ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter 作:早乙女
今回はペギタンがいなくなってしまうお話ですね。
「ゴクリ・・・」
その日のかすみは緊張から息を飲むように喉を鳴らしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
街の中を、1組の若い男女が何かから逃げるように走っている。
「はぁ・・・はぁ・・・あっ、あぁぁ!?」
路地を曲がった先で行き止まりになっており、男女がそこで立ち止まっていると・・・・・・。
ガウ!!!
「っ!!」
「ヒィッ!!」
そこに目に傷のある大型の犬のような怪物が、二人を狩らんとするような目つきで唸りながらこちらを見ている。
「っ・・・ヒィィ!!」
「っ!!」
男性の方はその怪物に怯えて女性の後ろに付いていたが、女性は地面に鉄パイプのようなものが落ちているのを見つけて拾いあげる。
「かかってきなさい!!」
女性は拾った鉄パイプを構えて、怪物を見据えながら睨みつける。そして、怪物は大きく吠えながら、牙を光らせて女へと襲いかかった・・・・・・!!
「ペェェェェェェェ~!!!」
「っ・・・!!!!」
・・・という、映像を見ながらペギタンが悲鳴を上げ、かすみはビビったようにドキッとしていた。
その後・・・・・・・・・。
「あ~、面白かった♪」
ちゆが部屋の窓を開けて、そう言いながら体を伸ばしていた。
「あ、ああ・・・そ、そう、だな・・・・・・スマホで、見ているのに、迫力があった、な・・・」
かすみはそう言いつつも、顔を青くして体をプルプルと震わせている。
「うぅぅ・・・」
ペギタンはスマホの前で頭を抱えながら、カタカタと体を震わせていた。
かすみとペギタンは、ちゆと一緒に彼女の部屋で暗くしながら、スマホである海外のホラーものであるドラマの鑑賞を行っていたのだ。
「ド、ドラマというのは、こんなにすごいものなのか・・・?」
「すごいっていうか、楽しめるものがいっぱいあるの。さっき見たもののように怖かったり、面白かったり、泣けたりするものもあって、人の気持ちを揺さぶるものもあるのよ」
「お、奥深いな・・・」
かすみは顔を青くしながらの問いに、ちゆが答えると彼女は感嘆したように答える。
かすみはスマホの前で怯えているペギタンの方に視線を向ける。
「ペギタンも、怖かったのか・・・?」
「さっき悲鳴を上げてたくらいだからね。ふふっ♪ だから見ないほうがいいって言ったのに」
ちゆも一緒にペギタンの方を見ると、彼女は笑みを浮かべながらそう言った。
カタカタカタカタ・・・・・・。
ペギタンは頭を抱えて震えながら、何も答えない。
「お~い、ペギタ~ン・・・?」
「ペギタン? 大丈夫か?」
「うぅぅぅ・・・ハッ!?」
ちゆとかすみが一緒になって声を掛けると、ペギタンは我に返ってこちらを振り返った。
「平気?」
「顔色が悪そうだが・・・」
「へ、平気ペエ!! ぜぇ~んぜん怖くなかったペエ!! 顔色が悪いのは元から体が青いからペエ!! それにしても、さっきのドラマ、犬のCGがイマイチペエ。いきなりババンって大きな音を出すのは怖いんじゃなくて驚いただけペエ。それにそれに・・・」
ペギタンは言動がしどろもどろになっており、明らかに怖がっているのが丸わかりなのだが、それでも必死に誤魔化そうとする。
それを見ていたちゆは思わずペギタンの頭に手を置いて、優しく撫でる。
「ふふっ、可愛い♪」
「っ!?」
ガーン・・・!!!!
