番外編 其之壱
あの校外演習にて死亡した向井雪路の蘇生手術を終えて二週間ほど経過した頃のことだ。私はいつものように彼女の眠っている病室へと来ている。
一夏や篠ノ之達も毎日のように外出届を提出し、彼女の見舞いに訪れている。御世辞にも愛想の良い生徒ではなかったが、私のような実力のみで慕われている訳ではない。
私の記憶している彼女は毎日のように「面倒事には関わりたくない」と言っていたが、お前ほど面倒事を持ってくるヤツは束以外にはいない。
それと、更識の妹の暴走を止める相手が居なくて困っているんだ。お前は眠り続けたいと思っているのかもしれないが、私を含めて教員の立場も分かってくれないか?
人間とは傲慢な生き物だ。
お前の守ろうとするモノと私の守ろうとするモノは違うかもしれないが、共通点を探そうと思えば数え切れないほど出てくるかもしれない。
「お前がアイツと違う表現や言動を取り繕おうと『篠ノ之束の模造品』という過去は消えない。お前は決して人間のような正しい感情を得ることは出来ない。だが、それでもお前はアイツの模造品として作られ、失敗作と破棄されようと生きることを諦めなかった」
私の独り言を聞いているとは思えないが、今は言葉を伝えることしか出来ない。普段は言えないようなことを話すことは出来るが、お前との接点と言えば一夏の危機を救って貰うばかりだな。
「向井、生きることを辛いかもしれない。それでも親友と呼んでいた彼女達を置き去りにして天国へ行こう等と考えるように教育した覚えはないぞ…!」
嘗て世界最強の戦乙女と謡われた女とは思えない言葉だと自覚しているが、今の私は世界最強の戦乙女ではなくIS学園1年1組担任教師だ。その現実を覆そうとするモノは全霊を以て応えてやる。
「はあ、寝坊助にも程があるぞ」
うっすらと瞼を開いた彼女の頭を撫でる。
そう言えば今まで一夏を除いて頭を撫でるような相手は一人もいなかった。尤も彼女には関係無いことだが、ちょっとだけダメなことをしている気分だ。
「
「なんだ、向井」
二週間も昏睡していれば喋るのも難しくなるのは当たり前なのだが、一夏と同年代の少女が舌足らずに喋っていると思うとイケない気持ちになるのは何故だろうか。
まあ、そんなことより彼女の意識の回復を医師へ伝えるとしよう。なんとも言えないのだが、私の言葉を聞いて彼女が目を覚ましたと考えると気恥ずかしいモノだ。
ずっと昏睡していた生徒を起こすことが出来たのは喜ばしいことだ。うん、そうだな、彼女の意識の回復について医師に伝える前に堪能しておこう。
「
いや、なんでもない。
お前のことは医師に伝えるが、今まで無表情だった表情筋を解しておこうと思ってな。そうすれば笑顔を作ることは出来るはずだ。
べつに私が見たい訳じゃないからな?