旅に出ることを正式に認められたカズトは父の助言通り、日が暮れるより先に隣町のヨシノシティに無事たどり着くことができていた。
途中で夕立の気配もあったが、本降りになる前に本日の宿泊場所であるポケモンセンターにたどり着いたのだった。
トレーナーであれば誰でも無料で回復や宿泊ができるため、旅をする上で欠かせない存在であり、体調管理に気をつけなければならないカズトにとっては自ずと重用されるだろう施設である。また、人が多く集まるため情報収集にも向いている場所でもあった。
「よし、夕飯ついでに聞き込みでもするかな」
夕食時なこともあり、ポケモンセンター内の食堂にも多くの人で賑わっている。
カズトはお腹を膨らませた後、手近なトレーナーたちを相手に情報収集を行っていた。
「あの~すみません、黒い服を着た複数の男性って見たりしてないですかね?」
「黒い服かぁ…ごめんね、見覚えないや」
「俺も見てないなぁ、お前は?」
「いや、俺も知らねぇ」
予想以上に多くの人から反応をもらったがあまり有力な情報は得られず、結局収穫はないまま。元よりそれほど期待はしていなかったが、全く手がかりがないというのも困ったものである。
今日は引き上げて明日にしようかと思った時、ロビーの方からざわめきが聞こえてきた。
「いらっしゃい、ポケモン捕獲勝負だよ!雨で退屈しちゃってるそこのお兄さん、どうだい?」
どうやらおじさんの側にいるウパーたちを1分以内に全て捕獲することができれば景品をくれるものらしく、急な雨で身動きが取れない人たちが暇つぶしとして参加しているようだ。タイムアップはおじさんの隣にいるホーホーが告げているようで、まだ誰も成功者はいない様子である。
横目で見ている内にまた新しい挑戦者が現れていた。
「おじさん、おれもやらせてよ!」
「オーケー、参加料100円ね」
参加料を払った少年はスタートの合図と共におじさんが逃がすウパーを意気揚々と追いかけ始めた。その早さはなかなかのもので、残るウパーはあと一匹となっていた。
だがクリアなるかというところでホーホーが時間切れを知らせる鳴き声を上げた。
「あーっと時間切れだ。惜しかったな~」
ギャラリーも惜しかったと挑戦していた少年に声をかけていたが、カズトはどこか違和感を感じていた。その間にも次の挑戦者がウパーを追いかけていて、今度は残り二匹というところでホーホーが鳴いた。
だがカズトは今度は明確にそのおかしさに気付いた。遅すぎるのだ。先ほどホーホーが鳴いた時と比べると、今の挑戦でホーホーが鳴いた時間は体感でも5秒は遅かった。
ホーホーは体内時計が正確なポケモンだとして知られているが、もしその特徴を悪用して嘘の時間をあたかも正しい時間のように告げていたとしたら。もっと言えば、クリアされそうになった時点で時間切れを告げていたら。
「インチキもいいところだな…」
試しに今度の挑戦者のタイムを計ると、残り一匹でホーホーが鳴き、その時間は挑戦が始まって54秒過ぎたところで止まっていた。この誤差では1分だなんてとても言えるはずがなく、ただ挑戦者から金を巻き上げているだけである。
実際あと6秒もあれば、あの青年はウパーを全て捕獲しきっていただろう。
しかしあのおじさんのインチキが確定したものの、これを馬鹿正直に伝えてもデタラメだなんだと切り捨てられてしまうだろう。やはりカズト自身がインチキを証明する必要があるらしい。落胆の声を上げるギャラリーの隙間を縫っておじさんの正面に行き、油断を誘うためにもできるだけ無垢な子どもを演じる。
「おじさん、オレも挑戦する!」
「おお、いいよ。参加料100円だ」
キチンと参加料を支払い、スタートの合図を待つ。
「準備はいいか?」
「いいよ!」
「それじゃ、よ~いスタート!」
ウパーたちが四方八方へ勢いよく逃げ出したのを見てカズトはタツベイに指示を出す。
「マグナ、まずは一番左から!」
指示を受けたタツベイは次々とウパーたちに攻撃を与え、動きが止まったところをカズトがモンスターボールで捕獲していく。ギャラリーからもその速さに声が上がっていた。
