ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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前回の続きです。
今回は後日談みたいなものと思ってもらえればと思います。


第19話「氷解」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ちゆは寒さと苦しさの中で意識が朦朧としていく・・・。それはまるで、もう死にたいと思うほどの苦しさ・・・自分がいつ死ぬのかもわからない・・・そんな恐怖さえも彼女の心を蝕んでいた・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・

 

そこにノイズが走っていった後、映像が徐々にクリアになってある映像を映し出す。

 

ーーーー幼い頃、浮き輪で海を泳ぎ、空を見上げる自分だ。

 

小さい頃は泳ぐのが好きだったちゆ。いつものように海へ出て、夢中で泳いでいたとき、気がついたらそこは海と空の色も相まって、青一色の美しい景色だった。

 

このまま海を越えれば、空に届きそうで・・・空を泳いでみたい・・・ちゆはそう思った・・・。

 

空に向かって飛べば、きっと空も泳げるーーーーそんな思いが、ハイジャンプを始めようというきっかけにもなった。

 

自分が限界を超えたとき、この海を思い出せば、また飛べる・・・また飛びたいって思う・・・海と空が飛び越えていけると思った。

 

「ぁ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

まるで肺から空気が抜けていくかのように、苦しさが増し、息がうまくできなくなる・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

映像に再びノイズが走り、クリアになってきたかと思うと、別の映像を映し出す。

 

ーーーーペットボトルのようなロケットを空に打ち上げようとしている、一人の少女。

 

・・・あれ? こんなきおく、あったかしら・・・? なにやらきおくがあいまいだ。

 

そういえば、ハイジャンプのれんしゅうちゅうに、メガネをかけたこがなにをやっているのかがきになって、こえをかけたことがあるような・・・。

 

それで、そのこはわたしにびしょうをうかべながら、こっちをむいてくれていたような・・・。

 

あまりおぼろげでおもいだせない・・・しっているようなきがするけど・・・だれだったかしら・・・?

 

「ひゅう・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

く、苦し・・・・・・いきがすえていない・・・さんそがたりない・・・・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・

 

映像にノイズが走ったかと思うと、また別の映像が映し出された・・・。

 

ーーーーベッドに横たわる少女。私はその少女を見ている。

 

・・・これもおぼえがない・・・このこはいったい、だれなのだろうか・・・?

 

「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ぅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

くるし・・・クルシイ・・・びょうきになる、って、こんな、に、クルシかった、の・・・?

 

ーーーーゆ!! ちゆ!! しっかりする・・・!!

 

だれかがわたしをよぶこえが、きこえてくる・・・。

 

クルシイ・・・ツライ・・・クルシイ・・・。

 

・・・こんなクルシイの、いらない・・・そのこでも、いいから、はやく、なんとか、シ、て、ホシ、イ・・・。

 

モウ・・・コロ、シ、テ・・・ホシ・・・イ。

 

「ぅぅ・・・ぅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

クルシ・・・コロ、シ・・・クルシ・・・イ・・・コロ・・・シ、テ・・・。

 

ーーーーそれは違うペエ!!

 

声が今度ははっきりと聞こえた・・・コノ、コエ、ハ・・・。

 

ーーーーちゆだって、生きたいって思っているはずペエ!!

 

・・・オボエガ、アル、コノ、コエ、ハ・・・。

 

ーーーーイップスで飛べなくなっても、ちゆは頑張ってたペエ!!

 

ソウダ、コノコ、ハ、ワタシ、ノ、パートナ・・・ノ・・・。

 

ーーーー病気に冒されても、負けないように頑張っているはずペエ!!

 

ペギ・・・タン・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ウレシイ・・・ペギタンガ・・・ワタシヲ、オモッテ、クレテ、イル、ノ、ハ、ウレシイ・・・。

 

「ぅぅ・・・ぅぁ・・・ひゅぅ・・・ぅぅ・・・」

 

デモ・・・モウ・・・チカラガ・・・ハイラナイ、ノ・・・。モウ、ダメ、カモ・・・。

 

ワタシ、ハ・・・ココデ、シンデ、シマウノ・・・ダロウカ・・・?

