ!」

 

 自力での帰還が困難だと悟ったカズトがヤンヤンマにゴールドの救助を命じるが、それと同時に新たに発生した大波がゴールドを海中へと呑み込む。

 

「まずい!」

「よけいな手間をォ……っく!」

 

 カズトとクリス、シルバーに加えてアリゲイツもゴールドの命綱となっているロープを引っ張るが、ゴールドがあまりに離れてしまったことによる長さの限界と、海水に浸したことによるロープの劣化により引っ張り合う力に耐えられず、途中で紐が断ち切られてしまった。

 

「そんな、ゴールドのポケモンじゃ海中は……!」

 

 せっかく生きて再会できたのに、あんまりな別れだと絶望しかけたその時、海が唸りを上げて盛り上がっていく。

 

「なんだ!?」

 

 水しぶきと共に海から飛び出してきたのはマンタインとそれに十数匹のテッポウオ。そしてビリヤードのキューを支えにすることでマンタインをハンググライダーのように見立てて空を飛んでいるゴールドだ。

 マンタインは元々、スピードが乗れば100メートルの滑空も可能なポケモンである。それを、十数匹のテッポウオが一斉に後方に"みずでっぽう"を噴射して瞬間的な推進力を生み出すことでその場での加速、滑空を可能にしているのだろう。

 

「お前ら! 至近距離に飛び込んでヤツの空気弾攻撃を封じる役目、このオレが引き受けた!!」

 

 ゴールドの掛け声と共に、後方へ"みずでっぽう"を撃っていたテッポウオたちが一斉に前方を向き、ルギアに向けて全砲門を開く。

 「海のスナイパー」とも称されるテッポウオの"みずでっぽう"は生半可な威力ではなく、ルギアは怯み、体勢を大きく崩した。

 

「やった!」

 

 しかし、怯んだのも一時のこと。ルギアは眼前に迫っていたゴールドを思いきり叩き落した。

 

「うわあああ!!」

 

 ゴールドは地面に落ちてしまったが、落ちた先が砂浜でよかった。かなりの高度からの落下でも、砂が良い具合にクッションになって衝撃を吸収してくれたはずだ。

 

「ゴールド! 無事か!?」

「島に落ちた! 失敗だわ!」

「いや……違う! ヤツは別の方法で『空気弾封じ』を実行した!」

 

 シルバーの指さすところを見れば、ルギアの口にゴールドのキューがつっかえ棒になって挟まっていた。あれでは口から空気の出し入れもし辛くなり、満足に技も放てやしない。

 流石、意外性に溢れたゴールドだ。この場の誰にも、あのような技の封じ方はできない。

 

「勝機があるとすれば今しかない! アリゲイツ!」

 

 この機にアリゲイツに船を押してもらいゴールドの落ちた砂浜まで合流しようとする三人だが、得意技を封じられて苛立ったルギアがその巨体で全員を押しつぶそうと降下してきた。

 

「待ってたぜ、この瞬間をよォ!!」

 

 そこに一人の男の叫び声に加え、雷の轟音が響き渡る。

 ゴールドたちしか目に入っていなかったルギアの頭上から、その身を覆いつくすほど大規模な"かみなり"が降り注いだ。

 

「マチスさん!」

「カズト! ボサッとしてねぇでお前も手伝え! コイツ、尋常じゃねぇ耐久してやがる!!」

「……はい! シャーフ、"でんきショック"!!」

 

 過去に見たミカンのデンリュウ以上の威力を見せつけているマチスのライチュウの"かみなり"だが、それでもルギアを削り切ることはできないというのか。圧倒的な耐久力だが、だからこそ自分たちも、一人一人が力になるべきだ。

 メリープもそんなカズトの意気込みに応え、全力のでんき技を放った。

 

「まだまだァ! 気張れやライチュウ!!」

「行けぇぇええええ!! シャーフ!!」

 

 自身の有する電力を全て、一つの技に集約させる。極限の集中が続く中、メリープの身体が光に包まれた。

 

「これは、進化!」

 

 クリスが図鑑を取り出し、その生態を手元に示す。

 

「モココ! メリープの頃より体毛は少なくなるものの、そこにはより強力な電力が宿る!」

「"10万ボルト"ォ!!」

 

