SPECIALになるために   作:Zuiki

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第9話 VSグライガー

 マダツボミの塔での修行を終えたカズトたちは現在、次なる目的地であるヒワダタウンを目指して32番道路を南下していた。塔での修行を終えた頃にはすっかり疲れ切ってしまっていたため、その日の残り時間は休息に充ててリフレッシュし、日を改めて出発したところだ。

 

 周りの景色は今までとは少し変わり、傾斜の急な山岳地帯が時々見られるようになったからだろう、ふと見上げた時などに山の上にいわタイプやじめんタイプのポケモンたちが活動している姿が見受けられた。

 

 時折何かに追われるように走り去っていくポケモンたちを見かけはしたものの、時を同じくして遠くから強そうな鳥ポケモンの鳴き声が聞こえてきたので、おそらくそのポケモンから逃げているだけで特に問題はないだろうと判断し先に進む。

 いくら修行のためとはいえ、無闇矢鱈に野生ポケモンの縄張りを荒らすようなことは極力あまりしたくない。

 

「触らぬ神に祟りなしとも言うしね」

 

 コンパスや時間、太陽の位置を確認しながらひたすら南へ進んでいると開けた谷間に出た。左右は高い岩壁に囲まれており、とてもではないが登ることはできない。

 

「マグナ、気をつけるんだぞ~」

 

 いつか空を飛ぶことを夢見ているタツベイは本能的に高いところを好む。カズトでは登ることができない断崖絶壁も僅かな突起を足場にしてスイスイと登っていき敢えて危険な道を進む。本格的に強くなるための特訓をし始めたからか、気合い十分なようだ。

 コノハナも進化したことで今まで以上にやる気に満ちており、トレーナーであるカズトとしては嬉しい次第だ。こんなにも心強いことはない。

 

 だが同時に、もっと上を目指すためにはいろいろと足りないものがあるとも思う。

 特に手持ちポケモンに関しては重要で、成長したとはいえ今までの二匹だけでは太刀打ちできなくなるような場面も出てくるだろう。臨機応変に対応できるよう、層を厚くしなければならない。

 旅が賑やかになるのは是非とも歓迎なのでそのうち新たなパートナーとなるポケモンを見つけたいところだ。

 

 景色の変わらない谷間をしばらく歩き続けると、視線の先でようやく岩壁が途切れるのが見えた。遠くにポケモンセンターも見えるので、ちょうど中間地点に来たようだ。

 あと一息だと気を引き締めた瞬間、カズトは何かを感じてその場から飛んで離れる。

 

 一歩遅れて、カズトがいたところを一匹のポケモンが通り過ぎた。そのポケモンは高度を上げ、やがて崖にしがみつく。

 

「グライガーか」

 

 確かグライガーは風に乗って相手に飛びつき尻尾の毒針で攻撃してくるポケモンだったはず、とカズトは頭の中で記憶を思い起こす。

 そうしている間にもグライガーは再び風に乗り今度はコノハナに狙いを定めた。

 

「"はっぱカッター"で迎撃するんだ!」

 

 コノハナの放った無数の葉がグライガーに向かうが、グライガーはそれを両手の鋏で全て切り裂いた。かなりのスピードで攻撃したはずだが、相手は眼が良いらしい。一気に距離を詰めたグライガーはコノハナに斬りかかった。

 

 鋏を素早く正確に振り回す攻撃に対しコノハナは身体を僅かにずらして最小限の動きで回避していくが、進化してから昨日の今日でまだ急速に発達した身体に慣れ切れていないようで、少し危ない場面が見られる。

 おまけに繰り返せば繰り返すほどグライガーの攻撃のスピードと精度が増しており、コノハナに細かい傷が目立ち始めてきた。

 

「"れんぞくぎり"――やっかいだな」

 

 最初の一撃こそこ大したことないが連続して攻撃することで段階的に鋭さが増していく技で、鍛えられたポケモンが使うととてつもない威力を発揮する。

 グライガーの"れんぞくぎり"はカズトでも軌道が見えてはいるため、それほどレベルは高くなくコノハナと同じくらいだと考えられるが、如何せん劣勢になってしまったがために好き勝手されている状況だ。

 

 状況を打開するべくカズトは策を考えるも、そのためにコノハナへの指示が少し疎かになったことで隙が生まれてしまった。それは奇襲を狙って崖から飛び降りてきたタツベイが補ったが決定的な変化にはならない。

 だが二対一になったことで頭数では有利となったため、グライガーも攻めあぐねている様子だ。

 

「一定の距離を保って攻撃!プレッシャーをかけ続けろ!」

 