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ーーーーちゆちゃん!!

 

ーーーーちゆちー!!

 

別の声が聞こえてくる・・・二人の少女の声・・・。

 

コノコエ、ハ、エット・・・ダレダッタ・・・カシラ・・・。

 

「ぅ・・・ひゅぅ・・・ぅ・・・ぁ・・・」

 

ァ・・・モウ、ジブンノ、カ、ラ、ダ、ガ・・・シンデ、イクノガ、ワカル・・・。

 

ゴメン、ネ、ミンナ・・・ゴメン、ナサイ、ペギ・・・タン・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ーーーーちゆちゃんは私の大事な友達なの! 私が無茶をしてときだってアドバイスをくれるし、私のことを気にかけてプリキュアとして一緒に戦ってくれたの!! 今度は私がちゆちゃんを助ける番なの!!

 

ーーーーあたしのことを考えて言ってるってわかってから、優しいなって思うようになったんだよ。そんな友達を放っておけるわけないじゃん・・・!!

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

声が聞こえてきたと同時に、ノイズが走り映し出していく映像。

 

ーーーー日が落ちた時、心配してくれる二人の少女・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

アア・・・ソウダ・・・コノコエハ・・・ノドカト、ヒナ、タ・・・・・・。

 

ワタシノ・・・タイセツ、ナ、トモダ、チ・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ワタシ、ドウシテ・・・・・・プリキュア、ヲ、シタイ、ッテ、オモッタノ・・・?

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、グレースがメガビョーゲンに苦戦し、ペギタンに手を差し伸べた姿・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ソウダ、ワタシ・・・ハ、ビョウキデ、クルシムノ、ヲ、ホウッテオケ、ナイ、カラ・・・プリキュア、ニ、ナッタンダ・・・。

 

グレースノ、ノドカノ、チカラニ、ナリタイッテ・・・。

 

ソシテ、ヒナタモ、プリキュアニ、ナッテ、イッショニ、オテアテシ、タイッテ、オモッタンダ・・・・・・。

 

ーーーーちゆー!! 病気に負けるなペエ!! 二人が頑張ってくれているペエ!! 僕も一緒に居るペエ!!

 

・・・ペギタンノ、コエ、ガ、キコエ、ル・・・。ワタシヲ、オウエン、シテクレテ、イル・・・。

 

・・・ソウダ、ワタシモ・・・わたしも、がんばらないと・・・!!

 

ちゆは自分を救うために戦うみんなのために、病気に抗った・・・。負けてはいけないと、自分の心に働きかけた・・・。

 

・・・・・・・・・!!

 

・・・・・・・・・!!

 

・・・・・・・・・!!

 

・・・・・・・・・!!

 

念じ続けていると、周囲の背景が変化し、海と空が広がる光景へと変わる。

 

浮き輪で海へと浮かぶ自分は、体から苦しさが抜け、楽になった気がした。

 

ここはどこだろう・・・もしかして、空の上なのかしら・・・?

 

水面を見ると、そこには白い雲があり、上を見上げれば真っ青な海が一面に広がっている。

 

私は空へと、空の上で、泳いでいるのか・・・?

 

水面をよく見ると、そこには見たことのある自分の顔が映っていた。

 

この姿って、小さい頃の、私・・・・・・?

 

すると、自分の上から光が差し込み始める。

 

ーーーちゆちゃん!!

 

ーーーちゆちー!!

 

ーーーちゆー!!

