私は唯一の手を握る   作:Fiery

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作者は別に楯無の事は嫌いじゃないです。
むしろ好きなキャラだけど簪の方がもっと好きなだけなんです!

活動報告に次世代分も含めて設定乗せてますのでよろしければどうぞ。


彼女の飲む後悔の味は、苦い

 

ざわざわと賑やかな雑音で満たされた居酒屋の個室。

そこに居るのは、いずれも劣らぬ美女である三人の女性。

ただ、今その中の二人が赤ら顔で酒を飲んで、くだを巻いていた。

 

「簪ちゃんが結婚した。簪ちゃんが結婚した。簪ちゃんが結婚した……」

「お知らせ無かった。お知らせ無かった。お知らせ無かった……」

 

そんな二人……仕える主人と自身の妹を見て、布仏虚は苦笑する。

呑み始めて30分もしない内にこれでは先が思いやられるというもの。

ただ、二人の気持ちも彼女にはわかるので、強くは言えない。他のお客さんにも迷惑はかけていないのだから好きに愚痴らせるべきだろう。

 

こうなった原因としては、主人である更識楯無の妹……すでに戸籍上は居ない事になっている更識簪が結婚式を挙げたという知らせを、虚が受け取った事から始まった。

拗れに拗れて結果壊してしまった関係だったが、虚は彼女とは関係者で唯一友好的な関係を築いている。

これは当時の簪との距離が適正な物だった事から、簪自身も虚に特に含む物が無かった事が一つ。また接触しても特に連れ戻すなどの行動を取らずに、自分に必要な情報を提供できる能力がある事が一つ。後は純粋に心配をかけたという簪の思いがあっての事。

故に季節の節目などに手紙のやり取りをしたり、何なら連絡先まで交換している。

だからこそ、簪は彼女に対して事後と言えどその知らせを送り、虚はささやかだがそのお祝いと電報を送った。

 

で、それが更識楯無と妹の布仏本音にバレた。

 

ハイライトの消えた目で『なんで』『どうして』を繰り返す二人は流石に怖い。

楯無は一度治したメンヘラが再発したのかと疑ったし、本音に至ってはいつも浮かべている笑顔が無くなり、能面みたいな表情だったのが恐怖を掻き立てた。

だからこそ、虚は色々と吐き出させようと人に聞かれないように騒がしい店を選んで二人を連れ込んだ。

 

「虚は知ってたの?簪ちゃんの結婚」

「籍を20歳で入れるって話は知ってましたけど結婚は知りません。

 というか、あの子もこうなる事くらいわかってたから言わないんでしょうし」

 

虚の言葉に、楯無は心に多大なダメージを負って崩れ去る。

彼女は自分が妹夫婦に良い感情を持たれてないことくらいわかっている。

それがもう修復不能になったからこそ、妹が家を出た事もだ。

 

「……私はとばっちりだもん」

「本音の場合はとばっちり『も』だけど、自分から動かなかったでしょう?」

「そ、それは~……」

「彼はかんちゃんの為に色々と動きましたし、気づいて行動しました。

 私も含めてこの三人は、彼よりも近かったのにできなかった。それが全てです」

 

すっぱりと姉に切り捨てられて、本音もまた崩れ去る。

本音は簪の従者でもあったが、友達でもあったはずだ。

友達なら相手の異変に気付いて、声をかけるくらいは出来たはずなのに。

『自分は味方である』と言うくらいは、出来たはずなのに。

 

「……何でお姉ちゃんには、手紙が届くの?」

「打算と距離感が大半だと思うわよ。多少は友好もあるけど」

 

事実、虚と簪のやり取りはそう頻繁にあるものではない。

季節の挨拶やこういう冠婚葬祭でのやり取りを除けば、二カ月に一度程度の頻度で機密に触れない程度で更識の動向などの簪が手に入れづらい情報を教えるついでにお茶をするくらいだ。

それももうじき変わるかもしれない、と虚は考えている。

 

「式も盛大な物じゃなくて、身内とご近所さんを呼んだだけみたいですから」

 

手紙と一緒に送られてきた写真を見ながら、虚は頬を緩ませる。

自作の飾りつけと、手料理が並んだ机。20人程度の招待客に囲まれて幸せそうに笑う二人。

確かに盛大ではないが、幸せだという思いは写真からちゃんと伝わってくる。

自分の結婚式はどうしようかと色々考えてしまうほどには。

 

「「はぁ~……」」

 

楯無と本音がその写真を複雑な感情が滲み出た表情で見て、溜息を吐く。

 

「そういえば本音。彼はどんな感じなの?」

 

