ゑ月◯日
なぜな義腕の名称を説明するために白幕を引っ張り出してこようとする篝火ヒカルノは通常の天才とはベクトルが違うようだ。
私は日常生活を過ごすことを前提として義腕の製作を依頼したはずなのに、あろうことか戦闘特化型義腕を取り付けやがった。
彼女が五時間かけて装着したモノを外せというとは言えず、彼女の面白くもない話を聞き流すしか時間を潰す方法はない。
この義腕を戦闘特化型と言っているが、以前の腕と違和感すら感じない完璧な仕上がりだ。どのような部位を戦闘特化型なのだろうか?
そんなことを考えながら義腕を触っていた瞬間、カチリという嫌な音が聴こえてきた。前腕部、手の甲、その二ヶ所から高圧噴射されたガスによって驚異的な突進力を作り出す仕様のようだ。
正直に言えば暴発の可能性を考えていないのかと彼女を問い詰めてやりたいが、篝火ヒカルノは「多少の不具合は我慢したまえ、それより推進剤の説明を始めよう」と開き直っている。
キラキラと瞳を輝かせる彼女の話を聞けば、この義腕を用いて新しい戦闘方法を構築しようということらしい。私の義腕は試験段階のモノということか?
お前、最低だな。
ゑ月∴日
結局、私の義腕は「炸裂式加速装置(仮)」という迷惑な代物のようだ。…他者の義腕を改造するのは違法だと法律を付け加えてはくれないだろうか?
まあ、固形燃料を入れなければ炸裂することはないと篝火ヒカルノも言っていた。彼女の言葉を信じるしかないが、体育の授業の時は見学しておこう。
私は犯罪者となるつもりはないし、更識簪や布仏本音と平穏な学園生活を過ごせれば問題ない。この義腕も使い続ければ慣れるはずだ。
そんなことを思いながら電車を経由してIS学園へ向かう。私の部屋を荒らす者はいないと思うが、ほんの少しだけ不安を覚えてしまう。
たぶん、大丈夫なはずだ。
寮母室の隣を荒らそうとするバカなヤツはいないだろう。いや、あまり考えたくはないが、アバズレ生徒会長や織斑一夏ならやりそうだな。
とりあえず、部屋の無事を祈るしかないか…。
電車の外を眺めようとした瞬間、窓へ張り付いているラウラ・ボーデヴィッヒが見えたような気がした。たぶん、きっと、おそらく、幻覚だろう。
ずっと義腕のことで悩んでいた。そのストレスによる幻覚だ。そう考えないと高速移動を行っている電車の外側に張り付くという不可解な現象は起こらないはずだ。
とりあえず、仮眠を取ろう。
少しだけ寝れば幻覚を見ることはない。
ゑ月∩日
昨日の幻覚だと思っていたラウラ・ボーデヴィッヒは幻覚ではなく護衛として潜伏していたラウラ・ボーデヴィッヒだったそうだ。
私を護衛する必要はあるのかと問えば「嫁を護るのは夫の務めだ」と意味の分からない言葉を返してきた。同性愛を否定するつもりはないが、私は華やかな百合を咲かすつもりない。
だいたい、私より可愛いヤツは沢山いるだろう。
そんなことをラウラ・ボーデヴィッヒに言えば「お前より可愛いヤツなど居るものか!!」と逆ギレされた。
いや、更識簪や布仏本音は私より可愛いだろ?と否定すれば「むう、分かった。お前の言葉を確かめてくる!」と部屋を出ていってしまった。
私の部屋の合鍵は寮母室へ預けているはずなんだが、どうしてラウラ・ボーデヴィッヒが持っていたんだ?等と考えながら部屋の扉を外側からは開かないように閉める。
私の寝室を汚す理由を問い詰めてやりたいが、そんなことで掃除を行う時間を潰すつもりはない。さっさと部屋を片付けて更識簪達に義腕を見せたい。