 技も進化したことでさらに上昇した電力が、ついにルギアの身体を撃ち抜いた。ルギアは悲鳴を上げて落下する。

 

「へへ……、オレの天才的作戦だったが、最後はカズトとおっさんに良いとこ持ってかれちまったな……」

「大丈夫!?」

「ハア、ハア……。叩き落されたのは予定外だったぜ……」

「見てるこっちも心臓に悪いよ……」

 

 クリスが介抱に入るが、ゴールドも意識はちゃんとあるようで安心だ。海に沈んだり、空から落とされたり、この男にはヒヤヒヤさせられてばかりである。

 

「っ! まだだ!!」

 

 一件落着ムードになりかけていたが、シルバーの鋭い一声で再び意識が戻される。

 でんきの合体技によりその体力を削り切ったと思われていたルギアが再びその身を起こし、その場にいる者たちを踏み潰そうとのしかかってきたのだ。

 

「まず――」

 

 声を発する間もなく、ルギアの巨体が砂浜に影を落とす。

 トレーナーたちの危機に間一髪、その身を滑り込ませたのはベイリーフ・マグマラシ・アリゲイツの三匹だった。

 

「メガぴょん、しっかり!!」

 

 全身全霊でルギアを押し返そうと踏ん張る三匹だが、足元が砂浜であることが災いし、上手く重心を安定させることができない。

 徐々に近づく白き巨体。絶体絶命の中、三匹が光に包まれる。先ほども見た、進化の光だ。

 

「な……、三匹同時に最終形態になっただと!?」

 

 メガニウム・バクフーン・オーダイルへと姿を変えた三匹は大きくなった体躯を活かし、ルギアの重さを押し返しつつあった。

 

「信じられない! この前ベイリーフに進化したばかりなのに! どうして!?」

「進化の奇跡か。これなら行けるぞ!」

「ああ、押し負けてねぇ! 今ならこのデカブツに勝てるぜ!! シルバー、教えてくれ!! いつかてめぇが言ってた『当てどころ』を!」

 

 なるほど、捕獲してしまえばルギアはこちらのポケモンになる。この場で最も早く解決するためのベストな選択だ。「当てどころ」にさえ当てることができれば、どんなに強力なポケモンでもボールの中に収めることができる可能性がある。あとはシルバーの知識と、モンスターボールを当てるゴールドの腕に懸かっている。

 

「額だ!! 額を狙え!!」

「うおっしゃあ、いっけえ!!」

 

 ゴールドの投げたボールはルギアの顔を捉えたものの、「当てどころ」とは微妙にズレたようで、そのまま弾かれてしまった。

 

「しまった!! いつもみたいにキューで打ってねぇから外しちまった!!」

「クリス!」

「任せて!! たあ!!」

 

 カズトが声を上げるよりも早く動き出していたクリスは、落ちてくるモンスターボールの下に滑り込み、そのままスライディングキックをして、ボールをルギアの額に寸分違わず打ち返した。

 モンスターボールが正常に機能し、ルギアがその光の中に吸い込まれていく。ルギアの姿は消え、ゴールドがつっかえ棒としたキューが砂浜に突き刺さった。

 

「……やった!」

「オイ、やるじゃねーか学級委員! よくぞオレの作ったチャンスを生かしてものにしたな!」

「お前が一発で決めりゃ、嬢ちゃんが一仕事する必要もなかったんだがな」

「おっさん! それは言わねえ約束だろ!?」

「マチスさんにさんせー」

「カズトぉ~~~」

 

 脅威を退け、思い思いに会話しているカズトたちだが、一人、眉を顰めたままモンスターボールを見つめる人物がいた。

 

「ん? シルバー、どうかした?」

「……見てみろ!」

 

 そう言ってシルバーが見せた、ルギアが入っているはずのボールは――。

 

「んな!!」

「えええ!!」

 

「中身がねぇ!? 空だとォ!?」

 

 ――新たな波乱の予感に満ちていた。




マチスさんが出張りすぎてて笑ってます。
この後は原作で公式に出番があるので、彼の美味しいシーンは増えるばかり……
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