SPECIALになるために   作:Zuiki

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第8話 VSマダツボミ

 紆余曲折あったがワニノコ盗難事件とゴールド失踪事件、両事件ともカズト自身の中で一区切りついてしまったので、カズトが旅に出る理由は五日目にして殆どなくなってしまった。前日のクリスとの出会いにより心機一転、モチベーションは上昇しているので次は今後の目標を明確化していきたいところである。

 個人的にはシルバーへのリベンジが挙げられるが、それは最終目標であり、そこにたどり着くためのいくつかの小さな目標が必要となる。

 

 まず一つ目、ジョウト地方に存在する八つのジムの制覇。これは前日にアドバイスをもらったもので、バッジの取得数=強さの証明となるため自分の実力を判断する指標になるだろうことから目下一番の目標とする。

 このキキョウシティにもジムはあるようだが、リーダー不在でここしばらくは休業状態らしいので後回しだ。ここからルート的に最も効率の良いのはヒワダジムとのことなので、初のジム戦はそこになるだろう。

 

 二つ目の目標はウツギ研究所で目撃された黒服の集団の調査である。勘ではあるが、この怪しい集団とシルバーは別物だ。というのもシルバーと接触したときに思ったことだが、彼は隠密行動に非常に長けていた。そんな彼が慌てて逃げ去る姿など衆目にさらすだろうか、いや、しないだろう。目撃者がゴールドだけだというのもポイントだ。本当にたまたま見られたのだろうと考えた方が自然である。

 おそらくあの日ワカバタウンには二種類の泥棒が存在した。片や潜入になれたプロ並みの泥棒、シルバー。もう片方が目的は不明だが素人で複数人の謎の泥棒たち。

 手がかりが少なすぎて半ば詰み気味だが、今後旅をする中で軽く情報収集くらいはしておいて損はないだろう。シルバーに関する手がかりも手に入るかもしれない。

 

「当面はこの二つが目標かな」

 

 ひとまずこれまでの内容をノートにメモとして記録し、いつでも確認できるようにしておく。初心忘るべからずだ。

 

 そして次に考えるべきなのが今後の道のり。

 次の目的地自体はジムのあるヒワダタウンに決定したのだが、ジムに挑戦する上でもう少し実力を磨いておきたい。

 そんなわけでどこか良い修行場所がないか、絶賛ポケモンセンターの掲示板と睨めっこ中である。

 

「マダツボミの塔……?」

 

 どうやら町に入る前に見えていた大きな塔がそのマダツボミの塔だそうで、中央の柱は全長30メートルの巨大なマダツボミの体だという伝説があるとか。ポケモンバトルの修行もできるらしく、達筆な字で修行者募集と書かれたチラシが貼ってあった。

 他にめぼしい情報もないのでとりあえず様子見としてその塔へ向かうことにする。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 マダツボミの塔はキキョウシティの中心部から離れた奥まった地域に建っていた。周りも森や池に囲まれているため、人々の暮らしから隔絶された厳かな雰囲気を放っている。

 ちょうどいいタイミングで塔から掃除のためだろう、箒を持った坊主の人が出てきたのでカズトはその人にバトルの修行に来た身であることを伝えた。

 

「ほう、修行へ……!」

 

 塔の内部は三階層に分かれており一階は知識を磨くための学堂、二階はバトルの腕を磨く対戦場、そして三階はカラクリ仕掛けの鍛錬場になっているらしく、たくさんの坊主たちが出迎えてくれた。カズトの目的はあくまでバトルのため一階は素通りして二階へと案内され、そこでもまた多数の坊主に歓迎される。なんでもカズトのような一般の参加者は割と珍しく、坊主のみんなとしても研鑽のための良い機会になるようである。

 

 修行の方法としては至ってシンプルで、ひたすらバトルを繰り返すとのこと。休憩はしっかり挟んでくれると言ってくれたので、集中力を切らすことはあまりなさそうだ。

 何やら頭をきよめて名実ともに坊主の仲間入りにさせようとしてきたが、それだけは丁重にお断りしておいた。

 

「では、存分に励もう」

 

