私は唯一の手を握る   作:Fiery

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なんかこの子の続き書かないと気持ち悪いので書いた次第。


ソラへと飛び立つ鳥の様に

 

 

 

「えー、一番手の明石飛鳥。整備開発志望です。よろしくー」

 

彼女の声を初めて聴いたのは、教室での自己紹介だった。

黒い艶やかな髪を短めにさっぱりとまとめて、前髪に一房だけ水色が混じる。

地毛なのかと後で聞けば『地毛だよ。ここだけ母さんと一緒なの』と答えが返ってきた。

瞳は赤く、穏やかで優しげな目。左の眼元には黒子が一つ。

綺麗な子、可愛い子が多いIS学園でも埋もれる事の無いその容姿。

 

「よろしく、明石さん」

「あー……よろしく、織斑君」

 

俺の自己紹介が終わった後で彼女に声を掛ければ、少し迷った感じを見せた後で挨拶を返してくれた。自分の名字の影響力を知っている身としては、こうして挨拶を返してくれる事自体、結構驚きだったりする。

父親がIS学園では客寄せパンダみたいに最初見られていたと言っていたが、俺は小さい頃からそんな視線に晒されていた。世界で初めてISを動かした男と、IS開発者の妹の子供として生まれた俺が受けた大半の視線は、そんな好奇の物だった。

俺を人として見たのは、両親と父親の姉である織斑千冬、父親が他に子供を産ませた人達。後はある意味兄妹とも言える『あいつら』くらい。

そんな中で、普通に挨拶を返してくれる相手というのは逆に新鮮だった。

 

「すまん、明石さん。ちょっとここ教えてもらえないか?」

「いや私一般枠……まぁいいけどさぁ、私より詳しい子いるよ?これだと」

 

最初の印象と、席が隣りだからという距離の近さもあって、次の日俺は彼女に声を掛けた。

彼女は既にクラスメイトとある程度打ち解けていたのか、俺の疑問に最適に答えられるであろう子を呼ぶ。正直言って、クラスで打ち解けるのに時間がかかると思っていた俺にとっては嬉しい誤算だった。

 

あくまで隣の席に居るクラスメイト。

そんな関係に変化が訪れたのは、クラス代表戦の為に代表を選出した時。

今まで専用機の『白月』を整備してくれていた人はIS学園には来れていない。

まぁ定期的には来れるように許可は貰っているが、代表選には間に合わないと聞いている。

なのでクラスの子に出来ないかどうかを聞いていたのだ。

 

「見ない事には始まらないと思うけど、見せても大丈夫なの?」

 

クラスメイトの尤もな疑問に、俺は『大丈夫だ』と答えた。

機密は確かにあるが、それに触れそうなら警告が出る。

それに俺に専用機が持たされているのは護身の意味が最も大きい。

だから、そこまでの物はあまり載っていない。

 

「なら皆で見て、出来るかどうかやってみる?」

 

彼女の提案に賛成の声が上がって、クラスの整備志望の子達と整備室に向かう。

そこで『白月』を見せて、基本的な構造やコンセプトを説明した。

大半が無理といった中で残った子でそれぞれやってみてもらう。

可もなく不可もない――…いつもの人にやってもらっている時より物足りない結果が続き、こんなものかと思っていた時、最後の一人だった彼女が手を加えた後。

 

「マジ、かよ」

 

今までよりも一つ上の次元の世界を見た気がした。

感じていた得体の知れない違和感が無くなり、パズルのピースが全て正しく整った感覚。

『纏っている』のではなく『一つになった』と言えるほど、俺に最適化されていた。

 

「これからずっと俺の専属になってくれ!」

「こんな衆人環視の中で、そんな誤解受ける台詞言うなァーッ!?」

 

興奮しすぎて思わず『白月』を着たまま彼女に詰め寄ってしまった。

スパナで殴られたけど、バリアのおかげで痛くはない。

ただ、専属になってほしいのは本当だった。叶うならずっと、卒業した後も。

彼女は首を縦に振らなかった。彼女には彼女の夢がある。

両立は、難しい。出来ないわけじゃないはずだけど、俺がそれを支えられるかわからない。

万が一俺のせいで夢が絶たれれば、彼女は俺を恨むだろうか。

それが怖くて、踏み込めなかった。

在学中に見てもらう事は、と妥協した提案をして、彼女は少し考えて了承してくれた。

ただし今回整備した子達も一緒に、という彼女の条件を俺も飲んだ形で。

 

