ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter 作:早乙女
うまくできるかわかりませんが、見ていただけると幸いです。
今から数年前、病院に入院していた少女は、いつも自分が過ごしている病室を抜け出して、病院の色とりどりの花を植えてある場所へと来ていた。
病院は基本的に白を基調したものばかりだが、そこだけは色のある世界を見ることができる、自分にとっては素敵な世界だ。
少女は今日も近くの水道の場所からジョウロを拝借、水を汲んでから色を作り出す花たちに水をあげている。
その表情は病室のベッドの上にいるよりも輝いている。まるでこの病院から退院できると聞いたような晴れやかな表情だ。
「しんらちゃ~ん!!」
そこへ明るい声が聞こえて振り返ると、車椅子に乗ったマゼンダ色の髪の少女がやってきた。少女ーーーーしんらにとっては笑顔の明るい素敵な少女だ。
「のんちゃん・・・!」
「今日も来ちゃったぁ!」
のどかは太陽な笑顔を見せる。しんらはその笑顔に頬を赤く染めて笑みを浮かべる。
「今日は嬉しそうね、何かあったの?」
「うん! やっと手術ができそうなんだ! うまくいけば退院できるかも!!」
「そう、よかったわね」
のどかの嬉しそうな顔に、しんらも自然と嬉しくなる。友人が元気になるのはいいことだ。それで治るのであれば、彼女を祝福してあげたい。
「今日もお花さんに水あげたいなぁ。やらせて!」
「うん、いいわよ!」
しんらはジョウロを喜んで彼女に渡すと、あっちはまだあげてないと言ってあげて、のどかは車椅子を動かしながらジョウロに水をあげていく。
水をあげた花が太陽の光を浴びて、花の上の雫にあたり、キラキラと輝かせていく。
「ふわぁ~! 綺麗だなぁ~!」
「フフフ、生きてるって感じでしょ?」
活き活きとしている花を見ると自然に笑みがこぼれてしまう。そのぐらい、二人は楽しそうだった。
その後は、二人でいろんなことを話した。看護婦さんは優しかったとか、病院食はあまり美味しくなかったとか、お風呂は入れないけど久しぶりに浴びるシャワーは気持ちよかったなど、いろいろな話をした。
「へぇー、その自然ってそんなに綺麗なんだ」
「そうだよ。もっと小さな頃に一緒に行ったの。綺麗だったなぁ~。とても空気が澄んでたよ」
二人はのどかが入院する前の小さい頃に見たとある自然の話をしている。健康的で、開放的で、気持ちよくて、とてもいい自然だったという。
「アタシもそんな自然見に行きたいな」
「見に行こうよ! 一緒に!!」
のどかはそう言ってしんらの手を取る。
「あ・・・」
「お互い病気を治して、退院できたら一緒に行こうよ!! その自然に!!」
しんらはその言葉に体の芯から暖かくなっていくのを感じた。入院する前の学校にあまり友達はいなかったけど、病院でのどかという友達ができて、そういうふうに誘われたのは今まで初めてだ。
彼女は目を瞑った後、頬を赤らめる。
「うん、一緒に行きましょう。約束よ」
こうして、のどかとしんらは退院後の約束を交わしたのであった。
ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・。
ザザザザ・・・ザザ・・・ザザザザ・・・・・・。
「えっ・・・?」
のどかが気がつくと視界にノイズから砂嵐が走っていく。
目の前にいる少女がしんらが姿から消え、辺り一面が暗闇へと変わる。
「しんらちゃん・・・?」
目の前にいたはずの少女の名前を呟くも、何も返事が返ってくることはない。
「しんらちゃん! しんらちゃん!!」
暗闇にいる寂しさが募っていき、叫ぶ声が大きくなっていくのどか。車椅子を動かしながら、必死で叫んでいく。
「しんらちゃん! 返事をしてよ!!」
しかし、どんなに叫んでも返事が返ってくることはなかった。一人でいる孤独と寂しさから瞳に涙が溜まっていく。
「しんら・・・ちゃん・・・ひっく・・・どこに、行っちゃったの・・・?」
顔を俯かせて泣きそうになる。今はお父さんもお母さんも、お医者さんもいない。友人の顔しか浮かばなかった。
すると、遠くに一筋の、誰かが後ろ姿で立っているのが見えた。
「!! しんらちゃん!!」
病院で約束を誓い合った友人だと思い、車椅子を走らせていく。突然一人になり、寂しくて寂しくてしょうがなかった。
近づいていくと患者着姿の少女、ツインテール・・・間違いない、彼女だ・・・!!
