ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter 作:早乙女
長くなったので前後編で分けます。今回は前編です。
ビョーゲンキングダム、そこはビョーゲンズにとっては楽園とも取れる病気で構成されている彼らの本拠地。普通の生物は生きていくことができないビョーゲンたちのためにある場所。
そこでは、一人の女性の初々しいような声が響く。
「キングビョーゲン様ぁ~♥ シンドイーネが朝のご挨拶に参りましたぁ~♥」
ビョーゲンズの幹部の一人、シンドイーネが暁の空に向かって呼びかける。今日も愛しのキングビョーゲンに言葉を返してもらえると声がハキハキとしている。
・・・・・・・・・。
しかし、暁の空に呼びかけた声は特に帰ってくるものではなかった。それもそのはず、今日はそんなモヤモヤとした顔は浮かび上がっていないのだから。
「・・・えぇ、今日もいらっしゃらないの~? お顔が見れないとやる気でないのに~」
愛しのボスが応じる気配がなく、シンドイーネは心底落ち込んだような声を出す。
その言葉に自分にとって余計な言葉が聞こえてきた。
「・・・ふん。あんな状態じゃ、いても顔なんか見えないだろ」
「・・・っ。見えます~! グアイワルには見えなくても、私には見えます~! 在りし日の素敵なお姿が浮かぶんです~!」
グアイワルの皮肉めいた言葉に、子供じみたような不機嫌そうな声で反論する。
「・・・つまり今はナノビョーゲンの集合体にしか見えてないってことじゃん」
「っ・・・!」
ダルイゼンの冷めた態度に、しかめた顔をするシンドイーネ。
「頭の中にお花畑でも沸いてるの。ビョーゲンズにとってあるまじき醜態なの」
「そこのガキ! うるさいわよ!!」
「・・・ふん」
イタイノンの毒のある言葉に、シンドイーネはイラっとしたのかキツい言葉で返すも、彼女はまるで意にも介していないかのようにあさっての方向を向く。
そんな態度にシンドイーネは心底悔しそうな顔をすると、キングビョーゲンがいるであろう方向を向く。
「待ってくださいね!キングビョーゲン様ぁ♥ どんどん地球を蝕んで、元のお姿に戻して差し上げますから♥」
そう意気込みを叫んだシンドイーネは地球を蝕むべく準備を進めるのであった。
そんなシンドイーネの姿を見ていたイタイノンは心底呆れたような表情で見つめていた。
「・・・フフ」
鼻で笑ったかのような声が聞こえたので、振り向くとドクルンが何やらニヤッとした笑みを浮かべていた。
「・・・何ニヤニヤ笑ってるの? 気持ち悪いの」
「いやぁ? クルシーナさんが戦っていたプリキュアがどんなものなのか興味が湧きましてねぇ」
ドクルンの言葉に、イタイノンはため息を吐く。
「・・・別にイタイノンは興味ないの。ボスもいないし、帰ってゲームでもしてるの」
イタイノンはそう吐き捨てると、瞬間移動してその場を去った。
「ドクルン、何か面白そうなことでもあったのかブル?」
ドクルンのスタッドチョーカーに化けていた小さなオオカミーーーーブルガルが元の姿に戻って問いかける。
「・・・まぁね。フフフ」
「お前のそういう顔しているときはいつも悪巧みをしている顔だブル」
ドクルンも笑みを浮かべたまま、その場を瞬間移動した。
人間界のとある場所へと降り立ったドクルン。周囲を見渡すと視界にとらえたのは一件の大きな建物だった。
「あれは・・・旅館か」
彼女が見上げているのは『旅館沢泉』。このすこやか市で一番大きい旅館であろう場所だ。
「健康的な匂いがして、不快だブル」
「まあまあ、でもなかなか面白いところではあるねぇ」
ドクルンのチョーカーになっているブルガルは嫌悪感を隠さなかったが、ドクルンは何やら楽しそうだ。
この温泉旅館の周囲を歩いていると、この旅館の温泉をくみ出していると言ってもいいボイラーが設置されているのを目にする。おそらくここに源泉があるかと思われるが・・・。
「・・・ふむ」
ドクルンは何かを考えるとボイラーから目を離して、雑木林の方へと向かっていく。
「ドクルン、さっきのでもメガビョーゲンは作れるだろブル?」
