昨日父からウツギ研究所に泥棒が入ったことを聞かされたカズトはひどく怒っていた。ウツギ博士も怪我をして入院しているというし、その上、少ないながらも共に過ごしたことのあるワニノコも奪われたとなれば、黙っていられない。あまりの怒りに昨日はまともに眠ることができなかった。
兄とも話したが、どうも最近怪しい連中の目撃情報があったらしい。研究所の件もその連中の仕業ではないかと推測していた。
「泥棒とか信じられない……!」
「そうだな。俺と父さんも警察と連携してできる限り情報を集めてみるよ」
だが一晩経って少しは落ち着いたらしいカズトはふと隣人のことが気になり、彼の家のベルを鳴らした。
「はいは~い。あら、カズくん!」
「おはようございます。ゴールドいますか?」
礼儀上聞いたが、カズトは当然いるものと考えていた。今は朝の8時前で、普段のゴールドなら間違いなく布団の中だからだ。ところが、彼の母親から返ってきたのはとんでもない回答だった。
「それがあの子、昨日は帰ってきてないのよ」
「え?」
何と彼は昨日カズトやゴロウと家を出て以来、帰ってきていないというのだ。ポケギアにかけても音信不通、完全に行方が知れないらしい。
嫌な想像が頭をよぎる中、カズトは戻るしかなかった。
「ゴールドのヤツ、どこ行ったんだよ……」
家族と話しても解決法は見つからず、まさに八方塞がりになってしまった。
モヤモヤとした気持ちでいても仕方ないとポケモンたちと外を散歩するも、心は晴れない。むしろ何か言い表せない感情が増してくるだけだった。
ぐるぐる渦巻く感情とせめぎあっていると、不意に目の前の茂みから一匹のポケモンが飛び出してきた。
小柄な体に茶色や白色の羽毛を持つそのポケモンは、別に特段珍しいわけでもない。この近辺では頻繁に見られることのあるポッポである。
だが、その様子がおかしかった。
「ちょ……!」
間一髪で回避はしたものの、今のは間違いなくカズトを狙った"たいあたり"であった。万一直撃でもしていれば、いくら相手がポッポでも怪我に繋がるのは明らかな勢いだった。
普段は敵に襲われでもしないかぎり大人しく、さらには群れて暮らすはずのポッポが単体でこの興奮状態である。
何かがおかしい。そうカズトが感じるには十分であった。
思考している間にもポッポは向きを変え、再びカズトに狙いを定めているようで、明確な敵意を感じ取ることができる。
「オレばっかり狙ってる?マグナやシードもいるのに」
そう、このポッポの不可解な点はもう一つあった。カズトのポケモンたちには目もくれず、ひたすらトレーナーであるカズトばかり攻撃してくるのだ。
まるで人間は敵だとでも言わんばかりに。
「このまま町に連れて行くわけにもいかない!マグナ、"ずつき"だ!」
タツベイが勢いよく迫るが、ポッポは最低限の回避行動をしただけでタツベイのことを無視してカズトに向かって突っ込んでくる。あわやクリーンヒットという場面で、ポッポの体は真横に吹き飛ばされ木に打ちつけられた。
「あっぶない……まさか昨日の修行が早くも役に立つなんて……」
カズトの足下にはポッポに渾身の"たいあたり"を食らわせたタネボーがいた。
最初の一匹が囮になって二匹目が本命の攻撃を繰り出すこの布陣は、昨日のハルヤとの修行を経て事前に示し合わせていたコンビネーションだったため、早速役に立ったというわけだ。
人に対して明確な敵意を持っている様子のポッポをそのまま放置するわけにもいかず、カズトは持ち合わせていた空のモンスターボールを、木にぶつかり力尽きているポッポに投げる。ボールは正常に機能し、ポッポは大人しくボールの中に収まった。
尋常ではない様子を見せていたポッポについて調べるためにも、家族に相談すべきだと判断したカズトは先ほど来た道を急いで戻るのであった。
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結論が出たのは、意外にもカズトが帰宅してものの数分の出来事であった。
