ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter   作:早乙女

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前回の続きです。
アスミが透けていたわけとは?
そして、かすみもいろいろと学びます。


第62話「好き」

 

「なっ!? あれ、どういうこと!?」

 

ひなたとちゆは驚愕の現場を目撃していた。それは、なんとアスミが体の透けた状態で道を歩いていたのだ。今にも消えてしまいそうな状態で。しかも、彼女の周囲には人が集まっており、不思議そうな様子で彼女を見ている。

 

このままでは町中から人が集まって、騒ぎになってしまう。

 

「あのままではまずいのか・・・?」

 

「そうよ、大騒ぎになっちゃう・・・! ひなた、周りの人を引きつけて! 私はアスミを連れて行くから! かすみは私についてきて!!」

 

「へっ!? オ、オッケ~!!」

 

「わ、わかった・・・!」

 

ひなたはそう言うと二人の男性の間に割って入る。

 

「えぇぇ!? 嘘嘘嘘!? すんごい美少女発見!! 美少女すぎて透明感やばすぎ!! ほら、透明感♪ 透明感♪」

 

少しわざとらしいところもあったが、ひなたは演技をして二人の男性の視線を自分へと移させる。

 

「アスミ、行くわよ!!」

 

「こっちに来てくれ!!」

 

二人の男性が彼女に気を取られている隙に、ちゆとかすみはアスミを連れてその場を立ち去っていく。

 

場所は変わって、沢泉家・・・・・・。

 

「その体、どうしたの?」

 

「今にも消えてしまいそうな姿をしているぞ・・・!」

 

ちゆは自分の部屋へとアスミを連れてきて、彼女に話を聞いていた。かすみもちゆの隣に座っている。

 

「はぁ・・・」

 

「??」

 

「実は私、ラテに避けられているようなのです・・・」

 

アスミは悲しそうに息を吐きながら訳を話す。

 

「ちゆ、ラテって誰だ?」

 

「彼女と一緒に居る小さなパートナーよ。かすみは、確かあの時、助けてくれたでしょ」

 

「ああ・・・! あの子か・・・!!」

 

かすみはラテが誰なのかがわからず、ちゆに尋ねるとこの前、自分が助けた子犬のような姿をした小さな子であることを知り、かすみはその出来事を思い出す。

 

「もうどうしていいかわかりません・・・」

 

「それが原因で体が消えちゃいそうペエ・・・!?」

 

「そういうことなの。地球の神秘ね・・・」

 

アスミは自分がどうしていいのか判断できず、それが原因で消えそうになっていることにちゆとペギタンは感嘆していた。

 

「その、ラテに避けられていると聞いたが、何をしたんだ・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ここでかすみが、アスミにラテに避けられている理由を探ろうと聞くも、アスミはこちらを険しそうな、悲しそうな顔で見つめる。

 

「私は、ラテ様のためにご飯をたくさんあげたり、毛布をたくさんかぶせてあげたり、外でには出ないようにと、いろいろとつくしていただけなのに・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミはようやく口を開くとラテに何をしたのかが次々と出てくる。ちゆはラテを想いすぎるあまり、少し構いすぎているんじゃないかなと思った。

 

「私は、もうこのまま、本当に消えてしまいたい・・・」

 

アスミは悲しそうな声でそう呟いた。

 

「そんなに悲しいのね、アスミは・・・」

 

「「悲しい?」」

 

ちゆがそう言うと、アスミとかすみは同時に疑問を抱いた。

 

「そう。今のその気持ちを『悲しい』っていうのよ」

 

「そう、ですか・・・」

 

「そう、なのか。アスミはラテに避けられて、悲しい、んだな・・・」

 

「・・・!!」

 

ちゆから今、抱いている感情が悲しいということを知るアスミ。さらにかすみが思っていることを伝えるとアスミはこちらを悲しそうな表情で見つめた後に顔を俯かせた。

 

「お姉ちゃーん!!」

 

「!!??」

 

「お母さんがおやつどうぞー、だって!!」

 

襖の外から彼女の弟であるとうじの声が聞こえてきた。どうやらおやつを届けにこちらへとやってきた模様。

 

ちゆはその声にドキッとする。部屋の中には体が透けているアスミとかすみだけだが・・・。

 

「ま、まずいわ・・・アスミのこんな姿見られたら・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはそう思い、慌て始める。アスミの姿を見た途端に、自分の弟はきっと怪しむだろう。そうなれば、家中が騒動になってしまう・・・。

 

かすみはちゆのそんな表情を見やると、すくっと立ち上がる。

 

「私が、とうじくんの相手をしよう・・・」

 

「!! え、ええ・・・頼んだわ・・・」

 

かすみはそう言って、襖の扉を開けて外に出ると部屋の中を見られないように襖を閉じる。

 

「あ、かすみお姉ちゃん・・・」

 

「とうじくん、そのお皿に乗っているのはなんていうんだ・・・?」

 

かすみはとうじが持ってきたお皿に乗っている笑顔が描かれている物体を指差しながら問う。

 

「えっと、おやつのすこやかまんじゅうだけど・・・」

 

「それは、おいしいのか・・・?」

 

「う、うん・・・」

 

かすみは瞳をキラキラとさせると、とうじは少し顔を引きつらせながら答える。かすみはハッとすると、咳払いをして冷静さを保とうとする。

 

