ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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原作第38話がベースです。
今回はちゆとドクルンがメインですが、その一方でビョーゲンズ側にも事件が起こります。


第136話「将来」

 

ある日の廃病院のアジト。クラリエットが眠る地下室ではドクルンの姿があった。

 

「クラリエット姉さん・・・・・・・・・」

 

ドクルンはいつもの余裕な笑みではなく、神妙な面持ちでクラリエットを見つめていた。

 

「あとは・・・ちゆの苦しみだけ・・・・・・お父さんのためにも、どうにかしなきゃね」

 

「ドクルン・・・こんな奴を本当に復活させていいブル?」

 

ドクルンはキングビョーゲンのために、クラリエットを復活させようとしているのに対し、ブルガルはそもそも復活させることに疑問を抱いていた。

 

「いいのよ。姉さんはお父さんが復活するために必要な器、復活させておけば可能性は増えるわ」

 

ドクルンは特に気にしていない様子で話す。キングビョーゲンの計画は同時並行で進んでいる、一つ潰されたところで自分たちにとっては大した痛手ではないのだ。

 

ドクルンはカスミーナが浄化されたことをキングビョーゲンに話したことを思い返す。

 

『何? カスミーナが・・・・・・?』

 

『ええ、プリキュアに負けて帰ってきたわよ。まあ、浄化されたわけじゃないから影響はないけどね』

 

『・・・・・・少し我が見る必要があるか』

 

『そうね・・・何か消えてるみたいだし、その方がいいかもね。今は休ませてるから、あとで見てくれる? あいつの体に負担をかけたら不味いからね』

 

『・・・・・・まあ、よい。計画に支障はない。引き続き続けよ』

 

『はーい・・・・・・』

 

クルシーナがかすみのことを報告すると、キングビョーゲンはそう答えて命じると、クルシーナは淡々と返事をした。

 

『それとお前たちともう一人、クラリエットの件だが・・・・・・』

 

『もうちょっとなのよねぇ・・・・・・プリキュア二人の苦しみのデータは刷り込んだはずだし、あとは青い奴の苦しみのデータさえれば、復活するはずよ』

 

『テラパーツはすでに仕込んでありますが、なかなかあの女自身が病気にならないので厄介です』

 

キングビョーゲンはクラリエットの件を聞くと、クルシーナは嫌そうな顔で答えつつも、あまり復活は進んでいないことを話す。あとはキュフォンテーヌ、沢泉ちゆの苦しみのデータを搾取するだけ。すでにテラパーツは彼女の体内にあるが、なかなか活動を活発にしてくれないと困っている。

 

『まあ、もう一人のプリキュアは私に任せてください。私がなんとかしますよ』

 

『・・・よかろう、ドクルン。お前の働きに期待しているぞ』

 

『はい♪』

 

ドクルンは笑みを浮かべながら、キングビョーゲンにそう告げたのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンはクラリエットを見つめながら頭の中で思い出したあと、踵を返すとそのままその部屋を後にしようとする。

 

ーーーー期待してるわよ、ドクルン。

 

「っ!!??」

 

その時、頭の中に声が聞こえ、驚いたドクルンは再びクラリエットの方を振り返る。しかし、クラリエットは赤い靄に包まれてゆらゆらと揺れるのが映るだけだ。

 

「っ・・・・・・プリキュアなんかにやられたかませ犬ごときが、偉そうにしないでください」

 

ドクルンは顔を顰めながらそう言い放つと、今度こそその部屋を後にした。

 

一方、ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「はぁ〜あ、ここのところ、キングビョーゲン様がちっともお姿を見せてくださらない・・・シンドイーネ寂しいぃ〜!! 私がいつもキングビョーゲン様のことを一番に想っているのに・・・・・・」

 

シンドイーネが岩場に座り込みながら、寂しそうに呟いていた。

 

「・・・・・・向こうはそう思ってないだろうけどね」

 

「つーか、そんなこと言ってる暇があるなら、地球の一箇所ぐらい蝕んでこいっての。無能な部下の元に現れるわけないじゃん」

 

「っ!?」

 

