ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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今回も長くなったので、何回か分けます。
まずは前編になります。


第16話「氷室」

 

ビョーゲンキングダム、そこではシンドイーネが何やらダーツのようなものをやろうとしている模様。

 

的となるものは、赤いハートマークのものと青く割れたようなハートマークがあり、明らかに赤いハートマークの方が比率が広いものであった。

 

「・・・何やってんの? あれ」

 

「またおかしなことをしてるの・・・」

 

岩場に寝そべってその様子を見ているクルシーナが、隣で座って見ているグアイワルに声をかける。クルシーナの横にはイタイノンもいる。

 

「・・・占いだ」

 

「占い?」

 

「『キングビョーゲン様の気持ちを射止められるか? 射止められないか?』だとよ・・・」

 

グアイワルが呆れたように見るクルシーナに説明する。

 

「何なの、それ? なの」

 

「おばさんがお父様の心を射止める? ありえないんだけど」

 

イタイノンは少々呆れ気味に、クルシーナが嘲笑したように言う。

 

「そこ、うるさい!! せっかく練習してるのに、集中乱さないでくれる?」

 

シンドイーネが苛立ったように言う。

 

・・・っていうか、練習?

 

「練習がある占いなんて聞いたことがないぞ」

 

「何言ってんだか・・・」

 

「もうすでに頭がおかしいの・・・」

 

ダンッ!!!!!

 

3人が小バカにしたように言うと、シンドイーネが右足を地面に叩きつける。

 

「あるんですぅ~!! いい結果を出すためには練習必須なんですぅ~!!」

 

そう言って振り向きざまにダーツを投げるシンドイーネだが、矢はよりにもよって比率の狭い青く割れたハートマークの方へと刺さった・・・。

 

「いやあぁぁぁぁぁ!!!」

 

頭を抱えて悲鳴をあげるシンドイーネ。

 

「もはや、ヘタクソなダーツを見せつけられただけなの・・・」

 

呆れたように見ていたイタイノンは興味をなくして、その場から立ち去っていく。

 

「・・・バッカみたい、占いなんて」

 

実にくだらないと、クルシーナも溜息を吐くと、起き上がってその場を後にしようとする。

 

「ん?」

 

地球へ行って種の様子を見に行こうと思った矢先、ドクルンが何やら試験管とにらめっこしているのが見えた。

 

そういえば、いつの日か作戦に付き合ってくださいと言われていたような気がする。クルシーナはそれを思い出すとドクルンへと近づいていく。

 

「・・・何してんの?」

 

「ん? ああ、クルシーナですか」

 

ドクルンはクルシーナの方を向くと、再び試験管の方へ視線を戻す。

 

「ある作戦のために、作っているのですが、なかなかうまくいかなくてですね・・・」

 

「ふーん・・・」

 

ドクルンにしては珍しく真面目だ。クルシーナは内心そう思った。

 

三人娘の一人としてビョーゲンズにいるので、私にはわかる。こういうときのドクルンは大概本気である。いつものヘラヘラしたような態度とは全然違う。彼女からはそんなオーラを感じていた。

 

クルシーナは顎に手を添えて考えると、そういえば珍しい植物が育ったから詰んで持ってきてたことを思い出す。

 

「・・・じゃあ、これ使えば?」

 

集中しているドクルンの目の前にその植物を差し出す。

 

それは、帽子をかぶったような人の姿をしたような花弁を持つ花・・・。

 

「・・・なんですか? これは」

 

ドクルンはメガネを上げながら問う。こんな花、見たこともないし、名前も知らないが・・・。

 

「オルキス・イタリカ、花弁のところが人間みたいに見えるでしょ?」

 

ドクルンはクルシーナから花を受け取ると、じっくりとその花を観察する。

 

「ふむ、なんとも奇妙な花ですね・・・」

 

あくびをするクルシーナをよそにドクルンは花をじっくりと見ていたが、彼女は何かを思いついたのか、顔を不敵な笑みにさせる。

 

「・・・何か思いついたの?」

 

「ええ、あの娘を貶めるためのね・・・」

 

「あっそ」

 

クルシーナは頭を掻きながらそう言って、その場を立ち去ろうとしたが・・・・・・。

 

「ちょっと待ってください」

 

ドクルンが肩を掴み、クルシーナを引き止める。

 

「・・・何? 地球を蝕みに行きたいんだけど?」

 