 "ひのこ"や"タネマシンガン"で相手の行動を制限しながら相手の攻撃が届くギリギリのラインを維持して戦い続ける。ひとまずバトルのペースを落とすことで強引に相手の流れも断ち切る作戦だったが、その効果はあったようで思うように動けなくなったグライガーはイライラしている。

 

 上手く嵌まってくれたようなのでこのまま谷間から出てポケモンセンターに駆け込もうかとも考えていたが、逃げるより先に痺れを切らしたグライガーが地面を尻尾で勢いよく薙ぎ払った。舞い上がった砂がカズトたちの視界を奪うと、グライガーはその姿を消してしまった。

 様子からして逃げたとは考えにくいので、居場所を確認しようとタツベイたちは辺りを見渡すが姿は見えない。だがトレーナーとして一歩引いた視点で場を見ていたカズトはその影を捉えた。

 

「上だっ!」

 

 しかしカズトが声を上げた時にはもう既にグライガーの接近を充分に許してしまっていた。

 上から振り抜かれた尻尾がコノハナに一撃を食らわせる。コノハナも苦し紛れに拳で反撃したのだが、あまり効いたようにはみえない。

 

「接近戦だマグナ!シードは"はっぱカッター"で援護!」

 

 どうにも逃げられそうにはないので、このまま一気にグライガーを倒してしまうことにしたカズトはスローペースから一転、接近して勝負を決めるための指示を出した。

 "はっぱカッター"の多角的な攻撃に対応するため意識を割かれたグライガーは、至近距離まで近づいてきていたタツベイに反応することができない。

 

「そこだ、"ずつき"!」

 

 まるで砲弾のようにも感じる威力を誇る"ずつき"がグライガーに命中するとその体を吹き飛ばし、そびえ立つ岩の壁にめり込ませた。あの威力をまともに食らっては立ち上がることはできないだろう。

 カズトはそこで勝利を確信したが、なんとグライガーは問題なく立ち上がり再び両の鋏で切りつけてきた。さらに、タツベイが交戦しているタイミングで特に攻撃を受けていなかったコノハナが膝をつき苦しそうに顔を歪めていた。尻尾で叩きつけられた時に気づかないよう"どくばり"を刺されていたのだとカズトは察したが、時既に遅く毒はコノハナの体を蝕んでいた。

 

 生憎今は解毒可能なアイテムを持ち合わせていないので、これ以上毒を回さないようカズトはコノハナをボールに戻した。

 谷間の急襲から始まったこの勝負の決着はタツベイでの一対一に委ねられる。

 

「"りゅうのいぶき"!」

 

 タツベイが渾身の力を込めて放つ技をグライガーはその隙間を縫うようにして回避する。この谷間に吹く風に上手く乗ることでその動きは非常にトリッキーなものになってカズトたちを翻弄、狙いを定めさせない。

 しかしやはりさっきの"ずつき"が効いているのだろう、最初の時ほど動きに俊敏さは見られなくなっていた。付け入るならそこだ。

 

「引きつけてから"かみつく"!」

 

 動きが読めないなら、読む必要がなくなるくらい近づければいい。勝負をかけに来たグライガーをギリギリまで引きつけ、攻撃の瞬間、一気に前に出た。

 当たるはずだった攻撃は対象をなくしたことでただの軽率な行動に成り下がる。目測を誤ったグライガーの鋏は空を掻き、大きな隙を生み出した。そのチャンスを逃すカズトたちではない。

 

 グライガーの背後を取ったタツベイは目の前の尻尾に噛みつき、宙に放り投げた。無理矢理空中に投げられたことでグライガーも風を捉えることができず、きりもみしながら飛んでいく。

 昨日のマダツボミの塔での修行でも似たようなケースがあったが、あの時は欲を掻いてカウンターを食らってしまった。今度は油断せず、確実に勝負を決める。

 

「とどめの"りゅうのいぶ――」

 

 だがその指示は別の甲高い鳴き声に遮られる。

 カズトはその鳴き声に覚えがあった。数刻前、何かを恐れて逃げるポケモンたちを見た際に聞いた声と同一のもの。つまり、この近辺で猛威を振るい恐怖の対象となっている強力なポケモンがこちらに来たということである。

 

 銀色に輝く鎧のような体が特徴的な鳥ポケモン。エアームドと呼ばれるそのポケモンをカズトは知らなかったが、その体を見るに最近新しく確認、分類されたはがねタイプの一種だろう。生半可な攻撃では傷一つつかないはずだ。

 

