ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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前回の続きです。
頑張ります!オリストちゃんとできるように!


第29話「医者」

 

・・・なた!! おい、ひなた!!

 

「ぅ・・・うぅ・・・うーん・・・」

 

誰かの呼ぶ声が聞こえる・・・・・・それは、どこかで聞いたことがあるような男の声・・・。

 

暗くなっていた世界が広くなっていき、ぼやけていた視界が段々とクリアになっていく。

 

そして、視界にピントが合っていくと最初に映ったのは黄色い猫の姿だった。

 

「ひなた!!!」

 

「あ・・・ニャトラン・・・」

 

黄色い猫ーーーーニャトランが瞳を潤ませるとひなたへと飛びつく。ひなたは困惑しながらも、その猫が自分のパートナーであると認識すると彼女も瞳をうるうるとさせていく。

 

「うぅ・・・ニャトラン!! 寂しかったよぉ~!!」

 

「ひなた~、俺も会えてよかったニャ!! ニャ? ちょ、ちょちょちょ、ひ、ひなた苦しいニャ!!!」

 

二人はお互いに体格差のある体を抱きしめ合いながら涙を流す。ストームビョーゲンにバラバラにされてから、久方ぶりの再会・・・やっとパートナーに会うことができたお互いは安心していた。

 

よっぽど精神的に参っていたのか、ひなたが思わず強くニャトランを抱きしめてはいたが・・・。

 

「ひなた、無事でよかったペエ」

 

「ペギタン!!」

 

そこへ安堵したような顔をした小さなペンギンーーーーペギタンが姿を見せる。ひなたはまた仲間に再会できたことを感じ、心は安心しきっていた。

 

「!! ちゆちーは!? うぅ・・・!!」

 

ペギタンの姿を見て、ハッとしたひなたは体を起こすも左腕に痛みが走る。彼女の左腕と頭などに包帯が巻かれていた。

 

「ああ! 動いちゃダメニャ!! 結構、怪我してたんだぜ?」

 

「しばらく大人しくしてたほうがいいペエ」

 

ニャトランとペギタンがひなたを気遣う。しかし、ひなたは一緒に行動したはずの友達の姿が見えないことに不安が募っていく。

 

「でも、ちゆちーが・・・!!」

 

「ちゆならそこにいるペエ」

 

ペギタンが向いている方向を見ると、ちゆが病院のようなベッドに寝かされているのが見えた。彼女の口には酸素マスクがつけられているものの、彼女の容体は安定しているようだった。

 

気がつけば、自分もちゆと同じベッドで寝かされていた。

 

ちゆが穏やかな呼吸音をしているのを見て、ひなたは心に落ち着きを取り戻していく。

 

「よかった・・・!」

 

「でも、まだ目を覚ましていないペエ・・・」

 

ちゆは容態こそ安定したものの、余程の重症だったのかまだ意識を一度も取り戻していないという。念のため口元には酸素マスクを付けていて、呼吸に支障がないようにしている。

 

とりあえず、ちゆのことは安心したとして、状況を確認しようとする。

 

「えっと・・・ここは、どこ?」

 

周囲を見渡してみれば、辺りは真っ暗で明かりで辛うじて照らされているところが見えているぐらいで、ここがどこなのかはあまりわからない。

 

「俺のアジトさ」

 

「?」

 

と、そこへ壮年らしき男性の声が聞こえてくる。こちらへと近づいてくると白衣を身につけ、眼鏡をかけた年相応の男性がいるのを見えた。

 

「お嬢ちゃん、やっと目が覚めたか」

 

「えっ・・・おじさん、誰?」

 

見覚えのない壮年の姿を見たひなたは目をパチクリとさせる。

 

「俺か? 俺はただのしがない、ろくでなしの親父さ。一応、名前を言うんであれば、設楽って呼んでくれ」

 

壮年の男性ーーーー設楽はひなたの横に座ると普通の聴診器を取り出して、胸やいろんなところに当てていき、さらに首を触って何かを確かめている。

 

ひなたが気になった、というか焦燥感を抱いたのはニャトランとペギタンが堂々と設楽の前に姿を現していることで・・・。

 