 

思えばこの時の俺は調子に乗っていたんだろう。

クラス代表戦の相手は当然のようにあいつらだった。

手の内を全部……とまでは言わないが、機体の特性ぐらいは全部頭に入っている。

だからこそ、彼女の整備してくれた『白月』はあいつらにとって全くの想定外だった。

クラス代表戦の全勝は、彼女に勝たせてもらったと言っても過言じゃない。

 

「機体に改造の跡は無かった……タイチ、お前一体何をした?」

「うちにいる、腕のいいメカニックのおかげだな」

「へぇ、尋常じゃないねその子。ちょっと紹介してよ」

「何で敵に塩を送らないといけないんだよ」

「違うよタイチ、私達はフェアではないと言っているんだ」

「オレのクラスも腕は悪くないとはいえ、お前の所が抜きんでてるのは間違いないだろうが」

 

寮の談話室に集まって、男五人でギャーギャーと言い合う。

俺があまりに称賛するものだから、他の四人に興味を持たせてしまった。

 

……それが、面白くない。

 

「面白い話をしているね。僕も混ぜてくれないか」

 

生徒会長まで混ざって、彼女の事について話す事になる。

もし時計の針を戻せるのなら、俺はこの時はぐらかせばよかったんだ。

 

 

そうしていたら、俺は彼女の手を握れていたのかもしれなかったのに。

 

 

 

 

 

 

その週の土曜日の食堂。

休日でも解放されているここで大半の生徒は朝食を取る。

 

「明石さん」

「んー?何か……あったみたいだねぇ、織斑君」

 

彼女も例外ではなく、食べ終えた一時を手元の端末を難しい顔で見ながら過ごしていた所に声を掛けた。彼女が俺の方を見て、俺の後ろを見てその端正な顔を怪訝そうに歪める。

 

「突然失礼します、レディ。私は」

「まぁ、うん。知ってる。オルコット君に凰君、デュノア君、ボーデヴィッヒ君。

 私は一年四組の明石飛鳥です。で、何か用事?」

 

疑問符を浮かべる彼女に事情を説明すれば、引き攣った笑みを浮かべた。

 

「私、四組、大丈夫?」

「問題ありません、レディ」

「クラスの奴らの許可は貰ってるんだ」

「あはは……ごめんね明石さん」

「俺からも頼む。奴が褒めちぎるその腕を体感したい」

 

突然の申し出に、彼女の顔が凄く嫌そうなものに変わる。

クラスの和を尊重する彼女からしてみれば、俺の行為はそれを乱すものに映るんだろう。

 

「一人一回きり。それ以上は自分のクラスに不義理になるから。

 後、整備するクラスの子に声かけて、一緒にやってもらうからね!」

 

渋々彼女が出した条件に、あいつらは頷いた。

元々あいつらも体験できればいいし、彼女の技術をわずかでもクラスの子に伝授してもらってレベルを上げるのは悪い条件ではない。

それが彼女なりの妥協の線引きなのだから、俺が何か言える事でもなかった。

 

それで、彼女が他のクラスの子と一緒に、俺も立ち会って専用機の整備をする。

立ち会うのは俺の責任だからだ。それに四組の子も一緒に見ている。

彼女達は間近で見ていたから、明石さんの腕をよく知っている。

それを見る機会があるのなら乗り込んでくるのは当然の事だった。

 

全員分の整備が終わった後、俺達はアリーナに出てバトルロイヤル形式での模擬戦をする。

 

『――…素晴らしい』

 

クリフォードの狙撃のズレが消えた。

 

『はっはは!おいおいこれはすげぇな太一ィッ!』

 

龍音の踏み込みから余計な出力が消えた。

 

『尋常じゃない。確かにそう言ったけど、想像以上だよ』

 

ケヴィンの武装展開の淀みが消えた。

 

『そうか、これがお前も見た次元、というわけだ』

 

ヘルフリートの動きのレスポンスが上がった。

 

それぞれが抱えていた、自身の機体への得体の知れない違和感。

その違和感から解放された四人の動きは、俺と同じように一つ上の次元に立っていた。

 