「しんらちゃん、どこに行ってたの? 私、寂しかったよ・・・」
のどかは後ろ姿の友人に笑みを浮かべながら声をかける。しかし、少女は黙ったまま、のどかの声に答えようとしない。
「しんらちゃん・・・?」
返事を返さない病院仲間に疑念を抱いていると、その患者着姿の少女が振り向いた瞬間にノイズが走り、見たことのあるマジシャンの姿へと変わる。
「えっ・・・?」
目の前の少女はニヤリと笑みを浮かべると、両手をゆっくりと前へと伸ばしていき、そのまま何かをつかむように握った。
「あっ・・・がっ・・・・・・」
すると、のどかはまるで首を絞められたような圧迫感を感じ、喉を抑え始める。
「あっ・・・あぁ・・・ぁぁ・・・・・・」
な、なん、で・・・? くる、し、い・・・・・・。
顔を後ろに仰け反らせながら苦しむのどか。しかし、圧迫感は徐々に強くなり、息が段々とできなくなっていく。
目の前の視界が徐々に霞んでいくのを感じる。
「ぁぁぁ・・・ぁっ・・・ぁぁ・・・」
しんら・・・ちゃ・・・やめ、て・・・・・・。
大した抵抗ができず、目の前の少女ーーーーしんらに右手を伸ばすのどか。しかし、彼女は手を取ろうともせず、不敵な笑みを浮かべるだけだ。
「ぁぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・・・・」
遂には苦しむ声すらもあげられなくなり、視界が段々と見えなくなってきたのどかはそのまま喉を抑えていた手をパタリと落とし・・・・・・。
「あ・・・!?」
気がつくとのどかは仰向けで横にされていた。
「ゆ、夢・・・・・・?」
のどかは体を起こすと額の汗を拭い始め、苦しくなっていたはずの首に手を当てる。今は苦しみは感じない。でも、まるで本当に絞められたような感覚があって妙にリアルだ。
ーーーーまさか、病院で約束を誓ったはずの友人が、変貌して私を苦しめようとするなんて・・・・・・。
のどかは夢のはずなのに現実感があることに恐ろしいものを感じ、体が震えそうになる。
「クゥ~ン・・・」
「あ、ラテ・・・」
のどかの手の中にはラテが抱かれている。メガビョーゲンを3体浄化したことで重篤にならずに済んで入るが、体調はまだ芳しくなかった。心配するように鳴き声をあげるラテを、のどかは優しく撫でた。
それはともかく今、自分がどんな状況なのかを把握しようとする。周囲を見渡してみると、そこは地球とは思えないほどの景色だった。
「ここは・・・・・・?」
見ている世界がなんとも妙に感じた。森の中だと言うのに全てが灰色一色で染められており、空を見上げれば広がるはずの青さは、病気のような赤黒さ一色で広がっていた。でも、どこかで見たことがある景色のような気がしてならない。
足元を見れば花畑のようだが、ここも色は全くなく灰色に染まっているだけだ。どうやら自分はこの花畑の上に寝かされていたようだ。
でも、人がいる気配が全くせず、誰の姿も見えてこない。
のどかはハッとして最悪の可能性を考えた。
「もしかして・・・地球がビョーゲンズに・・・!」
自分が眠っている間に地球がビョーゲンズのものにされてしまったのか。そうとしか考えられない景色だった。
・・・いや、そんなはずはない。私たちは3人で強力になったメガビョーゲンを浄化し、新しい技も手に入れたのだから。
「あ、そうか・・・私、クルシーナに・・・」
そう考えて、のどかは自分に何が起こったのかを思い出した。メガビョーゲンを浄化した後、クルシーナに捕まって、また手を体の中に入れられたかと思うと耐えきれないほどの激痛が襲い、意識を失ってしまったのだ。
今は胸はもう苦しくない。まるで、体の中から何かを取り除かれたように圧迫感を感じず、体も軽くなっている。
「ラビリン?・・・あ、ステッキもない・・・!?」
ふとパートナーの姿が見えないことに気づき、それに持っているはずのヒーリングステッキが手元にないことに気づく。これでは、もし何かが襲ってきたときにプリキュアに変身することができない。
ーーーーとりあえず、ラビリンを探さないと・・・・・・!