近くで寝転がっていたダルイゼンとクルシーナがそう呟くと、それを聞いたシンドイーネがその場から立ち上がった。

 

「何よ!! い、今はそうじゃなくても・・・いつか!! キングビョーゲン様の一番になってやるんだから!!」

 

「なんで動揺してるですぅ? ふわぁ〜・・・・・・」

 

「心にヨユーが無い人は、動揺するんだよってノンお姉ちゃんが言ってたよ〜」

 

シンドイーネの言葉に、背中合わせで寄りかかって座っているフーミンとヘバリーヌがそう話す。

 

「余裕はあるわよ!! 私が一番手柄を立てたんだから、キングビョーゲン様の一番は私よ!! 絶対に一番だって思ってもらうんだから!!」

 

「誰かの一番だと・・・・・・?」

 

そこへグアイワルも近くへとやってきた。

 

「俺の一番は・・・この俺だ!! 例えキングビョーゲンだろうと、俺の前には立たせんぞ!! わ〜っはっはっはっは!!!!」

 

一人高らかに宣言し、勝手に高笑いをし始めたグアイワル。それをクルシーナとダルイゼンはお互いに顔を見合わせながら、シンドイーネは呆れた様子で見つめていた。

 

「んぅ・・・うるさいですぅ・・・・・・!!」

 

「ワル兄ったら変なの・・・・・・フーちゃん、あっち行こうか〜・・・・・・」

 

フーミンは目をこすりながら不快感を露わにし、それをヘバリーヌはそう呟きつつ、フーミンを連れてその場を後にしていく。

 

「ふんっ・・・わけのわかんないこと言ってるやつは放っておいて、キングビョーゲン様のために地球を蝕みに行かなきゃ」

 

「あ〜あ・・・これだから脳筋は・・・・・・かすみの様子見に行くか・・・・・・」

 

シンドイーネはそう言いながら地球へと向かっていき、クルシーナやダルイゼンもその場を後にしていく。

 

「はっはっはっは!! あれ?」

 

そして、残ったのはいまだに高笑いをしているグアイワルだけになった。

 

「おい!! 俺の話を聞けえぇぇぇぇ〜!!!!」

 

そんなグアイワルの叫びは、自身以外誰もいないビョーゲンキングダムに木霊したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の朝、沢泉家・・・・・・。

 

「お姉ちゃん、すごい!! 今度は新聞に載るなんて!!」

 

「本当ねぇ・・・・・・」

 

とうじを始めとしたちゆの家族が父親であるりゅうじの広げる新聞を見つめている。そこにはインタビューを受けた大会のことが新聞に載っており、そこにちゆのことも載っていた。

 

「もぉ、大騒ぎしないで。ちょっと載せてもらっただけなんだから・・・・・・」

 

「いいから、見てみて!!」

 

気にしていない当の本人は、とうじがその記事を見せると少しだけ微笑んだ。

 

「まぁ、ちゆのインタビューも、ほらっ」

 

「『ハイジャンプで世界を目指したいです』か・・・・・・」

 

「お姉ちゃん、本当にすごかったもん!!」

 

「なんせ優勝だもんなぁ〜」

 

「いいなぁ〜。私も見にいきたかったぁ〜」

 

「若女将は休めないでしょ?」

 

「そうね、今週末も予約でいっぱいだし」

 

「ありがたいことです」

 

みんなでちゆの記事を見ながら話していると、とうじが真剣な表情になる。

 

「・・・・・・僕、今度のお休み、旅館のお手伝いするよ」

 

「えっ? でも、先週も・・・・・・」

 

「僕、この沢泉が好きで・・・・・・いつか女将の仕事をやりたいんだ」

 

とうじのその言葉を聞いた、ちゆはもちろん家族全員が驚きの表情を見せた。

 

「・・・・・・ふふっ、良いかもしれないな」

 

「えっ・・・・・・?」

 

すると、りゅうじが微笑みながらそう話し、ちゆは驚いて聞き返した。

 

「ちゆには、ハイジャンプの才能がある・・・・・・旅館はとうじに任せて、ちゆは思い切り陸上に打ち込むのはどうだろう?」

 