「では、私がもらうとしよう。ありがとう、とうじくん」

 

「!! うん・・・」

 

かすみが笑顔で受け取ると、とうじは少し顔を紅潮させながら頷いた。かすみはそのままちゆの部屋の中へと戻っていったのであった。

 

かすみの笑顔に少しときめいてしまったのは、とうじにとっては一つの秘密である。

 

閑話休題。三人の前には、お皿に乗ったすこやかまんじゅうとそれぞれのお茶が置かれる。

 

「これは・・・?」

 

「おやつのすこやかまんじゅうよ。どうぞ、召し上がれ」

 

「私も食べるのは初めてだ。おいしい!とさっきとうじから聞いたからな!」

 

三人はそれぞれすこやかまんじゅうを手に取る、アスミとかすみはそのまますこやかまんじゅうを口に入れようとして・・・。

 

「うわあぁぁ!?」

 

「あぁ!?」

 

「「??」」

 

ちゆとペギタンは大きな声を出すと、アスミとかすみはまんじゅうを持った手を止める。

 

「な・・・どうした、ちゆ?」

 

「その周りの包みは取ってから、食べるの。ほら」

 

すこやかまんじゅうは包みに包まれている。食べられないのに、そのまま食べようとする二人を止めたのだ。

 

ちゆはアスミとかすみの前で、包みを取って見せる。

 

「包みは、食べられないんだな・・・なるほど」

 

「・・・!」

 

アスミとかすみはちゆがやって見せたように、まんじゅうの包みを剥がしていく。

 

「あーむ・・・」

 

そして、二人はまんじゅうをほぼ同時に口に含む。

 

「! おいしい・・・!!」

 

「本当だ・・・!! おいしいなぁ!」

 

二人は今、手に持っているまんじゅうを口にほうばると、皿に乗っているまんじゅうに手を出し、同じように包みを取って食べる。

 

「ん~~!! おいしいぞ!!」

 

「~♪」

 

かすみは瞳をキラキラとさせ、悲しそうな表情だったアスミが自然と笑顔になっていく。

 

その後も、アスミとかすみは次々とまんじゅうに手を伸ばしていき・・・・・・。

 

「ん~!! フフフ・・・」

 

「~~~~♪」

 

「・・・・・・!」

 

その様子に、ちゆとペギタンは驚いていた。そうしているうちに、透けていたアスミの体が元に戻っていく。

 

そして遂に・・・皿の上に乗っているすこやかまんじゅうは空になった。

 

「二人ともたくさん食べるペエ・・・」

 

すこやかまんじゅうを食べきった二人に、ペギタンは感嘆の声をあげる。

 

「よかった、アスミは甘いものが好きなのね。かすみもよく食べるわよね」

 

「ああ・・・とても美味しいからな!!」

 

ちゆがそう言うと、かすみの表情も笑顔になっていた。

 

「これでのどかと一緒に食べれれば・・・・・・あ・・・」

 

かすみは想いを馳せるも、先ほどのどかに素通りされてしまった時のことを思い出してしまう。

 

「うぅぅ・・・」

 

ずーん・・・・・・。

 

「ちょっ、かすみ!?」

 

床に両手と膝をついたような格好で、暗いオーラを出しながら体を震わせるかすみ。ちゆはその様子に慌てたような声を出す。

 

「のどか、私を相手にしてくれなかった・・・のどかは私が嫌なのだろうか・・・」

 

「そ、そんなことないわよ!! のどかも本当は遊びたかったけど、外せない用事ができただけよ!!」

 

わかりやすいくらい落ち込むかすみに、ちゆは励まそうとし、ペギタンもうんうんと頷いていた。

 

かすみはそんな中、こんなことを思っていた。のどかに相手にされなかった時に感じるこの思いも、『悲しい』というのではないかと。

 

(かすみは、のどかのことが好きなのね・・・)

 

宥めているちゆはかすみのこの反応から彼女がのどかが『好き』なのだろうと感じた。

 

「・・・『おいしい』ことを『好き』っていうのですか?」

 

「「・・・!!」」

 

アスミが聞いてきたことに、ちゆとかすみは顔を上げる。

 

「そうね」

 

「私も、食べるものを前にすると体がほっこりとするんだ。これも『好き』なのか・・・?」

 

ちゆが肯定すると、かすみも聞いてくる。食べることを前に、暖かくなるのは感情の一種なのだろうかと。

 

「そうかもしれないけど・・・でも『好き』はそれだけじゃないわ。例えば・・・そうね」

 

ちゆは二人に『好き』に関する説明をするために、ある場所へと向かった。

 

それは沢泉旅館の中にあるペットと一緒に入ることができる温泉だ。今、アスミは温泉の中に足を入れて、足湯のように浸からせている。

 

「温かい・・・!」

 

アスミはなんとも言えない感覚に不思議そうにしている。

 

「こ、この中に足を入れて大丈夫なのか・・・?」

 

黒い紐がついたタイツを脱いでいるかすみは、何かを感じて怯えていて、足を一歩温泉の中に入れることができずにいた。

 

「大丈夫よ。普通の温泉だから。怖いんだったら、ゆっくりと足を入れてみて」

 

