「・・・致死性横隔膜痙攣、ですか?」
「ええ、あと五十回ぐらいで死にますね」
伊藤信義は病院に来るまでに五十回も横隔膜の痙攣を経験した。
「はっきり断言します。今の時代では治療不可能です」
医者は残酷な事実を告げた。
「・・・そうですか」
彼は独身であった。既に両親も他界していた。
後悔がないといえば嘘になるが、どうしようもなかった。
「・・・一つだけ方法があります」
「なんですか?」
「私の知り合いが開発したもので、まだ公開されてはいませんが・・・」
医者はある技術の存在を信義に言った。
「・・・いいでしょう、それに賭けてみます」
「・・・ありがとうございます」
「すまない。こんなものの実験台にしてしまって」
男は申し訳なさそうに言った。
「大丈夫ですよ、それよりも早くやったほうがいいんじゃないですか?」
信義には残り二十五回しか残されていなかった。
「そうだな。じゃあ目を閉じてくれ」
信義が目を閉じた途端、レバーが引かれる。
信義が入っていたケースは一瞬で凍結する。
「・・・史上初の冷凍睡眠がこんな形で行われるとはね」
男の名は清宮守。
人類で初めて冷凍睡眠を実用化した男だった。
信義が眠りについている間、色々とあった。
そう、とにかく色々とあったのだ。
虐殺〇官も真っ青なことがあったのだ。
華氏4〇1度も真っ青なことがあったのだ。
共産『趣味』者の大弾圧である。
これは世界中(日本と一部国家除く)で発生した。
断じて共産『主義』者の大弾圧ではない。
だんだんと共産趣味者の定義は曖昧となった。
(日本の)共産趣味者が淫夢語録を使うことから、同性愛者は共産趣味者と認定された。
共産趣味者は特定のゲイビデオ出演者を玩具にするから、同性愛を馬鹿にするものも共産趣味者と認定された。
共産趣味者は平等を訴えることから、平等主義者は共産趣味者と認定された。
共産趣味者は不平等を是認しているから、そういったものも共産趣味者と・・・。
キリがなかった。そして、驚くべきことに、そういった弾圧をするのは国家ではなく市民団体だった。
なぜ、このような弾圧が行われたのか。それは日本で起こったある事件が原因だったが・・・。
それはまた別の機会に話すとしよう。
ともかく、何千年もの時が過ぎ去ったのだ。
信義は見知らぬ病室で目を覚ました。
「・・・生きてる?」
彼は自分の頬をつねる。痛い、ここは現実だ。自分は生きているのだ。
それと同時に、医者らしき男が入ってくる。
「おはようございます。そして、9084年にようこそ。伊藤信義さん」
彼の言ったことを理解するまでに、数秒という時間を要した。
ふと、どこからか「デェェェェン」という音が聞こえてくる。