ちゆのその何気ない一言が原因で、ペギタンはかなりのショックを受けてしまう。
「ちゆは、どうしてあれを見た後に笑顔でいられるんだ・・・??」
かすみはまだ顔色が悪いままで、そんなちゆの後ろ姿を複雑な心境で見つめていた。自分は今でも足が寒いかのように震えるのに、ちゆはどうしてなんともないのか。人間はよくわからない・・・。
「ちゆ~、かすみちゃ~ん。ちょっと手伝ってくれる~?」
「あっ、は~い!!」
「ああ、わかった・・・!!」
そんな時に、ちゆの母のなおが部屋の外から声をかけ、ちゆとかすみはそれに答える。ちゆは部屋を出ようとするが・・・・・・。
「ま、待ってくれ・・・!!」
「? どうしたの?」
引き止めるかすみに、ちゆが振り向く。かすみは依然、座り込んだままだ。
「手を、貸してくれないか・・・? その・・・体が持ち上がらなくてな・・・」
「もしかして、腰が抜けちゃったの・・・!?」
ちゆはそう察するとかすみが伸ばした手を掴んで引っ張り、彼女を立たせる。
「うわぁ!?」
かすみは前によろけて、ちゆの胸の中にもたれかかって倒れ込んでしまう。
「っ!?」
かすみは抱き合うようになっている格好に目を見開くと、ちゆの肩を掴んで体を離す。
「す、すまない・・・!!」
「え、ええ・・・」
かすみが謝罪の言葉を述べるも、二人の間に微妙な空気が流れる。が、その空気を最初に壊したのはちゆの微笑だった。
「手伝いはいいわよ、私が一人で行くから」
「そ、そんなわけにはいかない・・・!! せっかくこの家にお世話になっているんだから、何もしないというわけには・・・!!」
「さっきのドラマ、かすみも怖かったんでしょ? だから、腰が立たなくなってーーーー」
「べ、べべべべ別に、怖いわけではない!! ただちょっと大きな音や悲鳴とかにビビってしまっただけで・・・!!」
ちゆはかすみの調子を崩しているのを考慮してそう言ったが、かすみはムキになって否定する。特に先ほどのドラマのことを指摘すると、顔を真っ赤にし始めたのだ。
すると、ちゆは笑顔でかすみの頭に手を置くと撫で始める。
「かすみも可愛い♪ 思わず抱きしめたくなっちゃう♪」
「は、恥ずかしいからやめてくれ・・・!!」
ちゆのこの行動にかすみは顔を余計に真っ赤にしていく。
「本当は怖いのに、怖くないってムキになるなんて♪」
「べ、別に私は強かったわけじゃないからな・・・!! おいっ、ちゆ!! 私の話を聞いているのか!?」
部屋の外へと出てなおのところに向かっていくちゆに、かすみはギャーギャー言いながら彼女の後をついていく。
その後、しばらくして夕方5時ぐらいになった時、ちゆはペギタンとかすみの分のおやつと飲み物を持って、かすみと一緒に部屋へと向かっていた。
「次は笑えるやつ見よっか♪」
「私は別に、さっきのドラマと同じでいいのだが・・・まあ、笑えるやつも、興味はあるし・・・」
「うふふ♪ 強がっちゃって♪」
「ちゆっ!!!!」
ちゆはかすみの強がりに笑みを零し、その反応にかすみは憤慨する。そんな会話をしているうちに、ちゆの部屋へとたどり着く。
「ペギタ~ン、お待たせ~♪」
「おやつを持ってきたぞ~♪」
部屋に入りながら、ちゆとかすみはペギタンに声をかけた。
しかし、スマホの前にいるはずのペギタンの姿がない。
「ペギタン・・・?」
ちゆは部屋で待っているはずの自身のパートナーの名前を呟いた。
「いないぞ・・・?」
「ペギタン? ペギタ~ン!」
かすみも誰もいない部屋にそう呟く。突然、ペギタンがいなくなったことに不安を抱き始めたちゆは声をかけながら彼の名前を呼ぶ。
しかし、返答は何も返ってこない・・・・・・。
「どこかに、隠れてるのか・・・?」
「それだったら返事をしてるはずよ。ペギタ~ン! ペギタ~ン!!」
ちゆはかすみの疑問を否定すると、不安をあらわにするかのように大きな声で叫び始めた。
それでも、この部屋にいるはずのペギタンからの返答はない・・・・・・。
「もしかして・・・家を出ちゃったのか・・・!?」
「どうして・・・?」
「うーん・・・なんでだろうな・・・?」
ちゆが切なそうな顔でこちらを見るので、かすみは家を出てしまった理由を考える。
ペギタンは今日、自分たちと一緒に怖いドラマを見ていた。ペギタンは悲鳴をあげて、ドラマが終わった後には怯えていた。ペギタンが強がっていて、ちゆのある一言にショックを受けていた・・・・・・。
一連の出来事からかすみが考えてみると・・・・・・。
「っ!!」
かすみは何か思い当たることがあるのか、目を見開く。
「ちゆ」
「??」
「あの後、ペギタンに何か言ったよな?」
「ペギタンに・・・っ!?」
かすみに訊ねられると、ちゆはハッとした。彼女の記憶から思い出されるのはホラーものを見終わった直後の会話。
ーーーーふふっ、可愛い♪
ーーーーっ!?
