ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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今回よりオリジナルストーリーのかすみ編がスタートします。
長丁場にはなると思いますが、見守っていただければと思います。


第140話「異変」

 

昨日の夜の出来事から翌朝、のどかはいつものように登校前のランニングに打ち込んでいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、何やら考え事をしていて、その表情にいつものような晴れやかな表情はなかった。

 

昨日現れたかすみの言っていたことが頭に引っかかるのだ。自分を探さないと大変なことになる・・・・・・それは一体どういうことなのか?

 

「のどか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「のどか!! 危ないラビ!!」

 

「あっ・・・・・・!?」

 

ラビリンが先ほどからのどかの様子がおかしいことに気づいて声をかけるが、のどかは完全に思考の中だ。ラビリンが大声を張り上げると、のどかは突然立ち止まった。よそ見をしていて、木にぶつかりそうになったからだ。

 

「のどか・・・気をつけないと危ないラビ!!」

 

「ご・・・ごめんね・・・・・・」

 

ラビリンは注意が散漫になっていたのどかを叱責すると、のどかは少し落ち込んだ様子で謝る。

 

「どうかしたラビ?」

 

「え・・・・・・?」

 

「昨日、眠ってる時だって苦しそうにしてたし、今日だって靴を履き間違えてたし、どう見ても様子がおかしかったラビ・・・・・・」

 

先ほどからのどかは様子がおかしかった。昨日の夜はあまりよく覚えていないが、のどかは苦しそうに呼吸をしていて、朝はらしくない失敗をする。ラビリンが気にかけなければ、間違った格好で行くところだった。ラビリンはそんなのどかに心配して聞いてきた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ラビリンには言えないことラビ・・・・・・?」

 

のどかは顔を俯かせたまま黙ってしまう。ラビリンは何も言ってくれないことに悲しそうな表情をした。

 

そんなのどかは少し考えるように黙った後、口を開いた。

 

「・・・・・・かすみちゃんが、夢の中に出てきたの」

 

「っ!!」

 

「私を探してくれって、言われたの・・・探さないと大変なことになるって・・・・・・でも、かすみちゃんがどうしてそんなことを言うのか・・・わからないの・・・・・・」

 

のどかは昨日の夜の出来事をラビリンに話した。ラビリンはその様子を見て、どう答えていいのかわからないと言った表情を浮かべる。

 

「かすみは・・・昨日の夜、のどかの部屋に現れたラビ・・・・・・」

 

「っ!? それって本当!?」

 

ラビリンから衝撃的な言葉を聞いたのどかはラビリンに詰め寄る。

 

「でもラビリンは変なガスをかけられて眠っちゃったラビ。気がついたら、のどかが元に戻ってて、かすみもいなくなってたラビ・・・・・・」

 

「そう、なんだ・・・・・・」

 

しかし、ラビリンはかすみに眠らされてしまったため、かすみの真意を探ることはできなかった。

 

「かすみちゃん、なんで私の部屋に来たのかな・・・・・・?」

 

のどかはかすみがなぜ自分の部屋に来たのか考え始める。もしかして、かすみの夢を見たのも、苦しくなくなったのも、かすみが何かをしたからではないのか?

 

「ラビリンはのどかの方が心配ラビ・・・! 昨日、あんなに苦しそうにしてたのに・・・・・・」

 

「大丈夫だよ、ラビリン。私は元気元気! 何も心配ないよ。かすみちゃんのことも・・・・・・」

 

ラビリンが切なそうな表情でそう訴えると、のどかは微笑みながらそう諭した。

 

「さぁ!! 今日も元気に走ろう!!」

 

のどかは気を取り直すとランニングを再開する。しかし、ラビリンだけはのどかのことを心配そうに見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「カスミーナよ、気分はどうだ・・・・・・?」

 

「・・・・・・別に、どうってことはないさ」

 

黒いフードを深く被っているかすみがキングビョーゲンに呼び出されており、そこにはクルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘たちも一緒にいた。

