私は唯一の手を握る   作:Fiery

6 / 6
ざまぁってどうやって書くの……?(迷走している顔


飛び立った貴女へ、籠の中の貴女へ

 

『明石飛鳥さんは先日付で自主退学されました』

 

学園長の言葉を聞いた彼らの表情は、絶望と言っていい物だった。

何故、と彼らの中の誰かが絞り出すように問えば、普段は優し気な笑みを浮かべている学園長がその目を吊り上げ、睨むようにして彼らを一瞥する。

 

『本人からの申し出があり、私が直接面談して決定しました。

 彼女の心は既に疲弊しきっており、その原因から離れる事が先決だと判断したためです』

『離れるだけなら退学じゃなくても……』

『言ったでしょう? 自主退学だと。それに私は学園長ですがその前に教育者です。

 ここで無理に留まらせて彼女の未来が潰える事を、私は看過できません』

 

言外に、お前達が何を言っても決定は覆らないと学園長が告げる。

それをすぐさまに悟った彼らが目を伏せ、俯く。

ある者は握りこんだ手が震え、ある者は唇を噛む。

彼女を連れ戻そうと動き出す者が居ないのが、幸いと言えば幸いであった。

 

『……知っていたのか? 愛理』

 

更識秋十が、学園長の傍らに立つ自身の従者へと問いかける。

立ち位置からして、彼女が彼の想い人に手を貸したのは確実で、何なら全て彼女のお膳立てという可能性すらあった。

 

『えぇ、知っていましたよ』

『なら何故』

『報告しなかったか、ですか? ――…出来る訳ないだろ、馬鹿野郎』

 

口調を乱暴なものに変えて、愛理が絶対零度の視線を持って秋十を見据える。

彼女のそんな視線は秋十ですら見た事が無い物で、殺意すら見え隠れしていた。

 

『私が強権を使ってまで彼女のルームメイトになった理由は、お前達から守るためだ。

 少しでもあの子に、この学園に居たいって思ってもらうためだ。

 断じて、お前らみたいな奴にあの子を売り渡す為なんかじゃない!』

 

部屋中に響く叫びのような声は、彼女の怒りの大きさを示しているようだった。

この部屋に居る生徒の中では、愛理が一番初めに生まれている。

そして、父親を目の前の男達と同じにしている為、長女と言っても差し支えない。

故にその怒声は、彼らの心に大きく響く物だった。

 

『眠る度に、あの子は泣いていた。助けを求めて泣いていた。

 でも起きればそんな心を押し込めて必死に勉強して、そんな中でお前らの相手もしてた』

 

知らないだろ? と愛理は目の前の彼らを蔑如する。

 

『あの子はお前達にすら心配かけまいと、目の下の隈を化粧で隠してた事も。

 部屋に戻ってきた時にはもう目が虚ろで、ベッドで震えてた事も。

 あぁ、自分の携帯で家族に連絡取りたくないって言ってきた事もあったなぁ……!』

 

その言葉に何人かの体が震えたのを、愛理と学園長は見逃さなかった。

その中に秋十が居た事で彼女の殺意が膨れ上がるが、今発散するのは自制する。

 

『私はあの子を助けたかった。せめて私が学園に居る間だけでも。

 でもあの子の心が限界だった。このひと月は、家族と話している時しか、あの子が本当に笑ってる時間は無かった! あの子をそんな風にしたのはあの子に言い寄るお前らと! 守れなかった私だ! だったら! これ以上あの子に求めるのはおかしいだろ!?』

 

彼らへの怒りと殺意を滲ませた目で、愛理は泣いていた。

彼女の持つそれらは、彼らだけじゃなく自分自身にも向いている。

だからこそ、彼女は明石飛鳥がIS学園という籠から飛び立てるように動いた。

それが自分に出来る最後の助けであると思って。

 

愛理の叫びを聞いて、彼らは自然と膝を折った。

彼らとて、そんな風に飛鳥を追い詰める事は本意ではなかった。

それでもそうしたのは、聞いていたから。

 

自分の父と母は、学園ではそうして過ごしていたのだと聞いていたから。

 