ちゆは怯えるペギタンに思わず、こんなことを言ってしまい、彼はとてつもないショックを受けていたのだ。
「あの時のペギタンの反応・・・もしかして、可愛いって言ったのを気にして・・・ということは、私のせいで・・・!!」
ちゆは自分のせいでペギタンが家を出てしまったのではと思い、その表情には不安の色が濃く見え始めた。
「落ち込んでても仕方がない。とにかく、ペギタンを探しに行こう。まだ遠くまでは行ってないはずだ。私はのどかやひなたたちにも声をかけて協力を頼む。だから、そんな悲しい顔をしないでくれ・・・」
「・・・うん、ありがとう」
かすみはちゆの肩に両手を置いてそう主張する。ちゆはかすみの気遣いに薄っすらと笑いを浮かべながら言う。
こうして、いなくなってしまったペギタンを探すために、ちゆとかすみは外へ出ることにした。
「・・・ペギタン、どこ?」
ちゆは家の近くを捜索していた。
歩いていると、近くの公園に差し掛かり、ちゆは遠くから公園内を見てみる。しかし、遊具の上にもベンチにもペギタンの姿はどこにも見当たらない。
ちゆの表情には不安だけが募っていくのであった。
ビョーゲンキングダムーーーービョーゲンズたちしか存在しないその世界で、幹部たちが集まって何やら鑑賞会が行われている様子。
『アゥゥゥ・・・』
『ふぅ・・・・・・』
『わあぁぁぁっ!! 僕を一人にしないで、ジェニファー!! 怖いんだ・・・こんなところにはもう、一秒だっていられない・・・!!』
投影された映像に映し出されているのは、地球で流行っているホラー物であり、大型犬を倒した女性に男性が泣きながら縋り付いていた。
「・・・・・・・・・」
イタイノンは投影された映像を黙って見ていたが・・・・・・。
「むぅ・・・・・・うっざっ!!!」
「っ・・・・・・」
シンドイーネは男の姿を見てイライラしていた。その反応にイタイノンが顔を顰める。
「・・・だったら見なきゃいいだろ」
「毎回毎回、何なの!? あのヘタレ彼氏は!!!」
「いや、俺に聞かれても・・・」
文句を言うシンドイーネはグアイワルに突っ掛かり、彼は肩をすくめながら言う。
「お前らうるさいの!! 静かに見てんだから、邪魔するな、なの・・・!!」
ホラー物を見ながらいちいちうるさい二人に、抗議の声を上げる。
「何よ!! あんたはムカつかないの!? あんなヘタレ男の姿なんか!!」
「あんな男に興味なんかないの。魅力的なのは、あの犬の化け物の方なの」
「~~~~っ!!!」
シンドイーネとイタイノンが口論をしていると、投影された映像が乱れる。
「そこっ!! 動かない!! 電波が乱れる!!」
「そこっ!! 動くななの!! 電波が乱れるの!!」
「なんでお前らは喧嘩してるくせに、そういう時だけ息ぴったりなんだよ!? っていうか、俺はアンテナか!?」
グアイワルは二人に文句を言おうとしたが・・・・・・。
「ぐぬぬぬ・・・っ!!!!」
「・・・電波の通りが良いようにしてやろうか?なの」
シンドイーネの凄まじい剣幕と、イタイノンが威圧しながら電気を帯電させているのが見え、それに押されたグアイワルは直立不動の体制を続ける。
「グアイワルも大変ねぇ・・・」
二人から離れたところで映像を見ていたクルシーナが呆れたように二人を見やる。
「それにしても、こんな映像のどこが面白いんだか・・・ただ男女の人間が犬に追われてるだけじゃない」
クルシーナは投影された映像を見ながらそう呟く。