思い出したように虚が妹へ話を振る。この場合の彼と言うのは、織斑一夏の事。

IS学園を卒業した後、数々の事件を乗り越えて強く成長した事は、虚も知っている。

ただ、自分以上に詳しいのは彼の専属整備士となった妹の本音だ。

 

「ん~?おりむーはね~……相変わらずかなぁ」

「というと?」

「ハーレムは出来てるけど、誰か一人は決められてないかな~」

 

あぁ、と虚は納得したように声を漏らした。

IS学園の時から変わっていないという事らしい、と。

学園内で彼に明確な好意を示していたのが、後の編入を含めて10は超えていた。

学園の外を含めればその数は倍になるかもしれない。

いっその事、彼を特例として一夫多妻を認めるかという議題も出てきたくらいである。

ただそれは未だに根強い女尊男卑の信者に潰されてしまった。あいつら死ねばいいのに。

 

「で、本音はどう動いてるんです?」

「え?それは~その~」

「……本音、流石にそれは無いでしょう?」

「だ、だってぇ~二人きりにもなれないのに無理だよぉ~」

「夢を見るのは良いですけど、現実も見ないと」

 

妙に据わった眼で見てくる姉に、本音はたじろぐ。

本音が彼に好意を抱いている事など、虚は承知している。だから応援するしこうして発破も掛けている。なのに煮え切らない。

 

「告白はロマンチックに、大いに結構です。私もプロポーズに夢見てますからね。

 でも、その前段階にも行っていない現実はどう説明するんですか?」

「……申し開きもありません」

 

グラスの中身を一気飲みで空にした虚の問いかけに、本音は思わず正座して答えた。

 

「一石を投じないと状況は動きません。かんちゃんのような巨石をぶち込めとは言いませんが、自発的行動を取らなければどうにもならないでしょう?」

「う、虚?落ち着いて落ち着いて」

「貴女もですよお嬢様!さっくりメンヘラ化して全方面に迷惑かけて!

 それが無ければ彼にお嬢様ぶつけても問題なかったんですよ!」

「はい、すみません。ゴミな当主ですみません……」

「あああもうそうやってダウナーに入るぅぅぅ!?

 未だに打たれ弱いんですか!?妹は強かで逞しくなったって言うのに!」

「あはは、簪ちゃんが当主になってくれればもっと良かったのに……」

「そういう事言うから、かんちゃんが寄り付かないってわかってますかー!?」

 

酒が回って来たのか、過去のメンタルに戻りかける楯無を容赦なく虚が攻め立てる。

二人の言う事は全部彼女達の心の内の言葉だ。

簪と交わす事が叶わなかったそれらを、三人は容赦なく言いあった。

だからこそ楯無は自分の心の弱い所を自覚したし、本音は動かなかった自分を自覚した。

虚自身も、見るべき所を見なかった自分を自覚して直す努力をした。

 

今の三人は以前よりも仲が深まったと自信を持って言える。でもそれは『更識簪』という大きな喪失があったからこそで、彼女とこうなる事はもう叶わない。

四人で会えるとしたら、自分達が年を取って全部を後進に譲り渡した後だろうか。

ただの楯無……いや、刀奈と、簪と、虚と、本音として。

そんな未来があれば良いなと、虚は思う。

 

「という事で本音。どうするんです?」

「……よ、様子見はだめ?」

「私の言った事聞いてましたか?動けっつったんですけど?」

「虚、言葉遣い言葉遣い」

 

宥める楯無に向かって、虚は据わった目を向ける。

 

「いっその事、お嬢様も彼に突撃しますか?」

「へっ?いや無理でしょ。昔のトラウマが襲い掛かってくるようなものよ?」

「実際会うなりしないと未だにトラウマかどうかなんてわかりませんし、会う前にアポ取りなんて基本ですよ。無理ならその時点で弾きますし、本音に話だけ振らせればいいでしょう」

 

カッ、と目を見開いた虚が本音を見る。

出来るな?という無言の威圧に、本音は首を縦に振らざる得ない。

あるいはこの話をダシに持って色々話してみろと言う、彼女の発破なのかもしれない。

 

「ぶっちゃけ、お嬢様は結婚する事が急務だって、わかってます?」

「結婚って言うより、子供作って後継者をって話でしょ?わかってるけど……」

「妹が幸せな結婚をした手前、憧れるのはわかります。

 でも時間は待ってくれなくて、最悪分家から取らざる得なくなるんですよ」

「……なのよねぇ……」

 