事実として母達は父親と結ばれて、世間一般とは程遠い形ながらも幸せだった。

だから自分もそうなれると思っていた。()()()()()()()

競い合い、彼女の心を勝ち取る事が出来れば幸せになれると。

 

『一週間以内に、お前らの母親が学園に来る。もう話はつけてるからな。

 それと覚悟してろ。もう二度とお前らも私も、あの子に会えなくなる』

『どういう……事だ』

『お前らは母親が着次第、更生施設行きだよ。

 で、その間にこっちで今回の件についてあの子のご両親と今回の事で話し合いだ。

 先方の出した条件として、お前らを娘に近づけさせるなって言うのがある』

 

その言葉の意味に、聡い数名は気が付いたように伏せていた顔を上げた。

ただ、気が付いた所でもう遅い。全部、手遅れなのだ。

 

『もうお前らも私も、あの子に会う事はない。

 謝罪も、後悔も、何もかも、私達のモノはあの子には届かない』

 

それが最初の自分達への罰なのだと、愛理は彼らに――…そして自分へと、言い放った。

 

 

 

 

 

 

明石家の和室の応接間で、二人の女性が卓を挟んで向かい合っている。

一人はこの家の主の妻である明石簪。もう一人が、スーツ姿の布仏愛理である。

 

「この度はお時間を頂き、誠にありがとうございます」

 

そう言い、深々と頭を下げ――…それこそ土下座をして、愛理が礼を述べる。

それを見た簪は眦を少し下げて、柔らかく笑った。

 

「貴女の誠意は確かに受け取りました。でも頭を下げるべきは貴女じゃないんだよ?」

「いえ、私は結局彼女を守れず、立場としても加害者側の人間ですので」

 

頑なな愛理の態度に、簪も思わずため息をつく。

簪からしてみれば、目の前に居る布仏愛理という少女に対して悪い感情は一切ない。

あれ(布仏本音)から、よくここまで真面目で責任感の強い子供が生まれたものだといっそ感心するほどだし、娘が『最も頼りにして助けてもらった人』と言ったのが彼女だ。

邪険になどできはしないし、すれば娘が怒るだろう。

だからこそ、彼女に頭を下げさせている男子6人やその親への好感度は下限を突破している。

 

「話が進まないから、顔を上げて。私の為に、ね?」

「……ご厚情、感謝いたします」

 

何度目かの簪の言葉で、愛理はようやく顔を上げた。

しかしその顔つきは未だに固く、自身を戒めている事が強く出ている。

 

「先に話を終わらせましょう。電話で言ってたのは処分案が決定したとの事だけど」

「はい。こちらが内容になります」

 

愛理が横に置いていた鞄からA4の紙が入る封筒を取り出して、簪の前に置いた。

中身を検めれば、そこに書かれているのは確かに男子6人に対する処分の内容。

 

「まず、最重要の内容である明石飛鳥様への接触禁止の内容についてです」

 

内容は大きく分ければ3つ。

まず飛鳥本人への直接、間接を問わず全ての接触行為を禁止。

次に飛鳥の家族――両親に弟、そして祖父へも同様に全面的な接触禁止。

そして、それを破った際の罰則が明記されている。

 

「私が送った草案よりだいぶ厳しいね」

「そうする事が誠意であると愚考しました。実現の方も可能なレベルですので」

「それにこれだと、貴女も娘に会えなくなるけど」

「……会えば彼女が思い出したくない事を思い出してしまうと、愚考しましたので」

 

少しの間愛理が目を伏せて、再び簪を見る。

それだけの事で、彼女がどれだけ娘に心を砕いてきたか、簪は理解できた。

同時に、必要以上に自分を責めて苦労を背負い込むタイプであるとも。

 

「娘は言ってたよ。落ち着いたら、貴女には会ってお礼を言いたいって」

「そんな……私は」

「だから、ベースはこの内容で良いけど貴女は対象じゃなくして、ね?」

 

案の紙にペンで素早く修正を書き込んでいく。

悉くが、彼女が娘に会えるようにするだけのもの。

 