 一番手の坊主、モクネンが繰り出したのはマダツボミ。ちなみにこの塔で修行している坊主は皆マダツボミを使用するらしい。

 対するカズトはタネボーのシード。くさタイプのポケモン同士相性は五分、いや、どくタイプを複合しているマダツボミの方が有利だろう。だがタネボーを選んだのはあえてのことだ。相手が苦手なタイプほど修行になる。

 

「いくぞシード、"たいあたり"!」

 

 開幕タネボーは勢いよくマダツボミに攻撃を仕掛けるが、体の細いマダツボミはひらりひらりと舞うようにタネボーの攻撃を躱してしまう。逆にマダツボミの"つるのムチ"による攻撃はその動きの複雑さから回避するのは難しく、着実にだがタネボーの体力を奪っている。

 

「徐々に攻撃の威力も上がってる……"つるぎのまい"か」

「ほう、お目が良い」

 

 どうやら舞っているように見えたマダツボミだが本当に舞っていたようで、"つるぎのまい"によって攻撃力を大幅に上昇させていたようだ。一発当たっただけでタネボーが吹き飛ばされるようになってきた。

 

「一度"すいとる"で回復するんだ!」

 

 相手の体力を吸収する"すいとる"で少し持ち直したが、その回復量は雀の涙ほどしかなく、そう長くは保たないだろう。距離を取ったことで相手の攻撃も当たりにくくはなっているので決定打をもらう前にタイミングを見て押し返したいところだ。

 

「"タネマシンガン"で牽制しながら距離を詰めろ!」

 

 数発おきに移動を繰り返し、マダツボミが対処している隙に距離を詰めることでいい感じに流れが生まれ始めている。

 

「なんの、"つるのムチ"で迎撃です!」

 

 マダツボミの射程内に入ったことで攻撃の精度は上がっているが、リズムは完全にカズトたちが掌握しているため攻撃は当たらない。徐々に盛り返し優勢に転じた。

 

「このままではまずい。"いあいぎり"で決めなさい!」

 

 しびれを切らしたマダツボミが大技の発動に動き、一気に踏み込む。

 

「"かたくなる"でガードだ!」

 

 鉄がぶつかるような音がして、マダツボミの一撃は防がれた。渾身の一撃を放ったマダツボミは体制がひどく崩れている。どうぞ攻撃してくださいとでも言っているかのような状態である。

 

「なんと!」

「"タネマシンガン"!!」

 

 零距離で撃ち出された弾丸は全てマダツボミの顔に命中し、その威力にマダツボミは立ち続けることはできず倒れ伏した。

 カズトたちの勝利だ。

 

「素晴らしい戦いでした」

「こちらこそ」

 

 互いの健闘をたたえ合い、少しの休憩を取る。体力を削られたタネボーも回復してやらなければならない。まだまだ坊主たちは控えているため、気は抜かず万全を期すべきだ。

 

 だが流石に連戦はキツいため二試合目、チンネンとのバトルはタツベイを出すことにする。相手の弱点を突く技を使えるので、それを軸に戦いを組み立てるのが得策だろう。

 

「"ひのこ"!」

「避けつつ進むのです!」

 

 どうやら同じマダツボミでも戦闘スタイルは違うようで、積極的に相手の懐に潜り込む戦い方が得意と見える。攻撃も"つるのムチ"よりも"いあいぎり"を主軸にしたものとなっており、先ほどのバトルよりペースが速い。すぐに切り替えないと手痛い一撃を食らってしまいそうだ。

 

「ジャンプして"りゅうのいぶき"!」

 

 今の状況で後退しても技を放つための距離が上手く取れない。無防備な空中に出るのはある意味賭けだが、そこはカズトの腕の見せ所だろう。

 案の定、相手は"つるのムチ"でタツベイを地面に叩き落とそうとしてきた。

 

「"かみつけ"!」

 

 タツベイを撃墜すべく伸ばされた蔓に噛みつき、そのまま振り回すことで逆にマダツボミの方が空中に投げ出され、無防備な姿をさらすこととなった。

 

「行けマグナっ、"ずつき"だ!」

 

