9084 共産趣味と化した世界   作:ryanzi

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作者は共産趣味者といっても音楽を聴いているだけの雑魚なんだ。(言い訳)
ちなみに横隔膜痙攣とはしゃっry


The Humans that Heard Love at the End of the World

西暦4000年

ファウンデーション時間1000年

 

 

「・・・最悪だな。ポッドが全部空っぽだよ」

 

ワーグナーは空っぽになった数千の筒の前でヴィクトリー・シガレットに火をつける。

 

「東亜連合軍第七方面司令部、こちら海洋団結軍第九浮動要塞所属のワーグナーだ。ACHCのスリーパーどもは全員どっかに行っちまってる」

 

「了解、そこで待機してくれ」

 

通信を終えて、シガレットを口にくわえる。

ワーグナーは大弾圧直後に生まれた世代だ。

だが、冷凍睡眠による人口維持計画によって、この時代にやってきたのだ。

渥美半島条約は意外にも遵守されていた。

 

1:人道的な目的による冷凍睡眠に対する干渉を禁じる。

 

2:世界遺産地域での戦闘行為を禁じる。

 

3:渥美半島は永久不戦地帯とする。

 

4:タケノコはキノコに対する優越権が認められる。

 

5:キノコも同様にタケノコに対する優越権が認められる。

 

6:核兵器の使用を禁じる。

 

人口維持計画は『人道的な目的』なので、ワーグナーは千年以上も眠りにつけていた。

なお、彼が今いる場所は、『軍事的な目的』に該当するので干渉が許可される。

ちなみに、今では4と5が何を意味していたのかを誰も知らない。

当然だった。この条約は2084年にアビスタン指導者の呼びかけによって締結された条約であったからだ。キノコもタケノコも、忘れ去られたのだ。

 

「ふう、オーウェル様、無事に任務が終わりますように」

 

ワーグナーは神に祈った。共産趣味者は神を信じるのだ。

彼が信じている神は〈ジョージ・オーウェル〉というものだった。

 

『オーウェルは絶対に誤りを犯すことがなく、全能である。あらゆる成功、あらゆる業績、あらゆる勝利、あらゆる科学的発見、あらゆる知識、あらゆる叡智、あらゆる幸福、あらゆる美徳は、彼の統率力とインスピレーションから直接引き出された』

 

オーウェリアン教の教義にはそうあるが、信者たちは全員それを信じていなかった。むしろ面白がっていた。

オーウェリアン教の信者だけではない。共産趣味者が今までの人類と違っていたのは、自分たちの信じている嘘に対し、かなり寛容だったということだ。

共産趣味者は誰もが自由と平等を求める。もちろん、みんながそれが不可能だと知っている。そして、それを平然と口にすることができるのだ。

そこが共産趣味者とACHCとの大きな違いだった。

 

「・・・さて、さっきからそこにいるのはわかってるぞ」

 

ワーグナーは暗闇に向かって言う。すると、中からナイフを持った少女が出てきた。まだ十代前半だった。

 

「・・・ACHCの奴ら、やっぱりいかれてるな」

 

共産趣味者からすると、未成年者を軍人として使役するACHCの感覚は理解に苦しむものだった。

 

「・・・あと十回、もう死ぬのは怖くない」

 

少女はそれだけ言った。その口ぶりからして致死性横隔膜痙攣状態であることは明らかだった。

基本的に致死性横隔膜痙攣状態の者をACHCは見捨てていた。

 

「おいおい、どうせ死ぬんだったら、そんな無駄なことやめようぜ」

 

ワーグナーはそう言いながら、神経鞭を少女に向ける。

 

「当たると痛いぞ。ナイフをしまってくれ」

 

「・・・死にそうな人に言う?」

 

「俺だって刺し殺されたくないし」

 

「でも、共産趣味者なんでしょ?だったら殺さないと」

 

ワーグナーはため息をつく。

 

「・・・はあ、どうしてお前たちはそうやって俺たちを殺そうとするんだ?」

 

「わかんない。でも、お母さんもお父さんも殺せって言ってた」

 

「・・・いつ?」

 

「たぶん百年前。・・・ッ!」

 

残り九回。

 

「・・・なんで、俺たちいつまでも憎み続けるんだ」

 

「さあ?でも、この一週間はずっとここにいたから、暇だから面白い仮説が思い浮かんだんだ。いったん殺すのはやめてあげるね」

 

あくまでも『いったん』だった。おそらく『回数』が残っていればすぐに刺し殺すつもりだろう。

 

「へえ、それを今話すのかい。もう時間がないんだろ?」

 