「ふん・・・このホラーものの良さがわかってないの。登場するあの怪物の厳つさ、かっこよさ、あの迫力さ・・・とても素敵だし、あの怪物がガブガブと人間を食うシーンとか、怪物を恐れて逃げ惑う姿とか、いろんなものがおかしくてたまらないの・・・!」
「あっそ・・・」
その声を耳に通していたイタイノンは珍しく紅潮とさせながら、瞳をキラキラと輝かせながら言う。クルシーナは素っ気なく返すと、横にいるフーミンの姿を見る。
「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」
「こいつは、退屈で寝ちゃってるけどね・・・」
フーミンは横になって眠っており、クルシーナはそれを呆れたように見ていた。
「わんちゃん、痛そ~。ヘバリーヌちゃんもあんな風に殴られたいなぁ~♪」
「そっちの変態は、訳わかんないこと言ってるし・・・」
さらにその横にいるヘバリーヌは意味不明なことを言っていて、クルシーナは理解したくもない様子だ。
「どうせお前らなんかにホラーものの良さなんか理解できないの」
「いいわよ、理解できなくたって」
イタイノンが投影した映像を見つめながらそう返すと、クルシーナは興味がないといった風に冷たく返す。
「でもまあ、怖がってるところはちょっと良かったけど、アタシはそんなものよりも、人間共が病気で苦しんでる姿を見られる方が一番いいし。ねえ~、ドクルン」
「・・・・・・・・・」
クルシーナはドクルンに同意を求めようとしたが、フーミンとは反対方向にいるはずのドクルンの声が聞こえてこない。
「ドクルン?」
「ブツブツブツブツ・・・・・・」
明らかに様子のおかしいドクルンの姿に、クルシーナが彼女の方を向く。ドクルンはよく見ると顔を俯かせており、黄緑色の顔を青ざめさせていた。
「ちょっと、ドクルン?」
「心霊写真・・・お化け・・・ゾンビ・・・そんなものは人間が作り出した妄想・・・つまりあの犬の化け物は人間が作り出した紛い物・・・全てはプラズマやメイクで証明できる・・・」
クルシーナが呼ぶように声を上げるも、ドクルンはブツブツと呟いていて反応を示さない。
「おい、ドクルンってば!!」
「目の錯覚よぉぉー!!!!!」
「うおぉ!?」
あまりにも反応しないドクルンに苛立ったクルシーナが怒鳴り声に近い声を上げようとする矢先に、ドクルンが急に叫び出したので、思わずたじろぐ。
そして、数秒フリーズしたドクルンはそのまま後ろへとひっくり返ってしまった。
「え、ドクルン? ドクルン!? ドクルン!!! ちょっとしっかりしてよ、ドクルン!!!!」
クルシーナはドクルンが卒倒したのを見て驚き、彼女の肩を掴んでぐらぐらと揺らす。
「ドクルンお姉ちゃん、なんで大きな声出したのかなぁ~?」
「んぅ・・・わからないのぉ・・・」
ヘバリーヌがドクルンの反応に疑問を抱き、フーミンは寝言をつぶやくかのように答える。
「人が楽しんで見てるのに、静かにできないやかましい奴らなの・・・!」
イタイノンが顔を顰めながら、視線を後ろに向けながら言った。
「あぁんもう!! このストレス、景気良く地球を蝕まないと解消にできそうにない!! じゃあ、行ってくるっ!!!」
完全にイライラしているシンドイーネはストレスを解消しに、スタスタと歩きながら地球へと向かっていく。
「ドクルン、起きなさいよ!! 起きろってば!! 起きろっつってんの!!」
クルシーナは揺さぶっても起きないと見ると、彼女の頬にビシバシとビンタをし始めた。
「・・・ハッ!!??」