止められたクルシーナは不機嫌そうな顔を向ける。どうせ面倒なことに付き合わされるに決まってる

そう思って立ち去ろうとしたのだが・・・ドクルンは真面目な表情だった。

 

「それは結構ですが、ちょっと私の作戦に付き合ってもらえませんか?」

 

「・・・?」

 

首をかしげるクルシーナ。それに対して、ドクルンはほくそ笑んでいた。

 

ドクルンは手招きするかのように手を振ると、クルシーナは耳を傾ける。

 

コショコショ・・・コショコショコショコショ・・・・・・。

 

ドクルンはクルシーナの耳元で何かを話すと、少し顰めたような顔をする。

 

「・・・それってホントにやんなきゃいけないの?」

 

「任せてください。あなたには一つたりとも損という文字はありませんよ・・・フフフ」

 

疑うようなジト目をしながら言うクルシーナに、ドクルンはメガネを上げながら笑い声を漏らすのであった。

 

正直、それはクルシーナにとってはとても不本意な作戦だったのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、作戦が決行されるまでの間、地球へと降りることにしたクルシーナ。すこやか中学校の校舎の屋上で、陸上部とやらの練習風景を見下ろしている。

 

彼女の視界には、藍色の髪の少女が走高跳びをしているのが見えた。

 

他の場所では砲丸投げやハードル走に励んでいる生徒もいて、何やらいつも以上に気合いが入っているように見受けられる。

 

相変わらず、ここの連中は運動神経がよくて、健康的な人間ばかりだ。全くもってイライラする。

 

金網の壁の方を見れば、栗色の髪の少女と、自身が病気の種を植え付けたマゼンダ色の髪の少女が、藍色の髪の少女の様子を見守っているのが見える。

 

後者をよく観察してみると、種は体内にあるようだが、現在はそんなに大きな変化を見せる様子はない模様。ただ、少しずつ彼女の生命力を吸収しているのはわかる。

 

まあ、しばらく経てば彼女はまた苦しみだすので、楽しみに置いておくとして、今はドクルンが気にしているという藍色の髪の少女の方を見る。

 

走高跳びをしているところを見れば、運動神経はいい方だろう。プリキュアになってからのあの身体能力、確かにキレがあるのは頷けるだろう。

 

しかし、クルシーナにはわからない点が一つ・・・。

 

「・・・あいつ、あの女のどこに執着してるんだろうかね・・・」

 

「別に普通の少女ウツ」

 

ドクルンが2度目の出撃以来、あの藍色の少女のことを気にしている。最近では、廃病院の自室に籠もって何やら没頭しているし、さっきも何かをしていた。クルシーナ好みの少女ではあるが、ちょっと生意気そうな感じがして、彼女の趣味には程遠い。

 

結局、いくら考えてもわからず、ドクロマークのリンゴを取り出すと一口かじる。

 

「クルシーナ、僕にも欲しいウツ!」

 

「・・・ん」

 

クルシーナはリンゴを帽子になっているウツバットに近づけ、コウモリはかじりついて咀嚼する。

 

何の面白い変化もないまま、眼前の敵を覗いていると、走り高跳びをしていた藍色の髪の少女が飛んでいた棒がマットへと落ちた。どうやら、飛び越えるのに失敗したらしい。

 

「・・・あいつ、失敗したわね」

 

「何か動揺の匂いがするウツ」

 

そんなことを話しているうちに、どうやら部活は終了したらしく、女生徒たちが物を持って校舎へと駆けていく姿が見えた。

 

「まあ、弱みとしてはいいかもしれないけど、別に面白くもないわね」

 

「期待はずれだったウツ」

 

見れば、藍色の髪の少女はショックを受けているようにも見え、クルシーナが本気を出せば何かと弱みは握れそうな感じはした。でも、ただそれだけだ。

 

その後も観察を続けたが、特に面白いことが起こったわけでもなく、藍色の髪の少女が帰宅準備を始めたところで、クルシーナはその日、メガビョーゲンを出さずにその場を去った。

 

廃病院へと戻ってくると、ある一室で寝そべっている。

 

「・・・・・・・・・」

 

「クルシーナ・・・」

 

「・・・何よ?」

 

「ドクルン、何考えてるんだウツ?」

 

「知ってりゃ苦労しないわよ、そんなもん」

 