「っていうか、二人とも! この人の前で喋ったりしちゃ!?」

 

「構わねぇよ。俺もお前と同じようにしゃべる小さい動物を連れた女を見たことがあるからな」

 

慌て出したひなたを制するように言う設楽。

 

「いやあ~、俺らも見つけられた時は焦ったぜ~」

 

「まさか、この街に人間がいるなんてペエ」

 

ニャトランとペギタンが言う。最初に出会った時は何故か暗いところで目が覚めたところで、そこには一人の人間がいた。バレないように動物のふりをしようとしたが、設楽には演技がお見通しで、しかも自分たちのようなヒーリングアニマルに会ったことがあるという。

 

「口を開けて」

 

「あーん」

 

ひなたは言われた通り、口を開けると設楽は小さな懐中電灯を当てて口の中、喉の奥を見る。そして、目を上下に開けるとそこにも懐中電灯を当てて何かを見ている。

 

そして、懐中電灯を消すと安堵したような微笑みを浮かべる。

 

「何ともねぇな。至って、健康体だ。俺の打った薬が効いたんだろうな」

 

設楽はそう言うと立ち上がって、未だに眠っているちゆの方へと歩いていく。

 

「あの先生、すごいニャ!! あんなに体調の悪かった二人をあっという間に元気にしたんだぜ?」

 

「まさにスーパードクターペエ。僕もあんな風に地球を癒せるようになりたいペエ」

 

ニャトランとペギタンが目を輝かせながら言う。ひなたやちゆに起こる謎の不調をあっという間に安定した容態にしたぐらいだから、確かにすごい先生ではあるのだろう。

 

「よせよ。俺はそんなスーパーだなんて大層なもので呼ばれるようなタマじゃねぇ。ただのヤブ医者さ」

 

しかし、それを設楽は否定するかのように返す。

 

「え? なんで? 超すごい医者じゃん!! あたし、尊敬したいぐらいなんだけど・・・!!」

 

「ハッ、本当のすごい医者ってのは、相手の顔を見てどんな病気だかすぐにわかって、諦めずに治すことができるやつのことを言うのさ」

 

設楽はそう言った後に、少し悔しそうに顔を歪める。

 

「俺は・・・あいつらを救ってやれなかったからな・・・」

 

「え・・・あいつらって、誰・・・?」

 

「お嬢さんには関係ねぇよ。今は安静にしてな」

 

設楽はそう返すとちゆの処置を終わらせて部屋を出て行く。ひなたには後にするその後ろ姿が、なんだか寂しそうに見えたのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうした? ひなた」

 

「・・・いや、なんかね・・・あの設楽さんだっけ? なんか、寂しそうだなって・・・」

 

ひなたは設楽が出ていったのを見ながら、ニャトランにそうつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゆとひなたが助けられているその頃、のどかは森の中を彷徨っていた。

 

どこを見渡しても色を全くない、灰色と白の世界。いまだに現実感が湧かなかった。

 

「ひなたちゃーん!! ちゆちゃーん!! ラビリーン!! ペギターン!! ニャトラーン!!」

 

もうこれまでに何回叫んだだろうか、もう覚えていない。でも、何回呼ぼうとも帰ってくる声は全くない。

 

「みんな・・・どこにいるのかな・・・?」

 

本当は、ここは別世界で、自分一人がこの世界に迷い込んでしまったのではないか? のどかはそんな感じがしてならなかった。

 

でも、ここはどこかで見たことがある風景な気もするし、自分がすこやか市に引っ越す前に見たいろんな町のどれかにも似ている気がする。異世界であるとも言い切れないのだ。

 

友達を探してそんな森の中をさまよっていると、見覚えのある声が聞こえてきて、不意に足を止める。

 

「メガー!!」

 

「!?」

 

のどかはハッとして周囲を見渡す。間違いない、メガビョーゲンの声だ。でも、どこにいるのか?

