彼女の願いは、些細なもので。
午前中の授業、昼休み、午後。
眠気に幾度も負けそうになったが、欠伸を噛み殺して眠らないことに全力を尽くした。
授業に対しての態度ではないけれど。
……同じ授業を受けた記憶が、残り過ぎているのもあった。
「ふぁ……。」
そして帰り際。
荷物を纏めて、帰る用意をしていれば。
「随分眠そうだったね?」
「ん……ああ、そう、だな。」
心配そうな顔の都に声を掛けられる。
余り学校、それもクラスでは話をしない事もあってか。
或いは、彼女を狙っている男子が多いせいもあってか。
少しだけ、空気が張り詰める。
「夜更しでもしちゃった?」
「いや、昼からずっと寝てたんだけど。 夜になって何か眠れなくてなぁ。」
「でも、ちゃんと寝なきゃ駄目だよ?」
この場で、昨日何があったか把握してるのは互いだけ。
だから、薄っぺらい上辺を貼り付けての会話。
……まあ、此処まで親しげに話しかけられる男子もそうそうはいないから。
憎しみのような目で見られることは受け入れる。
実際、何も知らなければ。
俺も少しだけ、そんな風になっていたのかもしれない。
そこまで周囲に興味がなかったのが、良かったのか悪かったのか。
「心配してくれるのか?」
「当たり前。 それじゃあね。」
今週は俺は掃除当番。
だからこそ、その場では彼女と別れて掃除を始める。
少しして、ポケットからの振動音。
校門前か、或いはナインボールか。
確認せずとも、自ずと何方か、という連絡はありそうだから。
早めに終わらせようと、箒をもう一度手にした。
※
「悪い、待たせた。」
「ううん、そんなに待ってないから。」
スマホから目を離し、自転車のスタンドを倒した
からり、からりと車輪が回る。
「天とか先輩は?」
「希亜ちゃんと話したいって、先にナインボール行くって。」
「成程なぁ……仲良くしてるのは嬉しいが、なんか疎外感あるな。」
「ふふ。 ……私じゃ嫌?」
「そんなこと言ったらぶっ殺されるって。」
まだ、数日しか経っていないはずなのに。
相当の日数を、こうして一緒に過ごしている気がする。
「昨日ね、帰った後でこっそり聞いてみたの。」
「……何を?」
「お祖父様に、バイトの調整とか色々と。」
「色々と、ってところが一番引っ掛かるんだが……。」
「プライバシーです。 って言うのは置いといて。」
少しずつ、日の暮れる時間は伸び始めていて。
一日一日と、夜の時間は減っていく。
体に残った疲労からか、少しばかり大きな欠伸を手で隠し。
今日の予定を頭で巡らす。
「……色々と、応援してくれることになったっていう報告。」
「は?」
「あんまり、良くはないんだけどね。」
出来る範囲での口添えとか、時間作成の手伝いとか。
後は余り物を貰えたりとか。
そういった、細かい部分で、と。
「良いのかなぁ。」
「昔を思い出す、って言ってたよ。 お祖父様。」
「昔……っていうと?」
「お祖母様との出会いとか……だと思うけど。」
詳しくは聞いてない、と。
まあ、家族関係の馴れ初めとか恥ずかしくて聞いてられないのもあるが。
……俺の場合は、どうなるんだろうな。
「なら暫くはどういう予定?」
「日曜日の午前中はアルバイト。 それ以降は……特にはない、かな?」
いつも愛用している、少しばかり厚みがあるスケジュール帳。
足を止め、俺が自転車を抑えている間。
ぺらりぺらりと確認、チェックと言った具合で。
「でもなぁ、都だからな……。」
「な、何でそういう事言うの?」
「お前、自分でバイトの日を間違えて覚えてたこと忘れるなよ。」
「忘れてないよ! ……もう、意地悪なんだから。」
はは、と小さく笑って。
ふふ、と小さく笑う。
ナインボールまでは後少し、と言った具合で。
「実際、ゴールデンウィークも、土日も。 何するか決めてないんだよなぁ。」
「皆で何処か遊びに行く、とか?」
「それもいいが、出来ればあんまり遠く行きたくないし……お金掛かるぞ?」
「あ、そっか。 そうだよね……。」
そういう悲しい顔をされると、俺も対処に困る。
とはいってもな……。
「……都が、了解してくれるならだが。」
「へ?」
「ゲームセンターも考えたんだけどさ。」
「……クレーンはやらない?」
「それ引っ張るのか?」
中々取れずに、浪費してしまったぬいぐるみ。
けれど、都に渡した最初の贈り物。
「……嬉しかったけど、使いすぎるのは駄目だもん。」
「何かしらプレゼントはしたいんだけどなー……。」
「皆に?」
「皆に。」
笑顔の表情の中に、少しばかり暗い顔が入り混じった。
「私だけ……なんて、言えないけど。 そういうのも、欲しいとも思っちゃうよね。」
そうだなぁ、と考えて。
「全員に、それぞれ――――か。」
え?と漏らした都の声に。
答えを、返さず。
一つの問いを投げ掛けた。
「なあ、都。」
「なあに?」
「ナインボールってさ……バイト、募集してたりするのか?」
……簡単なものでもいいが、心のこもった何かしらを贈ろう。
そんな思い付きをするのに。
ナインボールに到着するまでの時間を、支払った。
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