ちゆは諭すようにアドバイスをする。かすみはゴクリと息を飲んだ後、ゆっくりと足を温泉の中に入れていく。

 

「っ~~~!! な、なんだか体の芯からプルプルと何かが湧き上がってきたぞ・・・!」

 

かすみは足先から頭の先へとなんとも言えない感覚が伝わってきて不思議そうにする。そして、もう一方の足も入れると、縁に座って足湯のように足を浸からせる。

 

「それになんだか、いい気分だな・・・」

 

かすみは温泉の中に何かを感じるように足をわきわきと動かしていたが、それでも顔を紅潮させて顔を安心したようにさせていた。

 

「心も体もポカポカするペエ・・・」

 

その横ではペギタンが小さな温泉に体を浸からせて、気持ちよさそうにしている。

 

「これも私は、『好き』よ」

 

ちゆはこの温泉のことも好きだということを話す。

 

「美味しくて、温かいもの・・・『好き』というのはいいものですね」

 

「これが、『好き』って感覚なのか・・・」

 

アスミは不思議そうにしつつも、そう答える。

 

「フフフ、『好き』はいいものばかりじゃないかも。時には辛いけど、でも『好き』を止められないものもあるわ」

 

ちゆは好きにもいろいろなものがあるということを説明する。

 

「それは、随分難しい・・・」

 

アスミはそれを理解するにはまだ足りないということを理解する。

 

「かすみは、のどかが『好き』なのね」

 

「・・・!!!」

 

ふとちゆがかすみにそう語りかけた。その言葉にかすみはドキッとする。

 

「そ、そそそ、そうだが、この『好き』というのではどう違うんだ・・・?」

 

かすみは顔をリンゴのように赤くしながら答えるも、この感情もよくわからない。これも『好き』という感覚なのか、この好きとはどう違うんだろうかと考える。

 

「この『好き』はいい気分になれるってことの『好き』、そしてかすみが思っているのどかの『好き』は、人を想っている、ずっと考えていることの『好き』だと思うわ。でも、それも『好き』ばかりじゃないわ」

 

「うーん・・・」

 

ちゆはそう説明するも、かすみはイマイチわからずに考え込んでしまう。

 

「人のことを考えて辛いっていうのもあるけど、人のことを考えているから『好き』っていうのもあるわ。まあ、この辺は難しいかしらね・・・」

 

「よく、わからないな・・・のどかのことは『好き』だ。でも、彼女を前にするとドキドキしたり、避けられてるって思うと胸がチクチクと痛むんだ・・・これも『好き』なのかな・・・」

 

「『好き』なのかもしれないけど、『悲しい』も入ってるんじゃないかしら」

 

ちゆでも説明するのが難しく、苦笑しながら答える。

 

「そうだ! 二人とも、今度、私のハイジャンプの練習を見に来て! 今、私が一番好きなものよ」

 

「い、いいのか? 勝手に学校に入ってきて・・・ちゆは私のこと怒っただろう・・・?」

 

ちゆがそう言うとかすみはバツの悪そうな顔をしながら答える。

 

「あれは突然だったからびっくりしちゃっただけよ。別にいいわ。あなたにも私の好きなもの、見に来て欲しいから」

 

「・・・わかった」

 

「アスミもいいわよね?」

 

「はい・・・」

 

かすみとアスミはそれぞれ返事をし、ちゆも笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ちゆはのどかに電話をかけていた。

 

『今日はありがとう』

 

「気にしなくていいわ。アスミの様子はどう?」

 

『今はラテと一緒にいるよ』

 

二人が話しているのは、アスミのこと。ラテに避けられていることやちゆの家にいたことも二人は知っている。

 

『かすみちゃんはどう? 今日は悪いことしちゃったから・・・』

 

「かすみも大丈夫だと思うわ。ちょっと落ち込んじゃったりしてたけど、すぐに元気になったわ」

 

『そうなんだ・・・』

 

「明日、かすみにもちゃんと会ってあげて。なんか一緒にいたそうにしていたから」

 

『うん、わかった』

 

そして、かすみのことも話した。のどかは今日、かすみと一緒に帰れなかったため、彼女に申し訳なさそうにしていたのだ。

 

「今、アスミはきっと、この世界のことや自分に起こるいろいろな気持ちを一辺に吸収しようとしているのね。かすみも私、ううん、私たちとの生活に馴染もうと少しでも努力してる。この感情が何なのかを知りたがっていたわ。そんな二人を少しでも手助けできればいいのだけど・・・」

 

ちゆは少し心配そうな表情でそう話す。

 

『アスミちゃんとかすみちゃんなら大丈夫だよ。アスミちゃんはきっとラテとも仲良くできるし、感情が何なのかも理解できる。かすみちゃんは私たちと仲良くなろうとしているんだよね。その努力はきっと自分の身になっていくと思うよ』

 

「だと、いいんだけど・・・」

 

のどかの言葉に、ちゆは苦笑しながらもそう答えた。

 

一方、寝間着姿のかすみは縁側で夜空を見上げていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

片手を空へとかざしながら見つめ、時折ぶらぶらとさせる。

 

「のどか・・・・・・・・・」

 