 

「お前がビョーゲンズとして完成するためには、今お前が元気を奪っているプリキュアの存在を抹消することが条件だ。一刻も早くそのプリキュアを消滅させ、ビョーゲンズとして完全な存在になるのだ」

 

「・・・・・・承知した」

 

キングビョーゲンにそう命じられると、少し間を作った後にかすみは返事をする。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみの様子を真面目な表情で見つめていた。

 

「・・・・・・お父さん」

 

「・・・・・・どうした、ドクルン?」

 

「クラリエットがまもなく目覚めそうです。プリキュア三人の苦しみのデータは全て搾取しました。もう会話もできますよ」

 

「ほう・・・・・・ご苦労だった・・・・・・そちらの方を進みそうだな・・・・・・」

 

「ええ・・・・・・♪」

 

ドクルンは目覚めそうなクラリエットについての報告をする。

 

「あんな奴・・・起こしていいのかしらね? 正直、顔を見るのも嫌なんだけど?」

 

「私は別に起きてなくていいの。一生、寝ていればいいと思うの」

 

「二人とも、お父さんの完全復活に必要なのですよ。まあ、私もあんな姉さんを甦らせるのもどうかと思いますが、ワガママを言ってお父さんを困らせないでください」

 

「チッ・・・・・・」

 

「ふん・・・・・・」

 

クルシーナとイタイノンは不満そうに言うと、ドクルンに注意され二人は嫌そうな顔をする。

 

「クラリエットはあれでも我の娘の一人だ。奴は特に医者への憎しみが強いからな・・・・・・お前たちと奴の力を利用すれば、我の復活もそう遠くはない・・・・・・」

 

「・・・・・・まあ、お父様がそう言うなら、アタシは何も言わないけどね」

 

「・・・・・・適当にやればいいだけなの」

 

キングビョーゲンがそう言うと、クルシーナとイタイノンは一応受け入れることにした様子。

 

「では、あとは頼んだぞ。カスミーナ・・・お前には期待しているぞ・・・・・・」

 

「・・・・・・わかった」

 

「クルシーナ・・・・・・カスミーナに着いてやれ・・・・・・」

 

「わかってるわよ」

 

キングビョーゲンはかすみにそう告げると、クルシーナに事付けを頼むとキングビョーゲンはそのまま霧のように消えていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・じゃあ、ちょっと行ってくるわね」

 

かすみは消えたのを見届けると、何も言わずにそのまま背後を振り向いて歩いていく。クルシーナは一応、ドクルンとイタイノンの二人に告げるとかすみの後をついていく。

 

ビョーゲンキングダムを歩いていく二人・・・・・・。

 

「ねぇ、アンタ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「本当にのんちゃんを守りたいの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・まあ、答えたくないんだったらいいんだけどさ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナがふと気になることを問いかけるが、かすみは黙ったまま何も答えない。最初から答えを求めていなかったので、クルシーナは特に気にしなかったが、かすみはその場で立ち止まる。

 

「・・・・・・守るよ。私はそのために行動をしている。お前に連れ戻されても、方法はいくらでもある」

 

「ハッ、ビョーゲンズのくせに、なんであんな人間の肩なんか持つわけ? 人間なんか自分勝手で都合のいいことしか考えない生き物じゃない。守る価値なんかあると思えないけど?」

 

「のどかたちは違う!!!!」

 

クルシーナが人間を見下すようなことを言うと、かすみは声を張り上げる。

 

「のどかは・・・ちゆは・・・ひなたは・・・アスミは・・・みんなは、私に優しくしてくれたんだ。一緒に過ごして、わかったんだ。あそこは私の大切な場所だって、私が帰ってこれる場所だって・・・・・・」

 

「ふん・・・・・・でも、アンタは今ビョーゲンズと一緒にいるじゃない。自分でメガビョーゲンを生み出して、あの街を蝕もうとした。のんちゃんたちは今頃、アンタのことなんか嫌いだと思ってるかもしれないわよ? それでも、アンタはあいつらを守りたいの?」