ウツバットは素朴な疑問をすると、クルシーナは苛立ったような素っ気ない口調で答える。前々から何を考えているのかわからないやつだったが、今回はいつにも増して何を考えているのかわかりもしない。

 

・・・って言うか、そんなわかりきったことを聞くなと。クルシーナは再び目を瞑る。

 

しかし、この一室にクルシーナと同じくらい苛立っているものがいた。

 

「って、何で私の部屋で寝てるの・・・?」

 

イタイノンが当たり前のように自分の部屋で寝そべるクルシーナにジト目をする。

 

「別にいいでしょ、減るもんじゃあるまいし」

 

「私の過ごすスペースが減るの!!」

 

「うるっさいわね・・・場所ぐらいでグダグダと・・・!!」

 

クルシーナがだるそうに当然のように言うと、イタイノンが苛立ったような口調で言う。

 

少し声を荒らげてみたが、クルシーナは不機嫌そうな声で返す。彼女が退く気配が全くなく、追い出すのを諦めたイタイノンはゲーム機へと視線を戻した。

 

「ねえ、あんた・・・」

 

「・・・何?なの」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

「・・・・・・・・・?」

 

何かを聞こうとしてやめたクルシーナは横になる。イタイノンはゲーム機からクルシーナへと視線を戻し、首をかしげるのであった。

 

コンコンコン・・・。

 

「クルシーナ!」

 

ドアがノックするような音が聞こえると、ふざけたような口調が聞こえてくる。

 

クルシーナはため息をついて立ち上がると、ドアの方へと向かい扉を開ける。

 

「・・・何?」

 

「あるものができましたので、実験に付き合ってもらえます?」

 

「は・・・?」

 

不機嫌そうな顔で言うクルシーナに、ドクルンは一言言うと背を向けて歩き出す。

 

クルシーナは帽子のウツバットと目を合わせると、ドクルンの方へと歩いていく。

 

二人がやってきたのは、地下の実験室。とは言っても、ベッドで横たわる少女とは別の、暗くて無機質で何もない部屋だった。かろうじてあるのは、白いデスクだけ。

 

「・・・それで? 実験って何なわけ?」

 

クルシーナは面倒臭そうな声で言う。アタシをここまで連れ出しておいたからには、まともなものができているんだろうな・・・しょうもないものだったら承知しない・・・時間を返せと思う。

 

「これを食べてもらえますか?」

 

ドクルンが差し出したのは人型の何かが入った丸い玉、食べ物とは言い難いような奇妙なものであった。

 

差し出された玉を受け取り、マジマジと見るクルシーナ。

 

「・・・何これ?」

 

「食べてもらえればわかりますよ」

 

ドクルンって元から変なやつだけど、やっぱりいつにも増して変なやつだ。何か花の香りがするのを感じるが、ちょっと食べるものにしては、おかしすぎるだろう。

 

「・・・こんな得体の知れないものをアタシに食べろと?」

 

「お願いしますよぉ、きっとあなたにも役に立つはずです・・・」

 

ドクルンが媚を売るような声を発したため、クルシーナはさらに顰めつつ、もう一度玉を見つめる。

 

まあ、変なこと変だけど、こいつの実験は失敗したことはないし、とりあえず騙されたと思って口に入れてみるのもいいだろう。

 

クルシーナは玉を口の中へと放る。かじるとパキパキパキと硬いものが砕けるような音がする。食感的には、顎にはいいかもしれない・・・味は、ほのかに甘ったるい・・・?

 

ゴクリと飲み込む。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

「何も起きないけど・・・?」

 

「おお!おおおお!!」

 

失敗したんじゃないかと思うクルシーナに対して、こっちを見て感嘆の声を上げるドクルン。

 

「何よ?」

 

「成功! 成功しましたよぉ~!」

 

「は? っていうか、何かムズムズして・・・」

 

わけわからないというクルシーナに対して、ドクルンの表情は喜んでいる。そういえば、頭とお尻の部分が何か違和感を感じる・・・。

 

「これでよーく、自分をみてください」

 

ドクルンは何やら手鏡を差し出してきた。疑問に思いながらも、手鏡で自分を覗き込む。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・あれ? 誰、こいつ? 人間みたいな肌色をしている。

 

手でその顔を触ってみる。

 

・・・うん。これは私の顔だ。触れば感触はするし、頬を抓ってみれば普通に痛みを感じる。

 

自身の右腕を見る、肌色。

 

太腿を見る、肌色。

 