「ラビリン!! ラビリーン!!」
のどかは立ち上がって、パートナーを探すために森の中を歩き始め、大声でその名前を呼び始める。
「ここは本当に・・・どこなの・・・?」
森の中を進んでいくのどかだが、どんなに進んでも灰色の森が続いているだけだ。しかも、生気を全く感じない。生きてるって感じがしない。
それに所々、赤い靄がかかっているのが見える。あれはメガビョーゲンが暴れるといつも出している病気だ。蝕まれているようだが、それにしても木から生気を感じないのだ。
ここは一体、どこなのだろうか? 私は異世界に来てしまったのだろうか?
のどかはそう思うと、一人でいる自分が怖くなった。
「ラビリーン!! いたら返事をしてー!!!」
まるで恐怖を紛らわせるかのようにパートナーの名前を叫ぶ。しかし、森の中はパートナーの声どころか、木霊すらも返ってこない。
「ちゆちゃーん!! ひなたちゃーん!! ペギターン!! ニャトラーン!!」
友人や他のパートナーの名前、自分の大切な仲間の名前も叫んでみる。でも、やっぱり返ってこない。
「みんな・・・どこに行っちゃったんだろう・・・」
のどかはこんなときでも仲間の身も案じてしまう。こんな灰色と白しかない生気を感じない景色、何が起こるのかわからず、不安に駆られるばかりだ。
森をそのまま進んでいくと枯れた木が見えるようになっていき、その先には小さな街が見えてくる。
「あ・・・あっちに何か見える・・・」
のどかはそちらに行ってみると、そこは色をなくした芝生があり、丘が見えてくる。
もしかしたら、丘の上の景色を見ていけばここが何なのかわかるかもしれない。そう思い、走って丘を上がり、景色を見てみる。
「!? な、何、これ・・・!?」
丘の上から景色を覗いたのどかの表情が驚愕に染まる。目の前には街が広がっているのだが、その景色がおかしい。
街も森同様に灰色と白の世界だ。しかし、驚いているのはそこではない。ビルや建物が寂れてボロボロになっており、中には破壊されているようなものさえ見えた。所々、赤い木の根っこのようなものが這っており、病気の赤い靄が落書きのようについている。
これは現実か? こんな景色が広がるなんてありえるのか? 本当に存在している街なのか? じゃあ、ここは本当に地球なのか?
のどかはあまりの光景に思考が全く定まらず、街を呆然と見つめているしかなかった・・・・・・。
「ちゆちー! ちゆちー!!」
「うぅ・・・んん・・・!!」
ひなたは意識を失っているちゆを揺らして起こそうとしていた。ちゆは目をピクピクと動かした後、目をゆっくりと開く。
「ちゆちー! よかったー!!」
目を開けたちゆに抱きつくひなた。正直、一人でも生きている人がいて安心した。
一人目を覚ましてみれば、世界が白くなったような恐怖しかない景色しか広がってこず、何やら不気味ないななく声が聞こえてきて、もう震えが止まらない。そんな中、そばで倒れているちゆしか生きてるって感じがせず、起こして不安を和らげるしかなかったのだ。
「ひ、ひなた・・・苦しい・・・」
「あ、ごめん!」
思ったほど強く抱きしめていたことに気づき、慌てて手を離すひなた。
「ここは・・・?」
「あたしたち、のどかっちとメガビョーゲンを追って、ワケわかんない大群に落とされちゃったんだよー。ニャトランたちともはぐれちゃったし、ここはどこなのかわかんないし・・・!!」
ちゆは体を起こして周りを見渡す。逆にひなたは瞳をウルウルとさせながら大声で話した。
あ、そうか・・・そういえば、ビョーゲンズを追って、全てが白くなった世界へとやってきていたのだった。
とりあえずは、落ち着きのない友人を落ち着かせることにする。
「お、落ち着いて、ひなた・・・まずはペギタンたちを探しましょう。そんなに遠くに飛ばされていないはずだけど・・・うぅ、ゲホゲホゲホッ・・・!!」
「ああ・・・ち、ちゆちー! 大丈夫!?」
ちゆはひなたを落ち着かせようとするも、呼吸が苦しくなり咳き込む。これによってひなたは余計に取り乱してしまう。
「ゲホゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・ポ、ポケット、の・・・ひゅぅ・・・くす、り、を・・・!」
「あ・・・うん!」
「ゲホゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・!?」
ひなたに自分のポケットの中にある薬を出してもらうように言う。ちゆはその間も咳き込んでいたが、何やら手が冷たい・・・?