「えっ・・・でも・・・・・・」

 

「どうかしら・・・・・・?」

 

「そうねぇ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

りゅうじの話を聞いて、母親であるなおと祖母であるはるこが相談し始めると、ちゆも考え始める。

 

「僕、お姉ちゃんなら世界に行けると思う」

 

「とうじ・・・・・・・・・」

 

「ちゆがハイジャンプをやりたいなら、私も応援したい・・・旅館のことは気にしなくて良いのよ」

 

「人生は一度きり・・・後悔のないようにしたら良いわ」

 

「うむ・・・・・・」

 

「・・・・・・はい」

 

とうじがそう言うと、なおとはるこもそう言って自由にしても良いと話した。

 

「あっ・・・やだ! もうこんな時間!! 朝ごはんにしましょ」

 

なおはそう言って朝食の準備を始めると、ちゆはそれからというもの将来のことを考え始める。

 

「後悔のないように・・・・・・」

 

それは朝食を終えて部屋に戻ってからも続いており、はるこに言われたことを思い出して、ちゆは机の上の自分のことが書かれた記事を見つめながらそう呟く。

 

『私、沢泉ちゆは誓います』

 

『・・・毒島りょうは誓います』

 

『永遠に友達であると!!』

 

「っ!!」

 

ふと昔の、りょうと過ごした日のことを思い出し、ちゆは余計に顔を俯かせる。友情を誓ったはずの友人、しかし今はビョーゲンズとなっている。

 

「りょうは・・・・・・どうして・・・・・・」

 

もしかして、自分はりょうに酷いことをしてしまったのだろうか? ちゆは思い当たる節がなければ、りょうに何かをした覚えもない・・・・・・。一体、何が原因なんだろうか?

 

ちゆはもう後悔したくないと、次にドクルンに会ったら聞いてみようと思った。

 

「ペエ・・・・・・・・・」

 

ペギタンはそんなちゆの様子を心配そうに見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「じゃあ、次の問題を・・・・・・」

 

学校の理科の授業中、ちゆはまだ悩んでいる様子で何かを考え込むように顔を下に向けており、のどかはそんなちゆの様子が気になっていた。

 

「沢泉」

 

「・・・・・・・・・」

 

「おい、沢泉!」

 

「えっ・・・あっ、はい」

 

ぼーっとしていたちゆは先生に当てられていることに気づかず、再度呼ばれると一拍置いてから反応した。

 

「どうした? わからんか、この問題?」

 

「その・・・酸素です・・・・・・」

 

「うん・・・・・・正解・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・?」

 

ちゆはそれでも問題をなんとか正解するが、どこかぎこちない様子であり、その様子をひなたも気になっていた。

 

その後、授業が終わって休み時間になり、のどかたちは中庭へと集まった。

 

「ちゆちゃん、何か考えごと・・・・・・?」

 

「あっ、もしかしてぇ、今度はテレビの取材が来たとか?そしたら、あたしたちも一緒にぃ・・・・・・」

 

「ううん、そんなんじゃなくて・・・・・・」

 

複雑な笑みを浮かべるちゆは、今朝の出来事をのどかたちに話した。

 

「じゃあ、とうじくんが旅館やるの・・・・・・?」

 

「ええ・・・でも、小さい頃から・・・ずっと自分が女将をやるものと思ってたから・・・・・・なんだか、不思議な感じで・・・・・・」

 

「でも、ちゆちー・・・これでハイジャンに集中できるじゃん。世界へジャ〜ンプ♪ でしょ?」

 

「世界へ・・・・・・」

 

ちゆはひなたにそう言われると、ハイジャンプで飛んでいる自分のことをイメージする。

 

「そう・・・そうよね・・・そのためには、もっと頑張らないと。これからはハイジャンに専念してみるわ」

 

「えへへ。頑張ってね、ちゆちゃん」

 

「あたしたちもめ〜っちゃ応援するしぃ〜♪」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

どうやら悩みは無くなったようで、ちゆは笑みを浮かべながらのどかたちに礼を言った。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんなちゆの様子を学校の屋上からドクルンが見つめていた。