「ええ。でも、あまり単純な作りのものに入ってると、弱いメガビョーゲンしか生まれませんからねぇ。もっといいものを探してるのよ」
ドクルンはそう言って雑木林の中へと入っていこうとすると・・・。
「って、あんた。なんでここにいんのよ?」
声がする方に振り返ってみると、そこには見覚えのある同僚の姿が。
「おや? シンドイーネさんではないですか? あなたもここにいたんですか?」
「地球を蝕みに来たんだから、当然でしょ」
シンドイーネはドクルンに会うのが嫌で嫌で仕方がないといったような顔をしている。一方、ドクルンはニヤついたような不敵な笑みを浮かべている。
「私はちょっと面白いものを探していましてねぇ。それをメガビョーゲンにしたらどうなるのかなと思いましてね」
「ウソくさ・・・そんなこと言って私の邪魔をしようとしてるんじゃないでしょうね?」
ドクルンの言葉を明らかに信じないどころか、逆に邪魔をするんじゃないかと疑っているシンドイーネ。メガビョーゲンが生み出されたら間違い無くこっちにも被害、いや支障が出るだろう。
ーーーーキングビョーゲン様のために貢献しようとしているのに、こんな胡散臭い奴に手柄を奪われてたまるもんですか。
「信じるも信じないもあなた次第ですよ? まあ、少なくともあなたの邪魔をする気はないので、安心してください」
ドクルンはメガネを上げながらそう言うと、雑木林の中へと入っていく。
どうだか・・・と思いながら、シンドイーネはドクルンが入っていった雑木林を見つめていた。
雑木林に入ったドクルンはとある場所へと一直線に向かおうとしていた。
「どこに行くんだブル?」
「面白い場所に決まってるじゃない」
「・・・だから、どこ?」
「知らない」
ドクルンの即答に思わずガクッとこけてしまいそうな解答を聞いて、ブルガルは呆れる。
「でも、こっちにありそうな気がするのよねぇ」
話しながら歩いていくと、雑木林を抜け、そこにあるのは岩場の多い川であった。
「おやおや、こんなところがあるのですか」
川の水は澄んでいて、魚が元気に泳ぎ回っている。周囲の自然の木も枯れていそうなものが一つもない。
ビョーゲンズにとっては、不快に感じるはずの場所だが・・・。
「ここならいいものがありそうですねぇ」
「いいものってなんだブル? オレには不快感しか感じないブル」
笑みを浮かべているドクルンの言葉が理解できないブルガル。
メガビョーゲン!!
雑木林の向こうからメガビョーゲンの声が聞こえてきた。どうやらシンドイーネが始めた模様。
「向こうは始めたみたいね」
ドクルンはそう言うと川に近づき、手ですくってこぼしてみる。
「ふむ。実に面白いものがあるわねぇ」
「何が面白いんだブル?」
「まあまあ、見てなさい」
パシャ!!
川から泳いでいた魚が飛び上がるのが視界に入る。川が綺麗だからこそ、魚が生き生きしているのだろうと考える。
「・・・フフ♪」
ーーーーでは、始めてみましょうか。ここ一帯を蝕むとどうなるか。
ドクルンは中指と親指を合わせると、パッチンと音を鳴らす。
「進化してください、ナノビョーゲン」
「ナノデス~♪」
ドクルンの生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、先ほどドクルンが触れた川の中へと入っていく。川が徐々に病気へと蝕まれていく。
「わ、わ、わ、わぁぁ!ぁぁ!」
川の中にいる妖精、エレメントさんが病気へと蝕まれていく。
そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。
「メガビョ~・・・ゲン!」
まるで鮭のような形をして、顔は不健康そうな顔つきのメガビョーゲンが誕生した。
メガビョーゲンは誕生すると川の中へと飛び込み、綺麗な水を水中から病気で黒く蝕んでいく。
「メガ~!」
更に口を開けて病気を吐き出すと、底に沈んでいる石が黒く蝕まれていく。
バシャ!!
「ビョ~ゲン!」
川の中から飛び上がると、自然の木に向かって病気を吐き出し、病気へと汚染していく。
バシャン!!