 

「いいんだ・・・私はのどかを、みんなを・・・守ることができるんだったら、どうなったって構わない・・・!!」

 

クルシーナにその疑問を投げかけられても、かすみはその意志を決して曲げようとはしなかった。

 

「簡単に言うんじゃないわよ、自分がどうなったっていいだなんて。アンタが消えたら悲しむ奴がいるのよ。のんちゃんたちは悲しんだってどうでもいいけど、アンタと一緒に遊んでたフーミンやヘバリーヌは少なくとも悲しむわよ。アンタを姉のように思ってるハキケイラだってそうよ。アンタはそういう奴らに対してなんとも思わないわけ?」

 

「何も思わないわけがない・・・・・・でも、私にはどうすることもできない・・・・・・そうなる前に、私のことなんか忘れたほうがいい・・・・・・」

 

「っ・・・勝手なこと言ってくれるわよね、忘れろだなんて・・・!!」

 

クルシーナは対峙した時と同じようなことを言うが、かすみのその言葉にクルシーナは顔を顰める。

 

「何度も言うけど、お前はビョーゲンズなの!! ダルイゼンやアタシみたいに、蝕まなきゃ自分の快適な環境で生きていけないし、人間とは相容れないの!! 人間に甘いアンタだってそう!! もう関係がないなんて言うんじゃねーよ!! そんなことを思ってんなら薄情者だよ、アンタは!!」

 

クルシーナが必死さも見えるような主張をすると、かすみが振り返る。

 

「クルシーナ、お前は優しいんだな・・・ありがとう・・・・・・」

 

「はぁ? 何、お礼なんか言ってんの? バカじゃないの?」

 

「そうだな。ビョーゲンズにお礼を言うのはバカかもしれない。でも、お世話になった礼ぐらいは言わせてくれ」

 

「ふんっ・・・・・・」

 

かすみに突然、お礼を言われたクルシーナは不機嫌そうな顔でそっぽを向く。

 

「お前たちのことは何とも思ってないわけじゃない。同じビョーゲンズとして、同じ仲間として大切に思っている。でも、私はビョーゲンズの思想には賛同できないし、もう考えを曲げるつもりはないよ。私は私のやり方で、のどかを守るつもりだ。お前に何を言われようとな」

 

かすみはフードに薄っすら見える感じではあったが、口元に笑みを浮かべながらそう言うと再び歩き出した。

 

「・・・・・・なんで、アンタが・・・・・・・・・・・・」

 

クルシーナはかすみの後ろ姿を見ながらそう呟くと、再び彼女の後をついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼、のどかの中学校では・・・・・・。

 

「そう・・・・・・かすみが・・・・・・」

 

「うん・・・・・・・・・」

 

休み時間に校舎内の庭で一緒に弁当を食べているのどかたち。のどかはそんな中、昨日の出来事をちゆやひなたに話した。

 

「かすみっちは、どうしてのどかっちの前に現れたのかな・・・・・・?」

 

「わからない・・・・・・」

 

ひなたがそう疑問を呟くと、のどかは顔を俯かせたまま答える。

 

「でも・・・夢の中のかすみちゃん・・・・・・なんだか、助けを求めてるような感じだった・・・・・・」

 

「・・・・・・かすみに、何かが起こってるのかもしれないわ」

 

のどかが考えついたことを言うと、ちゆはかすみに異変が起こっているのではないかと推測する。

 

「うぇぇ!? じゃ、じゃあ、助けに行かないと!!」

 

「でも・・・・・・どうやってビョーゲンズたちのところに行くの? 私たちはあいつらの本拠地も、居場所もわからないのよ?」

 

「あ・・・・・・そうか・・・・・・」

 

ひなたはそう言うも、ちゆから真面目に諭されるとひなたは気持ちを落ち着かせる。

 