 

「ドクルン?」

 

「なんですか?」

 

「あいつ・・・病気に冒さなくていいブル?」

 

「しますよ。その機会を伺っているところです」

 

スタッドチョーカーのブルガルが、ドクルンにそう尋ねると彼女はちゆを見つめながらそう言う。

 

「また嘘なんかついちゃって・・・・・・」

 

ドクルンは顔を少し顰めながらそう呟いた。

 

その日の放課後、ちゆは昼間に行った通り、陸上部の練習に励んでいた。のどかたちもその様子を見ていた。

 

「バーをもっと高めにお願い!!」

 

「オッケー!!」

 

ちゆは他の部員に頼んで、設置されていたバーを一つ高くしてもらった。

 

「よしっ!!」

 

ちゆはやる気を出して、その場から駆け出してジャンプしてみる。すると・・・・・・。

 

ガタァン!!

 

もう少しのところでバーに足が引っかかってしまい、失敗してしまった。

 

「あぁ〜!!」

 

「惜しい〜!!」

 

のどかとひなたはベンチに座ってその様子を見守っていた。

 

「のどか、ひなた」

 

「?・・・あれ? アスミちゃん!! どうしたの?」

 

そこへラテを抱えたアスミがやって来ていた。

 

「・・・・・・今朝のちゆの様子がなんだか心配だったペエ」

 

「それで、みんなと見学に来たのです」

 

その傍らにはペギタンが肩からひょっこりと顔を出し、何やら心配そうな表情を浮かべていた。

 

「そっかぁ〜」

 

「でも大丈夫!! ちゆちー、ハイジャン頑張って、世界目指しちゃうって♪」

 

のどかとひなたがアスミたちと話している中、ちゆの2回目のジャンプが行われるも、また失敗に終わっていた。

 

「ドンマイ、ちゆ。今日は無理せず、早めに上がったら?」

 

「そうね、ありがとう・・・・・・」

 

部活仲間のりょうこにそう言われたちゆはこの日の部活を早めに切り上げることにした。

 

「今日のちゆちー、調子悪いねぇ・・・・・・せっかくハイジャンに集中できるようになったのにぃ・・・・・・」

 

のどかたちはみんな、そんなちゆの様子を心配そうに見守っていた。

 

「・・・・・・失敗が多いのは迷いがある証拠ね。口ではあんなことを言ってても、心の中では何かが吹っ切れていないのよ」

 

ドクルンは本をペラペラとめくりながら、そんなちゆの様子に対してそう呟いていた。

 

その後、部活を終えて帰宅するちゆは・・・・・・。

 

「・・・・・・あっ」

 

旅館の前に枯れ葉が散らばっているのが見えた。ちゆは女将の衣装に着替えて、竹箒を持つと落ち葉を掃除し始めた。

 

「・・・・・・お姉ちゃん」

 

「っ? とうじ、今日もお手伝いを?」

 

「うん! 旅館のことは僕に任せて!」

 

そこへ旅館の半纏を着たとうじが現れ、ちゆが尋ねると元気に答える。

 

「お姉ちゃん、部活の練習で疲れてるでしょ?」

 

「そうでもないけど・・・・・・」

 

「えへへ、無理しないで」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

「丁寧に・・・丁寧にっと・・・・・・」

 

とうじはちゆから竹箒を取ると、一生懸命に掃除をし始めた。

 

「・・・・・・とうじ、どうして女将になりたいって思ったの?」

 

「えっと・・・・・・お姉ちゃんのハイジャンを応援したいってのもあったけど・・・・・・でも僕、旅館の仕事が楽しくて!」

 

「楽しい?」

 

「うん! お客様が笑っているのを見ると、僕までなんだか幸せな気持ちになるっていうか・・・・・・」

 

熱心に掃除をするとうじにちゆが聞くと、掃除をしながらそう答えた。

 

「おっ! あっちにも落ち葉が!」

 