ふと抑えていた手に違和感を感じ、それを見つめてハッと目を見開く。
「はい、ちゆちー。? どうかしたの?」
「あ・・・ひゅぅ・・・な、なんでも、ない、わ・・・ひゅぅ・・・」
ひなたを怯えさせまいとごまかし、彼女から震える手で薬を受け取る。
実はちゆの右手には病気の靄のように赤黒い氷の欠片のようなものが付着していたのだ。赤い水のようなものを吐いたのならわかるが、どうして氷が・・・? 私の体に何が起きているというのだろうか?
ちゆは薬を吸引して呼吸を落ち着かせ、右手についていた氷を剥がして捨てると、すくっと立ち上がった。
「はぁ・・・ふぅ・・・もう、大丈夫。さあ、行きましょう」
「行くってどこに?」
「えっと・・・」
そういえばここがどういうところかはっきりと分からず、どこに向かえばいいかわからない。ちゆはとりあえず、辺りを見渡す。ここはどうやら林の中のようだが・・・。
「なんか、林を抜けたら街があったけど・・・?」
ひなたは自分を起こす前に林を出たらしい。ちゆはそれを聞くと林から出る。するとそこには、林と同様に灰色と白の世界が広がる街の姿であった。
「ここって、本当に地球なの・・・?」
「わかんない・・・でも、見たことはある風景だよね・・・?」
ちゆは正直言って信じられなかった。そもそも地球に不調が現れたのであれば、ラテが真っ先に反応しているはずだが、これまでもそんな反応を示したことは一度もない。もしかしたらペギタンたちが来る前からここはビョーゲンズに襲われたのかもしれない。そんな気がしてならなかった。
周囲を見渡してみても、ビルや家は寂れてボロボロになっていて、家の屋根には赤い靄が所々かかり、赤い木の根っこのようなものが這っている。街路樹も枯れ木と化していて、これも街と同じような色をしている。
そんな中、同じような色となっている山の上に一軒だけ、色を失っていない寂れた病院が建っているのが見えた。あそこだけ普通に見えるのはなぜだろうか?
「ひなた、あれを見て」
「え・・・あ、あれ? あのボロボロの病院だけ違うよね?」
ちゆに言われて山の上の病院を見てみると、ひなたでもわかるくらいに色があった。
他が灰色と白に染まる中、あの建物だけは色を作っている。この街がビョーゲンズのものになっているのであれば、それは明らかにおかしい。きっと何かがあるに違いない。
「そうね。あそこに行ってみましょう」
「ちょ、ちょっと待って・・・! ペギタンたちはどうするの?」
ひなたは自分たちの相棒の姿が見えないことを心配している。それはもっともだ。パートナーたちが危険にさらされるかもしれないし、私たちも敵に襲われたらプリキュアに変身できない。
でも、この場所のことがわからない以上は、闇雲に探すよりも、目的地を指定すればそっちにきっとペギタンたちも向かってるかもしれない。
「向こうに行ってみれば、ペギタンたちがいるかもしれないわ。とりあえず、行ってみましょう。大丈夫、きっと会えるはずよ」
「・・・うん」
ひなたも不安は残りつつも、ここで何もしないよりはマシだとちゆと一緒に歩き始めた。
林を抜けて、街を歩いていく二人。一軒家やビルがボロボロに見えるのはさっきも感じたが、この街には人一人いる気配が全くしない。
「何、この街? 人が一人もいなくない?」
「・・・きっとビョーゲンズのせいで、この街は病気に蝕まれて、人が住めるような環境ではなくなってしまったのよ」
「そ、そうだよね・・・」
ひなたが周囲を見渡しながら不安に駆られる。この街は何らかの理由でビョーゲンズに襲われてしまい、街周辺は死の大地と化している。しかも、街も自然も何もかも生気を全く感じない。
そして、何よりも・・・・・・。
「・・・生きている気配を感じないわ。エレメントさんの気配も感じない」
「もしかして、ラビリンが言ってた、あの・・・?」
ーーーー蝕まれた大地は二度と戻らなくなるラビ・・・。
「・・・間違いないと思うわ」
「そんな・・・じゃあ、この街は・・・!!」
「ここはもうビョーゲンズのものになっているのよ」