 

光から聞こえてくる声、暖かい・・・・・・みんなの声は、こんなにも、暖かかったんだ・・・。

 

ちゆは安堵の表情を浮かべながら、光へと手を伸ばした・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・・・・う、うーん・・・・・・」

 

ちゆは目をピクピクさせた後、ゆっくりと開き始める。

 

ぼやけた視界が徐々にクリアになっていき、そこに映っていたのは友人とパートナーの姿だった。

 

「ちゆちゃん!」

 

「ちゆちー!!」

 

うるうるとした瞳をさせつつも、こちらを安堵の表情で見てくる二人。

 

「あ・・・こ、ここは・・・?」

 

「ちゆちゃんのお家だよ」

 

ちゆは体を起こすと周りを見渡す。どうやら自分の部屋の布団で寝かされていたようだ。

 

「ちゆちー、本当によかったぁ・・・メガビョーゲン浄化しても元に戻らなかったから、死んじゃったのかと思っちゃったよー!」

 

ひなたは涙目になりながら、ちゆに抱きつく。人の温もりはこんなに温かいんだなと改めて思った。

 

「ちゆちゃん、体調はどう?」

 

のどかが不安そうな顔で聞いてくる。

 

「ええ・・・もう大丈夫、すっかり元気よ」

 

のどかはちゆの言葉を聞くと、少しな不安な気持ちが晴れた。

 

二人はちゆに私が眠っている間の事情を話してくれた。

 

ビョーゲンズから自分を解放してくれたが、ちゆはまだぐったりしていて、体を触ってみるとすっかりと冷え切っていた。ビョーゲンズの病気はなくなったようだが、現実の病気を発している可能性があって、急いで私を自宅まで一緒に運んだという・・・。

 

「ちゆちーのママにごまかすの大変だったよー。ビョーゲンズのことは言えなかったしね・・・」

 

「だからって、冷凍倉庫に誤って閉じ込められたなんて・・・ごまかしにしては無理があるだろ・・・」

 

「あはは・・・」

 

そのあと、ちゆの熱を体温計で測ってみたところ、熱が40度を越えていたため、急いでトレーニングウェアを脱がせてパジャマに着替えさせ、体を拭いたり、濡れタオルを交換するなどして、付きっ切りで看病したのだ。のどかとひなたは来る日も来る日も沢泉旅館を訪れては看病を続け、彼女が意識を取り戻すまで、一週間もかかったという。

 

「私・・・一週間も眠ってたの・・・?」

 

「うん・・・」

 

「結構な重症だったラビ・・・のどかとひなたも体調を崩さないか心配だったラビ・・・」

 

ラビリンも一緒に付き添ってはいたが、正直、虚弱な体質のパートナーの体調が一番心配だった。この前だって、病気に侵されたばっかりだったのに。

 

だが、こうしてちゆは元気を取り戻すことができた。しかし、ちゆには一つ気になることがあった。

 

「? ペギタンは・・・?」

 

「ああ、それがよぉ・・・」

 

「ちゆがあんな目にあったのは自分のせいだって落ち込んでるラビ・・・」

 

ちゆは二人からペギタンが会わせる顔がないということを聞かされ、不安げな表情へと変わる。

 

ちゆは立ち上がってペギタンを探そうとするが、病気に侵されていた後遺症が残っているのか、足元がふらついてしまう。

 

「あ・・・!」

 

「ああ、ちゆちー!!」

 

「ちゆちゃん、治ったばかりなんだから寝てないと・・・!」

 

のどかとひなたが倒れそうなちゆを支えようとする。しかし、ちゆは足に力を入れて前へと進もうとする。

 

「二人とも、ありがとう・・・でも、私は悲しんでいるパートナーがいるのに・・・放っておけないの・・・」

 

笑顔を見せるちゆに、二人は顔を見合わせる。そして、ある一つの提案をする。

 

「だったら、一緒にペギタンのところに行こう? フラフラなちゆちゃんは見ていられないから・・・」

 

「そうだよ、ちゆちー。水臭いじゃん! あたしたちも一緒に励ますよ、ペギタンを!」

 

のどかとひなたが支えてくれる、かけがえのない友人二人が支えてくれている。

 

