出来上がった混沌味。
自宅に戻るまでほんの僅か。
はっきり見えても――――なんて、感傷に浸るような理由も思い浮かばないが。
なんでこんな事を思ったのか。
他の考えに、引きずられたのか。
その答えは、多分。
※
「たっだいまー!」
「お前の家じゃねえし夜なんだから騒ぐのやめろ。」
かちり、と部屋の電気を付けながら。
それを待たずして。
何処からか取り出した合鍵で、勝手に人の部屋を開けて殴り込む。
いい加減に慣れてしまった、ある種の光景。
妹じゃなかったらとっくに蹴り出してるところだ。
「え、じゃあお邪魔します? 他人行儀じゃない?」
「親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってる?」
「私の辞書からは数秒前に消えた!」
「今すぐ書き直せ。 ナポレオンもびっくりだわ。」
何だ数秒前にはあったって。
何だ消えたって。
そう簡単に消せるもんなの? お前の辞書。
「ああ、なんだっけ? 『余の辞書から今すぐ消してみせろ!』 だっけ?」
「それ一休さん混じってねえ?」
「あれ?」
「ボケ倒してるんだと思ってたらまさかのマジだと……。」
世界史の授業大丈夫か此奴。
いやそこまでやってるか分からんし当人が言ったか知らんけど。
俺ですら知ってる言葉だぞ?
「はいはいやめやめ!」
「自分が不利になったら逃げるのやめろよ? 今はまあ見逃してやるが。」
「妹のそんな事も受け入れてくれないお兄ちゃんはどうかと思うわ。」
「なんでお前がツッコミ側になってんの?」
はぁ、と小さく溜息を吐いて見せて。
LINGのチャット欄を覗いて幾つか反応を返す。
目の前で纏わり付く妹を片手で引き剥がしながら。
『翔、これを見たら反応お願い。』
『私達の意見は、やっぱり干渉しない理由が思い当たらないからおかしい……で一致してる。』
『逆に言えば、干渉しない理由が思い付くのならば別。 何か情報はある?』
『概ね、あの枝で倒しているということで間違いはないと思うけれど。 聖遺物に関しては、貴方の方が詳しいから。』
顎に手を当て、打ち込む文字を考えながら。
ギャーギャー煩い妹の頭を鷲掴みにしつつさっさと打ち込む。
「兄やん痛い痛いってば!」
「あーあー聞こえなーい。」
「それが妹にする態度でいいの!?」
「それを言うならお前の態度って兄にすることか?」
はいはい、無視無視。
『さっきソフィとも話した。 情報が出揃うまでは仮定で済ませろ、俺は直感に頼っても良い……だと。』
すぐに返る返答。
……準備中でもないのか?
まあ、夜だからもう終わりにしている可能性もあるが。
『妖精が。 ……ってことは、思い付くこともない?』
『いや、可能性程度だが。』
『聞かせて。』
指が止まりそうになったが、意志で動かして。
『与一達……飽く迄俺の思い付きに過ぎないが、えーっと……りぐ……なんだっけ、アレ。』
『リグ・ヴェータ。 サンスクリット語の古語で書かれた、古代インドの聖典の一つ。』
『あ、其処までで良いです。』
踏み込んだら飲み込まれそうな沼だからな。
『……そう。』
手から頭を抜き出した天が自分のスマホでそれを見て、一言。
「ねえにぃに。」
「言うな、俺も感じてる。」
今滅茶苦茶落ち込んでそう……!
『話を戻すぞ。 彼奴等が裏で動いてるかも……とは思ってる。』
『高峰くん達が……ですか。』
春風もいたのか、所々で反応が返り始める。
『だから、明日行くときは互いに注意していこう。 まあ、詳しくは先に天が合流するだろうからその時に聞いてくれるか。』
『分かった。』
『分かりました。 明日改めて連絡しますね、翔さん。』
『ああ。』
俺も手伝いに行ければよかったんだが。
流石に無理筋だろ、実家に挨拶っぽくなっちゃうし。
……空いた時間に実家から物持ち出してくるかな。
「明日母さん達いるか知ってる?」
「え、何急に。 帰らないとかあれだけ言ってたのに。」
「俺だけ明日の午後空くだろ?」
「えーっと……あ、そうだね。 一人だけサボりだね。」
ほぼ同時にスマホから目を離した天に声を掛ければ。
まるで天変地異にでもあったみたいな変な顔。
……其処までの事か?
ついでに言えば休みに用事がないからってサボり呼ばわりされる義理はねえ。
「サボりって何だよ……。」
「ま、面白いものがあったらこの天ちゃんの華麗な写真テクで!」
「下手なもん送ってきたらお前のスマホ叩き折るからな。」
「うわ目がマジだ。 はーい、気をつけまーす。」
気を抜けばすぐにこう。
いい加減突っ込みにも飽きた。
「……風呂入れるか。 お前先に入る?」
「あ、それなんだけどぉ。」
くねくねすんな。
「一緒に入っていい?」
「それ許されると思ってる?」
「え? うん。」
「真顔で頷きやがった……!」
「逆にさ、なんでにぃには駄目って言い張るの?」
気恥ずかしそうだが、正直に。
疑問としてぶつけられた言葉に返す言葉が咄嗟に浮かばず。
「じゃあオッケーってことで!」
満面の笑みの妹を見て。
先に入らせて絶対入らねえようにしよう、と固く決意した。
……もし此奴が幼馴染とかだったら。
色々とやばかっただろうなぁ。
絶対言ってやらないが。