川の中へと戻っていくメガビョーゲン。更に飛び込んだ際の跳ねた水が地面や岩場へと降り注ぎ、病気へと蝕んでいく。
「やはり、生き生きしたものほど良いメガビョーゲンが生まれるわね」
「メガビョーゲンが大分はしゃいでるブル」
ドクルンはかなりの速度で周囲を病気へと蝕んでいくメガビョーゲンを見て、不敵な笑みを浮かべた。
「さて、プリキュアはきますかねぇ?」
まさか、2体現れているなんて思ってもいないだろう。それに対してダルイゼンやクルシーナから聞いているプリキュアの数は一人、あっちを処理したところでこちらはとんでもないことになっているだろう。
ドクルンはプリキュアが来たときのことを頭に思い浮かべながら、不気味な笑みを強くした。
シンドイーネが生み出したメガビョーゲンと交戦中のキュアグレース。
最初のうちはことをうまく進めていたが、メガビョーゲンが吹き飛ばした木が友人のちゆへと飛んでしまい、かばってダメージを負ってしまった。
その影響が出始めてか、右腕から水流を放つメガビョーゲンに苦戦するグレース。
「メガ、メガ、メガ、メガ、メガ!!」
水流で上空へと吹っ飛ばしたグレースを、更に水球を放って追い打ちをかける。
「うっ、くっ、うわぁ!!」
水球を防ぎきれずに受けてしまい、地面へと落ちる。
「・・・ラテ様、グレース・・・」
ぐったりしているラテの側にいるペギタンは心配そうな表情を浮かべる。グレースが苦戦しているのに自分は何もできない・・・。
「クチュン!!」
そんな想いを嗤うかのように、ラテの体調に異変が起きた。
「ラテ様、大丈夫ペエ?」
「クゥ~ン・・・クゥ~ン」
「ラテ様? どうしたんだペエ?」
ラテ様はまるで何かを訴えたいと言わんばかりに弱々しい泣き声を上げている。
「クゥ~ン、クゥ~ン」
「・・・まさか」
何か嫌な予感がしたペギタンはヒーリングルームバッグから聴診器を取り出して、ラテの心の声を聞く。
(・・・あっちの方できれいなお水が泣いているラテ)
「っ!?」
ペギタンは驚愕した。何ということだ。グレースがただでさえ、今のメガビョーゲンに苦戦を強いられているというのに、別の場所でメガビョーゲンが現れたらしい。
ペギタンはたまらずグレースに向かって叫ぶ。
「グレース!ラビリン!大変ペエ!!別の場所にメガビョーゲンが現れたペエ!!」
その声はキュアグレースとラビリンに届けるには十分だった。
「え・・・嘘・・・きゃあ!」
グレースは信じられないような顔をしていたが、その隙を突かれてまた水流を受けてしまう。
「グレース!」
「・・・ドクルンね。あいつ、余計なことしなきゃいいけど」
ペギタンの声はシンドイーネにも聞こえていたようで、彼女は少し顰めたような顔をしていた。
実験とか言っていたが、彼女はどうしてもあいつが手柄を横取りしようとしているとしか思えない。
あんなヘラヘラしたやつにキングビョーゲン様のアピールポイントを取られるなんて冗談じゃない。キングビョーゲン様は私が何とかするのだ。
そんな彼女の心とは裏腹に、グレースも焦燥感を抱いていた。
「早く、なんとかしなきゃ・・・」
「グレース! まずはこのメガビョーゲンをどうにかしないとラビ!」
グレースは今すぐにでもそちらに行きたいが、メガビョーゲンが行く手を阻む。しかも、水球のせいで近づけずに防戦一方だ。
「どうしよう・・・どうしたらいいペエ。僕には何もできないペエ」
自分にもグレースの力になりたい・・・。でも、自分なんかが立ち向かったところで・・・。
ペギタンは自分の中で答えを出せず、グレースが苦戦しているのを見ているだけ。
そんなグレースの姿を見ているのはペギタンだけではなかった。
自分の両親が経営する旅館の源泉が病気で蝕まれているの目撃した少女ーーーー沢泉ちゆ。
「・・・私にできることはないの?」
グレースが、自分のクラスメイトがメガビョーゲンに苦戦しているのを見て、心の中で焦燥感に駆られていた。
ふと視界に入ったのは、同じようにグレースの戦いを見ている青い姿ーーーーペギタンだ。
「!!」
そういえば、のどかのそばにはピンク色のウサギがいた。そして、2人が心を通わせたことでのどかはプリキュアになった。
「もしかして・・・」
ーーーーそこにいるペンギンもあのウサギと同じだとしたら、自分もプリキュアになって、グレースの力になれるかもしれない。
ちゆは意を決して、ペギタンに近づく。
「ペンギンさん!!」
「!?」
不意にちゆに呼ばれたペギタンはビクッとしつつも、彼女に振り返る。
「もしかして、あなたもああやって戦えるんじゃない?」
「・・・・・・・・・(こく)」
ペギタンはちゆの言葉に迷いを見せつつも、頷く。
「できるのね! じゃあ、私にも手伝わせて!! お願い!!」
ちゆはそう言ったが、ペギタンは慌てたように言った。
「む、無理ペエ!!」
「どうして!?」
「・・・自信ないペエ」
ペギタンの心には迷いがあった。シンドイーネが生み出したメガビョーゲンにグレースはただでさえ苦戦している。
自分が行ったところで勝てる保証はないし、もし敵わなかったらこの女の子を危険にさらすことになる。つまり戦う覚悟と、彼女を危険に晒すというリスクに対する勇気が持てなかったのだ。
しかし、ちゆの心はペギタンの言葉では揺らがなかった。
「でも、あなたもみんなを助けたいんでしょ?」
「えっ・・・どうしてそれを!?」
「ごめんなさい、お風呂で聞いちゃった。怪物は私も怖いわ・・・」
ちゆが胸の内を明かす。本当はこの場から逃げたいほど、怖い・・・でも・・・!