何よりもエレメントさんの気配を感じることができない。信じたくは無いが、この街のエレメントさんはメガビョーゲンに力を吸い取られて・・・。
ひなたはもっと信じたくなかったが、要するにこの街、そして本当にここが地球なら、その一部はビョーゲンズのものになっているということになる。ちゆも本当は信じたくはなかったが、肯定する他なかった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
少し歩いていくと、ちゆはまた息が切れていくのを感じた。
おかしい・・・薬を吸引してからまだ少ししか経ってないのにもう呼吸が苦しくなっている。そういえば、すこやか市に住んでいるときも発作を起こしていたが、その薬を吸引してからそうなるまでが段々と短くなっているような気がする。
「ちゆちー? 少し休む?」
走ってもいないのに息を切らし始めたちゆに、ひなたが心配そうに声をかける。
「い、いえ、大丈夫よ・・・はぁ・・・」
まだ、大丈夫・・・私は、まだ歩ける・・・。
ちゆはそう言い聞かせる。もう少し歩いてから薬を吸引しよう。そういう気持ちを持ちながら、目的地へと歩いていく。
少し歩いてきたところで街から抜けたようで、田んぼのような道が広がっていた。
「はぁ・・・ゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」
「ああ、ちゆちー・・・!」
「ひゅぅ・・・だ、だいじょう、ぶ・・・ひゅぅ・・・」
ちゆは近寄るひなたを手で制止して、ポケットから薬を出すと吸引する。
「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・行きましょう」
呼吸を落ち着かせるちゆだが、やっぱり呼吸の苦しさの間隔が短くなっている気がする。このままそんなことが起きたとしたら・・・。
ちゆは考えただけでも身震いしそうだった。
二人は続いていく田んぼの道をおそらく半分ぐらい進んだであろうところで、何やらちゆが足を止める。
「? ちゆちー、どうしたの?」
「・・・何か音がするわ」
ひなたはちゆに言われて耳に意識を集中してみる。
パサパサパサ・・・・・・パサパサパサ・・・ナノ~・・・
確かに何かの羽の音、そして鳴き声が聞こえてくる。
「・・・こ、この音って・・・?」
「・・・こっちに近づいてくるわ」
しかも、その音は段々と近づいてきているような気がする。その音が聞こえてくるのは、私たちの背後・・・・・・。
それにこの音、さっきもメガビョーゲンに掴まってたときも聞こえてきたような・・・?
何やら悪寒がし、二人は緊張感から汗が伝ってくる。
「「・・・・・・」」
二人はゆっくりと背後を振り向いて空を見上げてみると、黒い大流がいつの間にかジグザグと動きながら、こちらに近づいてくるのが見えた。
「あれって・・・?」
「! 逃げるわよ、ひなた!!」
あれは知っている。クルシーナたちが呼び寄せた、病気のような塊。でも、メガビョーゲンではない。それでも、あれを見ると体が震えてくる。
ちゆはそれを視認すると走り出し、ひなたもそれに続いて走り出す。それを皮切りに大流はサークルのようにクルクルと回ると、道に沿って蛇のような大流を作りながら、こちらにスピードを上げて向かってきた。
二人は道を走っていくも、明らかに黒い大流の方が早く、距離の差はあっさりと詰められそうになっている。
「って、えぇ!? あれ超早いし!?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ふと振り向いたひなたが黒い大流の早さに驚いてスピードを上げるも、距離が縮まるのが遅くなっただけで詰められるという事実は変わらない。
(な、何・・・なんか、息が・・・?)
ちゆは少し走っただけなのに、息が切れ始めていた。
おかしい・・・まだ少ししか走っていない。これではまだ息が切れないはずなのに・・・息が苦しくなる。
それに、何かが気道に詰まったような感覚が・・・?