自分が想っている人物の名前をつぶやく。あの時、避けられてしまった彼女・・・自分のことをどう思っているのだろうか。衝動的に抱きしめてしまったから、彼女は自分のことを嫌だと思っているのだろうか。

 

そう考えていると悲しい気持ちになってくる・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは縁側から立ち上がると自分の部屋の中へと戻っていく。

 

白い物体がその様子を見ていたことに気づくことはなかった。その白い物体は夜の空へと飛んでいき、その場から姿を消す。

 

場所は変わって、夜の廃病院。その近くに白い物体が姿を現し、廃病院の中へと入っていく。その中のある部屋へと入っていくと、そこにはゴシックロリータの格好をした少女の姿があった。

 

それは、ビョーゲン三人娘の一人、イタイノンだった。

 

「ネムレン? どこへ行っていたの?」

 

イタイノンは手に持っていたメガパーツを見つめていたが、部屋に入ってきたネムレンに気づくと視線を移す。

 

「えっと・・・脱走者のところネム・・・」

 

「・・・お前、地球に行っていたの?」

 

ネムレンのその言葉に、イタイノンは懐疑的な表情になる。自分が出撃していないのに、勝手に地球へといっていた・・・?

 

「わ、私は、少しでも脱走者の正体を探ろうとしていたんだネム・・・!」

 

「ふーん・・・それで、何かわかったの?」

 

「えっと・・・・・・」

 

イタイノンの睨むような視線は変わらず、ネムレンに問いかけると視線をそらすように背ける。

 

「あの青いプリキュアの家に泊まっていたネム。人間じゃないのに、人間っぽい生活をしていたネム・・・」

 

「青いプリキュア・・・? ああ・・・」

 

ネムレンが言う青いプリキュア、それはキュアスパークルと一緒にいることが多いあのプリキュアのことだろう。脱走者がそいつと一緒にいた・・・?

 

プリキュアと合流したことはクルシーナから聞いていたが、あいつがどのように生活していたかまでは知らない。自分の相棒の報告を聞いていると見ると・・・。

 

「随分と人間みたいな生活をしているみたいなの。人間でもないくせに」

 

イタイノンはネムレンからメガパーツに視線を戻す。

 

「同族の私が、あいつに本当の生活を教えてあげるの」

 

不敵な笑みを浮かべたイタイノンは、そいつの様子を見に行こうと考える。

 

脱走者・・・自分たちと同じ存在のくせに、私たちと行動することを嫌がり、プリキュアどもと一緒にいることを選んだ。そんな思い上がっているあいつに、絶望でも味あわせてやろうじゃないかと。

 

「ところで・・・」

 

イタイノンは再び視線をネムレンへと戻す。それはもうジト目に近いぐらいの睨みで見つめる。

 

「お前、本当は何をしてたの?」

 

「えっ・・・だ、だから、私は脱走者を探ろうとーーーー」

 

「嘘なの! 私からいなくなったと思ったら、随分と戻ってくるのが遅くて、今頃になって帰ってきたの。本当は何か別のことをしてたんじゃないの・・・?」

 

「し、してないネム・・・!! 本当に・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

あくまでもシラを切るつもりのネムレンに、イタイノンは顔を近づけて睨みつづける。ネムレンの体から冷や汗がダラダラと流れる。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはさらに顔を近づけて睨みを利かせる。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

ネムレンは負けそうになるのを抑えて必死に話すのを我慢する。

 

「・・・まあ、いいの。別にお前がどうしてようと私は興味ないの」

 

イタイノンはネムレンに背を向けるとそのまま自分のベッドへと横になる。とりあえず、今は脱走者のこと、古のプリキュアに似たあの女性のことだ。少し様子を伺う必要があるだろう。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

ネムレンはようやく顔を離してくれたことに息を吐きながら、額の汗を拭っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、中学校の放課後、校庭では陸上部の選手の練習が行われようとしていた。

 

のどかとひなた、アスミ、かすみは校庭のベンチでそんな選手たちの姿を見に来ていた。選手たちは思い思いの練習をしていたが、彼女たちが見に来たのはハイジャンプの選手の練習だ。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな中、かすみは隣に座っているのどかをちらちらと見ていた。それはもう悲しそうな表情を浮かべながら。彼女が自分のことをどう思っているのかが気になって仕方ないのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミは自分の隣に座るかすみを、険しそうな表情で見ていた。

 

「次、ちゆちゃんだよ」

 

「「!!」」

 

のどかのその言葉に、アスミとかすみは彼女が見ている方向を振り向く。今まさにちゆがハイジャンプを行おうとしていた。

 

二つの棒のような柱にバーがかけられ、ハイジャンプの準備は完了だ。

 

「ちゆちゃん、バーを高めにしてる?」

 

「チャレンジチャレンジだね!」

 

ちゆがいつもよりバーの位置を高めにしていることに気づく二人。

 

そんな中、ちゆが走っていき、バーの前で後ろ向きに飛び上がる。しかし、ジャンプの高さが足りず、バーが背中に当たって落ちてしまう。

 

「っ・・・」

 

ちゆはそれを見て悔しそうにしていた。

 

「ああ~!! 惜しい!!」

 

のどかたちが見守る中のジャンプ、1回目は失敗・・・。バーをもう一度かけなおして、再度ジャンプを行おうとする。

 