するとドクルンが意識を取り戻して、スクッと立ち上がる。
「んっ、んん~・・・随分と刺激の足りないドラマですねぇ・・・」
ドクルンは咳払いをしながら、自分が気絶したことをごまかそうとする。
「地球へ行って、もっと刺激のあることをするといたしましょうかねぇ・・・フーミン、行きますよ・・・」
「すぅ・・・すぅ・・・」
ドクルンは眠っているフーミンの袖を引きずりながら、スタスタと歩いて地球へと向かっていく。しかし、その足取りはどこかフラついていて、すぐにでも気絶して倒れそうな感じだ。
「行ってらっしゃ~い・・・・・・」
その二人の様子を岩場で寝そべっていたダルイゼンが気だるそうに見送っていた。
「大丈夫なの、あいつ・・・?」
「なんでフーちゃんを連れて行ったのかなぁ~?」
クルシーナはそれを呆然と見つめていて、ヘバリーヌはドクルンがフーミンを連れて行ったことに疑問を抱く。
「知らないの、そんなの。グアイワル動くな、なの!! 楽しく見てるんだから!!」
「なんでこの俺が・・・!?」
「黙って止まってろなの・・・!!」
イタイノンは二人に淡々と返すと、直立しているグアイワルに怒鳴り、彼は不満を漏らしていたのであった。
日も暮れ始めた頃、ちゆやかすみの呼び掛けに応じたのどかとひなたは一緒にペギタンを探していた。
「ペギタ~ン?」
のどかは自動販売機の隙間やゴミ箱など、ペギタンが隠れられそうな場所を探していた。
「ペギタ~ン!! ペギタ~ンッ!!!!」
ひなたはメガホンを使いながら、ペギタンにも届きそうな声を出しながら呼びかけていた。
「ペギタ~ン!! どこだ~!! ペギタ~ン!!!!」
かすみは電信柱や家の屋根の上に昇りながら、叫ぶようにペギタンを呼びかける。
「どこ~? ペギタ~ン!」
「ペギタ~ン、返事をして~!」
「どこだ~!? ペギタ~ン!!!」
それぞれ3人が捜索しても、いまだにペギタンは見つからない。
「・・・・・・・・・」
みんながペギタンを捜索している中、ちゆは俯きながらペギタンが外に飛び出す原因となった自身の思い当たる言動を思い返していた。
ーーー可愛い♪
必死に自分をごまかすペギタンを撫でながら、思わず発してしまった言葉。本当に自分のあの言動で出て行ってしまったとしたら・・・・・・ちゆはそう思うと瞳を潤ませ、余計に思い詰めて不安の色を一層強くした。
「ちゆちゃん・・・」
「ダメ? いない?」
「いなかったのか・・・?」
「ん・・・」
ひなたやかすみに、ちゆは黙ってコクリと頷く。
「ったく・・・パートナーに心配かけるなんて・・・何やってんだ、ペギタンのやつ」
ニャトランの言葉に、ちゆは首を横に振る。
「・・・悪いのは私よ」
ちゆが呟くように答える。ちゆやかすみから事情を聞いていたのどかやひなたはかける言葉が見つからず、顔を見合わせる。
「ただいま戻りました」
そこへラテと一緒に捜索していたアスミが戻ってくる。
「待ってましたラビ! 嗅覚探偵ラテ様、華麗に登場ラビ!!」
「ペギタンの足取りは、追えたのか・・・?」
「はい。ですが・・・」
「クゥ〜ン・・・」
かすみに聞かれると、足取りは追えたはずなのにアスミとラテの表情はあまりいいものではなかった。
のどかたちはアスミへと着いていき、やってきたのは公園のベンチがある場所だ。
「クンクン・・・クンクン・・・」
のどかに抱かれているラテは鼻を動かしながら、ペギタンの足取りを探る。そんな彼女にアスミが聴診器で彼女の心の声を聞く。