 空中で回避はできない。いくら体の細いマダツボミでも、避けることは困難だろう。岩をも容易に砕くパワーを持つタツベイの"ずつき"が容赦なくマダツボミに迫る。

 

「"リフレクター"!」

 

 なんと、ついさっきカズトが使ったものとほとんど同じ戦法をチンネンがやり返してきた。障壁に攻撃を阻まれた隙を突いたカウンターの"いあいぎり"も見事に炸裂し、タツベイは大きく体力を削がれてしまった。

 流石にこれにはカズトも冷や汗を流す。今のは慢心せず、確実に遠距離攻撃で仕留めにかかる方が良かっただろう。今後の課題として頭に留めておく。

 

 幸い、着地した距離が離れていたため追撃はなかったが、タツベイの消耗も激しいので次で決着をつける必要性が出てきた。

 

「"りゅうのいぶき"!薙ぎ払え!」

 

 今度は線ではなく面の攻撃でマダツボミの行動を制限する。どうやら苦戦しているようなのでこの作戦は当たりだろう。見るからに相手の動きが鈍くなっている。

 さらに時折"ひのこ"も織り交ぜることで、さらに相手の余裕を奪っていく。そしてそこで生まれた致命的な隙をカズトは見逃さなかった。

 

「そこだ、"ずつき"!」

 

 今度は"リフレクター"を張ることもできず、タツベイの攻撃を諸に食らったマダツボミはそのまま戦闘不能となった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 あれからひたすらバトルを続け、ついにカズトは最後の坊主を下した。名誉ある全勝である。だが途中危ない場面は何度もあったので、運が良かったとも言えるだろう。

 とはいえ、坊主たちとの戦いはカズトにとって実りのある戦いとなった。数時間前の自分とは明らかな差を感じる。

 

「まさかここまでとは。あっぱれです」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 最後の坊主、そしてこの塔の長老だというコウセイと握手を交わし、カズトは今日のお礼を述べ帰り支度をしていたのだが、帰ろうとした直前、コウセイに呼び止められた。最後の一戦に付き合ってほしいそうだが、その相手を見たカズトは絶句するしかなかった。

 

 相手は坊主全員。全員のマダツボミがそこにはいた。

 

「これは……なんの冗談でしょうか……?」

「冗談ではございません。正真正銘我々の最高戦力です」

 

 そりゃあいくらマダツボミだとしても二桁を超える量は明らかにオーバーパワーだろうとツッコみたくなったが、話を聞くと、これらのマダツボミたちは今までの修行の結果、卓越した連携をすることを可能としたらしい。坊主たちを全て打ち負かしたカズトに是非、この陣形に挑んでほしいようだ。

 

 これもまた修行と、半ば丸め込まれた気がしなくもないが、今日一日修行に付き合ってくれた坊主たちに対する礼もある。カズトはその申し出を受けることにした。流石に一体ではキツいので、二体の手持ちを総動員する許可はもらった。

 

「にしても、こんな頻繁に複数のポケモンでバトルすることになるとは…」

 

 ワカバタウンにいた頃は複数体のポケモンを使った乱戦には縁はないだろうと思っていたのに、いざ外に出てみれば予想を超えることばかりだ。改めて自分が井の中のニョロトノだったと思う。

 

 タツベイとタネボーを場に出し、迎え撃つべき相手を見つめる。

 先手を打ったのは坊主たちだった。

 

「空中舞踊"つるぎのまい"!!」

 

 これはまぁ、思わず感心してしまうほど滑らかな動きでマダツボミたちが一斉に"つるぎのまい"を踊る。まるで一体のポケモンのような動きにカズトも一瞬、バトルより驚きが勝った。

 

「まだですよ。円形攻撃陣!」

 

 合図と共に隣のマダツボミと手(のような葉)を重ね合せ、グルッと円になるように繋がった。その直後、猛烈な勢いで輪になったマダツボミたちが"いあいぎり"を放ってきたことでカズトもその危険度に顔が引きつる。

 回避できないほどではないが、当たればひとたまりもないだろう。というか、トレーナーである自分まで巻き込むのはやめてほしい。

 