 

そう考えていると、雷のような黒い光線がこちらへと飛んできた。

 

「きゃあ!!」

 

降り注ぐ雷はのどかに直撃せず、彼女の横スレスレを走って行った。

 

雷が降り注いだ方向を見てると不健康そうな顔にプロペラのようなものを回転させながら飛ぶメガビョーゲンの姿があった。

 

「メガビョーゲン!!」

 

のどかはヒーリングステッキを構えようとするが、なぜか手が空振った。というよりも、何かを握っているような感触がしない。

 

「あれ?」

 

そもそも起き上がったときに私とラテ二人・・・手元にステッキがない・・・そもそも、パートナーがいない・・・。

 

「あ、そ、そうだった! 私、変身できないんだったー!!」

 

色をなくした森を彷徨って考えごとをしていたせいか、ステッキとパートナーがいないことを思い出したのどかは一転して、メガビョーゲンから踵を返して走り出した。

 

「メガー!!」

 

当然、見つけたプリキュアの一人をメガビョーゲンが逃すはずもなく、プロペラの中央の先から雷をのどかに向かって放つ。

 

ドォン!! ドドン!! ドォォォン!!

 

「ああ! ひゃあ! うわあぁぁぁ!!」

 

メガビョーゲンが放つ攻撃をよろけそうになりながらもかわし、息を切らしながらも必死に走っていく。こういうとき、体力のない自分を呪いたくなる。

 

「ラビリーン!! どこにいるのー!!??」

 

きっとどこかで自分を探しに彷徨っているであろうパートナーの名前を叫びながら、のどかはメガビョーゲンから逃れるべく走り出した。

 

一方、そののどかのパートナーは・・・。

 

「のどかー! ちゆー! ひなたー! ペギターン! ニャトラーン!」

 

ラビリンはヒーリングステッキを持ちながら、見たこともない街の中で仲間たちを探していた。

 

「みんな、どこにいるラビ・・・?」

 

クルシーナたちが操った黒い大流に吹き飛ばされ、ちゆやひなたと離れ離れになってしまい、気がついたら街の屋上のビルの上にステッキと共に落ちていた。そこからは少し重いステッキを引きずりながら、見つかっていないみんなを探していたのだった。

 

街は閑散としていて、所々は病気で蝕まれたような靄がかかっている。ビルの建物には赤い根っこのようなものが這っていて、一層不気味なものになっていた。

 

「人間の気配が全くしないし、エレメントさんの気配がまるでしないラビ・・・」

 

この街は、まさに色をなくした街だ。すこやか市と違って生きているような感じがしない。まるでビョーゲンズに全て奪われたようなそんな世界に見える。

 

果たしてこの街一帯は本当にビョーゲンズのものになってしまったのだろうか。ラテ様が今まで反応しなかったところを見ると、私たちがこの地球に来る前になってしまったように感じる。

 

「一体、どこに行ったらいいラビ・・・!?」

 

どこも同じような景色にしか見えず、頭を抱えるラビリン。全く仲間が見つかる気配もしないこの街のどこを探しに行けばいいのか?

 

「!! あれは・・・?」

 

ふと山の上に病院があるのに気づく。外観は黒く寂れていて、見るからに廃病院ではあったが、なぜかあそこだけ色が消えていない。どう見てもあそこだけ異様に見えるのだ。

 

もしかしたら、あそこに何かあるのかもしれない・・・正直、不安しかなかったが・・・。

 

ラビリンは緊張で眉をしかめつつも、あの病院へと行こうとするが・・・。

 

「メガー・・・」

 

「えっ・・・?」

 

しかし、何やら声が聞こえてきたので振り返ってみると、そこにはこの街に来る前に戦ったものと同じサイズのメガビョーゲンが立っていて、獲物に狙いを定めるかのようにトゲのついた触手をウネウネと動かしていた。

 

ラビリンはそれを認識した瞬間、体の震えが止まらなくなる。

 

その間にメガビョーゲンは触手の先についているサソリの鋏のようなものをラビリンへと向けた。

 

「あわわわわ・・・!! ラビー!!!」

 

「メガー・・・」

 

ラビリンは地球に来た時にメガビョーゲンにボコボコにされたことが蘇り、悲鳴を上げながら行こうとした病院よりもスピードを上げて飛び始めた。メガビョーゲンは交互の鋏から白と黒のイバラのようなビームをそれぞれ放った。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「メガー・・・」