(ここで匂いがなくなっているラテ・・・きっと誰かに連れていかれちゃったラテ・・・・・・)
ラテがそう言うと、みんなはペギタンがいたとされるベンチを見つめるしかない。
「かすみちゃんの能力で、どうにかならないの・・・?」
「・・・私の能力は、ビョーゲンズやメガビョーゲンの気配を辿れるだけだ。特定の人間やヒーリングアニマルの動きまではわからない・・・」
ふと思いついたのどかがかすみにそう聞くも、かすみは暗い表情でそう呟いた。
「っ・・・・・・」
ちゆは不安が入り混じったような表情で、ペギタンがいたとされる場所を見つめていた。
「もう日が暮れるな・・・今日はもう帰ろう。明日、また改めてペギタンを探そう」
「そう、だね。あたしたちも学校が終わったら、また探しに行こうよ」
かすみの言葉にのどかたちは頷き、今日はもう解散することにした。
「ちゆちゃん、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ・・・・・・」
のどかが気遣う言葉を言うと、ちゆは元気のない表情で薄く笑いを浮かべながら答えた。そこへかすみが肩を手に置く。
「あまり無理はするな・・・泣きたいときは泣いたっていいんだ・・・」
「・・・ありがとう、かすみ。でも私は、大丈夫だから」
かすみも気を使うようにそう言うと、ちゆは微笑みながらそう言った。かすみはそんなちゆを不安そうに見つめていた。
そして太陽が沈み、夜も更けてきた頃・・・・・・。
「ペギタン、私・・・あなたを、傷つけてしまったの・・・?」
家へと戻ったちゆは自分の部屋で眠りにつこうとしていたが、ペギタンがいない心細さと寂しさを感じていた。その上、自分の言動が原因でもあることを感じていて、一人涙目になりながら、虚空を見つめていた。
ちゆは掛け布団を顔まで被せたところ、自身の部屋の外から歩く音が聞こえてきた。
「ちゆ・・・起きてるか・・・?」
部屋の外からこちらを呼ぶ声が聞こえてきたかと思うと、ちゆは掛け布団から顔を出して部屋の扉を見つめる。
「開けるぞ」
そう声が聞こえてたかと思うと、部屋の扉が開かれる。中に入ってきたのは手に枕と掛け布団を持っていた、パジャマ姿のかすみだった。
「かすみ・・・?」
「ふっ・・・」
ちゆがかすみの顔を見ると、かすみはちゆに微笑んで見せる。
「どうして・・・?」
「えっと・・・ちゆが寂しそうにしていると思ってな。今日は、一緒に寝ようかと・・・」
ちゆが理由を聞くと、かすみは頬をポリポリと掻きながらそう言った。
かすみはちゆの布団の横に枕を置いて、そこで横になると掛け布団を自分の方にかけた。
「私が一緒に寝れば、寂しさも紛れるだろう?」
「かすみ・・・グスッ・・・」
かすみが自身に気を使ってくれていることに、ちゆは溜まっていた涙をポロっと溢す。
「元気、出してくれ・・・ちゆが落ち込んでいると、私まで辛い・・・」
「わかってる・・・わかってるのよ。でも、私のせいでペギタンが出ていっちゃったんじゃないかと思ったら・・・私は・・・」
かすみは不安そうな表情で言うと、ちゆも不安そうな表情で自分を責めるようなことを呟く。
かすみはそんなちゆを見ると薄く微笑み、ちゆの布団の中へと入ってきた。
「かすみ・・・?」
「さっきも言ったけど、泣きたいときは泣いたっていいんだぞ。泣いて全部吐き出しちゃえば、少しは楽になると思うから・・・」
「・・・!!」
かすみのその言葉に、ちゆは驚いたように目を見開く。そして、その言葉でダムが決壊したかのように、ちゆの表情が泣きそうな表情になり・・・・・・。