しかし、今は逃げないと・・・。とはいえ、このままでは追いつかれてしまう。
ひなたは何とかしようと周囲を見渡す。
「! ちゆちー! あの森に入ろう!!」
「はぁ・・・え、ちょっ、ひなた!?」
ひなたは東の森に道があるのを発見し、唐突にちゆの手を引っ張ると森のほうへと走る。黒い大流は引っ張って横道へとそれた瞬間に通り過ぎる。まさに間一髪だった。
黒い大流は上空へと飛び上がり、空中でサークルを描くと、まるで二人が逃げる方向がわかっているかのように斜めから突っ込んでいく。
「ああぁぁ!?」
「うわあぁ!?」
吹き飛ばされそうになる二人だが、なんとかバランスを崩さず、黒い大流の直撃を避けてなんとか走り出す。地面に突っ込んだ黒い大流は自分たちと同じ大きさの赤い跡を残して、すり抜けるように入っていく。
「はぁ・・・ぜー・・・ぜー・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ぜー・・・ぜー・・・ちょ、ちょっと、まっ、て、ひな、た・・・ぜー・・・」
ひなたに手を掴まれて走っているちゆの呼吸がまた異変を生じ始め、ひなたは異変に気付いて走る足を止める。
「ち、ちゆちー、また、苦しいの・・・?」
「ぜー・・・ぜー・・・え、ええ・・・ぜー・・・ゲホゲホゲホッ!!」
ちゆは震える手でポケットから薬を取り出して吸引しようとする。
しかし、二人の地面が丸い円状に赤く染まり始める。ひなたはちゆの背中をさすっていたが、ふと床下の地面がおかしいのを感じる。
「あれって・・・? !!」
ひなたは気づくと薬を吸引しようとしたちゆの肩を抱く。
「ちゆちー、危ない!!」
「ぜー・・・え? きゃあぁぁ!!」
ひなたに引っ張られて前へと倒れ込むように飛ぶ二人。その二人が立っている場所から黒い大流が飛び出してきた。あと一歩遅れていたら、二人はあの大流に吹き飛ばされていたかもしれない。
黒い大流は森の上へと飛び出すと、そのまま森下にいる二人に突っ込んできた。
「逃げるよ、ちゆちー!!」
「ぜー・・・ぜー・・・ぜー・・・」
ひなたはちゆの手を引っ張って走り出し、黒い大流の突進を避ける。しかし、ちゆは先ほどの黒い大流の攻撃で薬を吸引することができずに、苦しそうな呼吸をしたまま走り出すことになってしまった。
黒い大流は二人がいた地面へと突っ込むと、その中へと再び入り込む。
「ぜー・・・ぜー・・・ゲホゲホゲホッ!! ひ、ひなた・・・ぜー・・・ゲホゲホゲホッ!!」
「ごめん、ちゆちー! 我慢して!! あれに追いつかれちゃうよ!!」
ちゆはひなたに止まるように言おうとするが、ひなたもここで止まったら二人ともあれにやられると思い、走りを止めるわけにはいかない。
ひなたは気づいていなかったが、呼吸がうまくできていないちゆの顔色は悪くなっていた。
二人は森の中へと走り続けるも、目の前の地面が赤い丸状に染まり、そこから黒い大流が飛び出してきた。どうやら地面から先回りして、追い詰めにかかろうとしているようだった。
「うぇぇ! もう、しつこいぃー!!」
ひなたは左の道のない方へと走り、黒い大流から逃れようとする。
そこは舗装されていない森への道。木が異様に多く、地面も踏み外せば転んでしまいそうなところだ。
「うぅぅぅ・・・!!!」
「ぜー・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ひ、な、た・・・ひゅぅ・・・」
ちゆは全く薬を吸引する暇がなく、遂には掴まれていない方の手で喉を抑え始めた。
「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・く、くる、し・・・ひゅぅ・・・くるし、い・・・!!」
「ちゆちー、もうちょっと我慢して・・・! 今、隠れるところ見つけるから・・・!」
ちゆが苦しさを訴え始め、ひなたは黒い大流から隠れる場所を走りながら探し始める。すでにちゆの顔色はさらに悪くなっていた。
だが、黒い大流がそんなことを待ってくれるはずもなく、森の上から一気に二人を追い抜いて、先頭を走るひなたの前へと突進する。
「あーん! もうどうしたらいいの!?」
しつこく自分たちを追いかけてくる黒い大流に苛立つひなた。背後にいるちゆをリードするだけでも精一杯なのに、黒い大流に前から攻められると逃げ場がなくなる。