 

さらにメガビョーゲンはもう一方の棘のような触手についているバラから赤色の短いレーザーを複数放った。ラビリンは悲鳴を上げながらも、直撃しないように必死に避けていく。

 

まるでロボットのように、メガビョーゲンはビームやレーザーを無差別に、ラビリンに向かって放っていく。

 

「のどかもまだ見つかってないのにーー!!!」

 

ラビリンも、のどかが見つからなければお手当てどころか、食い止めることすらままならない。結果、逃げるしかないのだが、全く距離が縮まっている気がしない。

 

ふとメガビョーゲンから逃げ回っているうちに、近くに森への入り口があるのが見えた。

 

「! 占めたラビ!!」

 

ラビリンは方向を90度転換して、森の中へと飛び込んでいく。そして、すぐそばの草の中へと隠れる。

 

「メガ、メガー・・・」

 

メガビョーゲンは自分よりも遥かに小さいラビリンを見失ったようで、ラビリンの隠れた場所スレスレのところで周囲を見渡すとそのまま森の奥へと進んでいく。

 

ラビリンは隠れていた植物から顔を出して、メガビョーゲンが自分から通り過ぎていくのを見て安堵の声を漏らす。

 

「ふぅ・・・助かったラビ・・・!」

 

このままではメガビョーゲンに追い詰められてやられかねない。早くのどかだけでも見つけないと・・・!

 

きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「!?」

 

すると、少女の悲鳴が聞こえた。しかも、この声はどこかで聞いたことのある声だ。

 

「この声は・・・!」

 

ラビリンはすぐに声が聞こえた方向へと飛んでいく。そこには道が開けた場所があり、植物に隠れて覗いてみると学生服の女子が走って通り過ぎているのが見えた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

その少女は、ラテを抱いたのどかで、その背後にはメガビョーゲンが雷を放ちながら追いかけ回していた。

 

「! のどか!!」

 

ラビリンが声を上げるも、のどかは逃げるのに必死で彼女の声が聞こえていない模様。

 

しかも、逃げ回り続けていたのか、もう体力も残っていないのだろう。彼女の顔はすでに汗だくで、息も絶え絶えになっていた。

 

「メガー!!」

 

その間にもメガビョーゲンは雷を次々とのどかに向かって放つ。

 

ドン! ドドン!! ドォォォォン!!!

 

「うわぁ! ひゃあ! あ・・・きゃあぁぁ!!」

 

のどかは必死に避けながら走るも、疲れからか足をよろけさせてしまい、雷の爆発に吹き飛ばされてしまう。

 

「うぅぅ・・・!」

 

のどかは起き上がろうとするが、そこにはプロペラのメガビョーゲンが迫っていた。

 

「ああ・・・!」

 

「メガー!!」

 

「!!」

 

メガビョーゲンは容赦なくのどかに向かって電撃を放つ。のどかは思わず目を瞑るも、その瞬間彼女の体は何かに吹き飛ばされる。

 

「え・・・?」

 

目をゆっくりと開けて気がつくと、自分が倒れていた場所の地面に雷が直撃したように焼け焦げており、自分は何ともなかった。

 

お腹の辺りに柔らかいものがあるかのような違和感があり、ゆっくりと下を見てみるとそこにはステッキを持ちながらも彼女を突き飛ばした自身のパートナーの姿が。

 

「ラビリン・・・?」

 

「のどか・・・怪我はないラビ?」

 

「うん、ラビリンは・・・?」

 

「私も、大丈夫ラビ」

 

ラビリンはそう言ってのどかに笑顔を見せる。のどかもそんなパートナーに微笑みで返し、ゆっくりと立ち上がる。

 

そして、ラビリンから落としていたヒーリングステッキを受け取り、メガビョーゲンへと向き直る。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンはこちらを睨みつけたまま、上空へと漂っている。

 

「のどか、変身するラビ!!」

 

「うん!」

 

揃った二人はこうしてプリキュアに変身しようとするが・・・。

 

「メガー・・・!!」

 

「「!?」」

 