『是非専属でほしいですね』

『彼女の夢と両立できないから断られるのが関の山だよ』

『夢ってどんな夢?』

『――…俺が教えるのは、筋が違うだろ』

 

俺の答えに、ケヴィンの口元が少し歪む。

こいつやっぱ腹黒だよな、と他の三人を見れば、同じような顔だった。

 

『なら専属ではなく、嫁に来てもらうか』

『何言ってんだヘルフリート。お前の母親みたいな事言ってんぞ』

『なるほど。オレもそうしよう』

『龍音まで!?』

 

ダメだ。それはダメだと心が叫ぶ。止めないととんでもない事になる。

でもその一方で、そうすれば彼女が俺だけの物になると考えた自分が居て。

 

 

 

その時の選択を俺達は間違えて、死ぬほど後悔する事になる。

 

 

 

「明石飛鳥さんは先日付で自主退学されました」

 

 

 

山田真耶学園長から告げられた、ただ一言の事実によって。

 

 

 

 

 

 

学園を辞めた私はその日の内にスマホを解約して、新しいのに変えた。

連絡先をそのまま移せればよかったのだが、前の物は何が仕込まれているかわからない。

一応弟が調べた限りでは特に何も見つからなかったが、念には念をと言う奴だ。

 

「いや、ここまでするって一体何があったんだよ姉ちゃん」

「アンタと電話で話した内容とか、翌日の会話の中で出てきた話する?」

「結構です。怖すぎない?」

「リアルで遭遇すると声が出なくなるんだね」

 

ちなみにこれが頻繁だったのはボーデヴィッヒ君だった。

次点で生徒会長が続き、オルコット君とデュノア君が同率。

凰君と織斑君はそんな事は一切なくて、でも頻繁に喧嘩するんだよね。

で、私に二択を迫ってくるからその度に逃げる。

 

後は押し倒された事も何度かあったけど、布仏さんに教えてもらった撃退術が皆勤賞。

彼女には感謝しかない。デュノア君の噂を使った追い込みに対処してくれたのも布仏さんだ。

落ち着いたら何かお礼をしたいと言えば、『うちのクソ野郎のせいでもあるので気にしなくていいです』と笑顔で会長に対してマジギレしていた。

最初は会長呼びだったけど、最後は野郎とかで名前すら言わなかった。

 

辞めてからの私は一週間ほど、家から一歩も出ない生活をしていた。

一週間というのは、彼らの親がそれぞれの息子を回収するまでの時間だ。

6人に対しての処罰が、更生施設というか、厳しい人が居る所に入れての強制合宿との事。

ちなみに場所は国外で、期限は決められていないらしい。

その教官役の人と学園長やそれぞれの親が協議して出しても良いか決めると言っていた。

で、出た後も私への接触禁止とかをちゃんと法的拘束力がある形で実行してくれるそうだ。

正直言って、私は最後の接触禁止が守られるなら他はどうでもいい。

 

辞めたのは冬休み前。

最初は一人で眠れなくて、とーちゃんと母さんに挟まれて一緒に寝ていた。

特に母さんに抱きしめてもらって寝ると、悪い夢も何も見なかった。

後はじーちゃんや弟の大和が暇潰しに付き合ってくれて、ゲームしたり廃車のレストアをしたりして過ごしていた。

レストアは工場の奥のガレージでやっていた。外からは見えないし、事務所からは丸わかりなので私が攫われる心配もないから大丈夫だろうという事で。

 

で、年が明けたある日に、彼らの親が揃って家に謝罪にやってきた。

訪問自体は事前に聞いていたから、とーちゃんも休みを取って家に居た。

それに学園長まで同席して睨みを利かせてくれた。

 

別に話し合いなんてのはその場でする必要はないから、本当に謝罪だけだ。

ただ、会長の母親が初っ端に土下座をしたのには驚いた。

で、それを見ていた母さんの視線が、本当に人を殺せるんじゃないかと思うほどだった。

 

「この度は、私達の息子達がそちらのお嬢様にご迷惑を」

「そういう建前は良いです。不愉快なので」

 

母さんの言葉に、会長の母親……楯無さんがびくりと体を震わせた。

今の母さんは怖いけど、私もその言葉には同意だった。

私は別に長々と話を聞きたいわけじゃなくて、謝罪だけしてくれればいい。

それが形式上の物でも構わない。その上で今後二度と会わせないと言ってくれたらそれで良かったのだ。

 

