けれど、大事な友人で。
けれど、大事な人を奪った相手で。
暫くして戻ってきた都は、もうその時にはいつものような状態に戻っていた。
心配を続ける二人。
動揺を何処まで隠せるかわからないけれど。
心配なのは事実なのだから、声を掛けた。
「大丈夫か? 九條。」
「あ、うん。 なんでも無かったみたい。」
互いにどういう状況なのか分かった上での会話。
ただ、一つ気になっているのは。
……此処まで落ち着いていられるような女性だっただろうか、という純粋な疑問。
もっとこう、慌てたりするイメージが有るのだが。
「無理はしないようにね。」
「ねえにぃに。 私先輩の様子見てる担当で良い?」
「あ~……。 俺は別に構わん、単独で絶対前に出なければそれでいい。」
「成程。 先輩、どうでしょう?」
実際、魔眼持ち……与一の対策は知識の有無で変わってくる。
一人で行かなければいい。
だから、希亜だけでも保険でいてくれれば問題はない……と思う。
最悪は、ソフィから借り受けた幻体のアーティファクトだってあるのだから。
「ううん……心配させるのも、悪い気がするんだけどな。」
「新海くん。 確認しておくけど、九條さんは必須だった?」
「どうかな。 前の時は俺だけじゃない、っていうのも彼奴の判断の一つになったと思うし。」
「だったら、私! 私が先輩を隠して最後に姿だけ見せるのはどう?」
確かに、最初から姿を見せる必要はないが……。
「結城、どう思う?」
「そうね……新海くんから聞いた情報から考えられる範囲だと、大丈夫だとは思うけれど。」
「ただ、何をするかは未知数……ってところか。」
「そうね。 私はその人のことを知らないから、どうしても穿った目で見てしまうのだし。」
立ち位置が違う、というのは最初から分かっていたこと。
そして、俺自身も。
彼奴のことを、全て理解出来たとは思えないし――――
「俺は、信じたいとは思ってる。 ただ――――。」
「ええ。 もしもの時には、私が裁く。」
希亜が、壁を超えるには。
まだ難しいだろう、と思いながらも。
小さく首肯して、その場の相談の締めとした。
※
「……来たな。」
公園のベンチに腰掛ける、希亜の制服と同じ少女。
そして、少しずつ近付いてくる見覚えのある影。
あれが?という声に小さく頷く。
私服姿。
ベンチの少女を見つけたのか、声を上げて近付いていく。
後
向こうも知り合いのようで。
楽しげな表情を浮かべているのが照明灯の光で、視界に入っていた。
「俺が先に行く。 念の為、距離を取って来てくれるか?」
「分かった。 気をつけて。」
端的に、短いやり取りを挟んで一歩ずつ進んでいく。
会話は、盛り上がっているようだった。
与一は、立ったまま。
普段どおりの笑みを浮かべて。
少女は、座ったまま。
何処か夢見心地のような表情で。
二人だけを見るならば。
とても楽しそうだったのに。
与一が、腰を下ろした。
視線を、合わせようとしていた。
少女は、何も疑うこと無く。
「……やめろ、与一。」
繰り返しても。
お前は、同じことをするのか。
与一が、立ち止まる。
怪訝そうな表情を浮かべたまま。
その顔に、スティグマを輝かせたまま。
俺を、睨みつけようとして。
けれど、そこで立ち止まった。
「翔?」
「今ならまだ、戻れるぞ。 ……やめてくれ、与一。」
僅かな戸惑いと。
何故気付かれたのか、という顔色を浮かべながら。
それでも、笑顔は消さずに。
「……そっか。 もういいよ、帰って。」
「え、は?」
「邪魔だって話。」
その場の少女を追い返し。
一度溜息を漏らして。
彼女に向けていた視線を。
こちらに向けた。
咄嗟に動けたのは、恐らくは何度も味わった経験から。
両目を瞑り。
使うことがなければいい、と思っていた。
この場で呼ぶのは、初めての。
借り受けていた、幻体の。その名を、叫んだ。
「――――レナッ!」
「おうよッ!大将!」
両目は閉じたまま。
けれど、抑え込むような音が数秒聞こえ。
返事を待った。
「もういいぜ、大将。」
そんな声が聞こえて。
薄く目を開けば、後ろ手で地面に抑え込まれた与一の姿。
「……やっぱ無理か~。」
「与一、何でお前……。」
「もしかしたら、なんて思っちゃったから。 無駄だったみたいだけどね~。」
「お前……ッ!」
この状況でも、飄々とした態度を変えることはなく。
「運が悪かったのかなぁ。」
「わざわざ、あの子を呼び出して……?」
「そんな事しないよ。 偶然見つけたから声を掛けてみようと思って。
偶然、誰もいなかったから。 ちょっと使ってみたくて。 それだけ。」
どの枝でも、変わらない。
止めなければ、何度でも。
こいつは、人を殺す。
「まあ……何でかは知らないけど。全部バレちゃってるみたいだから、もう諦めるけどね。」
「そんな簡単に、信じられると思うか?」
「とは言ってもね~。 証拠が残らないから、と思ってたけど。
全部知られてるんじゃ、やる理由もないし。」
会話は、平行線を辿る。
「誓ってもいいよ? 僕は、この能力でこれ以上人に手を出さない。」
「なぁ大将。」
「……ああ。」
「
それだけだよ? 翔。」
言ってしまえば、殺人
それも立証ができない、オカルト的な行動だ。
だから。 俺が手を出せば、それは。
「……ま、信じられないって言うならそれでもいいよ。」
俺の後ろから、砂を踏むような音がした。
俺自身は、どうしていいか分からなくて。
手を出して良いのか、悪いのか。
二度と、友人と殺し合うなんてごめんだったから。
そんな迷いに、飲み込まれて。
気付けば、レナも。
与一も姿を消していて。
その場には、俺達。
四人だけが、佇んでいた。