トンッ・・・・・・。
ちゆは思わずかすみに寄って、彼女の胸の中に顔を埋めた。
「ヒック・・・グスッ・・・うぅぅぅ・・・ヒック・・・」
「辛かったよな・・・?」
自身の胸の中ですすり泣くちゆを、かすみは彼女の頭を撫でながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は・・・グスッ、そんなつもり・・・なかった、の・・・ヒック・・・ただの、冗談のつもり、だったの・・・グスッ・・・ペギタンを傷つける・・・ヒック・・・つもりも、なかったのに・・・こんなことに、なる、なんて・・・グスッ・・・」
「わかってる・・・わかってるよ。ちゆは優しいから、そんなつもりもないってこともわかってる。明日、ペギタンを見つけたら・・・謝りに行こう・・・?」
「ヒック・・・グスッ・・・うん・・・ヒック・・・ヒック・・・」
泣きながら心情を吐露するちゆに、かすみは優しい言葉をかける。
かすみはちゆが泣き止むまで、彼女の頭を撫でながら慰め続けていた。
そして、ちゆがようやく泣き止んだ頃・・・・・・・・・。
「ちゆ、落ち着いたか・・・?」
「ええ・・・」
ちゆはそう答えると、かすみの胸から顔を話して彼女の顔を見る。
「ありがとう・・・少しは、気が楽になったわ・・・」
「いいんだ。私は誰かが寂しい思いをしているのを、見てられないからな・・・」
「かすみは、優しいのね・・・」
ちゆは微笑んでそう答えると、かすみもその様子に安堵の笑みを浮かべる。
「今日は一緒にいるから。お昼に見たドラマがこ・・・っ、なんでもない・・・」
かすみは途中で目を反らすように何かを口走りそうになり、顔を少し赤くする。
「お昼に見たドラマがどうしたの?」
「いや、なんでもないんだ!! 別に怖かったわけじゃ!!」
ちゆが不思議そうにかすみの言ったことを追求すると、かすみはなぜか慌て出した。
「・・・ふふっ♪ かすみもあのドラマが怖かったのね♪」
「ち、違うぞ・・・!! あんな怪物、私にかかればギタギタに・・・!!」
「無理しなくていいのよ。全部吐けばいいじゃない。本当は怖かったから、私の部屋に来たって♪」
「本当に違う!! 私はただ純粋にちゆが寂しそうにしてたから来たのに・・・!!」
ちゆはその様子を見て笑みをこぼすと、かすみをからかうように言ってあげる。かすみは慌てるように否定すると、顔をだんだんと真っ赤にしていき・・・。
「もぉ、知らない・・・!!」
「冗談よ、かすみ。わかってるから、ね?」
かすみが拗ねたようにちゆに背を向けると、ちゆは彼女の背中にそう呼びかけた。
こうして、ちゆとかすみは一緒に一時を過ごし、眠りについたのであった。
一方、そんな夜のすこやか市では・・・・・・。
「随分と静まり返る街ですねぇ・・・・・・」
「すぅ・・・すぅ・・・・・・」
ドクルンが夜のすこやか市の街を、少し顔色を悪くしながら徘徊しているのに対し、連れ出したフーミンはウトウトしながら、ドクルンの後ろを歩いて来ていた。
「フーミン、ちゃんと起きてますよね・・・?」
「すぅ・・・んぅ・・・すぅ・・・」
ドクルンが後ろを振り向きながら言うと、フーミンは前へとコクリコクリと揺れながら答えた。
「・・・本当に起きてるんですよね?」
「んぅ・・・すぅ・・・んぅ・・・」
目をつぶりながら言っているので、疑っているドクルンは再び尋ねるとフーミンはコクリコクリと体で答えた。
「・・・・・・・・・」
ガシッ!!