ちゆは二人に支えられながら、ペギタンを探しに行った。

 

一方、ちゆのパートナーであるペギタンは・・・。

 

「はぁ・・・・・・」

 

彼がいたのは、ちゆとパートナーとなり、メガビョーゲンを一緒に浄化した場所だ。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

ちゆが目を覚ましたことを知らないペギタンはため息をついていた。

 

ペギタンはここで自信のない自分に声をかけてくれた彼女に勇気を分けてもらった、そして一緒にプリキュアをすることができたのだ。

 

しかし今回、そのちゆを危険な目に合わせてしまった。ちゆを一人にしてしまったことで、ビョーゲンズに誘拐されるという隙を作ってしまったのだ。

 

ペギタンはそれに責任を感じ、ちゆに目を合わせることができずに飛び出していってしまったのだ。

 

僕がなかなか助けに来ないから、ちゆは本当は怒っているのかもしれない・・・そう思うと彼女にどのような顔をして会えばいいのかわからなかった。

 

と、そこへ一人の少女がペギタンの隣に座った。

 

ペギタンは誰かと思い、見上げてみると・・・・・・。

 

「ち、ちゆ・・・」

 

「おはよう、ペギタン。隣、座るわね」

 

笑顔で話しかけてくれるちゆ。ペギタンは気まずそうに目をそらす。

 

しばらくの沈黙の後、口を先に開いたのはちゆだった。

 

「ペギタン」

 

「・・・・・・ペエ?」

 

「あのときは、ありがとう。とても嬉しかった」

 

「・・・な、なんのことペエ?」

 

ちゆからお礼を言われる理由がペギタンにはわからなかった。だって、僕は苦しむちゆを前に何もできていない・・・ただ声を送っただけ・・・結局は彼女を危険な目に合わせただけだ。

 

しかし、ちゆはそんなことも気にせずに話しかけている。

 

「私が捕まってたとき、応援してくれたでしょ。もちろん、のどかやひなたも一緒に。あの声援、聞こえてた。とても嬉しかったの、意識がなくなってきても、みんなが近くにいるんだなって」

 

「・・・でも、僕はちゆを危険な目に合わせたペエ・・・これ以上、ちゆに迷惑をかけられないペエ・・・」

 

ペギタンの心はまだ晴れなかった。このまま一緒にいても、また彼女を傷つけるだけ。だったら、いっその事、パートナーを解消した方がいいのではないかと思った。

 

しかし、ちゆの心はそんなことでは揺れなかった。

 

「いいじゃない、迷惑かけたって」

 

「ペエ・・・?」

 

「友達でいたって、パートナーになったって、迷惑をかけることだっていっぱいあるもの。私だってビョーゲンズに捕まってペギタンに迷惑かけたでしょ」

 

「・・・僕もちゆを助けることができなくて、迷惑をかけたペエ・・・」

 

「じゃあ、これでお互い様ね」

 

ちゆはペギタンを優しく拾い上げて、自分の胸に抱く。

 

「ペギタン、難しいことはわからないけど、ペギタンの失敗は私の失敗だもの。私はペギタンだけにそんな重荷を背負わせることなんかできないわ。私だってプリキュアとして一緒に戦ってるんだもの。だから、あんまり自分だけ責めないで・・・私たちは二人で一人、一緒になって支え合うパートナーなんだから・・・」

 

「ちゆ・・・・・・」

 

ペギタンは瞳をうるうるとさせ、ちゆの胸に抱きつく。

 

「ありがとうペエ・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

「ちゆ・・・?」

 

「ごめんね・・・しばらく、こうさせて・・・」

 

二人は抱き合っっていたが、ペギタンはちゆの体が震えているのに気づいた。顔を見上げるとちゆは少し涙目になっているのが見えた。

 

「・・・・・・ペエ」

 

二人はそれからしばらく一緒に抱き合っていた。お互いの温もりをもっと感じ合いたいから。

 