 どうもこちらを狙って向かって来ているので、グライガーとのバトルも中断しなければ危険だ。一か八かだが、逃げに専念するべきだろう。

 

「逃げるぞマグナ!」

 

 幸いグライガーはエアームドの方を向いていたため、見つからずに走り出すことができた。このまま走ってポケモンセンターに逃げ込めば勝ちだ。追いかけてくるエアームドを遠目にカズトとタツベイは全速力で駆ける。

 

 だが、カズトの思惑は外れることとなる。

 カズトの予想していたよりも数倍、エアームドの飛行スピードが早いのだ。このままではポケモンセンターにたどり着くどころか、谷間を抜ける前に追いつかれてしまう。

 

「結局戦うしかないか、くそ!」

 

 逃げるために動かしていた脚を止めて、エアームドを迎え撃つ。正直、グライガーとのバトルで消耗しているタツベイたちで勝てるかは不安だが、やるしかないだろう。

 

 あのスピードで急な方向転換は厳しいと判断し"りゅうのいぶき"で遠距離からの迎撃を試みる。流石に直撃は求めすぎかもしれないが、かすってもそれなりのダメージにはなるはずだ。

 ところが再びエアームドはカズトの予想を裏切る動きを見せた。まさかまさかの回避行動すら取ろうとせず"りゅうのいぶき"めがけて直進してくるではないか。しかも全く意に介していないというぶっ飛び具合である。

 

 慌てて回避しようとするが、エアームドのスピードを考慮するとおそらく間に合わない。

 あのスピードでぶつかられると自分もタツベイもただでは済まない――まさに万事休すかと考えたカズトだったが、ここでまたもや予想を裏切る事態に遭遇する。

 先ほどまでカズトたちと敵対していたグライガーが横からエアームドに突っ込んで来たのだ。

 

 流石にエアームドもこれは想定外だったのだろう。防御する間もなくその身に一撃をもらい地面に墜落した。

 

「お前、オレたちを助けたのか……?」

 

 グライガーはカズトの横に降り立つと、タツベイではなくエアームドの方を向き睨みつける。

 目の前にいるグライガーの体をよくよく見ると、戦っていたときには気づかなかったが今日できたものではない、治りかけの傷が体に点在していた。状況を鑑みるに、おそらくエアームドと戦った際につけられた傷なのだろう。

 

 グライガーとエアームドの両方を同時に相手しなければならないことを想像していたために、これだけは嬉しい誤算だ。グライガーがこちら側についてくれたならどうにかできるかもしれない。

 

「グライガー、あいつに勝つために力を貸してくれないか?」

 

 カズトの問いにグライガーは何も答えなかったが、沈黙はつまり肯定だろう。

 お互いに手負いの身だ、いがみ合っていてもあのポケモンには勝てない。とはいえカズトはグライガーの能力や技を十全には理解できていないので、不用意な指示を出してグライガーのパフォーマンスを損ねてはいけない。

 協力するという話になったが、あくまでグライガーは野生のポケモン。基本的には自由に動いてもらう。そこを後ろでサポートするのがポケモントレーナーとして今のカズトができることだった。

 

 地面に小さいクレーターを作るほどの力で叩き落とされたエアームドは衝撃を感じたからか、少しふらついた様子を見せたが、それでも体に傷はほとんど見られず相変わらずピンピンしている。

 攻撃の邪魔をされたことでグライガーに対して随分お怒りのご様子で、"メタルクロー"で襲いかかる。羽にもかかわらずその鋭さから、もはや斬撃のようになっているエアームドの猛襲をグライガーは右へ飛び左へ飛び翻弄している。

 

 完全にエアームドの意識はカズトたちからグライガーに向いているようで、こちらには見向きもしない。先ほど"りゅうのいぶき"を食らってもほとんど効かなかったことからの余裕の表れだと思うが、その慢心が仇となることを教えてやろう。

 どく状態になっているコノハナにも攻撃に参加してもらうため再びボールから出す。無理をさせることは重々承知だが、勝つためにもコノハナの力が必要だ。

 

「グライガー避けろ!」

 

 カズトの声に反応したグライガーがその体を翻してエアームドから距離を取ると同時に、コノハナの放った"はっぱカッター"がエアームドに着弾する。

 やはりというべきかあまり効いてはいないようだが、視界一面に葉っぱが舞っているためうっとうしそうに翼で払う動きを見せた。攻撃の手が止まったことを確認したカズトは、合図を出す。

 

「マグナ、"ひのこ"!」

 

 エアームドの動きが止まった隙に岩壁を登り、射程距離まで近づいていたタツベイが"はっぱカッター"ごとエアームドを炎で焼き払った。そこで初めてエアームドが苦しそうな表情を見せたことから、カズトは自分の推測が正しいことを確信する。