しかし、やはりジャンプの高さが足りずに足が引っかかり、バーを落としてしまう。

 

めげずに3回目も挑戦。今度は成功したかに見えたが、バーに足は当たり、少し揺れた後に落ちてしまう。

 

「うわぁ! 今、ギリOKじゃない!?」

 

「うーん・・・でも、バー落ちちゃったし・・・」

 

ちゆはそれでもバーを飛び越えようと走っていく。自分の記録を、自分の限界を超えるために。

 

「・・・どうして?」

 

アスミは失敗しているのに、何度も飛ぼうとするちゆを理解できなかった。

 

「のどか・・・」

 

「? なぁに?」

 

かすみが隣にいたのどかに声をかける。

 

「あれは本当に、ちゆの『好き』なのか? あれを飛び越えるのに何度もできていないのに、辛そうな顔をしているのに・・・あれでも『好き』なのかな?」

 

ちゆの行動が理解できないかすみは、のどかにそう尋ねた。あんなに辛いならやめればいいのに、なんであんなに飛ぼうとするのか。かすみにはまだ理解できなかった。

 

「・・・うん。ちゆちゃんにとっての『好き』、かな。でも、私もひなたちゃんも『好き』でもあるんだ」

 

「のどかとひなたにとっての、好き?」

 

かすみはのどかの言葉に首を傾げる。そこへちゆが戻ってくる。

 

「あ・・・・・・」

 

それに気づいたのどかがちゆへとタオルを持っていく。

 

「お疲れ様、ちゆちゃん」

 

「ありがとう」

 

ちゆはのどかからタオルを受け取って、顔の汗を拭く。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

アスミがちゆに声をかけ、二人が彼女の方を振り向く。

 

「なぜ失敗ばかりなのに、そんなに何度も飛ぶのですか?」

 

「そうだ・・・辛い顔をするならやらなければいいのに・・・」

 

アスミに同調して、かすみも不安そうにそう呟いた。

 

「それは・・・私がハイジャンプを好きだから・・・」

 

「好き・・・?」

 

「でも、美味しくも、ほっこりもしない・・・こういうのがちゆは、好きなのか・・・?」

 

ちゆははっきりとそう答えるも、アスミとかすみはよくわからなかった。

 

「ええ。練習はハードだし、失敗もするけど、でも私は・・・ハイジャンプが好き」

 

ちゆはかすみの隣に座り、アスミとかすみにそう話した。

 

「どうしたらうまく飛べるのか、もっともっと高く跳びたいって、いつも考えてる。この気持ちは止めようと思ってても、止められない。『好き』って、きっとそういうものよ」

 

どうやったら跳べるのか、一生懸命になれるから好き・・・それで高く跳べることができたら、自分がやり遂げたという気持ちになれるから好き、ちゆはそういうことを二人に話した。

 

「じゃあ、ハイジャンプ以外のことをしている、周囲の人間も、『好き』だからやっているのか?」

 

「ええ。みんな、そうだと思うわ」

 

周囲の部活動をやっている生徒たちも、好きだからやっているに違いないとちゆははっきりと答えた。

 

「そのことばかり考える・・・止められない気持ち・・・」

 

アスミはなんとも言えないような表情で虚空を見つめる。

 

「うん。アスミの心にもあるんじゃないかしら。そんな『好き』って気持ちが」

 

アスミにそう告げると、ちゆはかすみの方の顔も見る。

 

「もちろん、かすみにだってあると思うわよ」

 

「そうなのか・・・?」

 

「だって、かすみは、のどかが好きでしょ?」

 

「!!」

 

「えっ・・・かすみちゃん、そうなの・・・?」

 

「そ、そうなのだろうか・・・?」

 

ちゆや驚いたようなのどかがそういうも、かすみにはよくわからない感情だ。顔が熱くなって、胸がドキドキする・・・これも好きなのだろうか?

 

「だって、のどかのことを考えているときのかすみ、生きてるって感じがするもの・・・」

 

「生きてるって、感じ・・・」

 

ちゆがそう言うとかすみは顔を赤らめながら手をモジモジとさせ始める。

 

それに気づいたちゆは微笑むとベンチから立ち上がる。

 

「ほら、のどかの隣に座ってみて。一緒に話してみるといいわ」

 

「で、でも・・・!」

 

「大丈夫よ。のどかは優しい子だから、かすみのことも受け入れてくれるわよ」

 

ちゆはかすみを立ち上がらせると、のどかの隣に座らせようと彼女を押す。かすみはそのまま流されるがままにのどかの隣へと座り込む。

 

「のどか・・・あ、あのな・・・」

 

「なぁに? かすみちゃん」

 

「!?・・・っ~~~」

 

のどかに声をかけるかすみだが、彼女に言葉を返されるとまたモジモジとさせ始める。

 

のどかは不思議そうな表情でそれを見ていたが、微笑むとかすみに手を伸ばして抱きよせる。

 

「えっ?」

 

「お返し。この前、抱きついたことのお返しだよ」

 

突然の彼女の行動にビックリした表情で呆然となるかすみ。気のせいか、顔が熱くなってきたような感じがする。

 

「あの時は、嫌だったの、か・・・?」

 

『お返し』という言葉にかすみはのどかがあの時は心底嫌だったんだろうかと考えていた。

 