服をめくってお腹を見てみる、肌色。

 

自分の肌が全て人間のような肌色になっていた。

 

「頭とお尻も見てみてください」

 

ドクルンに言われて、恐る恐る帽子を取ってみる。

 

・・・悪魔のツノがない。ビョーゲンズの象徴である赤いツノが、私のチャームポイントがない。あるのは自身の黒髪だけだ。手で触ってもサラサラした感触だけ。

 

お尻の部分を見てみると、生えているはずのサソリのような尻尾もなくなっている。これもビョーゲンズだからこそあるもの、きれいさっぱりなくなっている・・・・・・。別に透明になったとかそんなことはなく、尻尾があるような感じはしない。

 

「・・・これが、アタシ?」

 

「間違いなくクルシーナですよ、人間になった、ねぇ」

 

そう、クルシーナは人間となっていたのだ。自分の体は全て肌色に変わり、悪魔のツノと尻尾が引っ込んでスッキリとなくなり、見た目は普通の人間となっていた。

 

「あんた、アタシに何を食わせたわけ?」

 

「人間の擬態能力を身につける玉ですよ。あなたがこの前持ってきた花をどうにか利用できないかと思いましてねぇ・・・」

 

ドクルンは左指を鳴らすと、彼女の肌は人間のような肌色になり、悪魔のツノが消えて、サソリの尻尾が消えた。

 

「あんたも、やってたわけ?」

 

「すでに実証済みですよ。地球に赴くんであれば、人間になっておいたほうが都合がいいでしょう?」

 

それを聞いてクルシーナは顔を顰める。そんなのは建前で、本当はアタシを人間に変化させて反応を見ようとしたのだろう。面白い反応でも期待していたのかもしれない。

 

本当に嫌な奴だ・・・イライラする・・・。

 

っていうか、ダルイゼンたちは普通に今の姿でも、誰にも違和感を抱かれることなく出撃していたような気がするが・・・まあ、特に困るようなこともないので、この能力は持っておくことにした。

 

クルシーナは右指を鳴らすと、擬態能力が解除されて薄いピンク色の肌に戻り、赤いツノとサソリのような尻尾も生えてきた。

 

「・・・あ、戻るんだ・・・」

 

手鏡を見ながらクルシーナが言う。

 

・・・でも、今の自分には必要ないから、とりあえずは元に戻しておこう。

 

実験は成功したとして、そろそろ本題に戻さなくては・・・。

 

「それで? これでどうやって作戦を決行するわけ?」

 

手鏡を捨てるように後ろへ放ると、腰に手を当ててクルシーナが問いただそうとする。

 

ドクルンはその質問を待っていたかのように、メガネを上げてニヤリと笑った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペギタンは最近のちゆの調子が悪いことを心配していた。

 

彼女は一緒にプリキュアとして戦うパートナーだが、それ以前に走り高跳びの選手で、県大会の記録保持者でもある。しかし、ここ最近の彼女はバーを落とすことが多く、明らかなスランプに陥っていた。

 

しかも、毎日練習に行っている。学校の放課後だけでなく、休みの日曜日まで練習に出ようとするちゆにペギタンは休んだほうがいいんじゃないかと言うも、ちゆは笑顔で練習場へと向かっていった。

 

ちゆはなんで急に飛べなくなったのか・・・もしかしたら、病気かもしれない・・・。

 

ペギタンは大急ぎでヒーリングルームバッグの中へと入り、本棚を漁り始める。本を何冊もめくっていくと、とある病気へとたどり着いた。

 

イップス・・・・・・それは、簡単にできたことが急にできなくなり、できなかったことが気になって更にできなくなるという精神的な病気・・・。

 

スポーツ選手などがこの病気にかかって、スポーツをすること自体をやめてしまうことがほとんどだという。

 

ペギタンは青い体を更に青ざめさせ、汗をダラダラと流し始める。

 

ーーーーちゆがこのままでは、スポーツ選手と同じように、走り高跳びをやめかねない・・・!!