黒い大流はわざと当たらないように二人の地面の前へと入り込む。そして、二人の下には赤い円のようなものが染まっていくと、そこから黒い大流が飛び出した。
「くっ・・・!!」
「ひゅぅ・・・あぁ・・・!!」
ひなたはちゆを抱えて前へと飛び出すが、その前には・・・・・・地面がなかった。
どこまでも底が見えない、切り立った崖の上・・・・・・。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あぁ・・・!!」
二人はそのまま崖の上から転落していった。
黒い大流は森の上から上空を眺めるも、二人の姿が見えない。まるで様子を伺うかのように空中でサークルを作ると、そのまま森の向こうへと蛇のように大流を作りながら直進していった。
一方、底が見えない崖から落ちた二人は・・・。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!! !? がっ・・・!!」
ひなたはちゆを庇うかのように自分が下になると斜面へと背中を打ち付け、二人で斜面を転がるように打ちつけながら下へと下っていく。
「うっ・・・あっ・・・!!」
ようやく平らな地面へと落ちるとひなたはちゆを抱えながらも木に背中を思いっ切り打ち付け、痛みに呻く。自身の体はすでにボロボロで、あちらこちら怪我をしている。
「うぅぅ・・・! ちゆちー・・・大丈夫・・・?・・・!?」
ひなたはそう言って彼女を座らせて顔を伺うが、その表情を見た途端、彼女は動揺した。
「ぅぅ・・・ぁぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」
ちゆはすでに両手で喉を抑えながら目を見開いており、口は酸欠の魚のようにパクパクとしていた。薬を吸引できずに無理をさせすぎてしまったせいで、謎の不調が悪化してしまったのか。
ちゆとひなたには見えていないが、ちゆの赤く蠢く何かが彼女の肺全体に広がっており、ついには気管にまで到達していたのだ。
「ちゆちー? ちゆちー!! しっかりしてよ!!」
「ぅぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」
動揺したひなたが呼びかけるも、ちゆは声が聞こえていないのかひなたの言葉に反応を示さず、喉に手を当てて苦しむばかりだ。まるで、誰かに首を絞められているかのように、ちゆは息を吸うことができない。
「あ・・・薬! 薬を!!」
ひなたはちゆが持っていたはずの薬を思い出し、彼女を助けようとする一心で探し始める。しかし、周りは灰色と白に染まった草ばかりな上に、光があまり届いていないせいか視界も暗いため、薬の容器がなかなか見つからない。
「ぁ・・・か、は・・・ぁぁ・・・カッ・・・」
完全に窒息状態に陥っているちゆ。足をジリジリとよじらせて少しでも苦しみから楽になろうとする。しかし、そんなことをしても少しも楽にはならない。
「薬!! 薬どこなの!? 早く見つけないとちゆちーが死んじゃう!!」
薬を必死に探すひなたの心に焦りが芽生える。このままではちゆが死んでしまう。そんなことになったら、私は・・・・・・。
そんな彼女の想いが届いたのか、足元に何かがカツンと当たった。
「薬・・・あった!! ちゆちー! 薬!! 薬だよ!!」
ひなたは薬を拾うと急いでちゆの元へと走ろうとする。
しかし、その瞬間・・・・・・!!
バチッ!!
「うぅ!!」
ひなたが突然、胸を抑え始めたのだ。そして、足からも力が抜けて膝をついてしまう。
「う・・・ぁ・・・ま、また・・・? こんな、ときに・・・」
ちゆを急いで助けないといけないのに、体を動かそうとしても言うことを聞かない。さらに視界までもがぼやけ始める。
「ぁぁ・・・・・・ぁ・・・」
そんな中、ちゆに限界が訪れた。暴れさせていた足をプルプルと震わせた後に力が抜け、喉を抑えていた腕をパタリと落としてしまった。その表情には瞳にハイライトがなく口がポカリと開かれている。眉も苦しんだことを表現するかのように皺が寄せられたままだった。
「ぁ・・・ち、ちゆ、ちー・・・」
ひなたは視界がぼやけながらも地面をハイハイのようにしながら、ちゆの元へと行こうとする。
バチバチバチッ・・・!!!