「ううん。あの時はビックリしちゃったけど、嫌な感じはしなかったよ。なんて言えばいいのかな・・・なんか、生きてるって感じだなって」

 

「・・・のどかは私が、嫌じゃないのか?」

 

「嫌じゃないよ。私はかすみちゃんが好き。こういうのも『好き』っていうんじゃないのかな」

 

「そ、そうか・・・」

 

かすみは安心した。のどかは私が嫌じゃない。むしろ、好きなのだと。

 

かすみは顔を赤くしながらも、ゆっくりとのどかの体に手を伸ばして抱きしめる。お互いに何とも言えないような気持ちになる。

 

「なんだかほっこりする・・・これも『好き』、なんだな・・・」

 

「だと思うよ。私もなんだか暖かくて、いい気持ち・・・」

 

お互いに言葉を呟きながら抱きしめ合う二人。その顔はお互いに受け入れたかのように、紅潮とさせていた。

 

「うっ・・・・・・」

 

「!?」

 

少し経つとのどかから呻くような声が聞こえ、慌てて体を離すかすみ。

 

「す、すまない! 苦しかったか・・・?」

 

「う、ううん・・・大丈夫・・・」

 

かすみは明らかに動揺したような感じながらものどかの体を気遣うが、のどかは何ともないと返す。

 

「「あ・・・」」

 

その時、彼女たちはお互いに見てしまったのだ。顔が赤くなった相手の顔を・・・。

 

「「!?」」

 

そう自覚した二人は、慌てたようにお互いに背を向ける。手をモジモジとさせるかすみ、そして平静を装っていたのどかもなんだか恥ずかしくなってしまった様子。

 

「「あ、あの・・・!!」」

 

お互いに振り向いて声をかけるも言葉は続かず、リンゴのように顔が赤くなる二人。

 

「なんだか、こっちまで恥ずかしくなってきたわね・・・」

 

「えっと、かすみっちの『好き』ってもしかして・・・?」

 

ちゆはかすみを焼き付けたとはいえ、もどかしい感じの二人になんとも言えない表情を見せていた。ひなたは何かを察したような言葉を漏らしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミはそんな様子を見て、表情を険しくさせていた。かすみから何かを感じているかのように。

 

一方、別のグラウンドの場所では・・・・・・。

 

「いやぁ~ね~。ああいうキラキラした感じ、見てて本当にイラッとするわ・・・!」

 

シンドイーネが陸上部の選手の練習風景を見ながら、不快感をあらわにしていた。

 

「私はお前の本心がわからなくて、イライラするの・・・」

 

「!?」

 

そこへ声が聞こえてきたので振り向くと、イタイノンがメガパーツを見つめていた。

 

「何? アンタもいたの?」

 

「蝕みに来たんだから、当たり前なの」

 

不機嫌そうな表情でシンドイーネがそう言うと、イタイノンは淡々と当然のように返答する。

 

「で、お前の本心はどっちなの?」

 

「本心ってなんのことよ?」

 

「バテテモーダのことなの。お前、この前のパパの収集の際に喜んだり、怒ったりしてたけど、本当のところあいつのことはどう思ってたのかと聞いているの・・・!」

 

イタイノンは冷ややかな視線を向けながら問う。この前のシンドイーネはバテテモーダが浄化されて消滅したと聞いた際には嬉しそうにしたり、かと思えば許せないと言いながら怒ったりと、どちらか本心かわからないような発言を繰り返しており、彼女はそれに対して苛立ちを覚えていたのだ。

 

シンドイーネは髪をかきあげながら口を開いた。

 

「あんなヤツ、いなくなって清々したわよ。愛しのキングビョーゲン様の前で媚び売ったり、ヘラヘラしながら私に近づいてきたりと、本当に鬱陶しくてしょうがなかったわ」

 

「・・・それがお前の本心なの?」

 

「そうよ。そう言えば、満足? 私が欲しいのはキングビョーゲン様の愛だけなんだから♪」

 

シンドイーネはバテテモーダのやり取りを思い出して不機嫌そうに言った。新人ビョーゲンズは本当に目障りで仕方なかったというのが彼女の見方。浄化された時はライバルが一人いなくなってすっきりした。

 

そして、シンドイーネは頬に手を当てながら自分の願望を語る。イタイノンは呆れたように振り向いて見ていたが、すぐにそっぽを向いて口を開く。

 

「私は自分だけの場所を確保するために、あいつは利用できればそれでよかったし、古のプリキュアに浄化されて消えたところで、そいつがその程度だったとしか思えないの」

 

「何が言いたいのよ?」

 

「あいつなんか消えても惜しくはなかったっていうこと、なの。ぽっと出の新入りのくせに私たちを差し置いて出世しようだなんて生意気な存在だったの」

 

イタイノンが不敵な笑みを貼り付けた顔を近づけて言い、シンドイーネは少したじろぐ。イタイノンは仲間が消えて喜ぶシンドイーネを不謹慎だと思いつつも、結局はクルシーナと同様、特に思入れもなく消えたところで何の感情も湧かなかったことを暴露したのだ。

 

何もわかっていない新入りの分際で私たちを押しのけて出世しようだなんてできるわけがないし、私たちと並ぶ存在になれるわけがない。笑わせるにもほどがある。

 