そしてもうすぐ問題の、あと一匹になろうというタイミングに差し掛かる。
(このガキ、やりやがる。ホーホー、少し早いが合図を出すんだ)
そうしておじさんの指示を受けたホーホーは偽の時間を告げ、カズトの挑戦は終了……
とはならなかった。
「よし、これで最後!」
何とカズトはホーホーが鳴くより前に全てのウパーをボールに収めてしまった。
「おぉーっ!」
「やりやがった!」
ギャラリーも驚き、今日一番の盛り上がりを見せる。
これに呆然としているのはインチキおじさんである。当たり前だが彼は万一にもゲームをクリアされることはないと考えていたのだから。
「な、なんでだ!? ホーホーが嘘の時間を教えるはず――」
そして冷静さを失った彼は、あまりの事態にうっかり口を滑らせてしまう。
「嘘の時間? 詳しく教えてもらえませんか?」
もちろん、これを狙っていたカズトが聞き逃すはずもない。タツベイを前に出し、おじさんの逃げ道を塞ぐ。
「いや……これはその……」
「クリアされそうになったら嘘の時間をホーホーに告げさせる――違いますか?」
「あ、いやそれは……」
初めは何を言ってるんだという顔をしていたギャラリーたちも、おじさんの様子がおかしいことに気づき、徐々に疑いの目を向け始めた。
「インチキは良くないと思うんですが……」
カズトが少しずつ距離を詰めると、おじさんは耐えきれなくなって逃げだそうとする。
だが、それを見逃すカズトではない。
「シード!」
カズトが声を上げると同時におじさんの足下に"タネマシンガン"が炸裂。
突然の攻撃に尻餅をついてしまったおじさんは、完全に逃げるタイミングを失ってしまった。
「さあ、だまし取ったお金をみんなに返してください」
有無も言わさない圧力を前に逆らえるはずもなく、彼は懐から3000円ほどはあるだろう100円玉ばかりが入った袋を取り出した。
そして彼はそれを、カズトの方へ思い切り投げつけた。
「うわっ!?」
いきなりだったものの、しっかり避けたカズトだったが、視線を前に戻すとそこにおじさんの姿はなかった。慌てて出入り口の方を見ると、今日は店じまいだ!と負け惜しみのような言葉を吐きながら、雨の中に飛び出していくおじさんの姿があった。
「しまった……逃げられた」
カズトは悔しそうにおじさんが逃げていった方向を睨みつけていたが、直後に辺りは歓声に包まれた。
「やるじゃないか坊主!」
「すごかったぜ!」
「かっこよかった!」
次々とかけられる声に思わず照れてしまうものの、すぐに投げつけられたお金のことを思い出し周囲を見渡すと、彼のタツベイが件の袋をスッと差し出してきた。
「ありがとうマグナ。シードもお疲れ様」
二匹を労うと、それはもう誇らしげに二匹とも胸を張るのであった。
その姿に満足したカズトは手渡されたお金を掲げて、ゲームに挑戦した人たちに返そうとしたのだが、彼らから返さなくてもいいとまさかの反応が返ってきたため困ったことになった。
それでも何とか食い下がったが、ならば代わりにとインチキを破った方法について教えてほしいと言われる。
「…実は、このシードがホーホーを鳴く直前に"おどろかし"たんです」
インチキおじさんがホーホーに指示を出した時、間違いなく彼のホーホーは嘘の時間を告げようとした。だがその直前、こっそり忍び込んだタネボーがホーホーに"おどろかす"攻撃をしたために、ホーホーはひるみ、おじさんの指示に従うことができなかった――というわけである。
あとはボロが出たおじさんを問い詰めるだけで悪事を暴くことができるだろうという推測だったが、まさにその通りとなったので逆にこちらが驚いたのは秘密だったりする。
ちなみに譲り渡された参加料はみんなの同意を得て全額ポケモンセンターに寄付したのであった。
このインチキおじさん、見覚えある人もいるかと思います。多分その考えで間違いないです。
こんな感じでちょくちょく原作との接点とか出していけたらいいな。
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