∀月.日
私達は校外実習を行うために花月荘へと向かうバスに乗っている。布仏本音の食い散らかすお菓子の袋をゴミ袋に入れながら織斑千冬の話す活動内容を記憶する。
あらゆる緊急事態を想定して足場の不安定な砂浜を使うと織斑千冬は言っているが、私は船の上やビルの最上階のギリギリで訓練を行っていたぞ。
ん?今のは言葉は可笑しい。
私は生まれてから一度もビルの最上階へ行ったことはないし、船なんて乗ったこともない。なぜ、私は覚えのない記憶を思い出せるんだ。
そんなことを考えているとバスは停車しており、ぞろぞろとバスの出入り口へ向かって怪我しないように並んで歩いている。
お前達はこういうときは真面目なんだな。しかし、見習い以下の学生を旅館へ宿泊させるとはIS学園の財政はどうなっているんだ?
私は布仏本音と相部屋とのことだが、織斑一夏の宿泊する部屋と隣接しているのは何故だ?なんて思いながらも制服から水着へ着替える。
しかし、何を食べればあれほど大きくなるのだろうか?そんなことを考えながら廊下を歩いていると更識簪がヒラヒラと手を振っているのが見えた。
むう、更識簪も私より大きい。
どう足掻こうと私の胸は成長するのはないのか?等と思いながら花月荘の玄関を出る。なぜか逃げ惑う織斑一夏と篠ノ之箒を筆頭として追い回す代表候補生は普段と変わらない。
∀月→日
篠ノ之束を見るのは初めてのはずだ。
それなのに懐かしいと思えるのは何故だろうか?そんなことを考えながら彼女のことを見ていると「やあ、君のことは知ってるよ。なにしろ、私の模造品だからね」等と言ってきた。
ふむ、模造品ということは篠ノ之束の遺伝子を持つ者ということだな。
……私は篠ノ之箒の姪だったのか?なんて考えながら篠ノ之箒の意見を聞くために彼女を見ると「ねえさんのむすめ?」と困惑していた。
私のことは後回しだな。
篠ノ之束の要件を聞くことを優先してもらえると助かる。そう、織斑千冬に言えば「束ですら子持ちなのか…」とショックを受けている。
そういう絶望を宿したような瞳を向けるのは止めてもらえるだろうか?私には両親と呼べる人はいないし、私の育ての親は祖父母だけだ。
だいたい、私の胸部装甲を見てみろ。
あの篠ノ之姉妹と同じ遺伝子を持っているとは思えないだろ?そんなことをクラス全員に言えば納得したような表情を浮かべやがった。
まあ、そんなことはどうでもいい。
私が篠ノ之束の言っていることを信用する必要性はない。それよりも気になるのはシャア専用ISを乗り回す篠ノ之箒だ。
∀月ヶ日
昨晩、日本海へ突入してきた銀の福音と交戦した織斑一夏の敗北した。篠ノ之箒の不注意が原因だと詰め寄ろうとする代表候補生を取り押さえる。
私には彼女の悲しみを理解することは出来ない。
なにより私は愛する人を失うような経験は一度もない。そんなことを考えながら砂浜で夜空を眺めていると織斑千冬が此方へ歩いてくるのが見えた。
なにか忘れたのだろうかと近寄ろうとした瞬間、左胸から「コア」が消失した。ああ、なるほど、私の「コア」を狙う第三者ということか。
死ぬのは怖くない。
なにも感じない。
更識簪や布仏本音と友達になれたのは幸運だな。私のような生きているのか死んでいるのか分からないヤツと仲良くしてくれるのは彼女達ぐらいだ。
きっと私の「コア」は更識楯無が回収してくれるだろう。あの生徒会長は妹のためなら何でもやろうとするヤツだし、それにしても夏だというのに寒くなってきた。
うん、今日は死ぬには良い日だ。