「ちょっ、ちょっと!! 近いわよ、アンタ!!」

 

「そいつは悪かったの・・・」

 

イタイノンは冷ややかな表情に戻すとシンドイーネから顔を話すと、彼女と同じ位置から下へと飛び降りる。

 

「お前の本心が聞けてすっきりしたの。今日もこの辺一帯を蝕んでやるの」

 

イタイノンはそう言うと体育館がある校舎あたりを歩いていく。

 

「・・・自分だけ憑き物が取れたような顔しちゃって、なーんかムカつくんですけどぉ」

 

シンドイーネはその様子を不機嫌そうに見つめていた。

 

一方、イタイノンは部活動の練習で盛り上がる中を歩きながら、屋根が円のような形の建物に向かっていた。

 

「人間たちの騒がしい声は、生き生きしていて本当に不愉快なの・・・」

 

サッカーの練習試合をする生徒たち、テニスの素振りをする生徒たち、陸上で走り込みを行っている生徒たち、いろんな人たちがキラキラしていて本当に不愉快だ。イタイノンはこの辺一帯を病気に蝕むべく、とりあえずは素体をキョロキョロ探していた。

 

それにやらなければいけないこともある。古のプリキュアに似た女と脱走者の件だ。あいつらもプリキュアと一緒にいるということはこの辺に現れるはず。それを確かめなくては・・・。

 

ふとイタイノンはテニスコートの近くにまだ使われていないものがあるのを発見した。

 

それは、テニスのボールを打ち出す際に使われるピッチングマシンだ。テニス部の生徒たちが練習に使うつもりのようだ。部員たちは素振りの練習に夢中でイタイノンの接近に気づいていない。

 

「これはこれで面白いもの、なの」

 

イタイノンはいいオモチャを見つけたかのような不敵な笑みを浮かべる。そして、両腕の袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなものを出現させ、右手を突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンは、ピッチングマシンへと取り憑く。中学校のテニス部で使用されているピッチングマシンが病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

ピッチングマシンに宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

シャトルマシンのような胴体にと噛み合わさった車輪のような頭部、筒のような両手を持った3本足のメガビョーゲンが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことが行われている頃・・・・・・。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「うぅ・・・・・・」

 

のどかとかすみは恥ずかしそうにお互いに背を向けてモジモジとさせていた。

 

「かすみ! 頑張って会話して! 仲良くなりたいんでしょ!?」

 

「だ、だが・・・恥ずかしい顔を見られてしまった・・・のどかの顔を見れないよぉ・・・」

 

ちゆが近くにいてアドバイスをするも、顔が完全に赤くなっている彼女は勇気を出せずにいた。

 

「のどかっちも、なんで恥ずかしがってんの!? 女の子同士じゃん!!」

 

「そ、そうなんだけど・・・なんか、病院時代を思い出して、恥ずかしくなっちゃったの・・・」

 

「え・・・なにそれ・・・!?」

 

のどかは病院時代に、一緒に治そうと決めたあの子に抱きつかれたことを思い出していた。格好は明らかに違っていて、別人だったけど、まるでその子に抱かれているあの感覚と似ている。それを思い出して、恥ずかしくなってしまったのだ。

 

ひなたは何を言っているのかさっぱりわからず、ポカンとするばかりだ。

 

と、そんな時だった・・・・・・。

 

ガサガサガサ・・・・・・。

 

近くの草むらが揺れ、中から4人の動物のような小さな妖精たちが飛び出してきたのだ。

 

「!? あれ・・・みんな来てたんだ!」

 

ひなたがそう声を上げると5人はそちらの方に振り向く。のどかたちそれぞれのパートナーであるラビリン、ペギタン、ニャトラン、そしてラテたちヒーリングアニマルたちだ。

 

「お散歩の途中だったラビ」

 

ラビリンがそう説明する。

 

「それにしてもよぉ、いいもん見ちゃったぜぇ。のどかとかすみがまさか『あれ』だったとはなぁ・・・!」

 

「「??」」

 

ニャトランがからかうように言う言葉に、のどかとかすみは言っている意味がわからなかったが、お互いに顔を見合わせると・・・・・・。

 

「「!!」」

 

二人は何かを察したかのように、すぐに顔がリンゴのように真っ赤になった。

 

「ニャ、ニャトラン!! へ、変なこと言わないでくれ!!」

 

「そ、そうだよ!! 私とかすみちゃんはそういうんじゃないから!!」

 

「っ!?」

 

顔を真っ赤にして否定する二人だが、のどかの言葉を聞いたかすみが胸をトゲで貫かれたかのようなショックを受ける。

 

ずーん・・・・・・。

 

「のどかと私は、そういうんじゃない・・・そういうんじゃない・・・のどかはやっぱり、私が嫌なのか・・・」

 

かすみははっきりと否定されたことに、黒いオーラを漂わせながら顔を俯かせてわかりやすいくらいに落ち込む。

 

「!? わ、わわわ!? ち、違うの、かすみちゃん!! 私は嫌だったんじゃなくて!!」

 

のどかはかすみが落ち込んでいることに気づいて慌て始める。二人がどうとかそういうわけではないが、嫌いではない、そう言いたかっただけなのに言葉足らずで落ち込ませてしまったようだ。

 