正面ではない別のところからメガビョーゲンの声が聞こえてきた。しかし、のどかたちは振り向く暇もなく、そこにイバラのようなビームが飛んできてのどかとラビリンを総まとめにして巻きつく。

 

「あっ・・・う、動けない・・・!」

 

「ぐっ・・・の、のどか・・・!」

 

放ったのは先ほどラビリンを追いかけていたメガビョーゲンだった。のどかともう一体のメガビョーゲンの追いかけっこの声を聞きつけたのか、戻ってきてしまったのだ。

 

怪物はイバラビームに二人がかかったことを確認すると、もう一方のトゲの触手についているバラから赤色の短いレーザーを放っていく。

 

「メガー・・・!」

 

「の、のどか、やっぱり逃げるラビ!!」

 

「えぇぇぇぇ!? そんなぁー!!」

 

そう叫びながらのどかは二体のメガビョーゲンとは違う方向へと縛られたまま走っていく。当然、メガビョーゲンたちがプリキュアになれる二人を逃すはずもなく追いかけていく。

 

プロペラのメガビョーゲンはその中央の先から雷を放つ。

 

ドドン! ドォォォォォォォォン!!!

 

「きゃあぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁ!?」

 

「ラビーーーー!!??」

 

吹き飛ばされながらも、地面に倒れずに踏ん張って着地しながらも必死に走っていく。

 

ハートのような枠からトゲのような触手を生やしたメガビョーゲンは、そのバラのような形のものから赤い短めのレーザーを放っていく。

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

「ひゃあぁぁぁぁ!!」

 

のどかはよろけながらも交互に走りながらもかわしていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・だ、誰か・・・助けてー! ちゆちゃーん!! ひなたちゃーん!!」

 

のどかは息も絶え絶えになりながら、まだ居場所が分かっていない二人の友達に助けを求めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前、小さかったちゆはその日、体操着に着替えて小学校の校庭へと出ていた。

 

彼女の目の前にあるのは、一本のバー。そして、後ろには青いマットがある。

 

そう、彼女は走り高跳びの記録に挑戦をしようとしていたのだ。このバーを高く飛べれば、空に届くかもしれないから・・・。

 

自身の靴の紐をしっかりと締め、髪をポニーテールに結んで、しっかりと立つ。足をトントンと踏み鳴らしながら気合いを入れ、目の前にあるバーをしっかりと見る。

 

「よし!」

 

ちゆは足を一歩後ろに下げ、両腕を構えて、一気にバーに向かって走り出した。しっかりと助走を付けていき・・・・・・。

 

バーの前の白い線のところで飛び上がり、体の側面を向けて飛び上がる。腰がバーを通過した瞬間、前足を上げ、背部からマットへと着地した。

 

くるんと後ろで一回転し、顔を上げてみるとバーは落ちていない。つまりはバーを飛び越えることに成功したのだ。

 

ちゆは心の中では歓喜の気持ちで頷きつつも、まだまだこれでは空に届かない。次はバーをもう一段階上げて挑戦しようと思う。

 

「・・・?」

 

と、ちゆが行動に移そうとしたとき、ふと視界に誰かの姿が映ったのが気になった。

 

それをよく見てみると、それは眼鏡をかけた少女で青いシャツの上から白衣を着込んでいて、下はジーパンを履いていた。手にはペットボトルでできた何かと木の棒を持っていて、校庭に何かを設置しようとしている模様。

 

ペットボトルはよく見ればロケットのような形をしていて、どうやらそれを校庭で打ち上げようとしているようだが、一体何のために・・・?

 

気になったちゆは打ち上げるために設置している彼女に声をかけてみることにした。

 

「ねえ、あなた」

 

「・・・?」

 

声をかけられた少女はこちらを振り向くが、すぐに足元にある木をノコギリで切り始める。

 

「何をしているの?」

 

「・・・見ての通り、それを打ち上げようとしているんですよ」

 

少女は視線を置いてあるペットボトルに向けながら淡々と答えると、すぐ視線を切っている木の棒へと移す。

 

「何のために?」

 

「・・・打ち上げたいからに決まっているでしょ。そんなこともわからないんですか?」

 

淡々と木を切りながらこちらに視線を合わさずに話す少女に、少しムッとするちゆ。

 