ビョーゲンズに囚われて・・・一人で冷たいところに閉じ込められて・・・意識がなくなっていくときは寂しかった・・・。それが孤独なんだと・・・。パートナーと、みんなといる時間がこんなに温かいなんて、思ってもみなかった。

 

今回のことで、ちゆとペギタンはパートナーとしての絆をより一層深めたのであった。

 

「あっちはなんとかなりそうだな」

 

「ちゆちーとペギタン、仲直りできてよかったぁ」

 

「ペギタン、よかったラビ・・・」

 

「ふふ・・・」

 

のどかたち4人はその様子を見守っていて微笑ましく思い、二人の元へと駆け出していった。

 

ちゆも、彼女たちさえも知らない、ちゆの中に蠢く何かが光っているのも知らずに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・苦しいのか? 辛いのか?

 

・・・自由に走り回りたいか?

 

・・・いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える。

 

・・・寂しいと思うのであれば、心などいっその事なくせばよいのだ。

 

・・・我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる。

 

・・・その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ。

 

・・・地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために。

 

・・・我の大切な娘としてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

ドクルンは自身が広げた本の上で、目を覚ました。

 

どうやら本を読んでいるうちに、眠ってしまったらしい。

 

ビョーゲンズだから疲れを感じることなんてないが、やはり眠っていないと何かしらの不調は感じるらしい。

 

それにしても、何か懐かしい夢を見た気がする。もう、いつの日かは忘れてしまったけど・・・。

 

「ドクルン、起きてたのかブル?」

 

「ああ・・・ブルガル」

 

声が聞こえた方に視線を向けると、お皿にリンゴを乗せて持ってきたブルガルの姿があった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンの頭の中にフラッシュバックするさらなる映像があった。

 

ーーーーペットボトルのようなものを打ち上げようとしている私、その隣にいる藍色の髪の少女。

 

「ドクルン・・・?」

 

「あ・・・ええ、どうかしましたか?」

 

「さっきから様子がおかしいブル。本を読んでいるときだって、俺が話しかけてもずっと上の空だったブル」

 

スタッドチョーカーのブルガルが、相棒のことを心配する。

 

ここ最近のドクルンはどうもおかしい。病気を蝕むことよりも、何か別の考えごとをしている。今回の作戦もあのちゆというプリキュアの少女を閉じ込めて病気にしただけ、少しうつつを抜かしているような感じがする。

 

「別に・・・何でもありませんよ。私は正常通りです」

 

「噓だブル。ここ最近はあんな女のことばかり考えてるし、何かと自室に籠って何かをやっているし、様子がおかしいのは丸分かりだブル」

 

本へと視線を戻そうとするドクルンに、机の横にリンゴを置いたブルガルが冷静に反発する。

 

「・・・・・・あなたにごまかしは通用しませんね」

 

ドクルンはしばらく沈黙した後、幹部たちにも見せたことがないような悲しそうな笑みを浮かべる。

 

「最近の私は少し冷静さを欠いていたのかもしれませんね。あなたにも心配させ、作戦にクルシーナも巻き込んだ・・・飛んだ不始末ですね・・・ちっとも私らしくない。以後、気をつけるようにします・・・」

 

ドクルンはつらつらと言葉を並べて本を読むことに戻ろうとすると、ブルガルは彼女の胸に抱きつく・・・。

 

「? どうかしたのですか?」

 

「・・・寂しいなら寂しいと言え。あんな健康的な女と一緒にいるより、俺がついてるブル。俺がいつもそばにいることも、思い出して欲しいブル・・・」

 

ドクルンはブルガルの突然の行動に意外そうな表情を見せる。ブルガルが心情を吐露すると、しばらく憮然とした様子を見せた後、優しい微笑を見せる。

 

「あなた程度では、数パーセントの気持ちにすらなりませんよ・・・でも・・・」

 

ドクルンは相棒を優しく抱きながら、頭撫でる。

 

「・・・ありがとうございます」

 