 

ペギタンはちゆの症状を伝えるべく、家を飛び出した。

 

一方、ラビリンは・・・・・・。

 

「ラテ様、お加減はいかがラビ?」

 

「ワフ~」

 

ラテはラビリンにマッサージをされていて、気持ちよさそうにしていた。

 

のどかは現在、出かけていて、今はこの2人がいる。ほっこりとしていて、平和的な光景だ。

 

「大変ペエ~!!!!」

 

「わぁ!?」

 

そこへペギタンの叫び声が聞こえ、何事かと驚くラビリン。

 

「イップスイップスイップスイップス!!!」

 

「えっ、何ラビ!?」

 

テンパったように話すペギタンに、ラビリンはあまり状況をつかめていない様子。

 

「早くみんなでお手当ての方法を考えないと!! のどかは!? のどかはどこペエ!?」

 

慌てたようにきょろきょろとするペギタン。今日は中学校はお休みのはずだが、家にいるはずののどかの様子は見えない。

 

「ひなたとお買い物に行ったラビ」

 

「ええ!? お買い物!!??」

 

ラビリンのとんでもない発言に、驚愕するペギタン。

 

のどかとひなたはちゆが今、どんな状況に陥っているか理解しているはず・・・なのに、まさか遊びに行った・・・!?

 

二人でお買い物をしている様子が嫌でも目に浮かぶ。

 

「きっとお買い物も済んだころラビ。これからラビリンたちもひなたの家にーーーー」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「ああ、ペギタン!?」

 

ペギタンはラビリンの話を最後まで聞かずに、大泣きしながらのどかの家から飛び出して行ってしまった。

 

「ひどいペエ!! ちゆは一人で悩んでるペエ!! なのにこんなときに遊んでるなんてひどいペエ!!!」

 

泣きじゃくりながら、それでも「ひどいひどい」と怒りながら飛んでいくペギタン。

 

その様子を一人の、小さなマスコットのような生き物が伺っていた。

 

「ふん・・・相変わらず、泣き虫で落ち着きのないやつだブル・・・」

 

狼の姿をした妖精ーーーーブルガルだった。ドクルンが別の場所に行っていて、手を離せないという理由で一人偵察に来たのだが、たまたま喚く声が聞こえたので、その様子を見に来たのだ。

 

ペギタンが一人・・・それにあいつは人間のパートナーがいたはず・・・ということは、その人間は今一人か・・・。

 

「・・・これはいい情報だブル」

 

ブルガルは笑みを浮かべると、自分の相棒に報告すべくその場を飛び去っていく。

 

一方、ちゆは学校の校庭でひたすらハイジャンプを続けていた。しかし、棒は変わらずに落ちてうまくいっていない模様。

 

すでに何度も飛んでいるのか、息も切れていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

でも、飛び越えることを諦めたくない・・・! そんな思いから、ちゆは再び飛ぶべくバーを元に戻していく。

 

その様子を、クルシーナが学校の屋上から様子を伺っていた。

 

「・・・あいつ、なんであんなに頑張るウツ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはちゆの一生懸命な様子を不機嫌そうな顔で眺めつつも、ある映像がフラッシュバックしていた。

 

ーーーー必死な表情でこちらに声をかけてくる男性

 

ーーーー男女のコンビが、その男性に頭を下げられている。

 

「・・・・・・・・・」

 

正直、さっきのウツバットの言葉に、クルシーナも内心では同意だった。努力なんかしたところで意味なんかない。どうせ、そんなもの潰せば消えてしまうものなのだから。

 

「ふん・・・疲れるまで頑張っちゃって、バッカみたい。どうせ、飛べやしないのにさ」

 

クルシーナは鼻を鳴らしてそっぽを向き、ちゆの努力を否定する。

 

もうあの女は何度も棒を飛び越えることを失敗している。その度に棒を戻しては、落とし、棒を戻しては、落とし、棒を戻しては、落としを繰り返している。

 

さっきから、同じ映像を見せられているかのような無駄なあがきの繰り返しだ。クルシーナにとっては見苦しいようにも見えている。

 

「だから、彼女は残酷なのですよ」

 

「は・・・?」

 

隣で共に様子を見ているドクルンの言葉に、クルシーナが何を言っているんだと言いたげに返す。

 

「あの娘は、相手のことを心配せずにはいられない、しかも、自分が辛いことがあっても、一人で抱えようとする。相手に気を遣って自分のことを疎かにするなど、死にたいと訴えている生き物を生かそうとしているのと一緒です・・・」

 

「いや、何言ってんのか、さっぱりわかんない・・・」

 

クルシーナは呆れたような態度をとり、ドクルンの言葉を聞き流すことにした。

 