「接触禁止についてはこんなものかな。

 まぁ後の処分については……娘自身がどうでも良いって感じだけど」

 

それ以降の内容を簡潔にまとめてしまえば。

IS学園には在籍し続けて、原則外出外泊の禁止。

敷地外で行うイベントについては男子1名に付き、常時1名以上の監視をつけての行動制限。

専用機についても使用に制限がかかり、卒業したら基本的に"婚約者"の所属国から出ない。

 

「婚約者?」

「はい、6人全員に婚約者を宛がう事が決定しました。

 オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒは元々の所属国で、織斑と更識は現状の国籍が日本の為、他国から婚約者を選定します」

 

首輪か、と簪が呟けば愛理が首の動きで肯定を返す。

確かにそういうのが付けば、彼らへの監視の目も必然的に強くなる。

それに、そう悪い相手が婚約者になる事も無いだろう。

女の事でやらかした相手に女で首輪をつけるというのは、何とも皮肉な話であるが。

 

「元々貴重な男性操縦者ですので、この話は早い段階からありました」

「でも彼らの親が反対していたってところかな……自分達は恋愛をしたから」

 

私も人の事は言えないけどね、と簪は思う。

彼女も恋愛結婚であり、娘には愛し合う人と結婚してほしいとも思っている。

ただ、役割や責任などを考えた場合、自分はそれを放棄した人間だ。

だから自分の子供に対しては、独り立ちまで責任を取りたいと考えている。

 

「そちらの家の後継者なんかは大丈夫なの? 『良い家柄』なんでしょう?」

 

なので、これだけは聞いておかねばならない。

もし問題がこちらに飛び火するようならば、母親としての責任を取らねばならない。

 

「問題はありません。例え奴が潰れても、奴には妹が居ますので」

「……ちなみに何人?」

「双子の二人ですね。この四月にIS学園に入学予定です」

 

愛理の言葉に簪は安堵の息を吐く。

どうやら、更識の後継者問題は今のところ爆発しそうにはないと安心したからだ。

 

「そちらの考えはわかりました。接触禁止の事以外ではこちらから言う事はありません。

 修正した分は持ち帰って検討してね」

「はい、今日は有難うございました」

「お茶とお菓子を持ってくるから、少し休もうか」

「いえ、このまま戻って学園での仕事が……」

 

立ち上がりかける愛理の肩に簪が手を置いて座らせる。

力もそんなに入れていない簪の手に抵抗できないまま、愛理は座布団の上に座らざる得ない。

 

「上手く隠してるけどかなり疲れてるよ? 私みたいなおばさんにも抵抗できないくらいに」

「……いや、待ってください。今のは古武術の動き、でしたよね?」

「昔齧った程度だよ。痴漢とかの撃退には便利だったから」

 

何でもないように言う簪を、愛理はじっと見つめる。

愛理自身も良く知っている動きで、彼女が知っている以上に滑らかな動きだった。

少なくとも、齧った程度の技で自分を抑えられるとは思えない。

でも、目の前の女性の言葉に嘘は感じられなかった。

 

「……ご厚意に甘えさせていただきます」

 

だから大人しく座って、頭を下げる。

疲れているのも事実であるし、化粧で隠しているが目の下に隈もある。

戻れば仮眠をしてから、新しい生徒会への引継ぎもある。

 

今回の一件で更識秋十は生徒会長ではなくなったため、生徒会は解散してついでに例の伝統も廃した。次の生徒会長は総合成績優秀者から自薦他薦で候補を募り、選挙方式で選んだ。

それで先日新会長が決定し、新生徒会の発足が新年度になる。

故にそれまでに引き継ぎの資料を作らなければならない。愛理以外の生徒会メンバーは卒業してしまうので必然的に引継ぎを行うのは彼女しかいない。

 

「はぁ……」

 

愛理の口から思わずため息が出る。

こんなに忙しくなった原因の6人は今現在、国外の更生施設の中だ。

 

彼らが飛鳥の自主退学を知った時に助かったのは、全員が専用機を使用しなかった事。

誰か一人でも使用していた場合、ステルス状態で外に待機していた訓練機に乗った教師が学園長室になだれ込む手筈になっていた。そうなれば今日ここに愛理が来る事は無かっただろう。