ドクルンが静かな声で感謝の言葉を述べる。いつから一緒にいたかは覚えてないけど、この子はいつもそばにいてくれたはず、少しは気持ちが晴れた、気がする・・・。

 

「あら、あんた、帰ってたの?」

 

扉が開かれる音が聞こえると、クルシーナが中へと入ってきた。

 

「クルシーナ?」

 

「お父様が呼んでたわよ・・・って、何、気持ち悪いことしてんの?」

 

クルシーナは、ドクルンとブルガルが抱き合っている姿が視線に映り、ジト目を向ける。

 

「・・・あ、こ、これは、気の迷いで・・・!!」

 

「気の迷いとかで、抱き合ったりなんかするウツ?」

 

ブルガルが慌てて体を離し、顔を赤らめながら言い訳をしようとすると、ウツバットが呆れたような声を出す。

 

「どうせ嫌らしいことでも考えていたウツ。初々しいやつだウツ」

 

「う、うるさいブル!! 万年いじられてるウツバットのくせに生意気だブル!!」

 

嫌味っぽくウツバットが返すと、ブルガルが怒り口調で反抗する。

 

「別にお前の趣味なんかどうでもいいし、お前らの喧嘩なんか見たくねーんだよ」

 

「趣味じゃないブル!!」

 

クルシーナが不機嫌そうな声で返すと、ドクルンに向き直る。

 

「それよりもドクルン、このアタシを使ったんだから作戦はうまくいったんでしょうね?」

 

「ええ、もちろんですよ。彼女に氷を植え付けることには成功しましたしねぇ。もちろん、彼女のデータ搾取もねぇ」

 

ドクルンはメガネを上げながら、いつものようなふざけた口調で言う。

 

「・・・アタシだけ損してるような感じがするのは正直腹立たしいけど、まあうまく言ったんならいいわ」

 

「いいのかウツ?」

 

「うるさいの、いちいちお前はッ」

 

「や、やめろウツ!! 顔が、顔が伸びるウツー!!」

 

ウツバットが呆れたように言うと、クルシーナが不機嫌そうな声で帽子を横に引っ張る。

 

気が済むまで顔を引っ張った後、外へと出ようとする。

 

「あと、お父様が呼んでたからね。行ってあげなさいよ」

 

クルシーナはウツバットにも見せたことがないような笑みを浮かべたあと、部屋を出て行った。

 

「・・・ふぅ」

 

ドクルンは息を吐くと、本へと視線を戻そうとするが、ブルガルが自分の机の横にあるリンゴをこちらへとずらそうとしているのが見え、視線を移す。

 

「・・・なんですか、これは?」

 

「リンゴだブル」

 

「それはわかるんですが、どうしたんですか? これ」

 

ドクルンは本を机の上の横にずらしながら言う。

 

「クルシーナが差し入れだと、なんかいいリンゴができたと言って、俺に渡してきたブル」

 

「ふむ」

 

ドクルンはリンゴの皿を手に取ると、メガネを上げながらじっくりと観察する。

 

そういえば、クルシーナは植物や作物の世話をしているはずでしたね・・・。

 

お皿からリンゴを一切れ摘み上げると、口へと運んでいく。シャクシャクと口の中で音が聞こえ、味が広がってくる。

 

「・・・甘いですねぇ。あの娘と同じで」

 

ドクルンはリンゴをさらに口に運びながら、本へと視線を移した。

 

「・・・・・・ふん」

 

その様子を扉越しで腕を組みながら聞いていたクルシーナは安堵の笑みを浮かべていた。

 

その隣にはいつの間にか外にいたイタイノンもいて・・・・・・。

 

「ドクルン、大丈夫?なの・・・・・・」

 

「大丈夫でしょ。いつものドクルンじゃない」

 

クルシーナはそう言うとその場を立ち去っていく。心配をしていたイタイノンは閉まっているドアを一瞬だけ見つめると、クルシーナの後を追うようについていくのであった。

 

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