「んぅ・・・?」
ドクルンはその様子に顔を顰めさせると、フーミンへと近づいて瞼を無理やり開かせる。フーミンはその行動に寝ぼけながらも疑問を抱く。
「起きてますね、ちゃんと・・・」
「起きてますぅ・・・」
「だったらちゃんと、起きてなさい・・・!!」
「痛い・・・痛い・・・痛いですぅ・・・ドクルンお姉様・・・!」
ドクルンは寝ているか起きているか紛らわしいフーミンの目を覚まさせてやろうと、こめかみに拳を当ててグリグリとさせる。
「全く・・・・・・!」
一頻り痛めつけた後、ドクルンは頭を掻きながらやれやれといったような反応をしていると、一人の女性が一件の寮の一室へと入っていくのが見えた。
「フーミン、ちょっと来てください」
「んぅ・・・?」
ドクルンはそれにニヤリと笑みを浮かべると、フーミンを連れて宙へと浮かび上がると寮の裏にある窓から部屋の中を覗こうとする。
ワウッ!! ワウッ!! ワウッ!!!!
「ひぃっ!!??」
ドクルンは吠えるような声を聞いて小さく悲鳴をあげて青ざめ、声がした方に振り向くと下に3匹のドーベルマンたちが吠え立てているのが見えた。
「っ!!!」
ドクルンは怯えたような表情をしていたが、犬だということが分かると顔を怒りで顰めさせ、自分の周囲に氷塊を出現させて犬たちへと放る。
っ!?
「驚かさないでよ・・・!!」
キャン!! キャン!! キャン!!
ドーベルマンたちは氷が落ちて来たことに驚いて避け、ドクルンはそのままドーベルマンたちを睨み付けるとそのただならぬ雰囲気に恐怖を覚えたドーベルマンたちは逃げていく。
「ふん・・・全く・・・」
ドクルンはやれやれというような反応をしていると・・・・・・。
何、今の音・・・? 誰か、窓の外にいるのかしら?
「!?」
「んぅ・・・?」
ドクルンは女性に気づかれたことを悟ると、フーミンと一緒にそのままこの寮の屋根の上へと飛び、隠れてやり過ごそうとする。
ガラガラガラ・・・・・・。
窓が開いた音がし、女性が顔を出して覗いているのが屋根の上から見えた。
「ブルガル・・・」
「了解ブル」
ドクルンはスタッドチョーカーのブルガルに名前で指示を出すと、チョーカーからオオカミの妖精の姿になって、女性にバレないように部屋の中に侵入する。
「? 気のせいかしら・・・?」
女性はそう呟くと窓を再び閉めた。
「はぁ・・・・・・」
ドクルンは息を吐くと、フーミンの方を見る。
「バレそうだったのに、よく寝てられますよね・・・」
ドクルンは横になっているフーミンを呆れたように見る。今、自分は震えるくらいに恐ろしいというのに、寝ていられるとは賞状をあげたくなってくる。
「様子を伺ってきたブル」
「ひぃっ!?」
背後からブルガルが突然声をかけ、ドクルンが悲鳴をあげる。彼女の顔は自身の肌よりも青ざめていた。
バッと振り向いて、ブルガルだと認識すると息を吐く。
「な、なんだブルガルですか・・・驚かさないでください・・・!」
「そんなつもりはなかったブル」
「それよりも、中の様子は・・・?」
ドクルンは冷静さを取り戻して、ブルガルに調査結果を尋ねる。
「あの青いやつについているペンギンが中にいたブル。中にいた子供に抱かれてたブル」
「ペンギン? あぁ、あのヒーリングアニマルですか」
ブルガルはペギタンを見つけたことを話すと、ドクルンはキュアフォンテーヌについているペンギンのことを思い出す。
「なぜ、ここにいるのかしらね・・・?」
「知らないブル。あいつ、見た目が可愛いから人間に連れ去られたんじゃないかブル?」
「ふぅん・・・」
ブルガルがそう推測すると、ドクルンは納得したように息を漏らす。
「まあ、いいわ。ありがとうございます」
「ブル」
ブルガルは小さなオオカミのような姿から、ドクルンの首のスタッドチョーカーに戻る。
「さてと・・・どうしたものかしらね」
ドクルンは屋根の上で足をプラプラとさせながら、どうしたものかと様子を伺っているのであった。