ふと、ちゆはペットボトルでできたロケットに視線を移すと拾い上げてマジマジと見てみる。

 

「へぇ、よくできてるのね・・・中に入ってるのって水かしら?」

 

ちゆはそう言って下のキャップに触ろうとするが、それに慌てた人物が一人いた。

 

「!? そこを触っちゃダメです!!」

 

「え? きゃあっ!!」

 

少女はちゆに視線を向けてハッとした後、大声で叫ぶも、時はすでに遅し。キャップに手をかけてしまったちゆの手元からペットボトルが勢いよく飛び出し、それが少女の方へと飛んでいく。

 

「えっ・・・がっ・・・!?」

 

駆け寄ろうとしていた少女の額へペットボトルが直撃し、彼女はうつ伏せに倒れてしまう。

 

「だ、大丈夫!?」

 

ちゆは少女の元へと駆け寄って体を起こすも、少女の額には擦りむいたような跡ができていて痛そうに抑えていた。

 

「あ、痛たた・・・全く、勝手に触らないでくださいよ!!」

 

「ご、ごめんなさい・・・!」

 

「!!」

 

少女は落ちたメガネを拾ってかけなおすと怒鳴り、それで落ち込んだような顔を見せるちゆ。そんな彼女の表情を見て、少女は何か気持ちが体から湧き上がってくるような何かを感じつつも、ちゆからは困ったように目をそらす。

 

その後、ちゆは保健室から絆創膏を貰ってきて、少女の額に貼ってあげる。そして、座っている少女に対して頭を下げる。

 

「本当に、ごめんなさい・・・!」

 

「・・・いいんですよ。あんなところに無用心に置いた私にも責任はありますから。あなたこそ怪我はないんですか?」

 

「私は、大丈夫よ・・・」

 

ちゆからの言葉を聞きつつも、少女は手に持っていた蓋が外れて、水がなくなってしまったペットボトルのロケットを見つめる。

 

「はぁ・・・また、水と空気を入れ直さないと・・・」

 

ため息をつく少女。そんな彼女の隣にちゆは座り込む。

 

「ねえ、それって何? なんだかロケットみたいだけど?」

 

ちゆが手に持っているものを聞いてくると、少女は穏やかな笑みを浮かべる。

 

「これはですね、ペットボトルでできたロケットなんです」

 

少女はそう言うと先ほどの蓋を取り出して見せる。

 

「このペットボトルに水を入れて、蓋をつける。そして、この中に空気入れとかで空気を入れればロケットのように水が噴射して飛んでいくんですよ」

 

「へぇ・・・すごいわね」

 

「別に大したことじゃないですよ」

 

少女はちゆの言葉にそう言うも、その表情はなんだか寂しいものだった。

 

「ねえ、えっと・・・?」

 

「りょうですよ、私の名前」

 

ちゆは、そういえば名前を聞いていなかったなと思うも、少女が呆れたような顔で答えてくれた。

 

「りょうは、どうしてそのロケットを作りたいと思ったの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆの質問にりょうはしばらくの沈黙の後、口を開いてくれた。

 

「・・・遠いところにいる私の親に見てもらうためですよ」

 

「親?」

 

「私、幼い頃にお父さんを亡くしているんです。お母さんも出張であまり家には帰ってきませんし・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはりょうの顔に何か哀愁のような何かを感じた。どこか寂しそうで、どこか儚い・・・。

 

「私は、幼い頃からものを作るのが好きなんです。元々友達ともそんなに遊びませんし、一人でものを作ることをやっているうちにすごいなーとか、楽しいなって思うようになって・・・」

 

りょうはすくっと立ち上がってちゆの方を見る。その顔は晴れやかな表情をしていた。

 

「私が頑張って作ったものを、お父さんやお母さんに届けたいなと思って、見てくれたらいいなって、そう思ってるんですよ。私のこれにかける思いを・・・」

 

嬉々して語るりょうの姿に、ちゆは微笑む。

 

「届くわよ、その思い。きっと、りょうのお父さんとお母さんに」

 

「何を根拠に言ってるんですか? まあ、いいですけど」

 