とうじは別の場所にも落ち葉があるのを見て、すかさずそこも掃除をしていく。ちゆはそんなとうじを見て微笑みつつも、どこか複雑な表情も見せていた。

 

「ちゆさん」

 

「あっ、川井さん」

 

そこへ旅館の従業員の川井もちゆのところにやってきた。

 

「とうじさん、最近、とても頑張っていますよ。お客様のためにと、いつも考えているみたいで」

 

「そう・・・・・・」

 

川井がとうじの方を見ながらそういうと、ちゆはとうじの様子を見る。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな様子を、旅館の上の方でペギタンが心配そうに見つめていた。

 

「・・・・・・とうじくんは立派ね。素敵。それに比べてちゆは・・・・・・」

 

その旅館の屋根の上でドクルンはとうじを見ながら口元に笑みを浮かべ、逆にちゆを見つめて少し顔を顰めた。

 

部屋へと戻ったちゆは、机の上に一通の封筒があるのを見つけ、それを手に取る。

 

「っ、これ、ツバサからだわ」

 

それは前に共に世界で戦うことを誓ったライバル、ツバサからだった。封筒の中を開けてみると、海外でできた友達らしき人物と写っている写真と手紙が入っていた。

 

ちゆ、元気?

 

私はこっちの生活にもだいぶ慣れて、今は思う存分、ハイジャンの練習してる。

いつか、ちゆと一緒に世界で戦える日を、楽しみにしてる!!

 

高見ツバサ

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはそんなツバサからの手紙を、少し表情に影を落としながら見つめていた。

 

「・・・・・・ちゆ、一体どうしたペエ?」

 

そこへペギタンが静かにちゆの側へとやってくる。

 

「・・・・・・世界を目指すなら、ハイジャンに集中しないとダメよね」

 

「ちゆは、その・・・ハイジャンよりも、女将をやりたいペエ?」

 

「わからない・・・選べないのよ・・・・・・それに・・・・・・とうじがあんなに張り切ってるし」

 

「むぅ・・・・・・」

 

写真を見つめながら悩むちゆを見て、ペギタンも一緒になって考え始める。

 

『ちゆは、きっといろんなところで活躍できるわ・・・・・・』

 

『そんな・・・大袈裟よ。私は人より少しできるだけで・・・・・・』

 

『何を言ってるのよ? この私が言ってるんだから、間違いないわよ』

 

『でも、女将の仕事もあるかもだし・・・・・・』

 

『そんなのは二の次よ。ちゆはハイジャンをやりたくないの?』

 

『そんなことないわ。でも・・・・・・』

 

そんなちゆに昔の記憶を思い出す。それはりょうとの会話だった。

 

『私はちゆが世界に行くことになっても応援するわ。だって、私たち、離れても友達でしょ?』

 

りょうはちゆの両手を取りながら、そう主張したのであった。

 

「りょう・・・・・・私は、どうしたらいいの・・・・・・?」

 

ちゆはりょうとの会話を思い出しながら、表情を少し暗くさせていた。

 

「ちゆ・・・・・・・・・?」

 

「・・・あっ、ごめんね、変なこと聞いて。私、ちょっと走って来る」

 

「だったら、僕も一緒に行くペエ」

 

「大丈夫。少し風に当たるだけ・・・・・・」

 

ちゆは一人ランニングへと向かうと、残されたペギタンは窓の外から抜け出してのどかたちの元へと向かった。

 

「・・・・・・・・・ふん」

 

その様子を狼の妖精のブルガルが見ていた。部屋に誰もいなくなったことを確認すると、ブルガルは上へと飛び、屋根の上に行くとそこで本を読んでいるドクルンの元へと近づく。

 

「どうでした?」

 

「青い女が外に出て行くみたいブル」

 

「・・・・・・ちゆったら、走りでごまかそうとしてるわけ?」

 

ブルガルの報告を聞くと、ドクルンは顔を少し顰めながらそう言った。

 

「っ・・・・・・?」

 

旅館のドアの音が鳴り、ドクルンが下を覗いてみるとちゆが運動着を着て外を駆け出して行くのが見えた。

 