「もう時間がないから話すの。せっかく思いついたのに、誰にも話せずに終わるのはいやだから」

 

ヴィクトリー・シガレットの中身が零れ落ちる。

ワーグナーは箱からもう一本取り出して、火をつけた。

 

「それじゃあ、御高説お願いするよ」

 

「はーい、それじゃあ・・・ッ!」

 

残り八回。

 

「・・・それじゃあ、言うね。多分、大弾圧とかが起きたのは、たぶん当時のアンタらがずっと安全圏にいたからだよ」

 

「・・・安全圏、いったいどういうことなんだ」

 

「うーん、簡単に言うと、テロの対象にも、迫害の対象にもならない場所かな?」

 

今の共産趣味者がいる場所とは、まったく逆の場所らしい。

 

「本当に暇だったから、昔のデータを集めてたんだ。ネットには通じていたから」

 

ネット、といってもTCP/IPではなく、この時代ではHSだった。

 

「・・・ッ!2000年代の情報が残っているのはびっくりしたよ」

 

残り七回。

 

「昔のアンタらって、本当に何もしてなかったんだよ、悪い事も良い事も。批判も浴びない場所で、レーニンとかスターリンとか、可哀そうなマレンコフとかいうおっさんたちについて駄弁っていて、戯れでラーゲリとかしたり、国歌を歌ったり・・・とっくの昔に滅んだ国に対するノスタルジーを語り合っていただけなんだよ」

 

そこに関してはワーグナーも学習したことはある。

 

「でもさ、・・・ッ!それが多分、周りの人々の反感を買ったんだよ」

 

残り六回

 

「・・・反感?」

 

「そう、アンタらがそうやってのんびりとしていた間でも、世界は常に動いてた。戦争だったり、テロだったりね。普通の人々は常に危険にさらされてた。・・・ッ!たぶん、もうその時点で嫉妬とか反感は芽生えてたと思うよ」

 

残り五回。

自分たちが日々テロやら政争やら炎上やらで苦しんでいるのに、共産趣味者とされる人々だけがのうのうと安全圏で高みの見物を決め込んでいる。確かにやるせない気分にはなるだろう。

 

「・・・そんなときに、『共産政変』か」

 

『共産政変』。日本が内部分裂を引き起こしそうになっていたときに起こった民主的クーデターだった。

 

「安全圏でのうのうと生きていたアンタらが・・・ッ!おいしい部分を持って行ったんだよ」

 

残り四回。

 

「そりゃ確かに怒るな」

 

ワーグナーは先日の事件を思い出す。ショートケーキを食べていたときに、最後に食べようと思っていた苺を同僚に食べられてしまったのだ。多分、それと似たような感じだろう。

 

「それで、今までの鬱憤が爆発したんだよ」

 

共産趣味者は共産主義者と同じように、どこか理性的なのだ。だからこそ、人間の理不尽な感情は理解しにくいものに思えた。他人が安全圏にいるというだけで、反感を抱くものなのだろうかとワーグナーは疑問に思った。

 

「アンタらには永遠に理解できないと思うよ。だって・・・ッ!」

 

残り三回。少女はナイフを向けて近づく。

 

「だって、アンタらは普通の人間らしさを失ったんだから、その理性主義とやらで」

 

「・・・理性で人間らしさを失う?」

 

ワーグナーは神経鞭をぎゅっと握る。

 

「感情がなきゃ、人間らしさを保てないのに、アンタらはそれを人間らしくないからって捨てた」

 

「でも、君たちACHCも理性を捨てたじゃないか」

 

「お互い様なんだよ。もう希望なんてない。わかってるでしょ。私達は袋小路に入ってしまったの。アンタらは理性でもって和解を望んでいるけど、私達はあまりにも感情的だから講和は実現しないの。・・・ッ!あと二回か」

 

少女の言う通りだった。千年以上続いた戦乱はオーウェルが二千年以上前に予想したように、永久戦争と化していたのだ。

 

「・・・それもそうだな」

 

この後の流れは明らかだった。軍人としての訓練を受けているワーグナーに少女が勝てるわけがない。

そして、少女は間もなく致死性横隔膜痙攣で死ぬだろう。

だが、ワーグナーの通信機から大声が響いた。

 

「おい、ワーグナー。外に出てくれ!すごく綺麗な雨だ!」

 

苺を食べやがった同僚だった。

 

「雨?今そんな事態じゃ・・・」

 

「いいから見てみろって!こんな雨、見たことねえよ!」

 

すごく感情的な、歓喜に満ちた声だった。

 