「ねぇ、のどかっち・・・もし、かすみっちが夢じゃなくて、本当に会いに来たら、どうする?」

 

「そうね・・・・・・のどかは、どうしたいの・・・・・・?」

 

「・・・・・・私は」

 

ひなたとちゆにそう聞かれたのどかは顔を下に向けたまま考え始める。

 

「答えを急ぐ必要はないと思うわ。のどかがこれだって決めたことを、のどかの中で決めればいいのよ」

 

「そうだね・・・・・・考えてみるよ・・・・・・」

 

すぐに答えを出すことができないのどかに、ちゆがそう話すとのどかは微笑む。

 

「あ、もう休み時間終わるよ?」

 

「授業に戻らないと・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

もうすぐ休み時間が終わる・・・のどかは立ち上がって教室に戻ろうとすると・・・・・・。

 

クラッ

 

「・・・・・・?」

 

「っ、のどか!!」

 

「のどかっち!?」

 

体をフラつかせて倒れそうになったのどかの体をちゆとひなたが受け止めた。

 

「あ、あれ・・・・・・?」

 

「のどかっち、大丈夫!?」

 

「なんで、体がフラついて? 朝は何ともなかったのに・・・・・・?」

 

のどかは自分がなぜ倒れそうになったのかがわからず、ひなたに大いに心配されるのであった。

 

「っ?? のどか、あなた体が冷たいわ!?」

 

「え・・・・・・?」

 

「なんかちょっと、顔色も悪くない!?」

 

「そうなの・・・・・・?」

 

「保健室に行きましょう! 今日はもう無理しないほうがいいわ!!」

 

ちゆとひなたは驚いていた。のどかの体は人の体温をしておらず、明らかに冷たかったのだ。しかもよく見れば、顔色もいつものような肌色ではなく、少し悪くなっていたのだ。

 

のどかはそれを実感できなかったが、のどかを心配したちゆとひなたによって保健室へと連れて行かれるのであった。

 

一方、ラビリンは・・・・・・・・・。

 

「のどかちゃんの様子を見て欲しい?」

 

「そうラビ・・・・・・昨日、苦しそうにしていたラビ・・・・・・!!」

 

「ワン!!」

 

ラテと一緒に休憩中の中島先生に会いに行き、のどかのことについて相談をしていた。

 

「ラビリンの気のせいなんじゃねぇのか? だって、のどかは俺たちの前じゃ全然元気だぜ?」

 

「のどか・・・肝心な時に話してくれないから、きっと体調が悪いのを隠していたラビ・・・・・・」

 

「それはそれで、いろいろと心配ペエ・・・・・・」

 

ラビリンに呼ばれて一緒についてきていたペギタンとニャトランもそう言う。

 

「う〜ん・・・でも、私に原因が何なのかわからないかもよ。特にのどかちゃんの場合は」

 

「お願いラビ!! 少しでもいいラビ!! のどかが以前から体調を崩すことが多かったラビ。その原因を突き止めたいラビ!!」

 

中島先生はあまり気が進まない様子だったが、ラビリンは必死に訴える。

 

「・・・・・・わかったわ。でも、わからないものはわからないからね。今日の診療が終わったら、のどかちゃんの家に向かうわ」

 

「っ!! ありがとうラビ!!」

 

「ふふふ、困ったときはお互い様よ♪」

 

中島先生はできるかどうかはわからないが、とりあえずやってみると承諾し、ラビリンは喜んだ。

 

「なんともねぇといいけどなぁ・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

ニャトランとペギタンはのどかの身を案じていた。

 

そんな頃・・・・・・ちゆやひなたに保健室へと運ばれたのどかは・・・・・・。

 

「のどか・・・大丈夫・・・・・・?」

 

「うん、大丈夫だよ・・・ちょっとだるいだけ・・・・・・」

 

「調子が悪いときは言うのよ・・・・・・」

 

ベッドに寝かされているのどかは、ちゆにそう聞かれて微笑みながら答える。

 