 鋼は炎に弱い。間違いなくエアームドはほのおタイプの攻撃が弱点だ。

 

 できれば岩場から飛び降りた勢いで"ずつき"もお見舞いしたかったが、それは"メタルクロー"ではじかれてしまった。しかし空中で体勢を整えたタツベイは軽やかに着地する。

 

「効いてるみたいだ。この調子でやるぞ、マグナ」

 

 再び上空でグライガーとエアームドが切り結んでいるが、どちらも決定的な一撃を相手に与えることができずにいた。このままでは既にカズトたちとの戦いで疲弊しているグライガーが押し負けてしまうだろう。

 

「グライガー! もう一度だ!」

 

 どうやらグライガーもタツベイの炎が効果的であると気づいていたみたいで、素直に策に乗ってエアームドから離れる。再度コノハナの"はっぱカッター"がエアームドの視界を遮ると、タツベイはエアームドに接近し、技を放つ態勢をとった。

 

 しかし技を出す前より早く、エアームドはタツベイを探し出すと、翼をはためかせ刃のような鋭い風でタツベイを攻撃した。"エアカッター"が"ひのこ"をかき消し、タツベイを襲う。

 何とかギリギリでその攻撃自体は回避できたが、ついにコノハナの体力が限界のようでこれ以上は戦闘を継続することはできなくなってしまった。このままでは"ひのこ"を当てることが難しくなり、翼のないタツベイでは現状、自在に空を飛ぶエアームドを倒すのは不可能だ。

 

 そう、タツベイでは(・・・・・・)不可能だ。

 

「グライガー!」

 

 "エアカッター"でタツベイを攻撃することに意識を集中していたエアームドは、完全にグライガーを見失ってしまっており、見当違いの方向を向いていた。

 他にはないこの千載一遇のチャンスを同時に感じ取っていたカズトとグライガー。自然とカズトの口からグライガーへの言葉が出され、グライガーもそれに応える。

 

「"れんぞくぎり"!!」

 

 エアームドを完璧に捉えた斬撃は攻撃を当てるごとに徐々にパワーとスピードを増し、その鎧にひびを入れ、反撃を許さない。そうして数十にも及ぶ斬撃を経て、最後の一撃を入れたとき、ついにエアームドの鎧の一部が砕けて地面に舞い落ちる。

 これにはエアームドもたまったものではなかったのだろう――大急ぎで翼を広げ飛び去っていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「何とか勝てたか……」

 

 強敵を打ち破ったことで今までの緊張が解けたカズトはもはや無意識にその場に座り込んだ。一瞬だが身の危険も感じたので心臓の鼓動が激しく、息も切れており、すぐに動けそうにない。

 そんなカズトのそばにグライガーが降り立った。カズトをじっと見つめるグライガーにタツベイは警戒の色を示すが、そっと諫める。

 

「あいつに縄張りを荒らされて気が立ってたんだろう? オレに攻撃してきたのも、縄張りを荒らされると思ったから――違うか?」

 

 その問いにグライガーはゆっくりと首を横に振る。

 

「あのポケモンは撃退したから、これからこっちに来ることはないと思う。気を張る必要はなくなるよ」

 

 だが今度もグライガーは首を横に振った。そしてカズトの持つ、コノハナを戻したモンスターボールをじっと見つめる。

 

「――もしかして、オレと一緒に来てくれるのか?」

 

 どうやら正解だったようで、今度こそグライガーはうなずいた。

 カズトが空のボールを取り出すと、グライガーは自ら鋏をボールの開閉スイッチに当て、捕獲機能を起動させる。ボールに吸い込まれて数秒後、捕獲が完了したモンスターボールをカズトは拾い上げ、再び開閉スイッチを押した。

 そしてボールから現れたグライガーにカズトは笑顔で声をかけるのだった。

 

「これからよろしく、ライガ」




新しい手持ちの追加を果たした主人公。打倒シルバーに向けて力をつけていきます。
しかし相変わらずこおりタイプには弱い…。

―――――――――――――――
設定

ライガ(グライガー)Lv.16
性別:♂
性格:さみしがり
特性:かいりきバサミ
覚えている技:どくばり、すなかけ、れんぞくぎり、どくどく

32番道路の谷間を住み処にしていたが、エアームドが現れたことで縄張り争いに発展。決着はつかなかったもののかなりの手傷を負い、縄張りに入ってくるものに対して神経質になる。ちょうどそのタイミングでカズトが通りかかり今回の話に至る。
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