虚の危惧している状況は、楯無だってわかっている。

組織の改革によって風通しは良くなったが、今までより更識は弱体化した。

時間さえあれば力を戻す事も不可能ではないが、これを機に内に入り込もうという所は多い。

最も内に食い込めるのが、楯無の婿と言う地位。もしくは彼女が指名する後継者だ。

護国の為に今、更識を絶やすわけにはいかないが、分家から取れば権力が集中する。

ただ、外から取るにはそういう分家を黙らせるほどの能力か実績を持っていないといけない。

 

「簪ちゃんの子供を養子に……」

「寝言は寝てから言ってくれます?私かんちゃんとその交渉絶対しませんよ。

 話を持って行った瞬間、彼女が私達を見限って更識が更地になりますから」

「わぁい……その光景が本当に想像できるから止めましょう」

「でも~おりむーは囲い込み云々ってたぶん無理だよ~?」

「だから悩んでるんでしょ……」

 

重々しい姉の言葉に、本音が項垂れる。

楯無も難しい顔をして考えるが、そんな伝手も何もない。

妹の様に幼少時に出会いがあったわけでもなく、あるとすればそれこそ織斑一夏だけ。

自分の青春は意外と寂しかったのだなと認識してまた落ち込むが、それでは話が進まない。

 

「そう考えると、簪ちゃんは初恋を実らせたのよね」

 

運命に出会い、初めて恋を知って、その相手と結ばれた。

少なくとも妹にとってはそうだと言えるほどの、確かな愛情。

信を積み重ねて恋に至り、愛へと羽ばたいて行ったその道程は、概ね理想的な恋物語。

 

そしてそれはこれからも続いていくであろう、二人で手を取り合って歩く人生の旅路。

 

「……いいなぁ」

 

エリートとしての地位も、名家の令嬢としての立場も捨てて飛び立っていった妹。

その先で手に入れた、ささやかでも確かに幸せだと胸を張れる居場所。

 

それに比べて自分はどうだろうか、そんな事を楯無は考える。

名家の当主となり、国家の代表でもある自分。地位も名誉も、財も権もそれなりにある自分。

以前なら悪くないと思っていた。これも幸せの形であると。

 

『それでも』

 

写真の中の、とても眩しくて直視できないくらい幸せそうに笑う妹が羨ましい。

ただ一つ、本当に手に入れたかった唯一を手に入れた彼女。

自分には得られなかった輝かしい幸せの形を見せられて、楯無は自分を騙そうとした自分に気付いた。

 

「あはは……なるほど、そうだったのね」

「お嬢様?」

「私、簪ちゃんがずーっと羨ましかったみたい」

 

本格的におかしくなったか?という虚の視線を受けて、楯無は笑う。

そうだ、羨ましかったのだと笑う。笑うしかないから、笑ってしまう。

自分には現れなかった運命に出会えた妹が、誰よりも何よりも羨ましかった。

妹より能力が高い?それは一年先に生まれているから当然だ。何ならその時に妹の方が優れた点もあるだけ、自分が劣っていたという証左ではないか。

あの時に自分の闇と向き合っても見えなかった場所を、妹が照らしてくれる。

何から何まで、妹に寄りかかっていた姉。

 

「そりゃ、愛想尽かされて逃げられて当然よね」

「自分の中だけで完結しないでくれます?」

「まぁまぁ、飲みましょ飲みましょ!ぱーっとやって明日もがんばろー!」

「お~」

「まったくもう……」

 

何度目かわからない乾杯で、グラスを鳴らして飲み干す。

この日だけは、どんなお酒を飲もうと苦さだけが残る。

しかしそれは、あの時から自分が知る事を拒絶していた感情の苦さなのだ。

全部飲み干して、これから新しく自分を始める第一歩にしなければいけない。

 

「ははっ、ほんっと……ダメな姉だったわ」

「……言う割には、吹っ切ろうとしていますね」

「そりゃそうよ。もう黒歴史認定したから、吹っ切らないと羞恥心で死んじゃいます」

 

翌日、楯無は二日酔いで苦しんだ。

それも全部飲み込んで、彼女は改めて決意する。

最早血の繋がりしかなくなった妹は、遥か未来に進んでいる。

だったら自分も、例え違う道だとしても進み続けなければいけない。

 

これが貴女の姉である、更識楯無が歩み切った道だと、胸を張る為に。

 

 

 

 

 

尚、息子がやらかした未来で再会した時、初手土下座になる模様。

 

 

 




この後の一夏君は壮絶に修羅場るんだろうなという想像。
同時期にそういう関係になったとしても、楯無さんは秘伝とかで一抜けしてそうだなと思います。
更識の忍者的なサムシングはホント便利やでぇ……
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