「か、かすみ!! のどかは嫌いだから否定したわけじゃないのよ!! ちょっと恥ずかしくなっちゃっただけだから、ね!?」

 

「もう~! のどかっち、何やってるの~!? ニャトランも余計なこと言わないの!!」

 

「だ、だってぇ~!」

 

「えぇ!? 俺のせいかよ!?」

 

「ニャトランは空気を読まなさすぎなんだペエ・・・」

 

「俺は思ったことを言っただけじゃねぇか!!」

 

「それがよくないラビ!!」

 

かすみが落ち込んだことで大騒ぎになっている中、アスミは一人やってきたラテのことを見つめていた。

 

「!! クゥ~ン・・・!!」

 

ラテはアスミがこちらを見ているのに気づくと、彼女から少し離れて嫌そうな表情で見ていた。

 

「ラテ・・・・・・」

 

ラテに避けられている・・・ラテに嫌われている・・・。

 

アスミはそう考えると再び俯き始め、また体が透け始めてしまった。

 

「アアア、アスミ~ン!! ダメダメ!! アスミンまで落ち込んじゃ!! えっと、二人になんか楽しいことは~・・・あ、そうだニャトラン、なんか楽しいことして!!」

 

「えっ!? 無茶振りすんなよ!!」

 

「かすみっちがヘコんでるのはニャトランのせいなんだから、何とかしてよー!!」

 

「えええ!? えっと、そ、そうだな・・・ニャァ、ニャニャニャ、ニャニャニャァ~・・・!!」

 

慌て始めたひなたがなんとかしようとニャトランに振ると、ニャトランまでが慌て始める。そんなまとまらない思考でやり出したのは即興での踊りだった。

 

「・・・はぁ」

 

「のどかは私が・・・私が・・・」

 

しかし、そんな努力もアスミとかすみには伝わらず、二人は落ち込むだけだった。

 

「もっともっと~!!」

 

「えぇ!? ニャニャニャニャニャ・・・!!!」

 

ひなたがもっとやるように指示を出すも、ニャトランは即興での踊りを早くするしか思いつかない。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「!!??」

 

かすみは自分の中の鼓動がなり、何かの声が聞こえてくるのを感じた。彼女は落ち込んでいた姿からハッとしたような表情にすると、すくっと立ち上がって虚空を見つめる。

 

「あ!? かすみっち、元気になったの!?」

 

ひなたは立ち上がったかすみを見て、ニャトランで元気になったと思い喜ぶ。しかし、実際はそうではなく・・・。

 

「泣いている声が、聞こえる・・・」

 

「泣いている声・・・?」

 

「!?」

 

「!! もしかして!!」

 

かすみの呟いた言葉に、のどかはよくわからなかったが、以前に彼女のそのような姿を見ていたひなたとちゆはハッとしたように顔を合わせる。

 

そして、それを合図にしたかのように・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「ニャニャ!?」

 

ラテが二回くしゃみをして、体調が悪くなる。

 

「ビョーゲンズ!!」

 

のどかたちはビョーゲンズが現れたと思い立ち上がる。そして・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「「「!?」」」

 

グラウンドの方から生徒たちの悲鳴が聞こえてきた。

 

「やっぱり、そうなの・・・」

 

「そうなのって、何が?」

 

ちゆは確信を持ったように口にすると、まだわからないのどかが疑問を持つ。

 

「かすみよ。かすみはビョーゲンズの活動を察知することができるんだわ」

 

「!! そうなんだ・・・!」

 

「そうだったよね! あたしたちがかすみの後を追っていったら、本当にビョーゲンズがいたんだもんね!!」

 

ちゆがそう説明すると、のどかは感嘆したように言い、ひなたも嘘ではないことを証明するかのように話す。

 

そうとわかれば、ビョーゲンズの元にいかなければ・・・。しかし、3人はアスミの方を見つめる。

 

アスミは顔を俯かせて落ち込んでおり、さらにはラテと仲違いをしていて変身できそうな状態ではなかった。

 

「アスミは無理そうね・・・」

 

「!!」

 

ちゆがそう言うと、それを聞いていたかすみがハッとしたような顔になる。

 

「3人はメガビョーゲンを止めてくれ・・・!!」

 

「でも、かすみちゃんは・・・」

 

かすみはぐったりしているラテを抱きかかえ、そう言いながらアスミのそばによる。それをのどかが心配そうに呟く。

 

「メガビョーゲンは2体いるんだ!! 狙われるかもしれないのに、プリキュアになれないアスミを一人にするわけにはいかない!! 私はアスミを安全な場所に避難させるから、3人はメガビョーゲンを!!」

 

かすみは意を決したような表情で3人に言うと、のどかたちもかすみの意思を汲み取ったように覚悟を決める。

 

「わかったわ・・・ここは3人で行きましょう・・・!!」

 

「「うん!!」」

 

ちゆの言葉に二人は頷くと、のどかはもう一度かすみの方を向く。

 

「かすみちゃん! アスミちゃんとラテをお願い!!」

 

「ああ!!」

 

のどかたちはアスミをかすみに任せて、ビョーゲンズの元へと駆け出していく。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな彼女たちを見つめるかすみを、アスミは悲しさと険しさが入り混じったような複雑な表情で見つめているのであった。

 


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