「・・・付いてきてみるか?」

 

「・・・ッ!まあ、あと一回だし見てみるか」

 

ワーグナーと少女は地下の秘密冷凍睡眠施設から、地上に出た。その数分間で、最後の横隔膜痙攣がなかったのは幸いだっただろう。

彼らが見たのは金色に輝く雨だった。

 

「・・・なんだこれは」

 

ワーグナーの頬に涙が流れる。あまりにも美しい雨だった。

 

「うわー!なにこれ!すっごくキレイ!」

 

少女は走り出して、雨を浴びる。

 

「ワーグナー、見てみろよ!『鎌と鎚』だぞ!」

 

同僚も雨を浴びながらはしゃいでいた。彼の言う通り、雨粒は『鎌と鎚』の形をしていた。

 

「・・・ああ!」

 

ワーグナーも外に駆け出した。

 

「アハハハ!・・・ッ!」

 

最後の一回。

 

「・・・あれ、私、生きてる?」

 

『雨』は奇跡を起こした。

 

 

 

 

 

SIDE:渥美半島、恋路ヶ浜

 

ここでも『鎌と鎚』の『雨』が降り注ぐ。

 

「・・・ようやく終わりか」

 

一人の軍服を着た老人が呟く。

彼の名は本名はもう誰も知らなかった。

<Normalized>名誉元帥、<Normalized>というのは彼がゲーム実況者だったころの名前だ。

大弾圧時代の直後、彼は東亜連合軍の参謀総長となった。

彼は『下水作戦』でACHCに壊滅的な打撃を与えたことで有名だ。

そして、冷凍睡眠と延命技術の発達により、今日まで軍人だった。

 

「ハァッ↑www!!ハァッ↑www!!ハァッ……ハァハ↑wwwww」

 

彼は笑った。ここまで笑ったのは1000年以上も前のことだった。

『雨』に打たれながら、笑った。

 

「ハァ↑wwwナンテコトガオキテシマッタンダァ↑www」

 

それが最期の言葉だった。

彼は四つ葉のクローバーの草原に倒れこんだ。

 

 

 

 

 

SIDE:渥美半島、文明博物館(旧田原市博物館)

 

エリヤ・ブラウン、彼は最初期からのACHCのメンバーだった。

彼もまた、冷凍睡眠と延命技術の発達により、この時代まで生き永らえていた。

だが、それも今日で終わりだった。

 

「・・・綺麗だ」

 

庭園に出て、『雨』を浴びる。

そして、彼は涙を流していた。

 

「ジョン、それが君の答えか」

 

そして、そのまま眠りについた。だが、彼の近くにいた者が『ジョン』が誰なのかはついに知ることはなかった。

ただ一つ、わかっているのは彼が『雨』が何なのかを知っていたということだ。

 

 

 

世界中に『雨』は降り注いだ。

ある者は言った。

 

「これは『雨』じゃない。『愛』だ」

 

世界中に『愛』が降り注いだのだ。

その『愛』を浴びた者たちは、戦いをやめた。ついでに致死性横隔膜痙攣が治った。

西暦4000年、ついに戦乱に終止符が打たれた。

これ以降、『国家的戦争』が起こることはなかった。

 

『愛の日』

 

いつからか、そう呼ばれるようになった。

この『愛』を浴びた者は全員が共産趣味者となった。

しかも、今までよりも人間らしい共産趣味者に。

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・というのが〈愛の日〉に関する簡単な説明ですね』

 

「・・・えっ?」

 

信義はやっぱり話についていけなかった。




念には念を入れた用語説明

ファウンデーション:化粧品ではない。アシモフが元ネタ。これ以上は別作品のネタバレになるので説明できない。

ヴィクトリー・シガレット:1984に登場するタバコ。不味い。

浮動要塞:1984に登場する反重力兵器。

渥美半島:群馬の廉価版。四つ葉のクローバー発祥の地。

アビスタン:2084の舞台となる国家。この世界では中立国。

ジョージ・オーウェル:1984の著者。本当はそこまですごくない。

致死性横隔膜痙攣:百回しゃっくりをry

神経鞭:ファウンデーションシリーズに登場する武器。

HS:ダクト飯さんに聞いてください。誰かって?『AAで学ぶネット事件簿』の作者だよ!

恋路ヶ浜:四つ葉のクローバーがいっぱいの場所。渥美半島にある。

<Normalized>:一種の検閲。

文明博物館:渥美半島にある、全ての文明の保存庫。

ジョン:〔They were innocentのネタバレになるので削除されました〕
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