呆れが混じったような笑みで言うりょうに、ちゆは立ち上がってりょうの両手を掴む。

 

「ねえ、りょうの作ったものもっと教えて! 私、すごい興味があるの・・・!」

 

「っ!!」

 

ちゆの優しい笑みに、ドキッとしたりょうの頬が赤色に染まる。今、自分が恥ずかしい顔をしていると思った彼女はちゆから目をそらす。

 

「べ、別にいいですよ、あなたになら特別に・・・」

 

「! ありがとう! 私、沢泉ちゆ!」

 

「・・・毒島りょう、大した名前ではありませんけど・・・よろしくです」

 

りょうは照れ臭そうに頬を指で掻く。

 

「私、これから毎日りょうに会いに行く! 作ったものを教えてちょうだい!」

 

「なっ!? ・・・そんなに毎日来られたって新しいものなんかできませんよ!! それにあなたは部活があるでしょう!? 疎かにしない!!」

 

「もちろん、部活もやるわ。でも、りょうの作ったものにも興味が湧いてきたの・・・!!」

 

「・・・仕方ないですね。時々だったら、いいですよ」

 

りょうはちゆに呆れつつも、初めてできた友達に自分が作った自慢のものをたっぷりと教えてやろうと嬉々するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・うん・・・んん・・・!」

 

病院のベッドで横になっていたちゆが顔を顰め始める。これは目を覚まそうとしているか、悪夢にうなされているかだ。

 

「あ、ちゆちー・・・!」

 

「ちゆ・・・!」

 

ベッドの横ではひなたが早く目覚めてほしいと願いながら、眠るちゆのことを見守っていた。ペギタンも不安そうに見守っている。

 

そんなちゆの表情が苦しそうなものに変わっていき、額から汗が滲み始めた。

 

「うぅ・・・うぅぅ・・・んんぅぅ・・・うぅぅ!!」

 

「!? ちゆちー!!」

 

ちゆは首を横に振りながら苦しみの声を上げている。ひなたは何か悪い病気が再発したんじゃないかと思うくらい動揺していた。

 

「んんぅぅぅ!! うぅぅ・・・うんんん・・・!!」

 

「ちゆちー起きて!! 起きてよ!!」

 

「うぅぅぅ! んんぅ・・・うぅぅんぅぅ!!」

 

ひなたが声をかけてもちゆは目を覚まさない。シーツ越しに胸を抑えながら、首を左右に振りながら苦しんでいる。

 

「ちゆちー!! ちゆちー!!」

 

「うぅぅぅ・・・んんぅぅ!!・・・あっ!?」

 

ひなたが必死に呼びかけると、ちゆは前かがみになった後、飛び起きてもおかしくないくらいに目を見開いた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ちゆー!!」

 

「ちゆちー、大丈夫!?」

 

「随分とうなされてたニャ!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ん、大丈夫よ・・・」

 

ちゆは息が切れていたが、落ち着きを取り戻していく。

 

なんだか懐かしいものを見ていた気がする。あの記憶はきっと、忘れていたはずの・・・。

 

でも、あの子が突然変貌して、私に襲いかかってくるなんて・・・現実にあったら恐怖を感じる夢だった。

 

「おい、何の騒ぎだ? 隣の部屋にまで聞こえてきたぞ」

 

そこへ騒ぎを聞きつけた設楽が部屋の中へと入っていく。

 

「おう、清楚なお嬢ちゃん、やっと目が覚めたか」

 

設楽はちゆの隣に座ると触診をするために、普通の聴診器を出して胸に当て始めた。

 

「あなたは・・・?」

 

「私たちを助けてくれた設楽先生だよ。あたしたちの不調も治してくれたし」

 

「本当にスーパードクターなんだペエ!」

 

「やめてくれ。俺はそんな大層な医者じゃねぇって言ったろ」

 

設楽はちゆの首のリンパを触りながら、ペギタンの言葉を返す。

 

「ってペギタン!? 今ここで喋っちゃ!?」

 

「ああ・・・あたしと同じ反応・・・この人は大丈夫だよ。ペギタンとニャトランに似ている子を見たことがあるんだって」

 