「……申し訳、ありませんでした」

「それは、そちらの総意と受け取ってよろしいんですね?」

 

人が殺せる視線で、母さんは他の5人を見る。

彼女達も楯無さんに続いて土下座をしており、その視線を感じたのか体を震わせて同意の声を上げた。

 

「今後、私への接触禁止は必ず守っていただけるんですか?」

「必ず徹底させます。公正文書にも残して法的な拘束力もある物にさせていただきます」

「じゃあ、それで良いです。もう、彼らの事は思いだしたくないから」

「しかしそれだけでは……」

「――…私にこれ以上、どうしろっていうんですか?」

 

6人の中の誰かの言葉に、私はもう自分の心を止められなかった。

 

「必死に勉強して!入った学校でただ私は夢の為に勉強したかっただけなの!!

 いつか自分で宇宙に!自分が行けなくてもいずれ宇宙へ行く誰かの為に!」

 

私の原点はただそれだけ。

最初は家で機械を弄っていれば満足だった。

ある日家族でロケットの打ち上げを見に行った。

打ち上げられたそれは、人の夢を乗せていくのだととーちゃんが言っていた。

 

だから私は、その夢を運ぶ人になりたかった。

自分で宇宙へ行こうと思えば、ISの技術が役に立つと思ったから私はIS学園を目指した。

別にエリートなんて興味はない。ただ、自分の夢物語を綴る為だけに。

 

「良い所だった!良い先生達だった!良い先輩も、仲間だって居たの!

 でもみんな!みんなみんなみんな!!私は捨てなきゃならなくなった!!!

 私はただ!織斑君の専用機を整備しただけ!なのに何で全部捨てる事になったの!?」

 

びくり、と黒髪の女性の身体が震えた。

この人が彼の母親なんだと、どこか他人事のように思った。

 

「教えてよ!?私の何がいけなかったのか!直すから!ちゃんと直すから!!

 だから!だから、ぁ……!!」

 

そこから先はもう私には言えなかった。

涙で視界がにじんで、喉が震えて声が出ない。

言っても無駄だ。要求したって出来ない事なんてわかりきってるんだ。

誰に言っても、それこそ神様でもない限り私の願いは叶わない。

 

 

『私の時間を返してくれ』なんて、出来っこないんだ。

 

 

 

 

 

 

「なんて事が、あったの」

 

カラン、とグラスの中で氷が音を鳴らす。

あれからも私は、私の夢を諦めなかった。

必死で勉強して、父さんからも母さんからも、持てるものを全て伝授してもらった。その後に過去を振り切る為に仕事に没頭した私は今、夢見た宇宙へと飛び立つプロジェクトに参加している。

 

そんな私の隣で一緒に飲んでいるのは、同期で同僚の男。

何かと私と張り合って、何処までも私と対等な人。

私が作った夢を乗せて、宇宙へと運んでくれる人。

 

閉じていた私の世界を打ち壊して、手を取って外へと連れだした、大切な人。

 

「ん?何で話したのかって?んー……わかんないかなぁ?」

 

察しがいいのか悪いのか、そんな彼に私は苦笑する。

 

「君が来週飛んでったら、しばらく会えないでしょ?」

 

私の手を取った彼の手の温もりが、私の運命を告げていると思った。

 

「だから、飛ぶ前に貴方から聞きたいなぁって」

 

何を、と彼がとぼける。

私が何を聞きたいか、君がわかっている事など御見通しだよ?

何年君と張り合って、協力して、付き合ってると思ってるの?

 

「私が決めたらしつこいの、知ってるくせに」

 

何せ私は、今世界の話題をさらうIS男性操縦者から逃げても尚、夢を叶えた女だ。

こうと決めたら意地でも食らいつくほどに、諦めの悪い女になったのだ。

 

 

 

この手の暖かさが本物か、私に確かめさせてよ。

 

貴方が信じさせてくれれば、私も同じ宇宙(ソラ)に飛び立てる気がするんだから。

 

 

 




ご都合主義だっていいじゃない。ハッピーエンドが好きなんだもの。
という事で逃げ切った先で幸せを掴む、母と同じ因果に帰結しました。

完全に思いつきなのに設定とかクッソ考えて何してんだ俺……超楽しかったけど
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