でも、クルシーナにも思い当たる奴はいる。キュアグレースーーーーあいつも生意気なピンクのウサギを助けるために自分を犠牲にして、自らが病気に冒された。地球を守ろうとしている、あいつの神経がどういうものなのか全然理解できなかった。

 

ちゆを偵察しているうちに、ブルガルがこちらに戻ってきた。

 

「おや、ブルガル、そっちはどうでしたか?」

 

ブルガルはドクルンの耳元にコショコショと偵察してきた様子を話す。それを聞いた彼女は、何か悪いことを思いついたかのような顔でほくそ笑む。

 

「そうですか、ご苦労様です」

 

「いろいろとチャンスだブル」

 

ブルガルはそう言うとドクルンのスタッドチョーカーへと戻る。

 

「・・・チャンスって何が?」

 

「もちろん、作戦決行のチャンスに決まってるじゃないですかぁ・・・」

 

ドクルンはニヤリとしながら、クルシーナの疑問に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月3日、日曜日ーーーー。

 

この日は、すこやか中学校の陸上部が出場する、春の陸上大会の日。

 

ちゆはいつものようにランニングウェアに着替えて、準備を終えると外へと繰り出す。

 

いつもちゆの隣で眠っているペギタンは、今日だけはのどかと一緒の家で泊まらせてもらっている。だから、大会の会場へと向かうのはちゆ一人だ。

 

空を見上げながら、自分は飛べる、いや、飛ぶんだと言い聞かせる。

 

「・・・よし!」

 

ちゆは足早に会場へと向かう。場所は、すこやか市にある競技場、そこには多くの選手や仲間が陸上大会を見に来ているはず。

 

この数日間は、正直スランプでいっぱいだった。すこ中ジャーナルを自称する益子道男のカメラから、自身の県大会の記録を超えたものが現れたと聞き、少し動揺していた。そのときは、自分の敵は自分と言い聞かせたものの、動揺は体の方に現れ、誤ってバーに足が当たり、ハイジャンプを失敗してしまった。

 

その後は来る日も来る日も、ハイジャンプの練習を続け、失敗ばかりだ。自分が動ける限界まで、ハイジャンプを続け、どんなに体が悲鳴を上げても飛びたいと思い、練習を重ねた。

 

そんな自分を無理しているんじゃないかと友達ののどかやひなたも心配してくれたが、ちゆは二人にこういったのだ。

 

ーーーーそれでも、私は飛びたい。今は無理してでも、自分の限界を超えたい。

 

ちゆは辛いけど、二人には笑顔を見せた。そして、今日はその努力の成果を見せるときがきた。

 

そんな思いを持ちながら、ちゆは会場へと向かうのだ。

 

そんな中、彼女がとある少女の前を通り過ぎたときだった。

 

「うっ・・・!!」

 

水玉模様のワンピースを着て、日傘を持ったポニーテールをした少女は突然、胸を押さえて苦しみ出し、膝をつき始めたのだ。

 

「!? 大丈夫ですか!?」

 

ちゆは突然倒れそうになった人を放ってはおけず、彼女に駆け寄る。彼女が膝をついた瞬間に、落としてばら撒いてしまったカバンの中身を拾い始め、差していた日傘も拾う。

 

「薬・・・」

 

「え?」

 

「そのカバンの中に心臓の薬が・・・それを飲まないと・・・!」

 

胸を押さえて苦しみながら、ちゆが持っているカバンに指を差す。

 

「薬ですね! ちょっと待っててください!!」

 

ちゆは少女のカバンの中を弄ると、その中から白い錠剤のようなものがあるのが見え、それを取り出す。

 

「これを・・・!!」

 

「こ、これです・・・うっ!!」

 

ポニーテールの少女は受け取ろうとしたが、さらに胸を強く押さえつけて苦しみ始め倒れそうになる。ちゆは地面へと落ちそうになる体を抱きとめる。

 

「しっかりしてください!大丈夫ですか!?」

 

早く救急車を呼ばなくては・・・!!

 

ちゆはそう思い、携帯電話を取り出そうとした、その時・・・・・・!!

 

「・・・え、ええ、ありがとうございますーーーー」

 

ドスッ!!!!!