「それって、本当なの・・・?」

 

「ああ。確か、カナリアみたいなやつだったな」

 

「カナリア・・・?」

 

カナリアのヒーリングアニマル? ペギタンとニャトランはヒーリングガーデンに確かそういうのがいたのを見たことがある気がする。

 

考えているうちに設楽はちゆに口を開けさせて小さな懐中電灯を当てると、口の中や喉の奥をしっかりと見る。そして、目の奥にも懐中電灯を当てて何かを見ている。

 

「よし、なんともないな。ただお前さんは重症だったから少し安静にしたほうがいい」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

「礼なんかいらねぇよ」

 

設楽はそう言うと彼女たちに踵を返して部屋を出ようとする。

 

「あの・・・!」

 

「・・・何だ?」

 

ちゆが呼び止めると、設楽は立ち止まって振り返る。

 

「この街や森一帯って、一体どうなってるんですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「まるで生気を感じないし、住んでいる人が一人もいない・・・でも、その中であなたはここで暮らしている・・・ここは一体何なんですか? あの街に一体何があったって言うんですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆがおそらく核心についたことを聞くと、設楽はしばらくちゆを見つめた後、すぐに彼女から目をそらすように正面を向く。

 

「お前さんたちには関係ない。そんなことを知ってどうするんだ?」

 

「でも、それは・・・!」

 

「それに俺は好きでこんなところで暮らしてるわけじゃねぇ。あの廃病院で囚われてる俺の娘を取り戻して、こんな街から出て行きてぇんだよ」

 

「ちょっと、そんな言い方しなくても・・・! って、娘?」

 

「おっと、余計なこと言っちまったか。忘れてくれ」

 

設楽はそう言って部屋から出て行こうとするが・・・・・・。

 

きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

この部屋に悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 

「!この声って・・・?」

 

「のどかっちの声じゃん!?」

 

「もしかして、この近くにいるの・・・!?」

 

のどかが危険な目に遭っている・・・。そう感じた二人はすぐに部屋から飛び出そうとする。

 

「おい!待て! お前さんたちは安静にしてろと言ったろ!!」

 

設楽がそんな二人に怒鳴り声を上げるも、二人は立ち止まって振り返りながらこう言った。

 

「のどかっちがピンチなのに、寝てなんかいられないよ!!」

 

「それに、私たちは大変な目に遭っている子を放っておけるほど、薄情な人じゃないんです!!」

 

二人はのどかを助けるべく、部屋からと飛び出していく。

 

「僕たちが追うペエ!!」

 

「心配すんなよ、スーパードクター!! 俺たちがついてるからよ!」

 

ペギタンとニャトランはそう言うと二人の後を追っていく。

 

「あっ、おい!!」

 

設楽は手を伸ばすも、4人は止まることを知らなかった。そんな4人の姿を見たとき、設楽にある記憶が蘇った。

 

ーーーーお前さん、逃げろ!! この街はもう終わってる・・・助けてぇのはわかるけど、無理なものは無理なんだよ・・・!

 

ーーーー嫌、です・・・!

 

ーーーー・・・なんで、そこまで?

 

ーーーー私は、病気で苦しんでいる人を見捨てるほど、落ちぶれた人ではありません!!

 

ハープを持ち、紫色のコスプレの格好をした女性がボロボロになりながらもそう言いながら、街の病気の侵食を食い止めようと奮闘していた。

 

今の2人があの、女性の姿と重なったのだ。

 

設楽はそれを思い出すと、まるでイライラしたように頭をかく。

 

「ったくよ・・・ガキは医者の忠告をちゃんと聞いてろってんだ!!」

 

設楽はそう吐き捨てると4人の後を追うべく走り出す。

 

(俺もあいつやあいつらみてぇに、そういう気持ちを持ってりゃ、患者を救えてたのかね・・・)

 

設楽は走って追う中、そんなことを考えていた。

 

(いや、今更、何を考えてるんだか・・・!)

 

しかし、もう昔の話だ。患者を救えなかった俺に医者を名乗る筋合いはねぇよ。

 

設楽は行動と思っていることが全く伴わない複雑な感情を抱いていたのであった。

 

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