嬉しさ故か、悲しさ故か。
一人ひとりと客が減る。
場所を借りている関係で、幾つか頼んでは全員で消費して。
希亜が来るまで待つこと凡そで30分。
午後の授業が授業でなくなったとはいえ、病院なんかで時間が掛かることに変わりはなく。
気付けば夕暮れ、夜闇の中。
喫茶《ナインボール》の閉まる時間。
「…………今日ばっかりはタクシーとか使ったほうが良いんじゃないか?」
「ううん、少し歩きたいの。」
「自分のことは自分が一番わかるとは言うけど。」
かつりかつりと音が鳴る。
こつんこつんと音が鳴る。
たった二人。
夕暮れを超えた時間帯に、隣り合って歩き続ける。
隣に立つは、自転車ではなく徒歩の都で。
他には――――今は、誰もいなかった。
「それより、翔君はいいの?」
「何が?」
「皆と別れちゃって良いのかな、って。」
ああ、と呟いたが。
返す言葉は、当然のように決まっていた。
一人で帰すつもりもなく。
歩いて帰るというのなら……付き添うのが、当然の義務だと思っていた。
「あのな、一番心配してる相手を放置するような俺だと思ってるなら流石に怒るぞ?」
「だよね。」
返ってくる言葉も直ぐに。
街灯の所々がじじ、と寿命を示す街路。
立ち止まることもなく。
会話を投げ掛け、受け取っていく。
「……分かってて?」
「……うん。」
何故、と問い掛けるのは妙にむず痒くて。
当人から言葉が返ってくるのを、ただ待った。
「今ね。 皆には悪いんだけど……ちょっとだけ、嬉しいの。」
「……嬉しい、か。」
「
……確かに、他の誰かがいるところでは口に出すのは難しいことだろう。
お互いがお互いを認めて、許容し合うからこそ成り立っている今のこの関係。
その状況を一番保とうとしている都自身がそんな事を言ってしまえば。
どうなるのかは、想像すら恐ろしい。
「絶対に、皆には言わないけどね。」
「……それいい出したら、全員がどっかでそう思ってそうじゃないか?」
「かも。」
言わないことを口にする。
言ってはいけないことを、口にする。
そんなことをしてしまう原因に、思い当たることがあったとすれば。
「なあ、都。」
「なぁに?」
「……
浮かぶことといえば――――昼間の、あの騒動。
俺が見たものが、幾つもの悪夢だったとすれば。
都にとっての劇薬と言って、思い浮かぶのは。
「やっぱり、気付いちゃう?」
「流石に変すぎるしな……聞いて良いのか?」
「そうだね……
最初。
全ての始まりとなった、
後悔してもし切れない――――変わってしまった、彼女と迎えた最後の時。
「時々、思い返しちゃう程度で……今の私には関係ないって分かってるのにね。」
「関係ない、ってことは無いだろ。」
ばちばち。
羽虫が街灯に張り付いて、焼けていく。
季節外れの、周囲の光景。
「今も、あの時も……都は、都だろ。」
「そう言ってくれる、翔君も翔君だよね。」
目が、何処か虚ろで。
先程までの彼女とは違って見えて。
零す言葉が、顔には出ない涙のように聞こえた。
心が折れて。
君の前だからこそ、漏らせる内心があるのだと囁くように。
このままで良いのかと、自分でない自分が指摘するように。
「ね――――翔君。」
「
「
都の言葉にならない言葉が、心に響いてくるようだった。
彼女の眷属である、俺自身が。
俺の眷属である、彼女自身が。
何かを伝えるように。
気付けば。
彼女にしていたのは、たった3つの行動。
言葉にできない言葉を、抱き締めることで伝えて。
行動で示せない感情を、目から滴る水滴で感じさせて。
伝わるかは分からないこの恋情を――――唇を重ねる事で、熱を伝えて。
どれだけかの間。
俺達は、そうして立ち尽くしていた。
俺は、そうするしか思い浮かばなかった。
――――彼女も、また。
ぽたりぽたりと、頬を介し。
「睡眠」のアーティファクト:
体液を媒介に空間に作用するアーティファクト。
その空間で眠るものは使用者が思い浮かべる方向性の夢を見る。
本来は睡眠障害や戦場での安楽などの治療用に使用される。
スティグマは腹部。
暴走したことでアトランダムな――今回の場合は「当人のトラウマ」、「当人の理想」を混ぜた――夢を見せ続ける戦術兵器と化していた。
尚当人が眠れなかったのはアーティファクトが非適合過ぎて当人を殺そうとしたことが主因。
眠るのでなく、眠らせないことで発狂させようとしていたクソみたいな物質。
一般版発売記念外伝ヒロインを決めよう。
-
都
-
天
-
春風
-
希亜