「陣形と陣形の隙を突く!"たいあたり"!」

「三角防御陣!」

 

 思ったより陣形の完成が早く、タネボーの"たいあたり"は"リフレクター"で防御されてしまう。複数体で展開しているため、その堅さは尋常なものではない。後ろからタツベイが"ひのこ"で援護を始めるも、それと同時に散開して回避されてしまった。

 

 直接攻撃は"リフレクター"で防がれ、距離を取ると連携でかき乱してくる。かといって近づけば強力な"いあいぎり"が待っている。これらの技自体は単体で戦った時から変わっていないが、連携して放つそれは実に凶悪なものに成り代わっている。

 どうにかして陣形が組まれていない間に遠距離攻撃をメインとし、各個撃破をしなければ勝ち目はないだろう。だがその作戦を実行する上で一つ、大きな問題があった。

 

(シードの火力が足りない……!)

 

 タネボーが使える技で遠距離攻撃が可能なのは"タネマシンガン"だ。しかし"タネマシンガン"は一発一発の威力が低く、大きなダメージを期待することはできない。加えて言うと、"タネマシンガン"はくさタイプの技。どくタイプには効果は今ひとつ、同じくさタイプにも効果は今ひとつでマダツボミにはこの上なく相性が悪い。

 それでも今日勝てていたのは、至近距離で当てたり、急所を撃ち抜いたりしていたからである。相手が複数体で連携してくるなら、その隙を作ることはほぼ不可能に近い。

 

 本人もそのことは理解しているのだろう。煮え切らない顔で技を出している。

 

「頼むマグナ、シードの分も頑張ってくれ!」

 

 タツベイが"ひのこ"や"りゅうのいぶき"を駆使して何とか戦線を維持していたが、無理が過ぎたせいか技のインターバルに大きな隙を生み出してしまい、それを的確に突かれた一撃を食らってしまう。

 

 今この場で自分が一番無力なことにタネボーは歯噛みする気持ちで立っていた。

 カズトは懸命に策を考え、指示を伝えてくれている。マグナは自分の分まで頑張って、その結果大きなダメージを負ってしまった。自分がどうにかしなくては、このままでは負けてしまう。

 折角カズトが敗北から立ち上がったのだ。自分もこれまで以上に彼の力になると決意したのだ。それを叶えられる力がほしい……!

 

 その一途な願いに応えるように、タネボーの体が光り輝く。

 

「これって――」

 

 今まではまるできのみのようだった体が次々と姿を変え、腕が生まれ、脚が生まれる。

 輝きが収まった時そこにタネボーの姿はなく、代わりに人に近い姿をした一体のポケモンが立っていた。

 だがカズトには分かる。そこにいるのは紛れもない自分のパートナーだ。

 

「シードが、進化した……!」

 

 進化することで新たな姿と新たな力を得たことを感じたコノハナは、目の前の相手に対してその力を振るう。

 自身の周囲に無数の葉を生み出し、物凄い勢いで撃ち出す。空気を裂く音と共に、マダツボミの体に傷が現れた。

 

「"はっぱカッター"? でもこの威力……」

 

 タネボーだった時の他の技の威力とは数段違う。だが考えている場合じゃない。

 自分の力になるため、進化を果たしてくれたコノハナに報いるためにも今自分ができるのは適切な指示を出すことだ。

 

「マグナ、"りゅうのいぶき"! シード、"はっぱカッター"!」

「っ、円形攻撃陣!」

 

 アイコンタクトを交わした二体はお互い全く同時に技を放つ。竜の力を宿したブレスに刃の葉が合わさった瞬間、二つの力が混ざり合って一つの技としてマダツボミたちを襲った。

 "りゅうのいぶき"の力に加え、"はっぱカッター"で速さと威力が底上げされた攻撃はマダツボミたちに陣形を組む暇すら与えず、その体力を削り取る。

 そして技が止む頃にはその場に立っているマダツボミは一体も存在しないのだった。




主人公、修行するの回。

徐々に戦闘描写を濃く書いていけるようになりたいですね。最終的には読んで頂いた方全員がその光景を思い浮かべることができるようになりたい。←強欲
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