 

「・・・・・・えっ?」

 

ちゆは体が突然、反射したかのようにビクッと右に一瞬動いたのを感じ、疑問の声を漏らす。

 

何やら体に痛みを感じ、顔を恐る恐る下に映してみると・・・・・・。

 

腹部に突き刺さった黒色の六角形のようなもの・・・そして、それを手に持っている左腕をたどるように見ていくと・・・。

 

「フフフ・・・」

 

自分が助けようとしていた少女が、ニヤリと笑みを浮かべている姿だった。

 

「・・・!?・・・あ・・・」

 

ちゆはそれを認識した瞬間、体が震えて急激に力が抜けていくのを感じた。少女をうまく支えることができず、膝をついてしまう。

 

「全く、そうやって他人に構っているから足元を掬われるんですよ」

 

少女はポケットからメガネを取り出してかけ、ポニーテールの髪型のかつらを取ってボサボサの髪型に戻し、左指を鳴らす。すると、彼女の肌色は薄い黄緑色の明らかに人間ではない肌へと戻っていき、服装は白衣を纏った研究員のような格好、そして頭に悪魔のようなツノ、お尻に尻尾が生えてきた。

 

ちゆは彼女のことを見たことがある、彼女はビョーゲンズの・・・。

 

「ド、ドク、ルン・・・!」

 

そう、少女はドクルンが擬態していた姿だったのだ。ドクルンはちゆが気になっている人、もとい困った人を放っておけない性格をしていることを、彼女がキュアフォンテーヌとして対峙した頃から分かっていた。

 

さらにちゆが走り高跳びのハイジャンプがうまくいってないこともクルシーナから情報を得ており、焦っているということも分かっていた。

 

つまり、ちゆはドクルンにその心の隙をつけこまれて、罠にはまってしまったのだ。

 

呆然とするちゆを前に、ドクルンは右手を彼女の後頭部へと持っていくと、そのまま自分の顔へと近づけ、口づけを交わす。

 

「んん!?」

 

突然のドクルンの行いに目を見開くちゆ。ドクルンは彼女が息ができないくらいのディープキスをしっかりと交わす。

 

「んん!! んんぅ!!」

 

ちゆは首を振って口を離そうとするも、体から力が抜けていっており、ドクルンの口づけから顔を離すことができない。

 

ドクルンはちゆの体に何かが入ったのを確認すると、左手で黒い六角形のようなものを彼女の体から抜き取る。

 

「ぷはっ・・・」

 

ドクルンはちゆの顔から口を離すと、今度は両手で頬をつかんで表情を覗き込む。

 

「・・・っ」

 

「おや? まだそんな表情ができるのですか? 健気なものですねぇ・・・」

 

ちゆがこちらを睨みつけているのを見て、口元に笑みをこぼすドクルン。

 

「な、なんの、ために・・・こんな、ことを・・・!?」

 

ちゆは動かなくなっていく体に鞭を打って、声を絞り出す。目がチカチカと点滅し始めている。

 

( 意識が・・・)

 

「ちょっとした興味でねぇ、健康的で健全なあなたを病気に侵したら、どうなるのかなと思いまして・・・」

 

ちゆは頭がぼーっとしていくのを感じる・・・。チカチカとピントが合わなくなっていく視界に、黒みがかかっていく。

 

「まあ、死なせはしませんよ。お友達が悲しむでしょうしねぇ・・・」

 

クスクスと笑うドクルンを尻目に、ちゆの体から完全に力が抜け、前のめりに倒れていく。

 

ドクルンはそんな彼女の体を地面に落ちる前に片手で受け止める。

 

「フフフ・・・」

 

不敵に笑うドクルンに対し、ちゆは体に力が入らず、意識が朦朧としていく。すでに瞳は虚ろになっていた。

 

(・・・のど、か・・・ひな、た・・・ペギ・・・タン・・・)

 

競技場の会場へと向かっているはずの友人二人と、大切なパートナーのことを思い返しながら、ちゆの意識は闇へと落ちていった・・・。

 

「所詮はプリキュアも、変身できなければただの人間ですね・・・」

 

ドクルンは完全に意識を失ったちゆをお姫様抱っこのように担ぐと、上空へと飛び上がっていく。

 

「ドクルン、そいつをどうするブル?」

 

「そいつは見てのお楽しみです・・・」

 

ドクルンはブルガルに小悪魔っぽく答えると、どこともしれない空を見上げながら言う。

 

「さて、あとはあなたの本領発揮ですよ、クルシーナ」

 

ドクルンは作戦を実行中の同僚に期待しながら、ちゆをある場所へと連れていくのであった・・・。

 

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