9-nine- にじいろゆめいろきみのいろ。   作:氷桜

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ただ、普通に暮らしたかっただけなのに。
そんな小さな夢でさえ。


44.理想。

 

微睡む彼女の顔を見ていると。

何をしているんだろうか、という単純な言葉と。

幸せだな、と思う半々の心が浮かび上がってくる。

 

時計を見れば、もう23時過ぎ。

本来であれば、帰っていないと心配されるような時間帯。

というか、お嬢様である以上。

間違いなく心配されると思うのだがその辺りはどうなのだろうか。

 

(前も、バイト上がりならこれくらいの時間になってたっけかな……。)

 

バイト前か、或いは後か。

休日は例外として置いておくとしても、ほぼ毎日のようにやってきては共に過ごしていた。

初めての彼女で、何処か熱狂していたのかもしれないし。

或いは、互いが互いを求めた関係だったからこその相乗効果だったのかもしれない。

今覚えているのは。

そんな、いつかの記憶のことで。

 

(とは言っても……このままにしとくのも、不味いよな。)

 

汗ばんだ姿から目を離し。

そっと肩に、首元に、頬に。

少しずつ上へと触れていく。

壊してしまいそうな、大事なものを扱うように丁寧に。

 

ん、と声がしたのはそれからほんの少しして。

薄っすらと目を開け始めた彼女に、起床の声を投げかける。

 

「おはよう。 疲れてたか?」

「ん…………あれ、寝ちゃって、た?」

「そこまでぐっすりじゃなかったけどな。」

 

何か飲むか?

そう聞けば。

……お水貰える?

そんな返事が帰ってきて。

薄い布団を彼女に被せ、そっとベッドから起き上がる。

 

時計を見て、小声で呟く声がする。

悪い子になっちゃった、かな。

そんな、自分を罰するかのような声。

どう返すのが正解なのか。

今の俺には分からずに、聞こえなかった振りをして。

コップをとん、とテーブルに置いた。

 

「時間は……大丈夫か?」

「そう……だね。 どうしよっかな、って思ってたところ。」

「時間とか考えるとなぁ……。」

 

帰すにしても、途中までは送っていきたい。

一応は男で、相手は女の子。

そういう目で見るのも失礼だとは思うけど。

こればっかりは、ある意味意地で。

 

「都次第で、どっちでもいいぞ。」

「……眠ったりしなければ、帰れたと思うんだけどね。」

「特に……今はな。」

 

石化事件の犯人……与一の行方が知れないのが一番怖い。

一対一であれば、同じ魔眼を持つもの以外はほぼ勝てないのがあれの怖いところだ。

そして、敗北は文字通りの死を意味する。

意味した、筈だった。

今は、違うと信じたいけれど。

 

「泊まっていって、また明日の朝帰るか?」

「……今週二度目、だね。 翔くんは大丈夫?」

「俺はまあ。 寧ろ都が外出禁止とかにならないかが心配かな。」

 

お嬢様ってそういうイメージあるし。

両親からも大事にされていそうだし。

 

「ぁ~……うん、何も言ってなかったらお小言は貰っちゃったかも。」

「やっぱりその辺厳しいのか?」

「そこまででもない……けどね。 やっぱり、女の子だからって。」

「その辺りは予想通りなんだな。」

 

ただ、と続けて。

 

「ある程度は自由にさせてもらってる、っていうのは事実だから。」

「そうでもなきゃ……まあな、俺と都が出会えてたかもわからないし。」

「そうかもね。 応援してもらってる、っていうのは感じてる。」

 

小さく微笑む姿が、闇夜の中に見えて。

薄明かりだからこそ、映えるものもあるんだ……と、改めて思った。

 

「……もう少ししたら、でいいから。」

「……ああ。」

「お風呂、借りてもいいかな。」

「好きに使ってくれていいぞ。」

 

ぽつり、ぽつりと話し続ける。

砂粒のように落ちる、今この時が。

限りある時間と知っていても。

 

「そうだ。」

「どうかしたの?」

「いや……明日さ、いい加減食器とかだけでも揃えに行かないか、と思って。」

「ずっと割り箸と紙のお皿だったもんね。」

「自分の好きなの買ったりさ。」

 

いつだったか。

こんなことを、誰かとした気もする。

 

「前みたいに?」

「そうだな。」

 

会話と会話の間に空いた、少しだけの無言の間。

はっきりとは見えないけれど。

どちらともなく、顔を見合っているのが分かった。

 

「……ね、翔くん。」

「ん?」

「ずっと……こうしてたいね。」

「ああ。 希望じゃなくて、実際にするんだけどな。」

 

何というか。

()()()()()、とでも言えば良いのか。

こうなってしまった以上、全てを終わらせるまで。

学校生活の裏の、この騒動は終わらない。

イーリスを倒すのは、飽く迄その途中経過で。

正しい意味での終わりは、全てのアーティファクトを回収した時。

 

「……。」

「どうした?」

「さっきと言ってること、違うな……って。」

「都が寝てる間に考えたんだよ。」

「そう?」

「そう。」

 

子供時分。

幼少期の頃に、男女関係なく遊んでいたように。

言葉遊びを繰り返し。

 

「明日も学校だし……もう、寝ないとな。」

「うん……じゃあ、お風呂借りるね。」

「はいはい。」

「入りたくなったら、良いからね?」

 

お前も、似たようなこと言うんだな。

女は強いと言うけれど。

何かが違う気もする、そんな夜だった。

結局本編二回見返しても周囲になんにも無さそうだったので行き先を生やそう。

  • 山:温泉
  • 海:水族館とか
  • ちょっと都会:遊園地
  • その他:民宿とか
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