「でも、好都合ね。今、ちゆは一人でしょ? パートナーのペンギンもいないようですし、病気に侵さないとねぇ」

 

ドクルンは本をパタンと閉じると、その場から立ち上がる。

 

「ブルガル、ちゆをつけておいてください。私はゆっくりと歩いて来るので」

 

「・・・・・・わかったブル」

 

ドクルンにそう命じられたブルガルは駆け出したちゆの後を追い始めた。

 

ドクルンはそれを見届けてから屋根から降りるとちゆの行った方向を向く。

 

「・・・・・・ちゆ、悩むなら何も考えなくていいのよ」

 

ドクルンは口元に微笑を浮かべながら、ちゆを追うべくゆっくりと歩き出して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・のどかたちの家では、ちゆ以外のみんなが集まり、ペギタンがちゆのことを相談していた。

 

「・・・・・・つまり〜、ちゆのハートはハイジャンと旅館の2つに分かれてて、旅館の方が無くなっちゃったから、ハートのバランスが悪くなっちゃったってことだなぁ〜」

 

「「おぉ〜!!」」

 

ニャトランがハート型の紙を真ん中で2つに切り、それぞれに温泉の絵とハイジャンプの絵を書くと、ハートが描かれた真っ白な紙を使ってうまく説明しており、のどかとひなたは感心の声をあげていた。

 

「ニャトラン、すっごくわかりやすいじゃん♪」

 

「えっへへ〜、まぁニャ〜♪」

 

「まぁ♪ ニャトラン、あなたそんな説明もわかりやすくできたのね! エライわ〜!」

 

「ニャ・・・・・・な、なんかひでぇこと言われてるみたいだけど、まぁいっか♪」

 

ニャトランはひなたに褒められるが、一緒にいた中島先生の言葉にはなんとも言えないような反応を見せつつも、特に気にしないことにした。

 

「だから、今日はハイジャンの調子が出なかったんだねぇ・・・・・・」

 

「ちゆは幼い頃から、ずっと女将を目指していたのですから、やはり女将がやりたいのではありませんか?」

 

「でも、あんなハイジャン跳べるのに辞めちゃうのもったいないよぉ〜」

 

「そうだよね・・・・・・」

 

話をしていたのどかたちはみんなで腕を組んで唸りながら考え始めた。

 

「ちゆはハイジャンも大好きだし・・・旅館も大好きだし・・・・・・きっと、すごく迷ってるペエ・・・・・・」

 

「・・・・・・あっ。でもひなたちゃんのお姉さんはトリマーとカフェ、両方やってるよね?」

 

「ペエ?」

 

「んー・・・まあ、お姉のは基本家でもできるじゃん?」

 

「そっかぁ・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

そんな風に話していると・・・・・・。

 

「? ラテ・・・・・・?」

 

アスミが膝の上にいたはずのラテはいつの間にかいないことに気づいて、辺りを見渡すと・・・・・・。

 

「ワンっ♪」

 

ラテはのどかのベッドの前にいて、その下には1つの箱が見えた。

 

「何か遊びたいのかなぁ・・・・・・?」

 

気になったのどかはその箱を下から出して、中を開けてみる。

 

「・・・・・・あっ、これは」

 

のどかは取り出した、それを取り出して広げてみる。

 

「これ・・・みんなで作った応援のラビ!!」

 

「限界突破な!!」

 

「まぁ! そんなもの作ってたのね。でも、なんで石の部分だけ青いの?」

 

「えっと・・・・・・それはね・・・・・・」

 

「ニャトランが間違えたの・・・・・・ねぇ、ニャトラン・・・・・・?」

 

「ニ・・・ニャ・・・・・・」

 

のどかが見つけたのはみんなでちゆを応援するべく縫って作っていた『空へ!限界突破!』という横断幕だった。

 

「これは、どういう意味でしょうか?」

 

「えっと・・・・・・自分で無理だと思っていることを頑張って乗り越えるってことかな?」

 

「乗り越える・・・・・・自分を?」

 

「なんかさぁ・・・今の自分よりも、もっとすごい自分になる!って感じじゃない?」

 