「先生いないけど・・・なんか体調に効くやつないのかな・・・・・・?」

 

「大丈夫だよ、ひなたちゃん。少し横になれば治るから・・・・・・」

 

ひなたは棚からのどかの体調に効くものを探していたが、のどかはそう言って横になる。

 

「ダメよ・・・!! のどかはすぐそうやって無茶するんだから!!」

 

「あたしも、心配だよぉ・・・・・・!!」

 

「大丈夫・・・大丈夫だから・・・今までだってちゃんと治ったんだから、これもちゃんと・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ちゆとひなたが心配してそう言う中、のどかは気丈に振舞おうとするが、なぜかのどかの呼吸が荒くなっていく。

 

「のどかっち!!」

 

「のどか!! 大丈夫!? のどか!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・大、丈夫・・・はぁ・・・大丈夫・・・・・・」

 

その様子を見て動揺も入り混じったかのようなちゆとひなたの様子。それでものどかは微笑みながら言う。よく見ると熱でも出たのか、顔が少し真っ赤になっていた。

 

「どう見たって大丈夫じゃないじゃない!!」

 

「ちょっと先生呼んでくる!!」

 

やはり体調が悪いのを我慢していたのか、ちゆが少し怒ったように叫ぶと、ひなたはそう言いながら保健室の外へと出ていく。

 

「えっと・・・こういうときは、タオルを濡らして・・・あ、そうだ、私のタオル・・・!!」

 

ちゆは少し焦っていたが、保健室の中でタオルを探そうとしたが、自分で部活で使っていたタオルがあったことを思い出して自分の教室からカバンを取りに戻っていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

その間、のどかはしばらく苦しそうに呼吸を繰り返していた。

 

「のどか・・・・・・!!」

 

しばらくして、ちゆが保健室へと戻ってきた。

 

ちゆは学校の水道を使ってタオルを濡らして絞り、のどかのおでこの上に乗せた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「のどか・・・・・・・・・」

 

ちゆはのどかを心配そうに見つめる。保健の先生はまだ来ないのだろうか。

 

そう考えていると・・・・・・。

 

「のどかっち、先生連れてきたよ!!」

 

先生を呼びに行っていたひなたが保健室に戻ってきた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・せ、先生・・・・・・」

 

保健の先生はすぐにのどかの額に手を当てる。

 

「まぁ、すごい熱じゃない!! 解熱剤、どこにあったかしら?」

 

先生は驚くと保健室の棚から解熱剤を探し始める。

 

「先生、のどかは・・・・・・!!」

 

「大丈夫よ、彼女は。あなたたちは授業に戻りなさい」

 

「うぇ? でも・・・・・・」

 

「彼女を心配するのは大切だけど、それで授業を疎かにしてはダメよ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆとひなたはのどかを心配していたが、保健の先生に教室に戻るように諭される。ひなたは気が進まなそうな表情をしていたが・・・・・・。

 

「・・・・・・わかりました。行きましょう、ひなた」

 

「うん・・・・・・」

 

のどかも大事だが、授業の方も大事・・・・・・そう言われたちゆは一応納得し、ひなたと一緒に保健室を後にしようとする。

 

「はぁ・・・ちゆ、ちゃん・・・はぁ・・・ひなた、ちゃん・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「「っ・・・・・・」」

 

「私は、大丈夫・・・だから・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

のどかは去ろうとしているちゆとひなたの方を見て微笑んで見せると、ちゆとひなたはなんとも言えない表情を見せる。

 

「のどか・・・・・・授業が終わったら来るからね・・・・・・」

 

「早く、元気になってね・・・・・・」

 

「ありがとう・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ちゆとひなたはのどかを心配そうに見つつも、後ろ髪を引かれるような思いを抱きながら保健室を後にしていくのであった。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

すこやか市のシンボルでもあるハート型の灯台の上に一つの影があった。それは黒いフードを深くまで被って、顔をわからなくさせているかすみだ。

 