サトルによると、今朝調査のためにウツギ研究所周辺に赴いた際、カズトが出くわしたポッポと同じ様子をしたポケモンと多数接触したらしい。幸いにもサトル一人で対処可能だったようだが、見るからに様子がおかしかったそうだ。様子のおかしいポケモンたちは研究所付近でしか見かけなかったため、盗難の件と関係があるのではないかと推測できたようである。
サトル独自の調査ルートでは、何か慌てた様子の黒ずくめの男たちがヨシノシティ方面へ逃げていく姿も目撃されているようだった。
「とにかく、この件については俺たちも警察もそれぞれ力をいれて調査することになっている。だから安心してくれ」
そう言ってサトルは大雑把ながらも優しい手つきでカズトの頭をなでたが、カズトはその手をゆっくりと払い顔を上げ、家族にある一言を告げるのであった。
「父さん、母さん、ハル兄。オレ……旅に出る」
「カズト……!」
思いもよらない発言にハルヤはその場に立ち上がってカズトに言及する。
「お前、自分の体のこと分かってるのか!?」
「分かってるよ。でも、じっとしてなんていられない」
本当に犯人が見つかるか、そもそも旅に出たところで事件が何か進展するのか、不確かで無謀な要素の方が遙かに多くを占めるが、それでもカズトは旅に出ると決めたのだ。そこまでカズトの背中を押すものは何か、カズト本人にも分からないが、ここで立ち止まっていては駄目だということだけは何故か感じ取ることができた。
そしてカズトのその有無を言わさない真剣な目に、説得は無駄だと家族三人は悟るのであった。
「――今から出れば日が暮れるまでにはヨシノに着くだろう」
「まったく、しょうがない子ね」
「……ありがとう。父さん、母さん」
旅に出ると決まるや否や、アケミはすぐさまバッグを用意して必要な物資を詰め込み始めた。サトルも何か道具を持ってきてアケミに手渡している。
自分でやるのにと言っても、二人は譲ってくれなかった。旅に出る直前まで兄弟で話す時間を作ってくれたようだった。
「――本当に行くんだな」
「うん」
「本来は、首を突っ込むべきじゃないと言った方がいいんだろうけどな」
「だろうね」
「旅、出たかったんだろ?」
「……気づいてたんだ」
そう、ワニノコのこともゴールドのことももちろん心配だ。でも、心のどこかで旅に対する興奮が抑え切れなかった。
そして理解してしまった。何故頑なに旅に出ると言ったのか。チャンスだと思ってしまったのだ。
「ワニノコもゴールドも見つけ出す。そのためなら手は惜しまない。でも――」
「分かってるさ。お前は優しいからな」
「オレ、悪いヤツだよね」
「悪いもんか。何事にも楽しみは必要だろ?」
ハルヤも理解していた。自分の弟は幼いながらに聡明で正義感が強く、自分が邪な思いを持っていることにも気づいてしまうだろうことを。そしてそんな考えをしてしまう自分を責めてしまうだろうことを。
だが、一人の人間として善なる心もあれば悪しき心も少なからず存在するのは当たり前だ。ならばハルヤが今ここでするべきことはただ一つ、カズトを認めてやることだろう。認めてやることで、弟は前に進めるはずだ。野暮かもしれないが、それでも弟のために何かしてやりたいというのは兄として間違ってはいないだろう。少しぐらい、でしゃばらせてほしいものだ。
そんな想いが通じたのか、カズトはふにゃりと笑いハルヤに甘える。
「ありがと、ハル兄」
「何かあればすぐに連絡しろよ」
「分かってるよ」
微笑ましく会話する息子たちを見て、両親も口元に緩やかな三日月を作っていたのは、兄弟たちは知る由もなかった。
4話でようやく旅に出ることになった主人公。
3章の内容を書き切るまでに何話かかることやら。
少し小説自体の話になりますが、全体的にまだまだ描写の甘さが目立った書き方ですね……ただ大幅に修正するとコレジャナイ感が出そうなので、ほぼ原文ままで投稿という形に。
6話以降は二日に一本ぐらいのペースで出していこうかと思います。書き方にこだわるととても一日に一本は書けそうにないので。