未だに様々な書類相手に格闘している可能性が高かった。

 

更生施設に居る6人の様子を聞けば、意外と大人しく従っているとの事。

施設の中で延々と自分達が飛鳥にした所業を聞かされ続ければそうもなるか、と愛理は一人で納得していた。その他にも教官として派遣された『ブリュンヒルデ』の初代と二代目が体育会系の様に扱き倒しているらしい。

今現在、処分の内容は彼らには伝えられていない。

伝える時がもう一つの山場だな、と愛理はため息をついた。

 

「幸せが逃げるよ? はい、お茶」

「え、あぁ、有難うございま……す」

 

お茶が置かれ、礼を言う為に顔を上げれば、愛理の前には飛鳥が立っている。

その現実を一瞬だけ、愛理は認識できなかった。

 

「え? なん、で? 今日は居ないって……」

「用事が早めに終わったから帰ってきただけだよ」

 

飛鳥の後ろからひょっこりと簪が顔を出す。

確か、愛理がアポを取った時は『用事があるからその時間は居ないはず』と言われた。

他の日時は家にずっと居るとの事なので、飛鳥に会わないためにはこの時間しかなかった。

それなのに、と動揺している愛理の前に飛鳥と簪が座り、飛鳥が口を開く。

 

「有難う布仏さん。私をたくさん助けてくれて。私の為に、たくさんの事をしてくれて」

「……そ、それは、うちのバカ達が、貴女に迷惑をかけたからで。

 結局私は、貴女が学園から去るのを、見送るしかなくて……」

 

飛鳥から感じるのは、愛理への感謝の思いだけ。それが余計に愛理の心を揺さぶる。

確かに自分は彼女を助けようとした。彼女が学園に居られるように守ろうとした。

でも結局、彼女は学園を去って、自分は助ける事も守る事も出来なかったと思っていた。

 

「ううん、布仏さんは私を助けるという選択をしてくれた。動くという選択をしてくれた。

 布仏さんが最初に、私に手を差し伸べてくれた。ずっと、その事にお礼を言いたかったの」

 

『だから、有難う』

 

そう言って飛鳥は誠心誠意、愛理に向かって頭を下げた。

横に居る簪も同じように頭を下げている。

 

「や、やめてください。私は、お礼を言われる結果なんて、出せてない……っ!」

「結果じゃないんだよ、布仏さん。それにその結果は、娘が選んだ娘のもの。

 貴女がそこまで責任を感じる必要はないの」

「でも、でも……!」

 

愛理は、彼女の慟哭を知っている。

あの場に居た学園長から、親たちが謝罪した時の詳細を聞かされて知っている。

自分の身内のせいなのに。自分が守れなかったせいなのに。

彼女が何故、自分にこんなにも真っ直ぐお礼を言うのかわからない。

 

「じゃあ、布仏さん。貴女への私からの罰は、私と友達になる事にする」

 

飛鳥が立ちあがって、愛理の横に立つ。

 

「は? ……え? 誰が、誰と……」

「布仏愛理が、明石飛鳥と、友達になるの。

 で、もう友達だから、私こと明石飛鳥は、愛理の事を許すんだ」

 

そう言って自分に手を差し伸べて笑う飛鳥の顔に、愛理は太陽のような温かさを感じた。

差し伸べられた手を見て、微笑む簪を見て、再び笑う飛鳥を見た。

 

「……ごめん、なさい」

 

愛理の目から、彼女が知らない内に涙が零れた。

 

「ごめん、ね。飛鳥の事、守れなくてごめんね……っ!」

 

差し伸べられた手を両手で握り、愛理は泣き崩れた。

そんな彼女を抱きしめる飛鳥は、一緒に泣いていた。

 

 

 

 




男子視点のものは何か自分でも気持ち悪くてかけなかったのでこれで逃亡します(ぉぃ

これにて二代に渡ったお話は終わり。
流星の方に集中しますので、あちらもどうかよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。