救われたのはほんの数年前。そして自分で終わらして、いとも簡単に私は壊れた
きひきひ笑って、けらけら笑って死んだ親友の頭を抱えて、私はアタシになったんだ
けかかかかかかかかかかかかかかかかかぎゃははははははくひゃはははハアアアハハハハハハハ!!!!
自分では笑ってるつもりは無いのに口から無機質な笑いが出でいた。絶望なんて言葉は生温い、死んだ方が増しなんて言葉はとっくに通り抜けて、手にした包丁を自分の首に突き立てた時に頭に流れる
『幸せになって』
ナナカの最後の言葉
もうそれは呪いだった。死にたい死にたい死にたい死にたいって身体は勝手に動くのに、頭に流れる言葉が刃を止める
死にたい、幸せ、ナナカ、私、殺して、キャハハハハハ、キィはアッハハハハアアハハハハハ!!!
ナナカを殺して、ナナカの首を抱えたまま病院に運び込まれた。右手の痛みは全く感じず、あるのはただただ空虚。右手の止血は勝手にやられ、あの場で死んでしまうはずが生かされた。身体の感覚はなく、ただただ左手の頭の重みだけを感じていた
絶望とはよく言ったものだ。今の私の状態を的確に表している、死にたいと思って死ねないのが絶望でなくてなんなのか。そんな事ばかり考えていた
ケタケタ笑いながら過ごすうちに、『幸せ』について考える。私にとっての幸せとはなんだろう?少なくとも今のこの状態の事ではない。だって死にたくて、辛くて、泣きたくて、喚き散らして。だから死ぬ事が幸せなのか? なんて考える。でもきっとそれも違うのだろう。だって私は死んだ所でナナカに会えない事を知っている。だってこの世には神様もいないし天国の地獄もありはしないのだから
じゃあ死ねない。だって死んだってそれは幸せなんかじゃないからだ。幸せになる方法なんて思いつかない。幸せにしてもらう方法も思いつかない。だってナナカがいない。ナナカがいなければ私は幸せじゃない。そこでやっと気付く。あぁ、私はこんなにもナナカが大好きだったんだ。気付くのが遅い、遅過ぎる。こんなにも依存して、こんなにも大好きで。なのに私の危険な実験に巻き込んで。あ、はは。幸せ? 幸せになんて成れるわけない幸せは一人では手に入れれないんだ。幸せが欲しいなら一人じゃダメだ。じゃあどうする? マタアタラシイトモダチヲツクル? ふざけるなよ?死ねよ死ね死ね死んでしまえ!! ナナカ以外の友達を作るなんて思考するだけでもあり得ない!! ナナカだけだよ。私の友達はナナカだけ。他の全ては有象無象、存在する価値のないゴミばかり。ナナカナナカナナカナナカ!! 助けてよ。大好きだよ。そばにいてよ。声をかけてよ。笑ってよ。あなたがいないとこんなにも私はダメになる。こんなにも私は苦しいんだ。大好きだよ、そんな言葉じゃ足りない。愛してる
私はナナカを愛してる。ナナカのいない世界なんていらない。だったら壊そうよ。だってナナカがいないんだから
簡単だよ。研究所に戻って全ての機材のスイッチを全てONにすればいいんだ。世界なんて私の気まぐれ一つで壊せる程はかなく出来ているんだから。そうだ壊そう、壊してしまおう。ナナカがいない世界なんて壊してしまえばいいんだ
わかってる。ナナカがそんなの望むはずなんて無いんだってこと。だったらどうすればいい? きっと私は世界を壊すか自分を殺すか狂うしかこの先に進む事は出来やしない。なんで殺した? なんでだよ。なんでなんでなんでなんで!!