「ぁっ・・・」
さらに胸に痛みが走り、視界が狭くなっていく。ついには地面にも突っ伏してしまう。
「ぅぅ・・・!」
それでも地面に這わせながら、ちゆの元へと一歩一歩近づいていく。
そして、やっとの思いでちゆの元へとたどり着き、意識がすでに朦朧としているであろう彼女の肩に優しく手を置く。
「ちゆ、ちー・・・しっか、り・・・」
自分も意識を失いそうなのにちゆのことだけを心配するひなた。そんなひなたも、それで気力を使い果たしてしまったのか、体から力が抜け、ちゆの胸に頭を倒してしまう。
ダ、ダメ・・・ここ、で・・・いし、きを、うしなっ、たら・・・・・・。
ひなたはそう思いつつも、体は全く言うことを聞かず視界も見えなくなってきた。
ふと何やらノイズのような音が聞こえてきて、ふと顔をピクピクとさせながら横へと向けてみると、何やら白衣を着た人物がこちらに近づいてきていた。
(ごめん、ね、ちゆ、ちー・・・あた、し、守れなく・・・って・・・)
・・・なた!・・・!・・・!!
・・・ゆ!・・・する・・・!!!
あ、れ? な、に? あた、し、を、呼ぶ、声、が・・・聞こえる・・・?
ひなたの意識はそのまま闇に落ちていったのであった・・・・・・。
「はぁ・・・怪物共に任せるのも退屈ね・・・」
そう言いながら、廃病院の外の芝生の上で寝転んでいるクルシーナだ。黒い大流ーーーーストームビョーゲンと、地球から生み出した怪物ーーーーメガビョーゲンに男の捜索をさせているのだが、いつまでたっても戻ってくる様子がない。
やっぱり、自分で行った方が良かったか? でも、この小さくもない街を探すのには骨が折れる。特にストームビョーゲンはそういうのに向いているから、あっさり見つけ出せるはずなのだが。
と、そこへこちらに命令を下したストームビョーゲンが戻ってくるのを視認した。ストームビョーゲンはクルシーナの上空を、サークルを描きながら飛び回る。
「・・・あのヤブ医者の男は見つかったの?」
それを見て体を起こしたクルシーナはいつまでも任務を遂行しないストームビョーゲンに苛立ったように言った。
「ナノ~」
「はぁ? 小娘二人を追ってたぁ!? アタシはヤブ医者の男を探せと言ったわよねぇ!? 誰がそいつらを襲えと言った!?」
「ナノ・・・」
「見つけるか、病気に蝕むまで戻ってくるんじゃないよッ! 次、戻ってきたらその塊を解体してやるからね! おら! さっさと行けッ!!」
クルシーナに怒鳴られたストームビョーゲンは慌てたように蛇のような大流を作りながら、任務を遂行すべく追っていく。
「ふん!」
クルシーナは再び寝そべる。本当に生命力を持っている生物がいると、やたらやることを無視して襲うような怪物だ。あいつらの行動パターンを考えるとムカついてくる。
やっぱり自分が行った方がマシだったか・・・・・・?
本当にどうでもいいと一蹴するかのように思考を振り払って横になった後、次に考えるのは色のない山の花畑に放置してきたキュアグレースのことだ。
あいつは本当に偽善ぶっていてムカつくやつだ。それで自分が病気に蝕まれようが、相手のことばかりを気遣う。ああいうのを見ているとあいつに命乞いをさせてやりたいほど、余計に苦しめたくなる。
でも、この地球という場所にあるこの街一帯はすでに病気に全て蝕まれて、生命力を失い、死の大地と化している。そんなところであいつにその真実を突きつければ、絶望して立ち上がれなくなるだろう。
「クルシーナ、メガビョーゲンがプリキュアを見つけたそうですよ」
と、そこへ風を切ったような音が聞こえるとドクルンとイタイノンが姿を表す。
「そいつってキュアグレース?」
「わかりませんが、一人で彷徨ってたみたいですよぉ」
ドクルンがニヤリとした表情のまま、メガネを上に上げながら言った。
確か、あいつは一人置き去りにしてきたはずだから、それがプリキュアだとなると・・・間違いない、キュアグレースのはず・・・。
「フフフ・・・ちょっとあいつの様子を見に行こうかしらぁ・・・」
クルシーナはおもむろに起き上がると、彼女の絶望や苦しみを食らってやろうと街の方へと飛んでいくのであった。