「でも、それ以上に大切なものを守りたいの! どうしても守りたいの!!」
ちゆの覚悟は決まっていた。怪物なんかよりも、失うことの方が怖い。そして、旅館、大事な家族、そして大切なクラスメイトを、いや、大切な友達を守りたい!!
「あなたは?」
ちゆはペギタンに問う。ペギタンは苦しそうにしているラテを見る。そして、口を開いた。
「・・・守りたいペエ」
ペギタンから出た言葉に、ちゆは笑みを浮かべる。
「私はあなたより大きいから、少しは力になれると思う。もし勇気が足りないなら、私のを分けてあげる」
ちゆはペギタンに手を差し出す。
「大丈夫! 私がいるわ!」
ペギタンはちゆの言葉にある想いを感じていた。かつて自分にそんなことを言ってくれた人がいただろうか? 自分に寄り添ってくれる人がいただろうか? この人と一緒なら、きっと僕は・・・!
その時、ペギタンの足の肉球が光り始めた。
「私はちゆ。あなたは?」
「僕はペギタン」
ちゆの手とペギタンの手が重なり合った時、ヒーリングステッキが現れた。
「メガ~ビョ~ゲン~!!」
一方その頃、ドクルンとメガビョーゲンはある程度周囲を病気で蔓延させていた。
「んー、いい感じに蝕んできたわねぇ」
ドクルンとメガビョーゲンは川の下流から中流へと移動していた。岩場もある程度、メガビョーゲンの攻撃で病気へと変わってしまっている。
「プリキュアは来るのかブル?」
「来るはずですよ。あのヒーリングアニマルたちがメガビョーゲンを放置しておくわけがありませんからねぇ」
おそらくシンドイーネのメガビョーゲンに苦戦しているのだろう。ドクルンは気長に待つことにする。
それにしても、この川から生み出したメガビョーゲンはやけに元気だ。不健康そうな顔とは裏腹にかなりのスピードで周辺を病気へと変えていっている。下流域を病気に蝕むのもそう時間はかからなかった。
でも、まだ暴れ足りないメガビョーゲンに笑みを浮かべたドクルンはいっそのこと、ここの自然一帯を病気で蔓延させて、第二の場所を作ってしまうのもいいかもしれない。
そう考えたドクルンはメガビョーゲンを中流域へと連れて行き、思う存分メガビョーゲンを暴れさせた。
「あいつらに地球を守れるわけがないブル。本当の苦しいという言葉の意味も知らないやつにブル。ドクルンはそれをわかってるブル」
ブルガルはラテを連れていた3人のヒーリングアニマルを見下していた。
ーーーードクルンはそれをわかってる。
ブルガルのその言葉を聞いた途端、ドクルンの頭の中にあるイメージが浮かんでいた。
・・・廊下で後ろ姿で歩く2人の男女。
「・・・・・・・・・」
「ドクルン? どうしたのかブル?」
あれだけ流暢に話していたドクルンが突然沈黙したことに異変を感じたブルガルが声をかける。その言葉で我に返ったドクルンはメガネを上に上げる。
「・・・いえ、なんでもないわ」
「メガ~~!!」
バシャァ!!
メガビョーゲンの方を見ると、中流の川を広範囲で病気に蝕ばれているのを確認する。気のせいかメガビョーゲンが少し成長したような感じがする。
ドクルンはメガビョーゲンが順調に病気に蝕んでいるのを見て、笑みを浮かべる。
「早くしないと取り返しのつかないことになりますよぉ・・・プリキュア、フフフ」
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