「・・・・・・そろそろ始めるか」

 

かすみは神妙な様子ですこやか市の街を眺めていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみを不機嫌そうな表情で見つめていた。

 

「ねえ、アンタ・・・・・・」

 

「どうした? クルシーナ」

 

「・・・・・・いや、なんでもない。アタシちょっと向こう行ってるわ」

 

クルシーナは何かを言おうとしていたが、言っても仕方がないと判断し、そのままどこかへと行ってしまった。

 

「・・・・・・クルシーナ、すまないな。さてと、行くか」

 

かすみはクルシーナの方を向きながらそう言うと、再びすこやか市の街へと向き直る。手のひらを広げて息を吹きかけ、中ぐらいの黒い塊を出現させる。

 

「「「ナノ・・・・・・」」」

 

「・・・・・・ナノビョーゲン、行け」

 

そこから三体のナノビョーゲンが生まれ、かすみの指示を受けてすこやか市の街へと飛んでいく。

 

ーーーーはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。

 

「っ・・・のどか?」

 

ナノビョーゲンたちを見届けていると、のどかの苦しそうな呼吸音が頭の中に聞こえてきた。のどかに何かが起こっているのだろうか?

 

「・・・・・・私はもう、完成して来ているんだな」

 

のどかの声が聞こえてくるなんて、自分はビョーゲンズとして進化してきているのだろう・・・・・・かすみは自分の手のひらを見つめながらそう呟いたのであった。

 

「もう・・・手段を選んでいられないな・・・・・・」

 

かすみはそう考えると、ハート型の灯台の上から飛び降りてすこやか市の街へと向かっていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみの様子を彼女の気づかないところで静かに見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・・・・・・・」

 

「あ、起きた・・・・・・?」

 

その日の放課後、保健室で眠っていたのどかは落ち着きを取り戻し、顔色もすっかりよくなっていた。

 

「私・・・授業に行こうとしたら倒れそうになって・・・・・・」

 

「あなたを大切にしてるお友達が運んでくれたのよ」

 

のどかは体を起こすと自分がなぜここにいるのかを考えていると、保健の先生が近づいてきた。

 

「もう大丈夫?」

 

「あ、はい・・・・・・大丈夫です・・・・・・」

 

のどかは朝まではなんもなかったのに、午後になって急に体調が悪くなったのは何故なのかを考え出す。最近、大変なお手当てが続いていて疲れが溜まっていたのか? でも、走り込んで体力はつけているはず、そんなに柔な体にはなっていないはずだが・・・・・・。

 

「あなたのお友達・・・・・・心配してたわよ。早く会いに行ってあげなさい」

 

「はい・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 

のどかはベッドから起き上がって保健の先生にお礼を言いながら、教室へと戻ろうとする。

 

ガラガラァ!!

 

「のどかっち!!」

 

「のどか、大丈夫!?」

 

保健室の扉が開いたかと思うと、ちゆとひなたが飛び出してきたのだ。

 

「ちゆちゃん、ひなたちゃん・・・うん、もう大丈夫。眠ったらすっかり良くなったよ♪」

 

のどかは笑顔でそう答えるも、ちゆとひなたの心配する表情は晴れない。

 

「のどかっち〜!!」

 

「あっ・・・・・・!?」

 

「あたしはのどかっちが心配だよぉ〜、また無茶をするかもしれないじゃん!!」

 

授業を受けている間も気が気でなかったひなたがのどかを抱きしめる。

 

「私ものどかが心配よ。今日はもう家に帰ってゆっくりしていたほうがいいんじゃないかしら? 私たちが送っていくわ」

 

「ごめんね、二人とも。ありがとう・・・・・・」

 

ちゆはそう言うとのどかの鞄も持ってきてくれたようで、のどかはお礼を言った。

 

「一応、今は落ち着いているけど、念のため家で安静にしておいたほうがいいわ。無理をすると再びぶり返す可能性があるかもしれないからね」

 