そして気付いた。ナナカがいないんなら、ナナカが死んだんだったら作ればいい
幸いな事に素材はある。左手にはナナカのこれまでの人生だ詰まった
そこまで気付いて、ようやく私は普通に笑えた。いや、きっと私は狂っている。でも壊れてはいない。だからアタシは決定的に壊れきる前にナナカを作ってナナカにほめてもらおう。もう一度笑ってもらおう。そしたらきっと私は幸せになれる。あぁそうだ、取り戻すんだ。幸せを、ナナカがいてくれた幸せを
「あは、あはは。ギャはははははははははッハハアハハハハハハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアぁぁァアッアアアアアアアアアァアァァァアァァァぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああっぁっっっぁ!!!!!!!!!グギャガががががががががあががががががガッががががががガッギャガがげげげげげげげげげげゲゲゲッげげげげげげゲゲゲゲッげげげアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ー???ー
目をサマしたら。そこは真っ白な場所だった。身体を認識すると同時に身体にかかる重み。その少女は泣きながら誰かの名前を呼ぶ。自分のキオクを参照しながらその少女をダキシメて、涙を流す少女に向かって言った
「ただいま」
私はナナカ……………では無い。ナナカの人格と記憶を元に作られれたガイノイドだ。ナナカの記憶とアイナさんの態度から、アイナが私を作ったのだと判断した
「ナナカ。身体に違和感はない? どこかの反応が鈍いとか、感覚が無い部分があるとか」
アイナさんはニコニコ笑いながら問いかけて来た
「……………………………………」
答えられない。答えられっこ無い
「ナナカ?」
アイナが不安そうに見つめてくる。それを見て、決心した
「ん? ごめん聞いてなかったよ。なんだって?」
私は、ナナカは、この親友の笑顔を壊したくない
「あ、…………よかった。初期動作で異常でもきたしたのかと思ったぜ」
心底安心した様に彼女は呟く。ニコニコ笑いながら。その笑顔に私はズタボロに成りながら
「ナナカ」
「なによアイナ。変な顔して‥……」
「ナナカの名前をあなたに向かって言えるって事がこんなに幸せ。だから名前を呼んだんだ。‥……だめ?」
グチュリと心臓を握りつぶされた気分になる。まだ間に合う。まだ大丈夫。今言ってしまえばこの罪悪感も無くなる。だから‥……
「‥……ダメじゃないけど。突然きたデレ気に戦々恐々としてるだけだよ」
できやしなかった。この笑顔のアイナを見て、これ以上の過酷を押し付けるなんて出来やしなかった。だから私はこの時にナナカになった
私はナナカではない。そう認識してしまっている。他人の記憶をTVで見ている様な感覚。私の名前は無い。私が誰かも自分で解らない
でも、記憶の中の自分ならきっとそうするだろう。最後の最後までばれない様に必死になって隠すだろう。だったらそれまで私はナナカで、アイナは私の親友だ
月日はたつ。そして隠し事はばれるもの
第一、完全記憶能力を持った人間相手に長い間隠し事なんかできやしない。普通の人なら気付かない様な違和感に感づいて、蓄積して、そして結局ばれた。
アイナは泣いた。何をするよりも先に泣いた。何かがキレたんだと思う。何時間も何十時間も泣いてそしてピタリと泣き止んだ。次は笑う。笑って笑って笑い続けた。ケラケラ、ケタケタ笑い続けた。私はこの時に始めて機械の身体に感謝した。だって機械の身体なら何十時間でもアイナのそばでに立っていられるから。自分のエネルギ消費を極限まで抑えて、アイナのそばに立つ。そして37時間27分18秒の時間が過ぎた頃、ゆっくりとアイナは立ち上がった
「‥……‥……‥……‥…………まだ、いたんだ」
言葉が胸にささる。虚ろな目を私に向けるアイナは完全な無表情で言う
「もういいよ。消えて」
ノイズが走る。私は人間じゃないから涙なんて流せない。そんな機能存在しない。でも視界は曇る。耳を塞ぎたくなる
「なにしてるの? 私が消えてって言ったんだから消えてよ。お前なんてただのナナカの偽物なんだから。私が作ったロボットなんだから。早く私の言う事に従って消えろよ」
無表情のまま淡々という。アイナが言葉を紡ぐたびに私の心は削れて行く
どうせ作りものの心で、ただの電気信号なのに、ガリガリと心を削る。きっとこのままだったら私は壊れてしまうだろう。文字通り、電子回路が焼き切れて、壊れるだろう
「消えろ。消えろ!! この出来損ない!!」
淡々とした口調はいつしか怒鳴り声に。怒りと失望と絶望を孕んでぐちゃぐちゃにした様な声に
「消えろ壊れろ死ね!! お前なんか産むんじゃなかった!! 全然違う。この出来損ない!!」
そしてなんでこんなにも痛いのか、やっと解った。私はナナカの記憶を持ってるからアイナの事を大事にしなきゃいけないって思っていたんだ
「くそぉ。畜生‥…なんでだよ。どこに失敗の要素があったんだよ‥……」
違う。そうじゃない。私は私の意思で。私自身の意思でアイナの事を好きになっていたんだ。どこかほって置けない危なっかしいこの人の事を好きになっていたんだ
「なに? アンタまだいたの? いいから消えてよ。この顔で、その声で、私の名前を呼ばれたら虫酸が走る。いいから私の前から消えろ。消えろぉおおおおおおおぉおおおお!!」