「あっ、なるほどです」

 

のどかとひなたの説明を聞いて、アスミはなんとか理解した様子。

 

「むぅ・・・・・・ちゆが、今のちゆを超えてすっごいちゆになる・・・・・・っ、ペエエ!!」

 

ペギタンは何か考えていて、急に声を上げる。

 

「どうした、ペギタン?」

 

「ラテ様、ありがとうペエ!!」

 

「ワン♪」

 

ニャトランが驚く中、ペギタンはラテにお礼を言った。

 

「僕、行ってくるペエ!!!!」

 

ペギタンはいつもより素早い動きで、のどかの部屋を飛び出していった。

 

「ふわぁ・・・・・・すごい勢いだったね」

 

「何か、吹っ切れた感じね」

 

のどかたちがその速さに呆気にとられる中、中島先生は口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「きっと、何かいいことを閃いたのですね」

 

「ワン♪」

 

アスミはラテを抱き抱えながらそう言うと、ラテはそれに答えるように鳴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・キングビョーゲンの娘たちがアジトとする廃病院では・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

とある一室では、クルシーナが部屋の中を見て顔を不機嫌そうに顰めていた。

 

その理由は・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・あいつ」

 

部屋の中で大人しくするように命じたはずのかすみがいなくなっており、部屋がもぬけの殻となっていたからだ。

 

クルシーナが部屋の中に入って調べてみると、部屋の窓が割れていて、そこからかすみが逃げ出したのであろうと推測できる。

 

それを理解したクルシーナは指をパチンと鳴らして、手下である小さなコウモリの妖精たちを呼び出す。

 

「・・・・・・この部屋にいた女はどこにいったかわかる?」

 

クルシーナがそう告げると、小さなコウモリたちのうちの一匹が近づいて耳打ちする。

 

「・・・・・・わかった。とりあえず、追いかけるぞ。一匹はそいつに張り付け。残りはアタシに着いてきて案内しろ」

 

クルシーナは淡々とそう命令すると、小さなコウモリの妖精の一匹は窓から飛び出していき、残りのコウモリたちは集団で飛んでいき、クルシーナはその集団に向かってゆっくりと歩いていく。

 

「クルシーナ・・・・・・もう、あいつは逃がしたほうが・・・・・・」

 

「黙れっ」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

かすみを追おうとするクルシーナにウツバットがそう言うと、クルシーナは抑揚のない声で一蹴し、ウツバットは少し陰りのあるような表情を見せる。

 

「・・・・・・こっちに来ても、アタシの手間を掛けさせんなよ・・・かすみ」

 

クルシーナはかすみを追いながら、淡々とそう呟いたのであった。

 

一方、その頃・・・・・・かすみは・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

廃病院から少し離れたところで、かすみは立ち止まって息を整えていた。そして、自分がいた廃病院の方を振り向く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あいつらは、きっと追ってくるだろうな・・・・・・」

 

このまま逃げてもきっと追いつかれてしまう。だったら、この赤く蝕まれて戻らない世界からいなくなればいいか・・・・・・。

 

だが、自分にはそんな能力はないはず・・・・・・でも、ここからいなくならなければ追いつかれる。

 

そう考えていた、時だった・・・・・・。

 

「っ、何だ・・・・・・!?」

 

かすみの体が禍々しいピンク色に光ったかと思うと、何か力が湧いてきていた。かすみは自分の手のひらをじっと見つめ、ふと何かを思いついたかのように手を目の前にかざしてみる。すると・・・・・・。

 

「っ!!」

 

クルシーナが開いているような、黒いゲートが出現した。

 

「これは・・・・・・すこやか市に繋がっているのか・・・・・・?」

 

もしそうだとしたら、クルシーナたちから逃げ切れるかもしれない。そう考えた、かすみは・・・・・・。

 

「よしっ、行くしかない・・・・・・!!」

 

かすみは善は急げと言わんばかりに、黒いゲートへと飛び込んでいく。

 

その直前・・・・・・一匹の小さなコウモリの妖精がかすみの背中に張り付き、それに気づかないまま・・・・・・。

 

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