「はい・・・あの、ありがとうございました」

 

「私は保健の先生として、当たり前のことをしただけよ。お大事にね」

 

保健の先生はそう告げると、のどかはお礼を言って保健室を後にしていった。

 

「ふぅ・・・・・・・・・」

 

保健の先生は席について一息つくと、持ってきたコーヒーで一服する。

 

「ナノ・・・・・・・・・」

 

そんな時、わずかな隙間から入り込んできたナノビョーゲンがそんな先生を狙っていたのであった。

 

一方、その頃・・・・・・すこやか病院では・・・・・・。

 

「中島先生、ありがとうラビ。のどかのために・・・・・・」

 

「いいのよ。困ったときはお互い様でしょ?」

 

診療を終えた中島先生がのどかの家に向かっている最中であった。

 

「先生って優しいよなぁ〜、ヒーリングアニマルの俺たちでも見習いたいぐらいだぜ」

 

「まぁ、ニャトランったら勉強ができたの? すごいわね。そんなことできないと思ってたわ」

 

「ど、どういう意味だよ〜!? 先生!!」

 

「ニャトランがそれだけ真面目だって思われていないペエ・・・・・・」

 

中島先生とヒーリングアニマルたちがそんな話をしていると・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!! クチュン!!」

 

「「「ラテ様!?」」」

 

「ラテちゃん!?」

 

中島先生が抱いているラテがくしゃみを三回し出し、体調が一気に悪くなった。これはビョーゲンズが現れたという合図だ。

 

「えっと・・・こういう時はどうすればいいの・・・・・・?」

 

ラテの力はラビリンたちから知らされていたが、いざとなるとどうすればいいか戸惑う中島先生。ラビリンたちは持っていたヒーリングルームバッグから聴診器を取り出して、ラテを診察する。

 

(のどかたちの学校で先生が泣いてるラテ・・・・・・あっちのほうで、赤いお花さんが泣いてるラテ・・・・・・あっちのほうで、大きな白い車が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「おい、マジかよ!? 三体も同時に現れたのか!?」

 

「しかも、そのうち一体はギガビョーゲンペエ・・・・・・!!」

 

「大変ラビ!!」

 

「のどかちゃんたちの元に行って、知らせに行きましょう!!」

 

なんということだ。いきなり三体も同時に怪物が現れたらしい。しかも、そのうち一体はこれまでにも苦戦を強いられてきたギガビョーゲンだ。このままではすこやか市が危ない。

 

中島先生たちは急いで、のどかたちのいる学校へと駆け出していくのであった。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「三体はもう取り憑いたか、そのうち一体がギガビョーゲンになったのは意外だったが・・・・・・」

 

ハート型の灯台のある場所から、すこやか駅の近くにかすみが現れていた。

 

「念のため、もう一体を・・・・・・どうするか・・・・・・」

 

そう呟いていると・・・・・・。

 

ガタンゴトンガタンゴトン・・・・・・。

 

「っ?」

 

近くで何かが走る音が聞こえ、その音に振り向くとそれはすこやか駅を走る電車だった。

 

「あれを使うか・・・・・・」

 

かすみはそれを利用するために、再び手のひらを広げるとそこに息を吹きかけ、黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン・・・・・・」

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、電車に向かって飛んでいき取り憑く。

 

「・・・!?・・・!!」

 

電車の中に宿っているエレメントさんが取り込まれていく。

 

「メガメガ〜、ビョーゲン!!」

 

電車の姿を模したメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガッメガッ!! メガッメガッ!!」

 

メガビョーゲンは早速、電車のような声を漏らしながらすこやか駅の周囲を走り、その場所を蝕んでいく。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

通勤中の乗客たちがメガビョーゲンに気づいて、悲鳴を上げながら逃げ出していく。

 

「・・・・・・のどか、私を・・・・・・見つけてくれ・・・・・・」

 

かすみはそう呟きながら、何もない虚空を見上げるのであった。

 


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