だから私は‥……‥……
ーアイナー
叫んで拒絶して、壊してしまいたくてぐちゃぐちゃで。狂った心はもう取り返しのつかない所まで捻れてしまって。絶望とか希望とか、この世の真理とか生とか死とか、自分でも意味が分からない事ばかり頭に流れ出して。自分をたばかった出来損ないにその怒りをぶつけて。あぁ私はもうダメだ。このまま死ぬんだろう、きっと生きる気力も死ぬ理由も無い。死んだ方がマシ? 生きていた方がいい? あぁどうでもいい。どうせナナカが死んだ瞬間に私が幸せに成れる事はありえないだからもういい。このまま緩やかに消滅しよう。生きてなにかを成し遂げるのも、死ぬ事で楽になるのも、もういい。全部がもういい。終わりだよ
さぁ、身体の力を抜いて地面に激突しよう。それだけで今の私なら死んでしまえるだろう。人間の構造では死ねないかもしれないけど、きっと死ぬ。だからこれで、終わりだよ。私の存在に、幕を下ろそう。ゆっくりと地面が眼前に近付いて行き‥……‥……‥…
機械で出来た名前の無い少女に受け止められた
彼女は私を抱きしめる。心が悲鳴を上げる。目の前の存在を許せないと。身体に触れるなと。私は壊れてるはずなのに、そう叫ぶ
「は、な、せぇぇぇぇええええええええええええーーーーーーーーーー!!!!!!」
「‥……い、やだ」
彼女はキツく、キツく私を抱きしめる。心はもう壊れているから、痛みなんて感じないはずなのに。ミシミシと音を立てる骨が痛い
「きえろ。消えろ。キエロ!!!!」
「嫌だ。嫌、嫌。絶対に、いやだ!!」
咆哮
自分では信じられない様な音が出て、喉を震わせる
「ふざけるな!!出来損ない!! お前が。お前‥……が!!」
あぁ、解ってる。目の前の親友に似た少女にはなんにも罪は無い。ううん、きっと解っていた。ナナカを、死んだ人間を生き返らせるなんて無理だ。だって『死んでない』に戻すのなんて、それこそ時間を戻しでもしないと出来やしない
それでも私にはどうしようもなかったんだ
「ナナカ。ナナカ!! 寂しいよ。寂しいよ‥……なんで死んじゃったんだよ。なんで殺しちゃったんだよ‥……。大好きだった。大好きだったんだ!! あなたがいないと私は幸せになんてなれないよ!! ナナカァ!!」
もう、止まらなかった。そう言えば、ナナカがいなくなってから私は一度もこんな風に誰かに自分の思いを吐露した事なんてなかったなと思う
「ああぁあぁぁぁぁあぁあああああああぁぁぁあああぁあぁあああ!!!」
「‥……‥……‥……今は、泣いてください」
目の前の機械仕掛けの少女は言う
「あなたに嫌われても。あなたに捨てられても。私はあなたの傍にいます。あなたが泣きたい時には抱きしめます。あなたが辛い時には傍で笑ってます」
私が作った少女は言う
「私はあなたが、アイナが大好きです。ナナカの記憶を持っているとか関係なく、私はあなたが大好きです。あなたに作られた、あなたの為の存在だから。だから‥……」
機械仕掛けの少女は、そこまで言って私を強く強く抱きしめる。いつしか、私は自分の脚で立っていた
「幸せに、なってください。ナナカと私の願いです」
もう、言葉なんて出なかった
ただ泣いた。ただただ泣いた。二回目だったんだ、そんな優しい言葉をかけてもらえたのは。私を包み込む腕は冷たい金属で出来ているはずなのに。なぜか暖かかった
幸せってなんなんだろう。今、この場に至っても解らない。でも今のこの瞬間の気持ちを言葉にするなら、幸せって言葉しかなかったんだ
ーアタシは、きっと狂ってる。でも壊れてないー
ー‥…………‥……ー
ーあなたのおかげで、最後の最後を踏みとどまれた。その事は、そのありがとー
ー‥……はいー
ー……………………………………私はこの先、あなたの事を愛せると思う。ナナカの、その次くらいにはー
ーひどい、ですねー
ー当たり前だよ。アタシを誰だと思ってるのよ悪の天才科学者だよ。………………………そんな私だけど、あなたに傍にいて欲しいー
ー……………………ー
ーこれは私のわがままだよ。こんな事を言って虫のいいって解ってるよ。でも、私の偽らざる気持ち。だから……ー
ー私の答えなんて、決まってます。傍にいさせてください。あなたが私を愛さなくても、私はあなたを愛します。いらなくなったって言ったて抵抗します。なにが何でも一緒にいます。ナナカの‥…母さんの思いで、私の思いですー
ー………………ありがとー
ーはいー
ーじゃあ、名前決めなきゃねー
ーえ?ー
ー名前だよ、名前。私が決めるよ、いいねー
ー少し不安ですがー
ーなんだとー!! ってもう考えてあるんだけどねー
ー…………………ー
ー藍。あなたの名前は藍。ナナカが好きな花で、私の髪の色ー
ーあ………ー
ーいい?ー
「はい、アイナ」
時間軸的には
7歳、アイナとナナカの出会い
9歳、二人は友人になる
11歳、実験の失敗でナナカは頭部を残して消滅。その後、救急車で病院に運ばれ処置を受ける
次の日、アイナ病院からナナカの頭部を持って脱走
6日後、藍完成
13日後、アイナに藍の事がばれる。その後和解
その後、藍はアイナの身の回りの世話役。ナナカの頭部は親族に返還され、今はお墓の下
12歳、現在
となっています。抽象表現も含めてしまったので参考までに
後2〜3回で終了です、出来る事ならお付き合いください
感想、ご指摘、お待ちしております